第二十二話 妖精騎士アイギスさんの妖精たちの困りごと解決(ドワーフの地下村編)(5)
体調不良やら忙しいやらで当面、不定期連載に。
(´・ω・`)〈 ちょっと筆も乗らない感じじゃしの。
ちなみにストックはない。全く無いのだ。
廃坑の中にある大きな広い空間。
他の坑道と合流するような場所のど真ん中に巨大な悪霊が宙に浮かんでいる……
「こいつはなに……? 精神波動から悪霊だとは思うんだけど、でも、襲って来ない?」
今まで散々アンデッドをぶつけて来たのに本人はわたし達を見ても動かないんだよ。
本当にコイツがアンデッドを召喚してるのか疑わしいくらいだけど……実際さっきまで召喚してわたし達に当てて来てたの。先行して〈魔法の目〉を飛ばして確認したからそれは事実のはず。
でも、悪霊たちが集合したような黒い姿のそれは、こちらを認識しながらも精神世界側で訳の解らない言葉を呟き続けている……
"ぐじざたゎたかやややはんあたまなわまなややだなさなやなななゆにたあはややらりゆにやにははやや"
わたしの言語理解の技能でも聴き取れるのはそんな意味不明の言葉だけ、まるで呻き声のよう。
精神感知の技能で悪魔だって事は解るけど感情の動きだとかは混ざり合ってるから良く解らない。
読み取れるのは、憎悪、嫉妬、哀愁、恐怖、怠惰、怒り、狂惑、切望……
「ダメだ、わたしでもアイツが何を考えてるかさっぱり。……しかも、魂魄に何らかの制約を受けてないよ、コイツは。誰かに使役されてる訳じゃないのに……?」
自由意志で行動できる悪意の塊のような存在なのにその悪意をわたし達に向けて来ないの。
まるで自縄自縛に陥って意思決定ができないような気がするけど、じゃあ今までアンデッドをこっちに当てて来た行動は何なのか、って事になる。
……わたしが正体不明の悪霊の不可解さに困惑気味になって仲間たちを見ると――セレスティナさんとシャルさんが坑道の広間に隈無く注意を向けていた。
「……シャルさん。だめです。私では理由が解りませんね。この空間にあれを縛る制約があるかと思ったんですが」
「……私もです。解るのはこの空間がアンデッドたちの世界との繋がりが強いことくらいです。……少し不自然さも感じます……歪められてるような……?」
「歪み? 魔法か何かですかね?」
「原因は解らないのです。ですが現象としては次元に干渉し続けてる何かが有るように思えます」
セレスティナさんとシャルさんはヤツが襲って来ないのは空間に仕掛けが有ると思ったらしい。
まぁ、あの悪霊の精神は感知したら危険な部類だし、普通はやらないか。極自然にわたしはやっちまったけど。このアイギスさんならあの程度の悪霊の思考に呑み込まれないからね。
「でも、二人にも解らないんだ……ティアエルさんは? アイリも何か気付いたことある?」
「ボクも悪霊だろうとは思うけど攻撃して来ない理由が解らないよ……」
「……アイリも良く解らない。けど……あの人たちもどうしてわたし達が攻撃して来ないのか解らないのかも……」
「……悪霊が?」
娘のアイリが驚きの発想して来たよ。天才かな。
ただ、相手にそれほどの知能が有るのかどうか、それが問題だけど……判断力や自己決定できる意思も。
「セレスティナさんどうしようか。……あの悪霊に知能だとか知性が有ると思う?」
「む、難しい問題ですよぉ。何を持って知的生命体と定義するか、ですから。知能というなら言葉を喋らない動物にも有りますし、交渉だとかが不可能なら扱いが魔物でも、と言うのもちょっと……」
知的生命体の範囲が何処までなのかって確かに難しい。わたし達と意思疎通が不可能でもそれは知的で無いことの証明にはならないんだよね。
わたしたちが理解不能な論理で動いてるならそれはそれで知的生命ではあるよね。
「これは悪魔と手を結んだ業かな? 相手が悪霊でも襲って来ないと戦えないってね。……今までのアンデッド達は正当防衛と言えなくもないし」
「ですね~。……一旦保留して専門家の方の派遣を聖魔帝国から頼むのはどうでしょうか?」
「専門家……妖精連盟にも居るな……該当者が2名」
悪魔使いの悪魔じみた大口開けたヤツと、悪魔化した元妖精がな。
……呼ぶなら元エルフのゼルドラスか。
聖魔帝国に応援頼むのも良いけどまずはこちらで出来る限りをやっておきたいからね。なんでもお任せじゃ妖精連盟の立場もあるし。
そして急遽、妖魔の不死魔導師ゼルドラスを呼ぶ。
わたしは悪魔に対する召喚能力がないから連絡付けて、向こうから来て貰った。
早速、こちらの位置を補足して〈星幽界転移門〉の魔法で即座にやって来るゼルドラス。有能なヤツだ。
しかもやって来て事情を把握した途端に即座に悪霊がこちらを攻撃して来ない理由を見抜いていた。
仮面を着けた魔導師から思念で説明を受ける。
"アイリ殿下のご見識が正しいでしょう。あの悪霊は複合霊ですが、意思決定は可能なはず。おそらくこちらが攻撃して来ないので様子を見てます"
「やっぱりその能力はあるんだ。……交渉だとか意思疎通は可能なの、ゼルドラス?」
"恐れながら……不可能では有りませんが……"
と、仮面越しに理知的な眼差しをわたしたちに向けながらも、魔導師は一瞬だけ悪霊に視線を転じた。
"……相手が我々には非論理的な思考と言えるものなので、約定なりを自由意志で結ばせるのは困難かと"
「とんでもない思考でこちらの意図しない行動を取られるとかそういうこと?」
"はい。支離滅裂とした感情を動機として動かれます。これは一旦、魔法契約で支配下に置き、使役してしまうのが手っ取り早いかと思われますが……"
「ふむ。できるか? ゼルドラス」
中々頼りになりそうな男である。流石あのザランバルの軍師。この大陸の古代魔法文明を頭脳面でサポートして喰食王と一緒に滅ぼした男だ。わたしの意図を何も言ってないのに把握してくれてる。
"仰せとあらば。ただ、相手は契約で縛るにしてもかなり難解な複合霊体です。私の支配下に収めるには多少は弱らせる必要が有りますが、よろしいでしょうか?"
「つまり結局、戦わなきゃならないという事か?」
"はい、その通りです。お手を煩わせることは致しませんが……"
正直、気が乗らないな、という顔をわたしがするとゼルドラスがすかさず別案を出した。
"一戦交えるのが望ましくないのでしたらこのまま鉱山を封印してしまう事が上策です。聖下の危惧どおり、ドワーフ村の安全に関しては対策を講じる必要は有りましょうから"
「……じゃあ封印して撤退だな。みんな、意見ある?」
わたしの即断に戦神司祭のセレスティナさんも、森祭司のシャルさんも、冒険者のティアエルさんや娘のアイリからも反対意見は無かった。
「だよね。あちらから攻撃して来ないというなら、'"敵"じゃないよね、例え相手が悪霊であろうと。ゼルドラス、そういう事だ」
"では、仰せのままに"
これでドワーフ村に被害が出てたら話は別なんだけど向こうも迷って攻撃して来なかったから、倒すのもおかしいよね。
と、いうのがわたしの判断だよ。
このアイギス挑まれば否とは言わぬが、そうでなければ不必要に生命は取らない主義よ。
……そして鉱山は悪霊の複合霊体と一旦封印する事になった。悪霊が居る広間を魔法の結界で封印したの。
結局、あの悪霊は聖魔帝国任せになるかな。
アリーシャちゃんに連絡するのが一番良い気がしてきた。ミュータントたちの村の地下に居た悪霊たちを回収したって聞いたから、何とかできそうだし。
できれば鉱山から立ち退いて貰いたいしね。
でも、とにかく目的は達成したのでドワーフ村に凱旋する事にしたのだった。




