第二十二話 妖精騎士アイギスさんの妖精たちの困りごと解決(ドワーフの地下村編)(3)
ドワーフ達に地下通路を通って案内された、その場所はかつての鉱山の跡地。その坑道の一つだった。
巣食ってる魔物の話聞いたけど、確かにこれは厄介……
「アンデッドか……うようよ居るなぁ」
「ちょっとげんなりしますね」
アンデッドは本職の司祭のセレスティナさんも面倒らしい。閉鎖空間だと霊体系の相手が壁を通り抜けて来るから油断ならないんだよね。
そして案内してきたドワーフ達が揃って青い顔してた。
「ほ、本当にあの魔物どもを退治なさるんでぇ? もう、ここに近づくだけでオレたちビビっちまうんですが」
「ああ、そうか。独特の気って言うか雰囲気……精神波動だものね、アンデッドって」
幽霊が出たら寒気を感じるような、あんな雰囲気が廃坑の奥から漂って来るの。普通に生きている人に取ってはおぞましい感じの。
「でも、ティアエルさんは慣れたものでしょ。冒険者やってたら出会わない筈ないんだし」
「だねぇ。ボクもあんまり相手したいって訳じゃないけど」
冒険者だもの、アンデッド退治の依頼だってあるし、街や村の外を歩いてると沸いてるとかも偶に有るんだよ。
偶発的に出てくるのはアンデッドの世界――黄泉から稀に紛れ込むとか、無念の死を遂げた怨念が呼び寄せるとか色々理由はあるらしい。
だから、アンデッドはこの世界ではそれなりにありふれた魔物なのよ。
「セレスティナさんは本職だから言うまでもないかな」
「もう、お腹一杯な感じですよ。司祭が居れば……以下略って感じで冒険者ギルドから仕事回されましたから」
「エルフだから森いけるっしょ、ってノリと変わんないなぁ……」
「森でアンデッドだからって仕事も有りましたねぇ……神に仕える者なので断る訳にもいきませんし」
遠い目をするセレスティナさん。都会育ちの子だから酷な話だよ。
「神聖属性はアンデッドの弱点だからね。それなら〈不屍回帰〉の技能とかセレスティナさん持ってるの?」
「お恥ずかしいながら、習得してないんです。地母神マーテルさまに仕える司祭なら習得必須技能なんですが……戦神司祭だとサポートに回るか物理で殴った方が早いという考えが有りまして……」
「〈不屍回帰〉なら、小物なら一気に始末できるから便利だけど……戦神神殿だとアンデッドにしか使えない技能習得するより腕磨けって考えかな。……シャルさんはアンデッド相手の経験は?」
「はい、有ります。不浄に侵された森や土地に赴いて浄化することも有りますから……〈不屍回帰〉の技能なら使えますが……」
「おっとシャルさんがセレスティナさんより優秀だった」
「格が違い過ぎますよぉ、アイギスさん」
でも以外、森祭司も習得できるんだね。ってシャルさんに聞いたら昔、地母神司祭の人に習ったらしいの。その人が伝説級の聖母でセレスティナさん驚いてたけど。
そんな話をしながら対アンデッド戦の段取りを入念に打ち合わせして廃坑に突入の時が来た。
「じゃあアイリ、初めてかも知れないけど、アイリならアンデッド倒せるからね。いつもどおり戦えば良いから」
「うん、アイリ。頑張る」
「じゃ、行ってみよう」
と、出発しようとするとドワーフ三人から声援が。
「がんばってくだせぇ。オレたちはここでお待ちしてますわぁ。くれぐれもお気をつけて」
「何言ってんの……付いて来るんだよ、お前らも」
「「「!?」」」
ドワーフ三人とも青い顔しながらびっくりした顔するの。いや、ドワーフ達とはいちいち打ち合わせしなかったけど、護衛対象守るとか話出てたでしょ。
「お、オレらどう考えても足手まといですぜ。見てくだせぇ身体の震えが脚にまで。これじゃ、とても付いて行く事なんて……」
「大丈夫よ。戦神司祭のセレスティナさんが〈勇気戦歌〉の魔法の奇跡を授けてくれる」
そして金髪の少女エルフが歌うように魔法の奇跡を戦神に願う。
みんなの心に戦う勇気が沸いてくる。
「ららら、勇ましき雄叫びを、挙げ。勇士よ――」
「ほら、脚の震えが止まったよ」
「ま、待ってくだせぇ。急に身体が暖かくなって勇気が沸いて来やしたが、だからってオレたちが強くなった訳じゃねぇでしょ」
「ええい。つべこべ言うな、男だろ。ドワーフの戦士なら生命捨てがまる勢いでついて来い。鉱石なんてわたし達に見分けつかないでしょうが」
「か、勘弁してくだせぇ。し、死んじまったら足腰立たねぇお袋の面倒を見るやつが」
「死者復活の魔法使える人が、わたしとセレスティナさんにシャルさんも居るんだよ。死んだ直後くらいなら成功率100パーセント。何も、問題ないでしょ。万が一のことがあっても安心だよ」
「そ、そんな伝説みたいな奇跡の魔法を!?」
「わたし達はそんな魔法使える強さだから安心しろってことだよ。ほら、行くぞ」
そして、ドワーフ達を急き立て一緒に廃坑の中へとわたし達は出発した。
坑道の中は暗く湿っていて、結構蒸し暑い。
元々は古代の魔法文明時代の人達が拓いた鉱山だとか。
それが採算が採れなくて閉鎖。そしてドワーフたちがやって来て山中に埋もれてたのを再開拓したらしいの。
「で、また採り尽くしちゃった訳ね」
「へ、へい。それも大ばばさまが子どもの時の話で……当時は栄えてたらしいですぜ。ですがもう全員の食い扶持養うことはできないってんで大部分出てったそうで」
「ふ〜ん……でも、この妙に文明的な設備は魔法文明の時のかな」
軌道が敷設されたトロッコとかもある。
それに入口は暗かったけど坑道の奥は魔法の明かりが灯って視界に困らないの。
そして、千年以上は昔の廃坑の筈なのに、坑道が潰れたり脆くなってる様子がない。周囲から魔法の気配がするから補強は未だに効いてるのかも。
「……そしてお客さんが登場。いや、わたしらが客人か。……でも、なんでアンデッドがヘルメットしてるの」
黄色いヘルメットを頭に被って元作業員って感じの屍鬼が3体。こっちに気付いて呻き声を上げて迫ってくる。でも、足は遅いの。
「うぅ〜あァァ」
「典型的なゾンビだけどヘルメットが解せぬ。安全第一なの、おまえら」
「ああ、アイギスさん。これは黄泉返りのアンデッドですよ。屍者の世界の黄泉から亡霊のようにやって来るタイプのアンデッドですね」
「……霊体が実体化して肉体がある……そういや魔術師ギルドのじっちゃんが概念存在がアンデッドになったりするとか言ってたな」
「ええ、そうなんです。……で、もう来ますが……」
「アイリ。初アンデッド退治ゴーゴー」
そしたアイリがこくりと頷くと、少女の肢体に似合わない大斧振るってワーカーゾンビたちを粉砕する。そのようすは鎧袖一触、まるで相手にならないよ。
「あ、忘れてた、物理ダメージだけだとアンデッドが復活するの試そうかと思ってたけど。アイリの攻撃、ぜんぶ魔法攻撃になっちゃうから」
「アイリ何か失敗しちゃった?」
「いや、わたしのミスだよ。……で、ドワーフども見てみろ。うちの娘でも倒せる相手だぞ? なにビビってる」
ゾンビが出てきた瞬間にわたし達から距離を置いて遠ざかったドワーフ3人。尚、ティアエルさんが逃さないようにさらに後方に周り込んでた。
「い、いえね。邪魔しちゃいけねぇかなぁ、っと」
「勝手にうろちょろされる方が邪魔だよ。戦闘が始まったらそこで踏みとどまれ。魔物の始末はこっちでするから。……本当に戦士なの?」
「アンデッドなんざ、戦士殺しにもほどがありやすよ。何せ獲物振るっても効かねぇんですから」
「霊体タイプはそうだけど実体ある奴は一応は倒せるじゃん。……直ぐに復活してくるけど」
「幽霊はホントに勘弁してくだせぇ。どっから出てくるのかまるで解らないんですから」
「まぁ、おまえらの真横に出現したけどね」
そして仰天するドワーフ3人。
でもそのドワーフ達が身動きする前に飛んで来た矢が霊体のゴーストを吹き飛ばして倒した。
そしてわたしは真横に飛んで来た矢をキャッチ。
その矢を撃った人――ティアエルさんに近寄って返す。
「はい、ティアエルさん。でも、この矢自体は魔法の矢じゃないんでしょ」
「わざわざ取りに行くんだもん、驚いちゃった。そうだよ、精霊の力を借りた〈精霊矢〉だよ」
「さっすがエルフぅ。精霊使うのお手の物」
わたしの茶化した冗談にティアエルさんが照れ隠しに笑みを浮かべる。
「やだなぁ。それ神祖さまが言うんだから」
「魔法の力さえ乗ってればアンデッド相手にも矢でも有効――解ったかドワーフ3人。わたし達はプロの冒険者だ。手抜かりはない」
「へ、へい。お、おとなしくしておきやす」
「うむ。……!」
気付くと周囲に次々にアンデッドの反応。
あっという間に壁の中やら坑道の前後左右から姿を現す黄泉返りの不屍者たち。
さっきのゾンビやゴーストはもちろん、骨組みだけの骸骨鬼や不浄霊と揃い踏み。もちろん、一体ずつじゃなくて複数体居るよ。
「成るほど、楽しませてくれそう。……軽くウォーミングアップしましょうか」
わたしは剣を鞘から抜いて盾を構えるよ。
戦神司祭のセレスティナさんは戦鎚を。
戦士のアイリは大斧。森祭司のシャルさんは蔓が何重にも絡まった杖。
そしてティアエルさんはドワーフたちの近くで弓に矢を番えて構える。
こっちは準備万端、戦闘開始だよ。




