第二十二話 妖精騎士アイギスさんの妖精たちの困りごと解決(ドワーフの地下村編)(1)
シル・ヴェスターは山脈に囲まれた国だった。
とにかく山が多いの。
道が入り組んでるとか山を超えなきゃ必ずしも隣村に行けないって訳じゃないんだけどね。
そして緑豊かな場所もあれば、山肌剥き出しの場所も有ると様相も多種多様。そこに住む魔物たちも彩り豊かに色々な種類が居た。
『で、こんな所に本当にドワーフが居るの?』
襲って来た岩長蟲を一刀の元に切り捨て、わたしは雪男妖精に疑問を投げかける。
『へい。この辺りは見てくれは荒れ地ですが昔は鉱石が採れたとかで。今でも少数ですが暮らしておりやす』
『近くの人間の村……と行ってもかなり遠いけど。その村の人、まったく聞いたことないらしいぞぉ、本当かぁ?』
『ウソじゃねぇですって姐さん。てか、姐さんが他の妖精の情報寄越せってんで案内してるのに』
『これもうちの組。妖精連盟のシノギよ。妖精版冒険者稼業と言ったでしょうに』
そう、今わたし妖精騎士アイギスさんは人知れない場所に居る妖精たちを探してる最中。目的はもちろんお仕事探しだよ。
困ったことはないかな、と交流して売り込む予定なんよ。
……御用聞きか何かかな? と思わないでもない。
でも困った妖精たちのお悩みバスターとして妖精連盟を立ち上げたんだよ。地味な活動でもやるのが筋ってもんでしょ。
しかも久々に冒険らしい冒険なので家族で来てるんだよ。娘のアイリ(戦士)。戦神司祭のセレスティナさん。森祭司のシャル。
更にボクっ娘の弓野伏ティアエルさんと揃い踏み。一端の冒険者パーティーよ。
『このメンツで空振りとかは幾らなんでも許されねぇぞぉ』
『だから居ますって……そろそろ到着でさぁ』
『? まさかあの穴?』
そう、山肌にぽっかり空いた人一人通るのがやっとのような穴。一瞬モンスターの巣穴かな? と思ったくらいの。
レンジャーのティアエルさんが警戒しつつ素早く動いて先行してその穴に向かう。
「あ、梯子がありますよアイギスさん」
『なんかイメージ違うんだけど……そんなに人少ないの?』
『儂らと取り引きはしてやすが住処までは案内して貰えませんぜ。ただ、この山に来ても外では誰も見たこと有りやせんし、取り引き場所にも5人以上は見たことねぇですから』
『だから、少数か。まぁそれほど親交深めてるって訳じゃないなら警戒されて当然か。言葉が余り通じないんだよね?』
『へぇ。どうも妖精語を忘れられてるようで。翅妖精族くらいにしか儂らも使いませんしね』
妖精族も喋る言葉に隔たりが有るとか……
まぁ別々の場所に暮らしてたらそうなるのも無理ないのかも知れないけど……
『まぁ、幸いわたしの妖精言語は万能言語だ。アナタの心に直接語りかけてますも可能だからイケるな』
『警戒されてブチキレんでくだせぇよ。儂らから見ても偏屈と頑固を掛け合わせたような連中ですんで』
『それこそドワーフよ。頑固、偏屈、筋肉。この三拍子揃ってるのがドワーフの証でしょうに』
まるで見たこと有るように言ってるけど実際に会った冒険者から聞いた話だけどね。大概みな口を揃えてそう言うの。
職人や戦士になる為に生まれてきたような奴らだってね。会うのが純粋に楽しみだぜ。
そして案内のイエティを先頭に穴の梯子を降りる。下の空間も狭くて真っ暗。
光がないので暗視すら無理って空間だよ。
しかし、わたし達のパーティーは全員がハイスペックエルフよ。一切光源の無い世界すら〈闇視〉の技能に依って昼間のように見通せるよ。
『そういやイエティ族も〈闇視〉あんの?』
『儂ら洞穴に住んでますやん』
『そんなに〈闇視〉技能誇るべきスキルではなかったか……』
『おっ母さんの腹ん中から持ってるもんですからねぇ。まぁ言われて見ればお袋に感謝ですわな。……っと話してる間に着きましたわ』
前が塞がって見えん。先頭のイエティが毛むくじゃらでしかも大男。狭い地下の地肌剥き出しの坑道のような通路だよ。
『おい。どうした止まってるぞ』
『いや、ここにからくりが有りまして……やっと解けた。で、入口に入ると……』
そして狭い地下にけたたましく鳴り響く鐘のような音。
『おい〈警報〉の魔法に引っ掛かってんじゃん』
『いや、これが来客を告げる音にもなってんですよ。てか、客人用かと思ってましたわ。警報なんかコレ』
そしてつんざくのような音を気にせず進むと大男含めた5人が入れる空間になって居た。
一応椅子が用意されている。
『待てってことだね、てか二つしか椅子がない』
『この人数で来ること想定してないんですから』
『むぅ。これが少人数じゃないかと言う推測の理由か……敢えて来客の人数を絞ってる可能性もあるかな』
イエティなんぞに暴れられたら手こずるだろうからね。野生に生きてるから強いし、棍棒持たせりゃそこらの魔物に負けないからね。
そして待つこと十分……警報の魔法が鳴り止む頃にやっと出迎えが来たの。
ドワーフだったよ。
三人来たけど……
『あれ、筋肉要素は?』
「あ〜ん。なんじゃおんしは女か。イエティのメスはこんなだったか?」
「方言酷いがシルヴェスター語か。意味は通じてる? 後、こっちはエルフだ。どこ見てイエティだと思ったよ、おい」
出てきたのはちっこいダルマ体型の髭ヅラのおっさんだよ。三人ともヘルメット被ってツルハシを持ってた。
……ただ、筋肉量が予想より少ない。
結構、スラリとした体型なの。筋肉がはち切れんばかりの筋肉達磨って聞いてたんだよね。
「おおう。喋れるやつは初めてだぜ。エルフってオレらと喋れるんか」
「そいつはエルフに依るな……ふむ。エルフでも問題ない? エルフ嫌いが多いって聞くがドワーフは」
「見たことねぇから、嫌いも何もねぇな。本家のドワーフ族は別かも知んねぇがよ。オレらははぐれモンでな。……おっといけねえコレ喋って良かったっけ?」
「もう、遅いだろ。別に喧嘩しに来たんじゃねぇんだよ。……取り敢えず酒だ、土産に持って来た駆け付け一杯」
「おう、こいつはありがてぇ」
と、まず飲ます。ドワーフ豆知識、酒には眼がない。酒樽が酒呑んでると評されるのがドワーフだ。
「おおう。こんな上等なモン初めて飲んだぜ」
「本当か? 飲ませてみぃ」
「オレにもくれや」
「バカ言ってるでねぇよ。毒でも入ってたらどうすんでぇおまえら」
「だからって独り占めすんなや!」
最初に飲ませた奴がグイグイ飲む。いかん高い酒渡しすぎたか。仲間うちで喧嘩してる。
「いや、一杯つったろいつまでも一人で呑むんじゃねぇよ。話聞け」
「おう、酒なんぞ渡すから完全に忘れてたわ」
「もうちょっと警戒しろよ……」
「うな事言ってもこんなとこまで来てどうすんでぇ。オレらとやり合っても出すもん出して貰わんと取り引きできねぇしよ」
「まぁ、そうだな。と言っても今回は話ししに来たんだよね。じゃあ、まず聞いて、族長とかのお偉いさんに話通してくれ。成功したらボトルを3本さらに進呈するけど」
そしてドワーフ二人が族長に来客を告げる間に隊長格の最初に話したドワーフに色々聞いたの。
普段はここでイエティ族と物々交換してるらしい。
毛むくじゃらの丸裸なイエティも武器を使う事は知っている。そして強力な武器があればより有利になることも。
斧だとか槍だとかね。
ドワーフらしく製鉄もしてるそうだよ。
地下に栽培場があって食料も生産してるってさ。
そして色々聞き出してる間に時間が過ぎて行った。




