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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第1章 星幽界の彼方から求めて
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第二話 妖精騎士アイギスさんと闇妖精の暗黒騎士(5)



ギルドマスターが暗黒騎士にペラペラとカザス村と森での出来事を話し出す。てか、わたしのこと言うな。そこは伏せろよお前!


「つまり――村の子供を助ける為に止むなく殺ったという事か?」

「ああ、そう言うことになるな。こいつは正当防衛だ。どうもその樹木妖精トレントが子供を庇ったふしもあるが、気が狂っていたなら仕方ないだろ」


そして、目深に被った黒フード越しに暗黒騎士がわたしを見つめる。相変わらず感情が読みとれない視線――やる気か、このアイギスとやろうってか。全力で逃げるぞ。ただ、後ろ姿見せて逃げるのは危険だ。一戦交えてから、相手の隙出来た瞬間に音速マッハ超えで逃げきってやんよ。光の速さに到達するわたし以上に逃げ足早い奴いねぇぞ。



「――と、言う話しだが何か修正点はあるか妖精人エルフ? 当事者に聞きたいな」

「ない。確かに樹木妖精トレントの爺さん殺ったのわたし。知り合い殺されてご愁傷さま――で、わたしとやり合う?」


わたしは敢えて挑発する。けど、目の前の暗黒騎士は極めて冷静クールだ。正直いつ襲って来るか解らない怖さがある。感情の動きが全く読めない。


「いや、まず質問だ。お前は最低でも"長老真龍エルダートゥルードラゴン"に勝てるほど強いのか? 若しくはそれくらい強い奴を相手にした事はあるか?」

「やったことない相手なんて分かんないよ。まあ、それなりに自分は強いと思うけど竜退治はした事ない。それくらい強い魔物モンスターも……多分ないなぁ」


このわたしの正直な答えに黒フードの暗黒騎士は「ふむ…」と思案げ、だったが直ぐに答えを出した。


「なら、人違いだな。お前が殺った樹木妖精トレントは"長老エルダー"級だろう。……私の言ってる樹木妖精トレントは"太古エンシェント"級だ」



「……"太古エンシェント"?」

と言う、ギルマスの困惑した呟きに暗黒騎士は左手を細い腰に当て、右手を上げるジェスチャーをする。

ギルマス、理解力が遅くて馬鹿にされてっぞ。仕方ないので助け船だ。どうやら、わたしも助かったっぽいし。


「つまり、どれだけの"強さ"かってこと。冒険者の等級ランクと同じだよ。子供ベビー若年ヤング成年アダルト長老エルダー太古エンシェントって感じで。魔物モンスターとかの生物いきものだと、普通は加齢と共に強くなるからね」

「そいつは解るが樹木妖精トレント太古エンシェントなんて聞いたことがないぞ」

「そりゃ普通の生物は"太古エンシェント"とか言われるまで生きないもの。けど、真龍トゥルードラゴンと同じで植物系の妖精族も寿命がなかったんじゃないかなぁ」



真龍は寿命がないから生きた年数分強くなる。太古真龍エンシェントトゥルードラゴンは万年単位生きてるって聞くよ。ちなみにこの話はこの異世界での話。ゲームの世界だったらレベルを上げれば強くなって太古エンシェントになった。更にその先の神聖ディヴァインまである。まぁ神聖ディヴァインはこの世界では聞いたことないけど。



「なかなか博識な妖精人エルフだな。――そういう事だギルドマスター。まず、この娘が太古エンシェントを殺ったとは思えん」

「……つまり問題は解決したってことか?」

「これで問題が解決できたと思ってるならお前の頭の中見を疑うぞ。花畑でも耕しているのか。真龍と戦えるような樹木妖精トレントが殺された。……本当に問題は解決してるのか?」

「……! おい、そいつはまさか……」


わたしも言われて「あっ!」と思った。冒険者としてあるまじき迂闊さ。反省しろよギルドマスター。お前が真っ先に気付かなきゃいけないんだぞ。


「判るよな? この話しが本当だったら、真龍を倒せるような奴が殺されてる。さて、冒険者ギルドとしてはどうする気だ?」

「……待て、待て、待て。その話しが本当だと言う証拠はあるのか?」

「それを私が確かめに行く。話しはメルキール商会の"上役"に通してある。確認次第、護国卿に、と云う手筈だ……当然、冒険者ギルドの協力が得られるものだと考えているが……?」

「……協力しなかった場合は?」

「お前の立場が悪くなる」


……最後のギルマスの問いもどうかと思うけど、即答したこの暗黒騎士も酷い。そりゃそうだけどさぁ。ちなみにこの話はわたしも魔物モンスター関連でヤバい話しってのは判る。


冒険者ギルドって要は魔物討伐業を主軸にした半官半民の傭兵組織なんだよね。完全な民間組織じゃないから、村だとか街に魔物関連で危険が迫ったら対処しなきゃいけないらしいよ。



「さて、これで話は着いたと考えるが。早速、協力を頼みたい。そこの妖精人エルフの冒険者を借りたいのだが?」


これにはギルマス大変だねぇ、と他人事ひとごとだったわたしも吃驚びっくり


「え? なんでわたし? そんな大捕物する訳ないじゃん」

「……なるほど。冒険者としては当然だな。リスクヘッジを既に済ませていたか。だが、そこを曲げて頼みたいのだが――ギルドマスター、お前の出番だ」


話を振られたギルマスの顔が当惑だとか苦悩とか色々と付いて行けないって表情なってるぞ。生命の危機から次は失職危機だ、無理もなさそう。



「……アイギス頼む。場合に依ってはこの街の危機だ。この件はギルドとしては絶対に見過ごせない」

「いや、わたしが行く必要ないじゃん。てか、そんな化け物出てきても倒せる訳ないでしょ」

「別に倒せって言ってる訳じゃ――ないよな?」

「――ああ、その通りだ。私の手に追えなければ逃げの一手だ。状況次第ではサポートに回って貰いたいが、そもそも戦闘になるかもわからん。基本は調査が仕事だ」

「――だ、そうだ。別に勇者気取って化け物退治って話じゃない。」

「話じゃなくても人と組みたくない。わたしが一人ソロ専だって知ってるでしょ」


わたし、アイギスがぼっちの理由の一つ。

他の冒険者とパーティーを組まないこと。

別にコミュ症って訳じゃないよ。違うぞ。この世界では無双できるような強さなので他の冒険者と組むと足引っ張られちゃうからさ。パーティー組むメリットが殆どないんだよね。



「そう我がまま言わずに頼むぜ。こいつは俺の人生最大のピンチかも知れねぇんだ。冒険者ギルドのマスターとして最大限の借り、ってことにする」

「…………」


ギルマスに借り作れるのは魅力的だけど、組むのが……黒フード被った暗黒騎士とかヤバそうな奴。しかも、腕前はおそらく超一流。ただ、"殺し"に関しては必要性があれば、躊躇しないってタイプ……必要とあらば味方も殺るぞ、こいつ。組めるか! こんな危ない奴と!



「絶対に嫌。この人とは組めない。大体、暗黒騎士と組めっておかしくない? 断られても当然でしょ」

「絶対に駄目か?」

「わたしは妖精騎士。人の道踏み外してる外道とは組まない。ここで殺し合いしないだけマシって思ってよね」


と、わたしは暗黒騎士を睨む。勿論もちろん、自分の事は全力で棚に上げる。わたしも大概やらかしてるけど、おそらくコイツも絶対やってるじゃん。同族嫌悪じゃないけど、絶対危険だって。

――実は暗黒騎士に憧れない訳じゃないけど。

静まれ、わたしの男の子部分。わたしの暗黒面ダークサイドが疼く。けど、コイツは危険過ぎる。こいつの弟子にはならないぞ。



「なかなかに嫌われた物だ。だが、そこまで言われては仕方あるまい。私の不徳の致す所だ。――では、他の面で協力を頼みたいが、ギルドマスター」

「……なんだ、言ってくれ。他の冒険者なら都合つけれん事もないが……」

「いや、雑魚はいらん。足手まといだ」

即答される、うちの冒険者ザコども。聞き耳立ててる癖に怒る奴いないしな。根性見せろよ。


「それよりも気になる話がある。カザスの村が襲われたと言っていたな。生き残りは子供らしいが一番上の奴の歳は? 娘とは聞いたが」

「確か14だ。それがどうかしたのか」

「なら、多少は役に立つか。気になる事があるので連れて行きたい。手配してもらおうか」


驚いてわたしは目をみはった。

「何言ってんだお前! シルフィちゃんになんの関係があるってんだ」

樹木妖精トレントが殺された事と因果関係がないとは言い切れん。賊が村襲った時期と同じくするしな。賊どもに生き残りがいない以上、数少ない生存者――現地の人間だ。土着の人間しか知り得ない話を知ってるかも知れん。ここで話を聞くだけでは不十分。現地で聞きたいことが出てくる可能性もあるしな」


「化け物出てくるかも知れないってのに女の子連れてくのか。大体14の子供に何が判るっての!」

「それは私が判断する……お前に文句を言われる筋合いはない。手を引いた筈だな?」

「ギルドマスター。こいつ絶対、頭おかしいよ。大体、領民を勝手に連れてける訳ないだろ」

「なら、ギルドマスター。伯爵に話を通せ。メルキール商会に口添えするよう頼んでおく」


わたしと暗黒騎士、両方に詰められたギルマスの表情はぎこちなく硬直してなんとも言えない感じ、だ。


「男、見せろよ。ギルマス! こんな奴にシルフィちゃん預けられる訳ないだろ!」

「落ち着けアイギス……。良いか、メルキール商会はデカい。伯爵でも話通されたら無碍むげにはできないんだよ。しかも、事が事だ。場合に依っては領民の生命に関わる。ガキじゃないんだから判るだろ」

「判るか! 解ってたまるか!見損なったぞギルマス。生命賭けろ漢気見せろよ!」

「無茶言うな……。大体、俺の生命賭けてもなぁ」

と、ギルマスが暗黒騎士を見やる。

「まぁ、私の判断に変わりはないな。ギルドが役に立たんと言うなら、メルキール商会に直接話を持っていくだけだ」


くっ、ギルドマスターが役に立たな過ぎる。てか、権力者と繋がってる奴ずるい。この暗黒騎士、やり手過ぎる。暗黒騎士の癖にコミュ強か!


「解った。解ったよ。わたしが行けば良いんだろ。それでシルフィちゃん連れて行くことない……」

「それとこれとは話が別だ。協力してくれることには感謝するが、その娘は連れて行く」

「ぇ、わたしを引き出す為にシルフィちゃんを連れて行こうとしてたんじゃ……」


「いや、どのみちその娘は連れて行く。先ほど理由を説明しただろう? お前を引き出す為の欺瞞フェイクじゃないぞ。そもそも、どうしてその娘を釣ればお前を引き出せると私が判断できるんだ?」


当てが外れた! この暗黒騎士ならやりかねないと思ったけど。そりゃそうか、他人から見たらわたしとシルフィちゃんとの関係、赤の他人だ。


「それでどうするんだ? 組むのか組まないのか」

「行くよ! 行ってやんよ! どうせシルフィちゃんは絶対連れて行くんだろ」

「ああ。今、その理由も一つ加わったな」

と、白々しくいう暗黒騎士。


やっぱり何でも利用して来るタイプだ。このままで済むと思うなよ。わたしをはめた落とし前取らせてやんよ。舐めるなよ暗黒騎士。



「一応、言っておくけどシルフィちゃんの安全が最優先だからな。そこ、勘違いするなよ」

「それは構わんが仕事はやれ。報酬も支払う。メルキール商会がな。では、話は決まったな。出発は明日の朝だ。必要物資はメルキール商会に言えば……」

「その前に、パーティー組むんだから、顔ぐらい見ておきたいんだけど」


そのつら、覚えてやんよ。黒フード脱いで見ろよ。途中で気づいたけど隠蔽魔法で更に顔、隠してることはお見通しだぞ。おらっ、他の冒険者がいる面前でよぉ。拝めるつらか確かめてやる。


けど、予想に反して暗黒騎士は自然な動作で黒フードを取った。中から出てきたのは見惚れるような美人……

歳の頃は16、7。見た目は若いが眼光が鋭い。何よりモデルとして雜誌の表紙飾れるくらい容姿が整ってる。褐色肌に黒髪の闇妖精ダークエルフ……


「これで満足か? では明日の明朝、このギルドに来る。娘も連れて来いよ」


そして、用が済んだとばかりそのまま冒険者ギルドの玄関口に向かう……が、振り返った。

「ああ、言い忘れていた。今日の話しが余所に漏れれば当然、口封じはするから覚えておけ。特にそこの聞き耳立ててた冒険者ども」


と、捨て台詞ゼリフを吐いて去っていった。


暗黒騎士の闇妖精ダークエルフが玄関出るまで、わたし含め、ギルドに居た連中は全員が呆気に取られていた。いや、それ程美人さんだったんだってば。


このアイギス、戦いの中で戦いを忘れた。

完全に負けた。美人とはいえ目移りするとか……

しかも、相手は女の人……なんとも居たたまれない気持ちになる。


もしかして、わたし……


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