第二十一話 妖精騎士アイギスさんのシル・ヴェスター公国での冒険者稼業(2)
そして冒険者ギルドの応接間のソファーにわたしは大物ぶって座るよ。隣に座ったアイリがわたしに寄り添うようにもたれ掛かる。
「言っちゃなんだが女侍らせてるみたいなんだが……」
「なに見てんの。母娘の仲睦まじい一般的な光景でしょ。アイリはこういうの好きなの。人目を憚って普段やらないけど」
アイリまだ十歳くらいの見た目だよ、わたしも少女って外見なんだから女の子の戯れでしょう。見る目ないなぁギルマス。
「まぁ、おまえさんの家庭に口出しするのはやめとくよ。で、何から聞きたい」
「……なら、冒険者どものやらかし状況から」
「魔物引き連れで村逃げ込みが六件。内一件は村ん中まで。揉め事で殺しが3件、こいつは相手がカタギじゃないから何とかした。あとは……禁猟区や禁足地入りが3件。それに……」
この一月足らずで良くやるよ。大体毎年こんな感じで冒険者たちは面倒ごと起こすのよ。
「……で、後は恐喝紛いで苦情が多いんだが、今回"騙り"が多いのが厄介でな。これが相談その一だ」
騙りってのは冒険者ギルドの認可受けてないのに冒険者ギルド所属の冒険者だって言って仕事する奴らの事だよ。
ただ、こいつら冒険者じゃないのかと言うと、そうでもないの。冒険者ギルドに登録したてだとかの仮免許でやる奴が大半なんだよ。そいつらは勝手に仕事受けれないから扱いは同じなんだよね。
「騙りはいつも通り始末つけるしかないでしょ。人手足んないの?」
「ああ。足りてないんだよ。この春に冒険者を金で釣って集めたは良いが面倒な奴らも集まってな」
「舐めきられたモンだよね、ここが何処だか思い知らせてやれギルマス」
ここは地獄の辺境シル・ヴェスターだぜ。冒険者ギルドに喧嘩売って生意気やらかせるほど甘くはないぞぉ。
「……思い知らせようにも人手を割けないから相談してんだよ。……まぁさっきみたいな元裏のヤツ使うという手も有るが」
「それで良くない? 何か問題あるの」
「信用できるかイマイチ。あいつらがちゃんと始末付けれるか解らん。それに……一応、真っ当な仕事させたいからな。そっちが身に付く前にやらせるとまた裏落ちしかねないだろ」
「まぁ、それも有るか……良く考えてるね」
人殺しばかりやってるとやっぱり何処か倫理観が狂ってくるんだよね。プロの暗殺者とかならともかく大概の"殺し屋"って腕っぷしが強いからやるような連中だし。
一応、うちのギルドだと気を使うんだよ。
どんな理由があるにせよ人様の役に立つ真っ当な冒険者ギルドに所属してくれてんだから。
真っ当にしてやるという使命感が湧くよね。社会更生も兼ねるのがうちの冒険者ギルドです。
「どのみち人手不足の問題は解消できないからな。騙りみたいな連中も集まるから金で釣るのも考えものだよ。かといってなぁ、まともな奴は独立騒ぎで様子見だから来ないよな」
「元から辺境で禄でもない奴らしか居ないって噂が流れるくらいだもん、そりゃね」
まだ名前の売れてない、まともな腕の立つ冒険者ならここで仕事しようとは思わないもの。
金にはなるんだけど名前ってのが売りにくいの。
名声を得れば向こうから仕事が来るのが冒険者稼業の醍醐味よ。
けど、特にわたしが魔物の強敵を瞬殺しちゃうんだよ。これじゃ名前が売れない状況に拍車をかけるような物だものね。
それに他の冒険者も腕前はあるから目立ちにくいのよ。そいつらはやらかして逆に目立ちたくないヤツが大半なんだけど。
「禄でもない奴らなのは確かだが、腕前はあるからなぁ……もう名声とか面倒って奴らが多いからその辺りが若手と相性が悪いな」
「後進を育てようとしないのよね。そいつは今後考えた方が良いよギルマス」
「まぁそれは今後の課題だな。考えとくよ。まずは今の問題の対処。特に王国系貴族の跡地の領に騙りが多いのをどうするか、だ」
以前ならちょっとした魔物くらいなら貴族が私兵で対処してたけど居なくなったからその分冒険者に仕事が回って来てるの。
騙りの奴らが多いのは明らかにその状況狙ってるのよ。仕事するとか言って金騙しとったり、一泊二泊して消えたりとか……
挙句に泥棒したりと、普通に犯罪者。
冒険者ギルドに頼むより安いから村人も騙されるんだよ。一応ちゃんと仕事する奴も居るから余計にね。
「だが、冒険者ギルドを騙られるのは体面に関わるだろ……オレは出番だと思うんだが? 妖精騎士アイギスさんの」
「しょーがない、じゃあ探しだせ。今回は妖精どもを使ってやろう。わたしも忙しいからな」
いつもはわたしが直接引導を渡すんだけど、働き過ぎだから。任せれるものは任せるよ。
悪妖精とか問題起こしそうだから今まであまり使ってなかったけど……
もう、わたし直属の処刑執行部隊になってるから問題起こしてる奴らに使っても問題にはなるまい。
「いや、この際やらずに首輪付けて働かせればどうかと思うんだがな。人手不足もある。なんでも殺るのは考えものだぞ」
「別にいつも全員は殺ってないだろ……でも、う〜ん? まぁ、ギルマスがそう言うのだったら良いけど。役立つのそいつら?」
冒険者やれないようなのが騙りするのに。
犯罪者だろうが他所の土地だと関係ないから冒険者ギルドは登録は自由なんだよね。
ただ、腕前次第で、見習い、下積み、一般(仮免)とまず分けられて、信用できるか人柄みるシステムだけど。
「立たなきゃ死ぬだろ。危険そうな村に労働力兼護衛として放り込むから」
「道理だわ。まぁ、奴らの罪状次第かな。わたしも法の則も弁えなきゃならない身分になっちまったからな。……今回はそれで行くか」
「これで1件片付いたな……毎年の事だがまだまだ有るぞアイギス」
「だろうな……」
そう、毎年なの。
春先に来る冒険者って大体は冬が来る前までは居座るんだけど、この仕事初めの時期にさっそく問題起こして来るんだよね。そして余っ程の奴らは懲らしめる……
それがわたしの毎年の恒例行事なの。そうでもしないと冒険者たちの規律だとか秩序だとかが保てないんだよね。
そしてわたし妖精騎士さんとギルマスで、冒険者がやらかした揉め事を決裁していく。
これ、普通の冒険者ギルドだと地元の冒険者で古株なのと一緒に相談して解決したりするんだよ。
でも、ギルマスがどうせおまえの言う事に誰も文句言えないし手っ取り早いだろって二人で片付けてるの。
仕事すんのわたしなんだから文句有るのかって確かに言うね。はい、か、イエスでしかこの街の熟練の冒険者も答えないし。
つまり、わたしが気付いたらこの街の冒険者代表になってるのよ。
……最初はここのギルマス適当だなって思ってたけど良く考えたらわたしが冒険者仕切ってるのも同じだったよ。今頃気付いたわ。
「…………村の奴らと揉めたってのが有るんだが、こいつら前に拠点にしてた冒険者ギルドに問い合わせたらそれなりに品行方正でな。逆に探り入れたら村の連中の方が怪しい……ただ、ダスター子爵周りの貴族の領地だから困っていてな」
「事の発端なんだっけ? 聞き逃したよ」
「いや、まだ言ってない。……依頼自体は恒例の狂熊の討伐。但し出てきたのは大物、鹿角大熊」
「熊は熊でも別物じゃん。見間違える訳ないよね。その若手の冒険者ら良く生きて帰って来れたな……」
狂い熊は一般の冒険者が二、三人か熟練の冒険者なら一人でも倒せる獲物。だけど鹿角大熊は熟練のベテラン冒険者5、6人が居るよ。……金額にして20倍は違うね。
「……金貨200は必要な仕事だよ。……ギルドの手落ちじゃないだろうなギルマス。出稼ぎの冒険者突っ込ませてこのざまって」
「その可能性込みの仕事で元の報酬は金貨15。確認は取れてないってな。しかも前金で金貨5枚はギルドの持ち出し。嫌な予感がしたからな」
「だったら揉める理由は? 訳有りの可能性有りだろ」
たまに急ぎで、とかで依頼の内容に確認取れてないとか依頼元に信用があるか解らないって仕事も有るの。
ただ、金さえ積めばなんでもやるのが冒険者。
ギルドにしても急ぎだとか言われたら断れ無いからね。あとは危険さえ通知すれば受けるかどうかは冒険者次第よ。
今回も冒険者の仕事じゃ良くあることなんだから。それだけで村と揉めたなら冒険者の方が悪い。
「村の中まで引き連れて来たのがその冒険者だな」
「どっちもどっちで最悪の状況にするんじゃない……それ村人に犠牲出てるんじゃないの?」
「出てるから揉めてるな。向こうの領地の貴族から冒険者ギルドに慰謝料払えって言われてるが……」
「で、それをわたしに何とかしろって?」
「公正にご判断できるだろう? おまえさんが出てきたら相手も文句言えんだろうしな。しかも肝心の大物は未だに退治されずに森の中に居座ってる」
「ったく。悪くも無いのに詫びも迂闊に入れれないしね」
村への連れ込みは冒険者が悪いけど、そもそも騙してるなら村の方が悪いからね。一応は性善説で仕事してんだから。それに角鹿大熊は手出ししない限りは人里を襲って来るような魔物じゃない。
「ギルマス。何か裏が有りそうだけど?」
「だろうな。ただ、詫び入れの話になったら退治の報酬は連れ込みの詫びで支払っても良いが、村の損害は引き受けない。もしくはその逆で手打ちにするのが妥当くらいじゃないかと考えてる」
「本当に狂熊が居た場合でしょ。おそらく、その限りじゃないけどね。まぁ無いな」
「……無いと思うぜ。調べたら前もやってたらしいからな。本当にそうだったら討伐と損害も引き受けても良いな。面倒ごとだが頼むぞ、アイギス」
「まぁ、その為にギルドも手数料取ってるんだしな。仕方ない、引き受けましょ」
報酬から冒険者ギルドも1割差し引いてるけどこういう揉め事起こったりするからなんだよ。
他に村や街が危険になるから危険な魔物が出たら予め対処したりね。冒険者ギルドの取り分は運営費以外に何か起こったときの対処費用よ。
1割くらいの手数料じゃ足りないとかギルマスがボヤくくらい金要るらしいからね。
そして次いでとばかりに人里付近の山に現れたという巨大長蟲の討伐とか旨味も無い仕事もサクっと押し付けられるの。
「次いでにサクっと金貨300で頼む」
「サクっと殺れるけどそいつは前に400で受けたでしょ。しかも普通は600だよそいつ。村簡単に潰してくる獲物を値切るな。しかも素材とかがまったく売物にならないヤツを」
「そいつはギルドの持ち出しだから頼むぜ。村襲い出したら一瞬でその村壊滅するような大物なんだから。カスタフ子爵周りの貴族が金出す訳無いだろ。あっちのギルドから泣きつかれてるからな」
「実害が出た瞬間にその貴族の領地が無くなってるだろうしね……そっちの面倒も見なくちゃならないとか面倒だな」
以前の泣きつく先はヴェルスタム王国王都の冒険者ギルドだったのよ。でも独立しちゃったから、こっちに来るようになったの。
まったく冒険者冥利に尽きるよね、頼られちゃって。でもこれが冒険者のお仕事。
対魔物関連のスペシャリストよ。
妖精騎士アイギスさんの普段のお仕事なの。
じゃあ、平和を守りに行きますか。




