第二十三話 妖精騎士アイギスさんと地下帝国遺跡とアレスタの街(4)
久々の裏稼業相手のカチコミ。
練達級以上の冒険者だと結構やる奴が多いらしいね。情報集めに手っ取り早いらしいよ。
やる相手見極めないと報復されたりするから上級者向けだよ。
素人は絶対真似しちゃダメだよ。
尚、アイギスさんはもう困ったら取り敢えず、って感じの常套手段で小突く感じでやってるけどね。
まずは応対して来た奴を問答無用で腹パン入れて黙らせるの。警護役の下っ端には用はねぇからな。
悶絶して口から血を吐きながら床に崩れ落ちる男を見下しながら、わたしは精神感知の技能で人数を把握する。
「数は8か。そんなに多くないな。4人まとまって居る所に向かいましょ」
「アイギスさま……この方、内臓破裂してますが治療しなくても良いのですか?」
「ええ!? そんなに力込めて殴ってないんだけど。しょうが無いなぁ」
仕方ないのでわたしは安物の魔法薬を男の口にねじ込んだよ。内臓を完治させるまでの効能はないけど、応急処置で。
「冒険者ならこれくらいで腹降さねぇぞ。鍛え方足りねぇな。ちょっと想定より柔すぎでしょ」
悶絶させた奴に文句言うんだけど気を失って返事もないの。
本当にだらしないな。
普通はもうちょい気合い入ったのが居るもんなんだけどな。
「おっと、騒がしくなってきたな。気づかれちまったか。……この辺りはさすが」
と言いながらわたし達はズカズカ押し入る。
逃げられると面倒だ。と言ってもアリーシャちゃん達も来て動いてるから簡単には無理だろうね。
そして出会いがしらにガン付けて来た強面の顎を、装甲付きの拳を振り上げて華麗にノックアウトするわたし。
そして仮目標の4人……
今3人に減った奴らの場所に到着したの。
多分、当たりだな。
執務机に書類とか置いてる部屋だもの、偉そうな奴が仕事してて一目瞭然。
そしてわたしはその机の椅子に腰掛けてる奴にご挨拶。目が据わった壮年の男、裏稼業でそれなりに生きて来たって顔つきだけで解る奴だよ。
「邪魔するね。ちょっと聞きたい事有るけど良いかな?」
「な、なんだ。てめえは」
「おっと久々の反応だよ。懐かしいくらい。最近顔売れちゃって初見でわたしの事解らない奴って珍しくなってきたから、特にこの業界ではな」
「あん? 殴り込み掛けようなんて余程の生命知らずで……てめえみたいなのが……」
セリフの途中で男の顔にどうしょうもない焦りの表情が浮かぶの。わたしに心当たりがあったらしい。
解りやすい反応だな。
「一応、顔役やってるくらいだから見識は有るんだな。護衛が雑魚だから余程の田舎かと呆れるくらいだったぞ」
「……おい、騙りじゃねぇんだな。――オレは聞いてねぇぞ」
と顔役の男が取り巻き二人に視線を向ける。
二人とも焦った顔してたよ。
一人は腰の剣を差してるそれなりの腕だけど、もう一人は盗賊っぽい半妖精で戦闘向きじゃない感じだった。
答えたのはその半妖精。
「オレらも聞いちゃいませんぜ旦那。まったくの初耳ですわ。〈鮮血妖精〉がこの街に来たなんて知ってたら真っ先に伝えますって」
「来たのは昨日だ。知らなくても無理はないな」
「ちっ、手落ちだぞ。――だが、アンタが本当に〈鮮血妖精〉かオレには解らねぇ……喋れる事と喋れないことが有るぞ」
「聞きたい事に答えてくれればそれで良いけどね。喋れない事の範囲がわたしの聞きたい事の範囲だったら、当然解ってるんだよな、その返答は」
わたしは鞘に入ってる剣の柄にわざと手を置く。
もはやこの業界の常識でしょ。
カチコミしてんだ。生命取られても仕方無いだろ。それくらいの覚悟がいる行為だからね、これ。
「マジでイカれてるようだな。いや、こっちの組織なんざ眼中にないのか」
「おまえらが役立たずなら次、ってだけだな。似たような事してんだからされても当然だよね?」
暗に皆殺しにするぞ、って脅しかけるの。
誰でも生命は惜しいからね。
組織のこの街の仕切り役の男はさっさと諦めて話し初めた。馬鹿じゃないから解ってるな。ここで間違えれば最悪死ぬって事が。
「……一応言っとくが筋を通してくれたら組織としては協力はする。現場のオレ達じゃ、その判断がつかないから話す内容にも限度が有る。組織に忠誠を誓う立場ってものが有るからな」
「生命掛けで良くやるよ。……面倒だから直で聞くわ。冒険者ギルドに仕掛けてるのはお前の組織か否か? 正直に答えたら生かしてやらんでもないよ?」
「……答えはノーだ。オレの知る限りに於いては、だがな。……オレを通さずに組織が何かやるってのは考えづらい。その当たりの情報ならオレの一存でも提供できない事もない」
「良し、良いだろう。なら冒険者ギルドについて話せ。ただ、こっちの他の仲間が合流してからで……って来たな」
アスタロッテとアリーシャちゃんが別の部屋から入って来る。完全に気配を消して来るんだもの。顔役の取り巻き二人がびっくりしてた。
「ふむ。本能的に長生きするタイプであったか」
「結構、事情を知ってますね、この方。アイギスさま根掘り葉掘り聞けますよ」
「尋問得意じゃないんだけどね、わたし。……まぁいいや。――じゃ続けようか。謀ったらブチ殺すからな」
そして冒険者ギルドの事情を教えて貰うよ。
なんで今回の事に関わってない裏稼業の奴がそんなに知ってるかってくらい知ってたわ。
まぁ、冒険者ギルドは裏稼業連中にしてみれば邪魔者だから動向くらいは把握してないと仕事にならないからだろうけど。
特に遺跡のダンジョンで成り立ってるこの街アレスタでは冒険者ギルドが街全体の利益に直結する存在らしい。
冒険者ギルド内部の権力争いは日常茶飯事だとか。
聞けば聞くほどややこしい事になってんなと頭こんがらがるくらいだもの。
「他のギルドにこの国の貴族。裏稼業の組織二つにこの国の大手の商会とややこし過ぎるだろ。容疑者多すぎだな」
「何せこの街は冒険者ギルド有りきで栄えた都市だからな。絡む利権に莫大な利益、それらを差配するのがギルド長となれば……」
「権力争いも熾烈になる、ね。それだと冒険者ギルドの職員も裏切り者だらけだろうな。やってられないなここのギルドで。冒険者連中は誰も疑問に思わないの?」
「使い捨てのひよっ子はともかく熟練や練達級の冒険者は優遇されてる。誰もが自分の身は可愛いだろうよ」
「腐ってるな。見て見ぬ振りか」
偶に有るのよそういう冒険者ギルド。
でも、普通は評判が悪くなって冒険者も寄り付かなくなって行くんだけど、ここは遺跡っていう金脈が有るから保ってるんだろうね。
アスタロッテがわたしのやるせない表情を見て、あらあら、って茶化すような顔するのが目に入る。
「それでは改革しようにも邪魔者は消されそうですね? 冒険者にしてもそれ程込みいった事情に立ちいろうとは思わないでしょうし」
「アスタロッテ……現実考えればそうなんだろうけどね。許されるものじゃないよね? 冒険者の為のギルドであって他の連中の食い物じゃないんだよ、冒険者ギルドは」
一緒に話を聞いてたアリーシャちゃんが頷いてくれる。
「うむその通り。それでこそアイギスちゃん。良い、このアリーシャちゃんが全力で取り掛かる案件のようだ」
「アリーシャちゃん。……でもこれ思ったより複雑だよ。今回の件を仕掛けた奴を絞めても話し終わらないし。冒険者ギルドをどうにかしないとダメそうじゃない」
「なら、どうにかすれば良い。答えは常にシンプル」
どうにかできんの?
わたしはアスタロッテを伺うよ。この子ならやってくれそうだけど……
「あら、私よりアリーシャさまの方が適任ですよ。むしろ専門ですわ」
「全てを良い感じにしてみせよう」
「え、そんな自信満々で応えれるくらいに?」
「フフフ。任せてみるのだ、この幼女に。為せば成る」
「う〜ん。じゃあ、任せようか……」
微かに嫌な予感もするんだけど、気の所為な気もする。おそらくわたし的には問題ない類じゃないかな、アリーシャちゃんのやらかし。
それにわたしじゃ手に負えないからね。悪党ぶっ殺す以外は。
「良し、じゃあアリーシャちゃんのお手並みを拝見しようか。わたし達は協力する感じで行くよ。今回の仕掛けの悪党絞めるくらいで満足するわ」
「良い。このアリーシャちゃんのやり方を見ておくのだ。きっと上手く行く……"道"を魅せよう」
幼女が自信に溢れた声音と表情で真剣に語ったかと思うと、すぐに組織の顔役の男に根掘り葉掘りと幾つか質問するの。
……具体的に権力争いの背景の勢力聞いてた。コレは期待できるかもね。
「ふむ……良い。後は……仕掛けるか」
「あら、先手を打ちます? アイギスさまで揺さぶるのも手ですが」
「フフフ。細かい所は任せよう、アリーシャちゃんは"上"から行く」
「では、私は"下"からですね。久々にアリーシャさまの業前が見れますね。フフフ……」
似たような悪巧みの表情を二人ともしてるの。
話しがややこしく大きくなった分、色んな人が巻き込まれそうだよね。
良く解らないわたしですら"仕掛け"が大きくなったと解るよ。
……おそらく悪党どもの悲劇が始まるよ。
期待しかできないよね。アイギスさん喜んで手伝うぞぉ。




