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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第二十一話 妖精騎士アイギスさんとシル・ヴェスター公国での冒険者稼業(6)



その日――

冒険者ギルド奥の応接間で、わたしとヴィリアさんとギルマスが話し合っていた。


「ではあの村については村の運営もそのネイチャーの方々にお任せするという事ですね」


いつもいい加減なギルマスが神妙に受け答えしてるの初めてみたな。


「ええ。他の村から人手を集めようにも難しいでしょうから。特に税の減免で需要が増して林業村から逆に人手が欲しいと言われる始末で……」

「解りましたわ。アイギスさまのお墨付きも有りますし任せてしまいましょう。では、お手数ですが宜しくお願いいたします、ギルドマスター」

「勿体なきお言葉です、ヴィリア殿下」


ギルマスが立ち上がって会釈する。お偉いさん相手の作法を弁えてるんだよ、初めて見たわ。



「じゃあ、これでお仕事終わりかなヴィリアさん」

「えぇ、もう帰宅できます。アスタロッテさまも夕飯前にはお戻りになるそうですよ」

「アスタロッテも偉いよ。ヴィリアさんのお手伝いしてるんだし……ただ、代わりの護衛が……」


護衛役の隊長は均整が取れた騎士なの全身甲冑の。

けど中身は悪霊デビルなんだわ……しかも公爵。まぁ、こいつは強いから良いよ。

でも他に秘書と護衛役を兼ねた女淫魔サキュバスの上位種族、リリムをつけてるんだもの、3体も。


「アンドロマリウスとかいう騎士の悪魔は出迎えで知ってるけどさリリムって。ヴィリアさん、本当に何かされてないでしょうね?」

「大丈夫ですわ。有能な人たちですし……それに女の子好きな方たちなので」

「心配になる要素しかないよぉ、それ」


ヴィリアさんが毎朝城に向かう時はアスタロッテと一緒だったから、リリムなんて護衛に着けてるの知らなかったんだよ。てか、どうして女の子好きな祖女魔リリムを着けるよ、アスタロッテ。



わたしが目線向けると貴族服着たリリムの女性たちが表情をぎこちなくさせる。

何かしてないよね? おまえら。


「ふふふ、アイギスさまったら。ただ、本当に優秀な方たちですし、わたくしの趣味の方で気が合う方たちなので。……そちらの方面でも息抜きにお喋りさせて貰ってるので助かりますよ」

「……まぁ良いだろう。流石に手はださないか、出さないよな」


一番年長な見た目の美女が血相変えたよ。本当に焦った顔して。


「あ、アイギス殿下。アスタロッテさまにはお手つき厳禁と言い含まれております。アスタロッテさまより先に手を出すなど、そんな怖れ多いことは致しません、絶対に」

「……肝心のアスタロッテに先に手を出されそうなのはなんなの」

「まあ、わたくしでお相手が務まるかしら」


もう遅かった……本人はいつの間にか乗り気よ。

もうコレはどうにもならない。アスタロッテもわたしの恋人候補だから許されてしまうの。


と、あられもない会話をギルマスに披露しつつ、わたし達はその場を後にした。

ギルマスがなんとも言えない顔してたわ。わたしもなんとも言えない顔した。お相子だな。



そして冒険者ギルドのお客様用出入り口からギルドを後にして、一角獣馬ユニコーンに引かれる豪華な馬車に乗り込む。


秘書のリリムたちは城に戻り、悪霊の騎士は夢馬ナイトメアに騎乗して馬車の護衛。

ちなみに馬車のユニコーンはわたしが用意した護衛でもあるの。


「そういえば……ユニコーン達が御者も居ないのに行き先を伝えれば向かってくれるんです……不思議に思ってたんですが」

「……道知ってるのは召喚する対象に自分の知識を共有したり出来るからだよ、ヴィリアさん」

「なるほど、それは知りませんでした。魔法というのは本当に不思議ですね」


「だよね。わたしも良く解らずに使ってるよ。一応原理とかあるらしいんだけどね」

「まさしく夢物語のようですね……幻想世界の王さまと言われても納得してしまいますよ?」

「らしいよ。わたしも夢現ゆめうつつだよー。お姫さまと一緒に馬車に揺られて」


そして可笑しくなって、二人して笑い声を漏らすの。何かの冗談かな、って思うもの。この状況。


ヴィリアさんは担ぎ出されてまさかの公爵でしょ。

しかも、夢にまで見たわたしが婚約者だもの。

わたしはわたしでお姫さまが恋人だよ?

普通、何かの冗談だと思わない?


「でも現実の方が冗談で済まないから困るんだよね。仕事忙しくない? わたしもわたしで仕事増やすし……」

「いえ、アスタロッテさまが大概の事には解決法を示してくれますから。思ったよりは楽をさせて貰ってますよ」


「アスタロッテも面白そうにしてるからね。好きな風に国を運営できるから楽しいんでしょ」

「その趣きは確かに有りますね。……これは領民が試されてる気がしますもの」

「だろうと思うよ、アスタロッテだもの……」



ある種の社会実験か何かかな? 無税政策だとか。

本当に税金無くして人間たちがどう動くか観察してるようだし。アスタロッテにとって"人間"って観察して分析する対象じゃないかな。


「……甘い夢を見せられてどう動くか。欲望に身をうずめるのか良心を働かせるのか……見てるのはそんな所かな。他にも考えてそうだけど、わたしに解るのはそれくらいだよ」


「ええ、まずは敢えて貴族領と直轄領で落差をつけたりして貴族たちの為政者としての資質を見てますの。役に立つ人達とそうでない人達を振るいに掛けるようですね」

「天国と地獄を同時に見せてるからね、アスタロッテは。領民の資質も問われてるよね」


直轄領の無税政策のおかげで貴族たちも領民の不満を無視できなくなってるからね。


でも、実はアスタロッテが無税政策なんて提案して直轄領で実施してるのは、それこそ都市外の領民に何もしてないからなんだけど。

揉めたときの裁判や仲介ぐらいだもの。後はほぼ自分たち任せよ。財政難で金掛かることできなかったらしいからね。


実は貴族領は、荘園体制以外での統治ではそれなりに機能してるらしい。

貴族追い出して無税になっても魔物対策で結局、お金が要る気がするよ。貴族が居た時はちょっとした魔物は私兵が相手してたからね。


場合に依っては貴族が居た時より増えるんじゃないかな? それなりの戦闘経験者の給金って雇うとなると高いもの。



「そんなに甘い話はないってね。アスタロッテの事だから手出しは必要最小限にして無駄な労力はしなさそう。手間暇掛けるの嫌いでしょ、あの子」

「アイギスさまは、アスタロッテさまのことを良くお解かりですわ。もう心が通じあってるかのように……」


そしてヴィリアさんがうっとりするような表情するの。普通ここは妬かない? 自分というものが有りながらとか。

むしろ混ぜてくださいとか言わんばかりなの。

生粋の百合好きよ。見てるだけで幸せになれるとか。こっちは気恥ずかしいんだよね。百合とか言われると。


「ま、まぁ気が合うのは確かだけどね。……でも冒険者ギルドも順調なようだし、当面は公国もなんとかなりそう?」

「ええ、今の所は対処できてますから、なんとかなりそうです。もう、何から何までアイギスさまやアスタロッテさまにお任せしてるので順調過ぎるくらいですわ」


「わたしに出来る仕事って言ったら冒険者稼業くらいだけどねぇ」

「アイギスさま、治安維持と魔物対策ができれば、この国の仕事の八割は済んでるようなものですよ。それが一番重要なんですから。できてないと生活もままなりませんし」

「まぁ、そうなんだけどね。四の五の言えるのも安全に生活できてこそだもの」


魔物対策や賊対策に占める冒険者の役割が大きいのよね。実質、冒険者が災害対策部隊のようなものなの。但し、有料。


そして災害がしょっちゅう起きるのがこの世界。魔物が強いのと繁殖力が高いから絶滅させるのは困難らしいし。別の世界から次元を渡って沸いて来たりもするらしいから。



「ですがアイギスさま。公国はともかく妖精たちの方々についてはよろしいのですか? この国にばかりお手間を掛けさせてしまってるようですが」


「実はそっちもそろそろ動き出さなきゃいけないんだよね。妖精連盟立ち上げたのは良いけど、本来、妖精たちの困りごとを何とかしてあげる組織だから。……肝心の妖精を探さなきゃいけないのよね」


居場所が解る妖精たちには連絡付けれるようにしたりしてるんだけど、そうじゃない妖精たちもかなり居るの。


人間や他種族と交流持ってたら解りやすいけど、孤立してる妖精たちは居場所がよく解らない子達も多いのよ。

ゴブリンみたいに隠れ住んでる事が多いらしくって。単純に人界未踏の僻地とかにも居るらしいし。


「……知られてる里とかの困りごとは向こうから来るけど、そうじゃない里とかは知らせてあげない連絡付けらないでしょ。だから徐々にでも動いて行こうかなって」

「何かお力になれればと思いますが……白雪妖精スノーホワイトの里の伝承くらいか知りませんわ……」


「ヴィリアさんの先祖の?」

「はい。わたくしが先祖返りなのでお母さまから伝承を聞いてますの。常冬の国の白雪妖精の伝説を。ただそれこそおとぎ噺のようなもので、居場所も解らないのです」


「気になるけど、場所のヒントも解らないのは後回しかなぁ。シャルさんも白雪妖精が昔、この国と交流を持ってたのは知ってたけど居場所までは解らないって言ってたし。ヴィリアさんには悪いけどね」


「いえ、構いませんわ。それにハイエルフらしいので余程の事が無ければ困らないと思いますし……」

「情報を集めておいて、落ち着いたら探してあげるよ。わたしも冒険者の端くれだし気になるからね」


「はい、ありがとうございます。王家ゆかりの古文書なども城に有りますから、妖精たちの情報を司書に探させて置きますね」

「うん。よろしくお願いね……丁度お家か」


そして馬車が家の前に到着。


わたしが帰って来たことに気付いてアイリが出迎えてくれるの。それにセレスティナさんもシルフィちゃんも。アル君もね。

シャルさんが赤ちゃんも抱いてたよ。わざわざ一家で外にお出迎えしなくても良いのに。



「ただいま、今日はどうしたのみんなで」

「いえ、丁度洗濯物を取り込んでたんですよ。うっかりこんな時刻まで忘れてたので」


セレスティナさんが、確かに洗濯物を腕に抱えてた。

もう日が暮れ山脈の稜線の下に落ちてる。もうすぐ夜か。


「ちょっと遅くなったかな。ただいま、セレスティナさん」

「お帰り。お母さん」

「あ、ご飯の支度しますね。アスタロッテさんはもう帰って来てますよ」

「アイリ、シルフィちゃんにもただいま。それだけがわたしの楽しみだよぉ」


と、言ってわたしはシルフィちゃんに抱き着くの。

もう、アイリとか見てるけど気にしない事にした。

春に忙しくてわたしの我慢の限界は超えた。娘よ母を見て育て。

そのアイリもわたしに抱き着く。

学んだおかげでわたしに触れ合う事が多くなった、流石わたしの娘だぜ。



「うっ、アイギスさんとアイリちゃんの二人分の重みがっ」

「二人分だから、それは重いよ、お母さん」

「わたしも、わたしも居ます」

「みんな子どもじゃないんですから、離れてください。支度できませんよ」

「まぁまぁ、これがお母さんの力ですのね」

「ヴィリアさまも見てないで助けてくださいよ」


さすがにシルフィちゃんが困り顔なので離れるよ。

家族分を補給すればこのアイギスさんはまだまだ戦える、無限に。


「じゃぁ、ご飯にしよう。アル君、シャルさんも……赤ちゃんぐっすり寝てるね」

「シャルさん遂に赤ちゃんを泣きやませる事に成功しましたよ」

「この、赤ちゃんを……」

「い、いえ子守唄を覚えてたので、それを唄ってみたら泣きやんでくれたので……」

「ぐっすり寝れるほど落ち着いたんでしょうね。寝れない時は唄って貰おうかな、わたしも」

「いえ、そんな」


冗談だったんだけどシャルさんが頬を赤らめる。

もう、可愛いよシャルさんも。

そしてみんなでお家へ、既にアスタロッテが準備を整えてたよ。

着替えてから手を洗ってみんなで夕食。

そして、今日の一日の話をするのがアイギスさんの話題の定番になってるの。


わたしは勿論、冒険の話をしたよ。

午前中には終わった話だったけど。冒険者だもの冒険行ったなら冒険の話しないと、ね。



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