第二話 妖精騎士アイギスさんと闇妖精の暗黒騎士(6)
魔女王に悩まされ続ける、ミシェル・ハーヴェイ女史再び登場。
私、監察官ミシェル・ハーヴェイと調査部隊は薄暗い森の中、敵部隊の襲撃をうけていた。乗っていた飛空艇が地上からの攻撃により撃ち落とされ、不時着した森の中で待ち伏せにあったのだ。
「ハーヴェイ監察官。駄目です。逃げ場がありません。ほぼ包囲されました」
「後方の敵がいない箇所からの撤退は無理そうか?」
「そちらはおそらく罠です。離脱しようとすれば追撃を受けます」
ロルムンドから護衛に付けられた人造人間の強化兵からの報告により状況を理解する。
私も何度か戦場に立った事はあるが、火器を使用した近代戦というのは初めての経験だ。
そう、戦いは相対する者同士、遠距離から銃火器を撃ち合う戦いになっている。
剣や魔法を使っての戦いが懐かしく思えるほどだ。この戦いでも魔法は用いているが。
「敵は巧妙だな。こちらの魔法攻撃の射程に入って来ない。相手の素性は判るか? 天使か悪魔か?」
聖魔帝国では天使と魔神王配下の悪鬼の軍勢が銃火器を装備している。神話の連中が近代兵器つかってくるなど一昔の前の私なら笑いばしていたが……今はその笑えない状況が現実になっている世界だ。
「いえ、天使や悪魔ではありません。データベースからの照合検索から敵部隊は聖魔帝国の傭兵ギルド所属の部隊、黒色邪鬼兵団の可能性が高いと返答されています」
「黒色邪鬼兵団だと。ジェラルダインの私設傭兵部隊か」
「傭兵派遣会社ブラック・グレムリンズの代表取締役はジール・ジェラルダインとなっています」
ホムンクルス兵の杓子定規な返答を受けつつ私は苦虫を噛み潰したような気分になった。
神祖の妖精王出現の事態に、ジェラルダインが動き出したと悟ったからだ。
と、同時に聖魔帝国も動き出しているという事も。私の乗った調査部隊の飛空艇が撃ち落とされた理由も理解した。――完全に妨害工作だ。
「監察官。我々が不時着した直後から星幽界通信が通信不良です。本国との連絡が現在も途絶しています」
「それはおそらくロルムンド側でやっているな。私の乗った飛空艇が撃ち落とされた直後に情報が漏れていたと判断したのだろう」
「では、我々は如何いたしましょう。敵の攻撃が激しく身動きが取れません」
「まず、状況を整理したい。敵部隊の数、装備。こちらの状況は?」
「敵はおそらく小隊(約50名)規模です。装備は自動小銃、擲弾筒、重機関銃、携帯対空火器などで武装しています。全員が装甲歩兵です」
「装甲歩兵という点を除けば典型的な歩兵部隊か」
「はい。彼我の現状の兵力差は1対4。個人戦闘能力は我々が上ですが、兵力差があります。特に、こちらの使用火器は半自動小銃。対して敵は自動小銃です」
「銃による火力と兵力は我々が不利……」
森の中の戦場では敵部隊が猛烈に弾丸をこちらに浴びせて来ている。チラチラ、木々の間から見える敵兵は人間の子供のような背丈に黒色の全身鎧で武装した邪鬼と呼ばれる種族の装甲歩兵だ。
「小鬼妖精のような連中でも、銃器を用いて実戦を得れば精鋭か……。こちら側から突撃して白兵戦に持ち込めば状況を打開できるか?」
ホムンクルスの強化兵は、一騎当千の実力者の戦闘力を持っている。ただ、その火力を発揮できるのは剣刃用いるような白兵戦だ。
「いえ、厳しいかと思われます。敵部隊も我々程とはいえませんが白兵戦に長けています。敵の銃火器攻撃と白兵戦闘の組み合わせで既にこちらの兵二名が戦死しています。敵には10名ほど損害を与えたと思いますが……」
「それでは、敵を倒しきる前にこちらが全滅しかねんな」
撃ち込まれた弾丸による火箭の激しさを見れば突撃するにしても犠牲がでるのは火を見るより明らかだ。
「では、救援を信じて待つしかないな。明らかに持久戦だ。敵の魔法攻撃や重火器攻撃にのみ、魔法障壁を展開して防御しろ。敵の強攻には私が魔法攻撃で対処する」
「はっ」
戦闘の方針が決まり、指揮官のホムンクルス兵が他の兵に方針を通信機器で伝達し始める。
私はその真剣なホムンクルス達の様子を見ながら、今後の先行きを考え始めた。
この戦闘事態は大した状況ではない。
何故なら敵が本気ならとっくにこちらが始末されていても可怪しくないからだ。だから、完全に足止め狙いなのだ。
なら、先の先を考えるべきだな。
おそらく聖魔帝国の魔女王の切り札であろう、闇妖精のジール・ジェラルダインは、神祖の妖精王に対する交渉役としては申し分ないと判断されたのだろう。
奴は仮にも妖精族だ。種族的にも申し分なく、戦闘能力、判断能力共に適役だ。場合に依っては使い捨てにできるという点でも。
つまり、私は奴を出し抜く必要がある。
おそらくジェラルダインをなんとかできれば、神祖の妖精王の件に対してはこちらが有利になるからだ。
まともに戦えば、私だけではまずジェラルダイン、奴には勝てない。
私、ミシェル・ハーヴェイは魔導師と呼ばれる魔術師の最高位の者たちに匹敵する魔法の使い手という自負があるが、戦闘経験という点では一線級の者たちに劣る事も理解している。
対して、ジール・ジェラルダインは戦闘能力、魔法の使い手としては超一流で種族の限界に到達するような実力者だ。
だが、その事実がおそらく狙い目だ。奴が私を格下だと侮っている事実を使って出し抜くしか勝てる可能性はない。
神祖の妖精王を魔女王に先に接触させる事態はなんとしても避けたいのだ。
私が先に接触して交渉に失敗し、妖精族が内紛状態になるというなら諦めがつくが、あの絶対悪と宣う悪魔の女王にしてやられるのは我慢ならん。奴のせいで私は頭痛持ちだ。この18年どれだけ辛酸を嘗めさせられた事か!
よって、私は策を練るしかない。……時間的猶予は余りないが、心の中で、頑張れ私と自分を励ます。それくらい精神的に色々来るものがあるくらいだ。心が弱くなってくると乙女チックな気分になる。
「仕方ない。"奴"に連絡を取るしかないな」
私がもはや、これしか策がないなと、戦闘しながら決めた時。救援部隊が飛行艇で到着した。
増援部隊と呼応して、敵部隊を蹴散らし、不時着から6時間後にやっと私達は戦場を離脱できたのだった。
天使王(幼女)「グレーターデーモンにブローニングM1917重機関銃を装備させれば最強に思える」
魔女王(美女)「まあ当然の選択だな。他にも分隊支援火器を個人兵装にできそうだ」
ファンタジーな異世界に、容赦も躊躇もなく近代兵器を持ち込む魔女王と天使王




