第二十三話 妖精騎士アイギスさんと地下帝国遺跡とアレスタの街(3)
戻って来たアレスタの街。
襲撃者の被害者の人たちを連れて来たから衛兵に事情を聞かれるよ。
ちょっと面倒だったけど小一時間くらいで何とか無事開放される。被害者もちゃんと責任持って引き受けてくれた。衛兵は結構まともそうだった。
でも、毎度思うんだけどなんで衛兵ってあんなに根掘り葉掘り聞くのか。
出身地とか冒険者に聞くの憚るようなことまで聞いて来るのよ。
「まぁ、不審な点がないかどうか探り入れてるってのは解るんだけどね。地下遺跡の話だからどのみち衛兵が手出しできないんじゃない? って言ったら図星の顔するし」
「できないのですか?」
と、怪訝な顔を森祭司のシャルさんがするの。
冒険者じゃないと解らない事柄だよね。
「衛兵が取っ捕まえに行っても大概逃げられるのがオチだからだよ。どこからか情報とか漏れるし、しかも場所が複雑なダンジョンでしょ。まず衛兵とかお呼びじゃないよ。根本的に戦闘力が足りてない」
「あの狭い通路では人数が居ても戦力にはなりそうにないからなのですね」
「そういうこと。襲撃者の方が地の利があるでしょ。結局やるにしても冒険者頼みになりそう」
「その肝心な冒険者ギルドが……」
「頼りにならないんじゃ話にもならないよね」
ちょっと冒険者としては笑いごとじゃ済まされないんだよね。ギルドに信用置けないって話なんだから。
まともな冒険者ならまずこんな所を拠点にして仕事しないな。
脛に傷持つ冒険者が多いから嵌められるとか最悪なんよ。そうでなくても冒険者の仕事は生命掛けなんだから。そんな危ないギルドの依頼を受けてられないって。
「あれ、お母さん。冒険者ギルドには報告しないの?」
「そうだよ、アイリ。向こうからどのみち呼び出しあるでしょ。一旦宿に帰るよ」
街中を進む道が違うので目敏くアイリが疑問を持ったの。良く覚えてるよね、一度来ただけの街の道を。
「……一度挨拶したくらいなのに呼び出し来る?」
「来なけりゃ、驚くよ。冒険者ギルドからの物質輸送の依頼が失敗してるのに」
賊に襲われるってそれほど大事だもの。
放置してたら賊どもが調子乗ってまた同じことして来るの火をみるより明らか。コレで動かなきゃギルド失格よ。
それに衛兵だけじゃ頼りにならないし、領主なり国なりにもいざという時に情報提供しなきゃ面子も立たないでしょ。
と、わたしは娘のアイリにそういった事情をレクチャーしてあげた。
「それじゃ、呼び出しがなかったら困るね」
「……来ないとそこまでヤバい事になってんぞ、と他の冒険者に警報鳴らすレベルになるよ。ちょっと捨て置けないよね」
隣で聞いてたシャルさんが得心いったって顔をフード越しにわたしに向ける。
「……完全にギルドが牛耳られてる可能性が出てくるのですね」
「そ、悪党にね。でもそんな殿様商売できるほど甘くないと思うけど。下層だとか練達級の冒険者じゃないと探索できない難易度らしいじゃない。練達級の奴らがそんなギルドで仕事するかな……?」
裏落ちするようなキレた奴らなら有り得るかも知れないけど、そういう噂もこのギルドには無かったの。一応、わたしもこの街に来る前に調べたから。
「……でも、実際来たらこんな状況にかち合うんだから解らないものよね。ここの冒険者ギルドの内部がどうなってるやら……っと」
愚痴ってる間に宿に着いた。
貴賓を泊めるってレベルじゃないけど、裕福な商人とかの定宿には相応しい感じの佇まいの宿に。
普段は冒険者お断りだろうけど、そこは天下のメルキール商会の通行手形が物を言ったの。やっぱり良いとこ泊まりたいし。
じゃあ今日はもう日が暮れるし冒険はここまで。
また、呼び出し来るだろうから明日は街の探索兼冒険者ギルドへの探り入れって感じにしたの。
夜は女子達でキャッキャお泊まり会したよ。
†
そして次の日の朝には冒険者ギルドから呼び出しが来た。
対応としては順当に思える。けど、聖魔帝国の謀略担当アスタロッテに言わせればメルキール商会の保証人付きを呼び出すには迂闊らしい。
わたしの予想と違って放置の可能性もあったんだって。
「そこまで日和るものなの?」
「メルキール商会に事の次第がバレて余計な詮索をされかねませんね。それなら大した事がない、と装う為に敢えて放置も手ですよ」
「騒ぎ立てて余計に荒波立てたくないって訳?」
「ええ、そうです。ただ、今回は事なかれ主義という訳には先方も行かないようで」
「放置だとギルドの行動としては不審に思うからじゃないかな、わたしが」
「その可能性を考慮できる相手のようですね」
「成るほど。じゃあ伺い立てに行きますか」
一応暫定で決めた陰謀調査隊で出発。
わたしにアスタロッテにシャルさんにアリーシャちゃんで。ただアイリも自然にくっついて来ちゃったけど。
でも、アリーシャちゃんは調査班に居るのかな?
この幼女は役に立つ……?
森祭司のシャルさんは人間社会の見聞広めて貰う為に、って理由だと思うけど。
「ふむ……このアリーシャちゃんのパワーはきっと役に立つ」
「と、このように心強い言葉を述べてますわアイギスさま。場合に依ってはアリーシャさまは切り札になりますよ」
「アリーシャちゃんはどんな札持ってるの?」
「聖魔帝国の天使王の代理人として外交特権持ってますね。何やっても大体切り抜けれますよ」
「やらかしを帳消しにするような特権持ってるのが逆に不安になるなぁ」
そして、「幼女無罪」と真面目な顔して3歳児くらいの幼女が呟くの。切り札にはなるんだけどコレ絶対揉み消し用の特権でしょ。
聖魔帝国ってやる時はかなり無茶なゴリ押しして来るって評判らしいじゃない。
「フフフ。まぁ、そんな面倒ごとにならないように祈るばかりですね」
「良い……実に楽しみ。フフフ」
コレは下手なことしたら相手がタダで済まない。
わたしもだけど悪党許さないよね、二人とも。
アスタロッテは天の邪鬼だから必ずはやらなそうだけどアリーシャちゃんは相当、"やってる"と思うの。なぜかわたしの直感がそう告げてくる。
そんなやり取りしながら冒険者ギルドに到着した。
そして、冒険者ギルドでは本当に事情を聞かれただけだった。
ギルマスとか上役が出てこずギルドの受付嬢に別室で状況の説明を求められただけ。
「そうですか。では襲撃者は倒してしまって捕縛もしてないという事ですね」
「厄介ごとの予感がしたからね……補給物質の輸送隊襲うにはレイダーの数と戦力が整ってる。帰りの連中襲うならともかく行きの連中だよ?」
「そうですね。帰還する際に遺跡で冒険者が発掘した遺物を預かることが有りますから」
「でしょ?」
「ですが、迷宮で物資を運びこむのも手間なので襲った、とも考えられます。必ずしもギルドから情報が漏れたとも言い難いでしょう」
「それはそうかもね」
ギルド嬢が事務的に説明を求めてくるだけだから、わたしも淡白に事情を説明するだけにした。
ここで相手に揺さぶり掛けても上役じゃなさそうだから意味なさそうだし。
それに特に何も不審に思うことも聞かれ無かったんだよね。
そのまま別室から解散の運びとなった。
そして、冒険者ギルドから街中に出て、一緒に同席してたアスタロッテに首尾を聞く。
「で、言われた通り無難に対応したけどどうだった? あれで良かったのアスタロッテ」
「ええ、ギルドの上役が来なかったので」
「向こうの対応としては及第点なのかな。放置まではやっぱりできないよね」
「それなりに見識はある方々のようですね。あの分だとアイギスさまの身元も割れてるでしょう」
「……わたし相手に馬鹿しないだけ頭良さそうな連中ってことか。じゃ、こっちから動く必要有りそうだけど、何処から手を付ける?」
向こうから動きがなければ反撃して芋蔓式に悪党に辿り着く、ってのができないからね。
襲撃者の奴らも仲介人から情報を得てたらしくて直接的なギルドとの繋がりを確認できないし。
ただ、予想外にわたしの問い掛けに反応したのはアリーシャちゃんだった。
「フフフ。問題はない、揺さぶりは掛けた」
「……いや、ただ単に顔見せに行って説明しただけなんだけど……」
「あら、もう大分揺さぶってますよ? アイギスさまの御威光……〈鮮血妖精〉の二つ名は伊達では有りませんね」
この流れ、わたしの忌み名を利用する気か……いや既に利用してるな。
散々この大陸でやらかしたわたしが絡み始めたの知ったら、今回の件で糸引いてた奴が何をするかって話になりそうだな……
「後は駄目押しに情報を集めるのだ」
と、幼女アリーシャちゃんがにこやかな笑顔。
慣れてるな。間接的に揺さぶりつつ情報集めとか。
「では、冒険者と裏稼業の方々からですね」
「じゃあ裏から聞いて回らない? 午前中だと冒険者も忙しいから口の滑りも悪いかも。冒険者から聞き出すなら夕方くらいからが良いよ」
裏稼業の連中なら路地裏に屯してる奴ら締め上げれば居所吐くだろうしね。
そしてわたし達は獲物を求めて悪餓鬼が居そうな場所に入り込むの。
もう説明不要の定石以外の何物でもないやり方だよね?
†
……さて、路地裏に入り込んでいちゃもん付けて来た連中を逆に捻り上げ、案内させたのはこの街で幅を利かせる悪党の居所だった。
街並みと同じ、石造りの建物が密集するその場所は一見だけだと他の家屋と見分けがつかない。
「で、あそこがこの辺りを縄張りにしてる奴の口利き場か」
「そ、そうだ。……これ以上は勘弁してくれ。オレたちみたいなのが立ち寄れる場所じゃねぇんだ。下手なことしたら本当に始末されちまうくらいヤベェんだよ」
「それは期待できそう。じゃあ、この辺りで解放してあげよう。行け」
そしてダッシュで逃げる野郎ども。
その逃げ脚から、案内した場所が本当に関わったら不味い奴らの居所だって解る。
所謂、ギャングだとか小悪党を顎でこき使う、この街のスラムの仕切り屋らしいからな。
この世界、人の生命が軽いから何かやらかしたらすぐに路地裏で冷たい骸になるのよ。
この辺りは特にそれが顕著なんだろうね。
路地裏だとかスラムが、ベイグラム帝国と似た雰囲気だから、大体事情を察せるな。
「じゃ、アイリとシャルさんはわたしに付いて来て。アスタロッテとアリーシャちゃんは裏手から回る感じで。良いかな?」
「さすがアイギスちゃん、手慣れてる」
と、賛辞の言葉を幼女が呟く。
そしてアリーシャちゃんが瞬く間にアスタロッテの手を握ってその場から転移魔法で掻き消えた。
これ、絶対アリーシャちゃんもやり慣れてるな。
大した段取りしなくてもわたしが何するか解ってるんだもの。
「……急がないと先越されちゃうな。アイリ、シャルさんも解ってると思うけど殺さないようにね。殺ると面倒になるから」
「うん。解った」
「はい。拘束するすればよろしいのですね」
「そ、締め上げるから。じゃあ行こうか」
幅を利かせるのがおまえらだけと思うなよ?
この世は弱肉強食が摂理だぜ。
と、暴力を売り物に正々堂々とカチコミ入れるのでした。




