第二十二話 妖精騎士アイギスさんの妖精たちの困りごと解決(ドワーフの地下村編)(7)
……でも次の冒険へ挑む前にやる事一杯有るんだよね。何せシルヴェスター公国とは違う場所に遺跡が有るらしいから。
シルヴェスターでの冒険者としての仕事もあれば、ドワーフ村との交易だとか片づけなきゃならない仕事がまだあったの。
「じゃあシャルさんドワーフ村は問題ない感じかな?」
「はい。菌糸妖精たちが持ち込んだ作物の栽培が上手く行きそうです。3カ月もあれば自然栽培で収穫できるようになるそうですから」
わたしの自宅のテーブルに地下栽培で収穫できる作物のサンプルが色々並んである。
キノコもあれば苔も有るし、葉野菜みたいな植物もある。
地下だと光合成できないから植物は栽培できないと思ってたけど、光る苔で育つ植物とかも有るらしくってわたしの想像以上にバラエティ豊かに栽培してるの。
「これ見てると食糧問題は解決できそうだよね。てか普通にキノコ栽培だけでも交易したら文化的な生活できるんじゃないかな。結構、美味しそうだよ、これ」
わたしは綺麗な色のキノコを手に取る。食べればパワーアップしそうな色合いの奴を。
お金になりそうなものも育ててるけどキノコ料理とかに使うから食糧品としても取引できるんじゃないかな。
「アイギスさま、それは毒茸ですのでそのままでは食べられません。粉末にして錬金術の触媒や強壮剤などに使うものですから」
「……色合いが綺麗なのって毒があるって聞いたな。ちなみにこの紫色の葉野菜みたいのは……」
「それは食べれます。一見野菜のようですが菌類です。葉野菜と違って少し弾力のある食べごたえがしますが」
「この毒々しいのは食べれる……奥が深いな菌類。まぁ、幾つか栽培してみて交易できるものが育つようなら上出来かな」
要は外の世界と交易できるようになれば良いんだから。お金が入れば他の品物を買う事もできるんだし。生活水準も上がるよ。
ちょっと奥地の辺境の村だから輸送コスト以上の売物作らないとダメなんだけどね。
でもそれもお金になるか次第。
金になると解れば商人がどんなに遠方でも買い付けに来るから、後はわたし達が仲介すればドワーフ村の未来は安泰だ。
「妖精連盟にしても商業取引の独占権を頂けば損はないよ。ちょっと暴利かなってくらいマージン取っちゃうけど」
「大ばばさまはそれでも良いと仰っていました。当面はマイニコドたちが居ないと持ち込んだ作物の栽培が成り立ちませんし……」
「ドワーフに金持たすと酒と食い物に消えるとか言ってたな。あのばばさまにみんな頭上がらないよね」
「ええ、そのようでした。お金が絡むと妖精族でも争い事の原因になりやすいですから。大ばばさまもその危険性をお解かりになってるので必要分以上は持って行って貰え、と」
豊かになるのも考えものなのかもね。
大ばばさまはあの村のドワーフ族の没落を見てる人だから散々仲間うちの争いとか見て来たんだろう。
もう、それは嫌になるくらい。
冒険者稼業やってると解るの。
特にお金がらみだとかは本当に揉めるんだから。
それくらいなら生活が豊かになるより貧しくてもみんなで仲良くやって行きたいと考えるのもおかしくないよ。
「最低限の手助けだけで良いって大ばばさまは解ってるんだよ。本当に頭が上がらない人だな。泡銭は身に付かないってね」
「……欲張りになってしまうとダメなのですね」
「欲を持つのに本来、悪しきも正しいもないけどね。お金でしか価値基準を測れなくなるからみんな躓くんだよ。既得権益とかで揉めるの大体それが理由だし」
上手く行ってる間はみんな多少の不満があっても納得したりするんだけど、そうならなく始めたら争いになるんだよ。生活水準が以前のものより落ち始めたらみんな我慢できないの。
文明を持って楽しようとする人間社会のまやかしじゃないかな経済って。
だって得られる金銭の多寡で価値が決まってしまって、汎ゆるものがお金次第に思えて来るんだもの。
「でも、大ばばさまのおかげで話がまとまったからドワーフ村の方はこれで解決、っと。一仕事終えたね。他の妖精関連では他に仕事あるのかな」
「いえ、今の所は大丈夫なようです」
「良かった。冒険者ギルドの仕事もわたし達が必要そうなのは粗方捌いたから、これで例のダンジョン攻略に取り掛かれるよ」
楽しみだなぁ、地下遺跡のダンジョン。
なんかボス倒して欲しいって依頼らしいし、典型的な冒険の予感がするの。
そしてわたしが期待に夢膨らませてるとシャルさんもあどけない表情でわたしを見つめるの。
おっと夢見る乙女の顔しちゃったか。表情に出ちゃうからねわたし。でも、シャルさんも素顔が幻想的なエルフ少女(だが、男の子)だからそんなに見つめられると照れちゃうな。
なので照れ隠しにシャルさんを抱きしめます。
「あ、アイギスさま!」
「ご褒美、ご褒美。仕事終わらしたんだから」
「あ、うぅ……」
ふむ……わたしの胸の中でめっちゃ照れてるな。
最近シャルさんのおかげで男の娘を愛でる気持ちが解って来た。隣にこっそり居た娘のアイリから視線を感じたので一旦開放してあげる。
「ほら、今度はアイリも」
そして今度はアイリがわたしに抱き着くの。さっきの視線は妬きもちとか何かかな。
「でも、アイリもわたしに抱かれるの好きだよね。やっぱり安心する?」
「うん。お母さん大好き」
「やはり母を求めるのは母娘か……。シャルさんも甘えて良いんだよ。わたしがお母さんなの物足りないかも知れないけど」
物凄く顔を真っ赤にさせる女の子みたいな男の子。
いかん、最近ますます何かに目覚めそうだぜ。
こう、母性と悪戯心を足して二で割ったような感情が。
「……そ、そんな……お、おそれ多いです」
「好きでしょ、こういうの。解ってるぞぉ。恥ずかしがらないで甘えて良いんだよ。もうお母さんみたいなものでしょ、わたし」
良く考えれば妖精族にとっては創造神、女神みたいな存在じゃん。最近、母親みたいな自覚が芽生えて来たのよ。悪ガキは余裕で絞め殺せるけどな。
「お母さん……ですか」
「妖精ならわたしに取ってはみんなそうだよね。まぁ、何代も続けてたら祖先でも、誰それって感じになるかも知れないけど……。シャルさんは特別でしょ。ほら、もう家族じゃん」
「…………」
シャルさんがまた顔を俯かせちゃった。
もうシャルさんとは半年くらい同居してるけどまだ
気恥ずかしいのかな? やはり男の子ってそういうもの? このアイギス男の子心は未知数だ。
そしてわたしが小首を傾げてると昼前になってやっとセレスティナさんが二階から降りて来る。
そしてわたしの背中から両手を掛けて持たれかかる金髪少女エルフ。(実年齢21歳)
「ふぁ、アイギスさんおはようございますぅ……zzz」
「起きて来ていきなり寝ぼけながら甘えに来たよ。もはや自宅通り越してる感ある」
「お母さん、セレスティナさん、昨日夜遅くに帰って来たから」
「神殿もいきなり呼び出しとかブラックだからなぁ。ほら、セレスティナさんも顔洗って来なよ」
「……ZZZ」
ただ、肝心のセレスティナさんから返事はなく背中越しに寝息がわたしのエルフ耳をくすぐるの。
もう、本当に仕方ないよね。可愛いから椅子に座らせてからキスしてやったぜ、勿論、口元にな。
「……ダメだ。王子さまのキスでも目覚めないか」
「素晴らしい。もう一回」
「あら、そんな軽い口づけではいけませんわ」
わたしの呟きに突然現れる、金髪の幼女と少女。
アリーシャちゃんとアスタロッテだ。
いつの間に!
わたしの顔真っ赤になったよ。
「ちょ、なんで、何処から」
「勝手口からお邪魔させてもらいました」
「……気配させずに忍び込まないでくれるかな。ほら、プライベートとかあるでしょ」
「お構いなく。さ、続けて」
「ナチュラル百合は貴重ですわね、さ、私たちは空気と思って」
「構うつってんの! もう」
わたしの顔真っ赤になるの。
アリーシャちゃんとアスタロッテは家族認定してないんだよ。人の色恋を見て笑顔で二人して楽しそうにしないでくれるかな。
「そ、それでアリーシャちゃんはどうして」
「ふむ。例のダンジョン攻略の準備が整ったから、そのお話しで……あとアイギスちゃんの恋愛進捗観察」
「前者の話がまともだけど後者の話は臆面もなく言い切らないでよ。百合ハーレム計画は良いよ、もう……こっちは準備万端、日取り決めてくれたら出発できそうだよ」
「グッジョブ。良い……どうやら全ての準備が整ったようだ。アスタロッテ、首尾は?」
「ええ、公国の方は問題なく。……後はアイギスさまとのイチャラブイベントをどれだけ仕込めるかですね」
「なぜそれを本人を眼の前にして言い切れるかな」
「あら、アイギスさまも最近は衒いが無くなって来たので丁度良いかと……けれど少しばかり大胆さが足りませんね」
と、アスタロッテが発言しながら椅子に座りながら寝てるセレスティナさんに近づいて……
口元に堂々とキスした!
「え! ちょ!」
しかも長い! セレスティナさん起きたよ。
目見開いたよ。数秒後になにされてるか自覚した所でアスタロッテが離れるの。
「と、このように目覚めのキスならこれくらいはやりませんと」
「なに、わたしの前でやってんの!」
「間接キスですね。味あわせて頂きましたわ」
「大胆にもほどが有るよ! せめて隠れてやってよ!」
「あら、敢えての本人の前でやるのが乙という物ですわ」
「ふむ……寝取られ感がある」
とアリーシャちゃんが冷静に納得。代わりにわたしの心がざわめくわ! セレスティナさんが完全に起きて何が起こったのかと理解できずに挙動不審なってるし。
「あ、あ、アイギスさんこれは」
「いや、もう状況解ってるから説明しなくても大丈夫。落ち着いて」
「ええ。もう堕としてますから、今さら言い訳は必要有りません、ね?」
アスタロッテの宣言にセレスティナさんがハッて顔したよ。
なに、その表情。
関係性がわたしの想像の斜め上行ってるよぉ、コレ。もう、恋人二人目が陥落済み。
そしてこの状況を御満悦なアリーシャちゃん。
「これは期待できる。波乱の恋の予感が」
「人の恋に横入りするとか大胆にもほどが有るわ。まともにわたしにアタックしてよ」
「あら、それでは二人で……?」
ってわたしが口走ったら今度はアスタロッテが迫ってくるの。ヤバい。わたしはわたしの情緒の危険を感じ取って後ずさる。
「あら、やはり直接的なのはお好みではないようで」
「喰われる感じがするからやめてよ。もう少し段階踏んで。わたしの心をときめかせろ」
「つまり……フラグを立てろ。と、いう事ですね。アリーシャさま、これが現状ですわ」
「ふむ……把握。良い、次の冒険に期待にしよう」
とんでもないやり取りしてるよ、なんでわたしの眼の前でわたしの陥落状況を確認してるのよ。
……これ、ヤバいのはわたしがアスタロッテを憎たらしく思ってないのがバレてることなんだよね。
恋愛未満を、以上にどう持って行こうか、ってのが試行錯誤してるのが有り有りと解るんだけど。
「次くらいで落とせそうアスタロッテ?」
「あら、もう少し時間をかけたいですわ」
「本人眼の前にして堂々とし過ぎ。てか自信あり過ぎだよ。簡単にはわたしは落とされないぞぉ。チョロインとか思うなよ」
「と、本人は言ってますが、一度心を摑めば結構コロリと」
「手練れ過ぎだよ、アスタロッテ。……まぁお手並み拝見するよ。それより次の冒険の話はどうなった、アリーシャちゃん」
話を元に戻すよ。このままズルズルと色恋話してたら恥ずかしいって。アイリとシャルさんがずっとこっち見てるし。
「フフフ。次の冒険の為の舞台は整った。いつ出発しても良い。詳しい説明は今から」
「オーケー。じゃあその話を詰めようか」
……そして入念に準備してから冒険の地へやっと赴くことに。
公国やら、妖精連盟の仕事も有るからしっかり予定立てないとね。シルフィちゃんやヴィリアさんは留守番になるから迷惑掛けれないし。
出発の日まではその二人と思いっきりイチャついたよ。
いや、ちょくちょく転移魔法で戻って来る予定だけどダンジョンの中からは飛べないみたいだし。
で、当日の朝がやって来た。
「行って来るよシルフィちゃん、ヴィリアさん」
「気をつけてくださいね、アイギスさん」
「ええ、無事をお祈りしておりますわ」
「大丈夫だよ。戻って来るって」
そしてわたしたちは手を振って家を出た。
予定は一ヶ月ほど。ちょっとした旅行みたいだけど危険がつき纏う冒険だもの、気は抜けないよ。
目的地はアウレリア王国。
公国から南のヴェルスタム王国より、更に南の地。
その地の辺境にある、とあるダンジョン遺跡。
古代魔法文明、その最後の"厄介事"の後始末をしにわたし達は旅立つのだった。




