第二話 妖精騎士アイギスさんと闇妖精の暗黒騎士(7)
その日、わたしは眠れなくて寝室のベッドで一晩中悩んでた。
シルフィちゃんの事もそうだけどさ、あの暗黒騎士のジェラルダインって人の事でも。
だって、顔見るまでめちゃくちゃ警戒して、シルフィちゃん連れてくって言うから、わたし激怒りしたのに黒フード取った顔がめちゃくちゃ美人だったから、我忘れて、それまでの気持ちどっか行っちゃたんだもの。
正直、そんな出来事があったらそりゃ気づくでしょ。
ああ、わたし女の子の方が好きなんだなって。
自分の心と向き合うのって結構大変なんだよ?
やっぱり人間って自分の事、こう有るべきって無意識に思ってて、わたしも自分が女の子の身体だから、心の何処かで自分は女の子だって思ってたみたい。じゃあ本当は男の子か? っていうとそうでもないんだけど、前世の知識の影響なのか男の子的な物にも憧れあるんだよね。冒険者稼業に身入れたりしてさ。正直、自分が男か女かってやっぱり分かんないの。
でも、自分の身体、女の子だから女の子好きになるのはどうなの? って。ここが引っ掛かってたんだよね。
けど、やっぱり自分の心って騙せないんだ。
男の子みたいな事好き、でも、じゃあ男の子とか男性とか好きかって言うとこれが驚くほどときめかないのよ。まぁ出会って来た奴が録でもない野郎ばっかというのは有るんだけど、偶には良い人もいたよ。顔イケメンで。あと、可愛い男の子もいるにはいた。
でも、男の人に恋愛とか憧れとかまるでそんな感情湧かないんだ。前世で知ってる知識だけの人も同じ。
但し、可愛い男の娘は大好きです。
(この世界で出会った事はないけど出会い希望。お付き合いするかは要相談)
だからわたしは――
†
トントントン、と台所からの音でわたしは目覚める。
いつの間にか寝てたらしくって、わたしは目こすって欠伸して、ベッドから起きて、魔法で洗面台に水溜めて顔洗って、歯磨いて服を着替えて、髪梳かして、と寝起きのルーチンワークになってる事を無意識で行う。
一つ何時もと違うのは今日は心臓の動悸が収まってること。
でも、顔はちょっと赤い。やっぱり少し恥ずかしいかな。
それでもわたしは服装を整えて、下の階の台所に向かう。
そして、そこにはシルフィちゃんがいつものように台所に立ってご飯作ってくれてるの。
そして、
「おはようございます、アイギスさん。ご飯もう直ぐできますからね。待っててくださいね」
と、これまたいつものように満面の笑み。
いつもならここでわたしのマイ・ハートが撃ち抜かれて全力暴走するけど、今日のわたしは一味違う。
「でも、今日は出発の日だよね。何か手伝おうか? わたし、家事できないけど荷造りとか旅の支度で終わってない事とかある?」
言えた! すらすら言えた。わたし偉いぞ。
ただ、シルフィちゃん困惑顔だ。如何、いきなり普通に対応したから困ってる。
「え、あの。……た、多分大丈夫だと思います……」
と、俯いちゃった。
しかし、今日のわたしは違うぞ。ここで全力フォローだ。うりゃ。
「あ、じゃあ。用意したものわたしが調べようか? 旅って結構色々いるんだよね〜」
「え? あ、はい。一応わたしなりに必要そうな物は用意したんですが……」
と、シルフィちゃんが出して来た荷物袋をチェック。よ〜し女の子の荷物漁るぞ〜って違ぇよ! わたしの男の子部分の邪念よ、去れ!
そんな事してたら、荷物の横のベビーベッドの赤ちゃん泣き出したので、わたしがあやす。
「ほら、アイギスさんだよ〜ほ〜らほ〜ら」
「んぎゃあああああああぁ」
と、わたしに抱っこされた赤ん坊がこの世の終わり見たいな声出してくる。
……え? 何がいけないの? 圧倒的な聖母感のなさ?
結局シルフィちゃんが来てあやすの。そしたら速攻泣き止むの。解せん。
そしたら、今度は3歳児のアル君が起きてくる。アル君とはわたし普通に接してきたからおはよ〜って挨拶して、遊んであげる。わたしアイギス何故か男の子とは相性が良い。わんぱく小僧は駄目だが。
そしたら、なんだかんだでご飯ができる。
皆で食卓囲んで、食事して……あれなんだか……
「あ、あの……アイギスさん」
「え、なになに? ……え、あれ……?」
なんかね、わたしの視界が歪むの。目頭熱くなっちゃって、幸せ過ぎたのかな。
シルフィちゃんが心配そうな顔してる……
「あれ、わたしなんで泣いてるんだろ。今日は本当に嬉しくて」
こんな食卓囲むの久しぶりで……、でもわたしにそんな記憶ないの。前世の記憶かな?
でも、それとは違う遠い記憶のようだった気がする。だってみんな人間じゃなかったって気がするの。四人居て……わたし入れて五人で……
駄目だ。思いだせない。と、言うより覚えてない。
抜け落ちてるんだ。感情だけが蘇ってそれでわたしに涙流させてるんだ。そんな感じがする。
「あの、アイギスさん。ご飯お口に合いませんでしたか?」
「いや、違う。違うよ。美味しいよ」
そして、わたしは泣きながら笑顔で、
「うん。本当に美味しいんだ。本当に……」
きっと遠い記憶の「誰か」の記憶。わたしはきっと「誰か」の"後"なんだろう。前世の記憶みたいな知識もあるしね。
心の整理がついたのか、今日思い出したんだな。
まったくタイミング悪い。シルフィちゃん、めちゃくちゃ焦ってるし、アル君訳がわからずわたしの方見てるし。
そしたら、今度は赤ん坊が泣き出すし。
「ああ、わたしは大丈夫だから赤ちゃんお願いします。わたしはちょっと顔洗ってくるから」
そして、わたしはこんな日常も良いな、って思った。そりゃ今まで独り身だから、来る物きちゃうよ。そうだ、遂に春が来たのだ。
そして、わたしは洗面台の鏡の自分の顔に向けて、
「OK! 後はわたしが引き継ぐよ。安らかに眠れ」
それは、「誰か」に向けた最後の言葉。そしたら、わたしの涙がピタっと止まった。
後はわたしが……生きる番だ。
じゃ、頑張るぞ〜
神祖の妖精王「やはり、シルフィちゃんはわたしの母になってくれる人だった!」
天使王(幼女)「む。この世界で百合ハーレム展開を狙う者が現れた気がする。因果律的にこのわたしもロックオンされたか」
魔女王(美女)「見た目3歳児のお前だけはない」




