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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第二十話 妖精騎士アイギスさんのシル・ヴェスター独立と大慌ての建国準備(4)



色々協議して結局、貴族たちとシルヴェスターの独立についての会議を開くことになった。


伯爵家の居城で開かれたその会議のメンバーは少数に絞った。代表五人でな。その内の貴族三名に派閥を纏めさせたの。



なにせこのシルヴェスターの人口って全部で三十万くらいなんだけど、貴族の家は300とか有るらしいのよ。殆どは村一つとか、多くても三つとかが所領の男爵とからしいんだけどね。


とても全員で会議できないから代表選ばせたのよ。


なにせヴェルスタム王国に併合されてから200家ぐらい貴族が増えたらしい。その増えた王国系貴族をほぼ全部まとめて身柄拘束中。王都とか他所の土地にいる奴らは除いてだけど。


そして挨拶もそこそこにして、会議を始める。

まず、議題を一同に説明する。議題はもちろん捕縛した王国系貴族をどうするか、だよ。



最初に口火を切ったのは伯爵の息子ダスター子爵だった。


「……アイギス殿下。仮に王国系の貴族をすべて追放すれば領地の経営が立ち行かなる可能性が大きいです」

「領民には任せられないの?」


「王国系貴族の領地……荘園しょうえんでは経営そのものを貴族に握られてしまってますから難しいでしょう。何よりシルヴェスターは農業は盛んではなく、畜産や林業、商品作物の栽培が主な産業ですから」

「それは知ってるけど実際に働いてるのは領民だよね? 経営できる人とか居ないの?」


「領民の殆どが読み書き計算もできぬ者が大半で村の統治もせねばならぬので……領民だけではまず経営までは現状は任せられないかと」

「成る程……」


これじゃ、働くことはできても根本的な問題で"経営"ができないよね。帳簿をつけれずどんぶり勘定になる。


……抜け目のない商人相手にふんだくられる未来しか見えん。そうでなくても詐欺師にやられそう。このシルヴェスターは辺境、やらかした悪党どもの避難地ヘイブンだからな。



「……他の貴族の家督継げない次男とかに所領分けしてくれって言い出してるのはそれが理由か」

「…………そう言い出すやからが多いので抑え込むのに苦労いたします。何より次男三男に任せた所で経営できるか危ういでしょうから」

「みんな借金で首が回らないって言ってたな……」


と、わたしは会議に財政アドバイザーとして出席したバルガスのおっちゃんの様子を伺う。

皺の多い御老体が満面の笑みを浮かべてた。

どれだけの税金が金融ギルドの金貸しに借金の利子という形で吸い上げられて来たことか。


「まぁ、所領分けするなら儂らはまた儲けさせて貰えそうだわな。なかなか難しいもんだぜ領地経営というのも」

「まだ独立の準備だってのに借金の棒引きと徳政令の嘆願が山程来たわ。どれだけ荒稼ぎしてたのよ、おっちゃん」


「アイギス殿下……それを上手く差配するのが腕の見せ所だぜぇ。末永くのお付き合い、それがうちらの商売でな」

「生かさず殺さずの間違いだろ」


もちろん利子を取り過ぎては借りてが死ぬ。それを上手く面倒見ながら利益を貪ってたのよ。

この地の権力社会の頂点に立つ存在……

それが金融ギルドなの。このバルガスのおっちゃんこそが、旧シルヴェスター王国領の影の支配者だ。


こんな辺境に王都で成功した金貸しのレジェンドがなんで居るの、って思ってたら金になるからなんだよ。何が隠居のようなものよ、思いっ切り現役じゃん。


「解ったよダスター子爵。任せた所でまず上手くいかないんだね。他の人の意見は?」


他に子爵が二人。その内の一人ベルメント子爵が頷きながら意見した。旧シルヴェスター王国の名家、重鎮だよ。


「ダスター子爵の意見に相違は有りますまい。旧来のシルヴェスター貴族は王国式の領地経営には不慣れ、所領を与えた所で食い潰すのが落ちですな」

「あら、辛辣」

「そも、独立農村が多かった土地を王国でも過去に成りつつある荘園制にするのが間違いだったのだ。おかげでこのざまだ。まったく嘆かわしい」


荘園ってのは貴族が土地の権利を持ってて、そこで領民を雇用して直接働かせるやり方だよ。

地元民を働かせれば安上がりってね。王国系貴族の荘園で働く人は単純労働者だから貧しい人多いの。

土地貸すだけの小作人ならまだしも全部貴族のものだから村人が豊かにならないんだよね。給料上がらないし。



「で、もう一人……ガスタフ子爵の意見を聞こう。おまえがわたしに何か言えるならな」


前ガスタフ子爵は伯爵家の家督争いでわたしが知らずに成敗した相手だよ。跡を継いだのはその親戚の人だけど。

わたしが起こした騒ぎで、ガスタフ子爵家は国から眼を付けられて暗黒神殿とは手を切ったようだけど。……当然、わたしの覚えはめでたくないな。


「滅相も有りません。ただ、わたくしは独立するこの国の未来を思えばこそ」

「この嘆願書の山、おまえんとこの懇意の貴族が大半なんだけどよぉ。良くも言えるよな。で、所領を分けろとか勝手に騒いでると聞いたが?」

「領地の経営をお任せ頂ければ、ヴィリア姫殿下へのご忠義をみな果たせるものかと……」


「その為に王国系の貴族やらに任せるんだろ? 縁戚多いらしいからな、おまえんとこ」

「ですがダスター子爵がおおせの通り、荘園の経営には王国貴族の協力が不可欠。領民どもに任せても立ち行きますまい。路頭に迷うのは荘園で働く民で有るのは自明でしょうな」


「自明じゃないよ、その点はどうとでもなる。何も王国貴族やらに任せなくても、妖精に任せるという手も有るからな。読み書き計算くらいはできるぞ。植物系の妖精族ならそれこそ植物に関しては人間以上にプロフェッショナルだ。領民よりも作物や林業に力を発揮できる……文句有るか?」

「……!」


このわたしの発言が予想外だったのか口が回りそうなガスタフ子爵が一瞬唖然とした表情を見せた。


どうせ王国系貴族の所領の没収やらを仕切って他の貴族の信任やらを得ようと思ってたんだろ。抜け目なさそうだからな。


だが、残念。

砂漠に住む動くサボテン、緑棘妖精カクタスマンとか水取引やってたんだよ。あいつらなら経営して商人相手でも十分交渉できる。何せ"水 "を生産してからな。

他に聖樹派のエルフの人とかも人間相手に取引してるから応援に派遣してもらう準備してんだよ。


後はセレスティナさんの伝手で混血妖精ハーフエルフの人とか居るの。人間社会では成功してたりするけど微妙な立場の人が多いから子息が官僚とかに成りたいって人多いらしい。



「わたしが神祖の妖精王の次代。妖精の代表だという事を忘れてないか? 各地の妖精の協力を得れば経営など容易いぞ? 何なら妖精そのものの存在すら創造クリエイトできる」


そして、会議の席上テーブルに小さな球根妖精マンドラゴラを一匹、権能スキルで作成する。魔力の粒子が集まり動く球根が現れた。土地の地味を豊かにしてくれる妖精だ。


「やろうと思えば領民を妖精に入れ替える事すら不可能ではないぞ?」

「し、しかし、それでは領民はどうなさるのです。それに家畜の世話などはいくら妖精と言えど……この土地ならではの作物も有るので簡単に上手くいくとはとても思えませぬが……」


「聖魔帝国では農業機械を使った栽培法もある。あの国なら家畜に関しても殆どノウハウがあるんだと。使われてた領民もそのまま雇用すれば問題ない。何も既存のやり方に拘らなくても良いよね。もう、大概の経営の事には目処は立ってるぞ……」


農業用のトラクターとか普通にあるもの。それに同じ北国だから、大体似たような家畜扱ってるらしい。ちなみに放牧業は荘園制とは相性悪いから問題にならない。

林業はもり妖精の十八番だし、商品作物もこれならザランバルが杜妖精で育てるのは余裕とか言ってたもの。



「……それでも個々の村にあった経営というものが有りましょう。領民どもも勤勉と言う訳では有りません。商人との交渉などはそう単純なものでもないのですぞ。私にはとても上手くいくとも思えませんな」

「お前らのやり方が既に上手く行ってないだろ。王国でも時代遅れの荘園制で借金重ねて税をどれだけ金融ギルドに持って行かれてるの? 所領分けしても良いけど王国貴族の借金お前ら肩代わりできるんだろうな?」


「そ、そんな後生な。我々は何も遊んでいた訳ではないのです。ベイグラム帝国との戦争での臨時税やや出兵、不作や災害で借財を重ねるしかなかったのです。この点は旧来のシルヴェスター貴族でも同様でしょう」


「所が同様じゃないんだよ。バルガスのおっちゃんから言わせればお前ら良いカモらしいからな。生産性が上がらないから収入に開きが出てんの。この資料見てみろ一目瞭然だろ」


会議室のテーブルに、まとめた資料をガスタフ子爵の前にわたしは放り投げる。金融ギルドから提供された情報だよ。


そこには明らかに徐々にではあるが借金を返済できてる旧来の貴族と、積み重ねるだけの王国系貴族の様子がデータとして見て取れるの。


この大陸は文明レベルは一見中世だけど古代魔法文明時代を経験してるから統計学とか高度な学問の知識は残って活用されてるの。

その知識を活用して金融ギルドは儲けてたの。想像以上に侮れないぞ金融ギルドの人たち。


はっきりと数字で示された資料に目を通して何も言えなくなるガスタフ子爵。グラフ付きでわたしでも解りやすい資料だよ。


「…………」

「やってる事が収奪経済の植民地経営そのものだもの。そりゃ独立しようって事にもなるよね。それが理由でわたしに売り込まれたようなものなのに同じてつを踏めると思ってんの?」

「で、ですが今さら元の体制に戻そうにも人材が居らぬでしょう。既に荘園制で運営され直ぐに変える訳にも……」


「聖魔帝国の農業ギルドから専門家を派遣してもらう手筈を整えたよ。あっちは大規模農園や培養肉工場で大量生産が主流だから、昔ながらの農業や畜産業経営の人材に余裕が有るんだと。しかも元シルヴェスター人も居るらしい。奴隷落ちした元自作農って人がな」


別大陸なのに海まで渡って奴隷として輸出されたらしいよ。王国は半世紀も前から奴隷制がないのにおかしな話だよね。

聖魔帝国が奴隷買いまくって解放して自国民化させる問題有りありの解放奴隷政策してるから探したら居たんだと。


最初から農業機械とか売り付ける気で探したらしいよ。聖魔帝国、やる事が何でも早すぎるな、そして卒がない。セットで売り込む気だもの完璧な仕事してくるよね。ちなみに売られた奴隷に関してはそのまま探して貰ってるよ。



「しかし、それでは聖魔帝国に領地の経営を握られてしまうのでは」

「握るのは独立した伯爵家だ。どのみち荘園を解体する為に農業ギルドを設立するから丁度良いんじゃない? ノウハウを得れば民間に委託しても問題ない気がするな。失った自作農を育てるんだよ」


王国系の貴族くらいしか経営ノウハウがないと思ってたのが間違いだ。一人二人居ても全部は無理とたかを括ってたな。

まさか、そのノウハウ教えるやつが居るとは思わなかったんだろう。わたしもだよ。こっちの常識だと秘匿するんだよね、ライバルが増えるから。



「ですが、王国貴族を追放して所領の配分もなければ他の貴族らが不満を持ちましょう。……お恥ずかしながら私めも縁故を頼られる始末。不貞な考えを持つ輩も出かねませぬが……いえ、私は違いますとも」


途中でわたしがジト目になったので慌てて取り繕うガスタフ子爵。ここまで言ってもおまえはよぉ。


どういった人物かは聞いてるけど……

口先一つで王国の追及を躱して子爵家の命脈を保たせたらしいからやり手ではあるらしい。実質乗っ取ったそうだからね子爵家を。


「不満に関してはそれを何とかするのがおまえの仕事。最悪はその連中の首を刎ねる……叛乱起こされた程度でわたしが何とかなると思ってないよな?」

「では……王国系の貴族も?」


「それが本題だよ。王国と交渉してる聖魔帝国からは材料にはならんと突っ返されたの。首を刎ねるのは不味いし、良い手立てを考えて貰いたいな? 領地経営はどうとでもなるから必ずしも要らんぞ」


「恐れながら殿下。腹案がお有りならお示しめし頂きたく……。なにぶんお考えが解らぬ事には議論を尽くしても関の山。金融ギルド長を同席なされてるのなら妙案があるかと思われますが……」

「良い所に気が付いたな。話してやろう……」


と、わたしは鷹揚な態度で応じてからアスタロッテ案を、さもわたしの提案のように語ったの。今まで話してたのもアスタロッテの提案だよ。

本人が話せば良いのにって思ったけど、わたしが話さないと示しがつかないって言われたら仕方ない。



そして、その提案の内容は……

荘園制を維持するしか能のない王国系貴族には土地権利を借金と相殺させ、シルヴェスターでの貴族身分の剥奪、のちに追放処分とする。

と、厳しいものだった。


聞けば独立農民から土地を二束三文で奪い取った連中が大半じゃない。しかもその乗っ取りに金融ギルドや盗賊ギルドが手を貸してるのよ。

過去の罪状洗えばお家断絶でも文句ないだろ。

領民の誰一人文句つけずに喜ぶわ。


中には麻薬栽培や禁制品の魔草栽培までやってる奴居るんだよ。ここまで酷い連中は一部だけど三十家くらい関わってる。

コイツらは迂闊に王国に追放できないんだよね。

王国側でも悪事を明らかにされると困るって言うしさぁ。取引どころか両国の厄介事になってんだよ。


……一応はまともな取り引きや土地開拓で開いた荘園も有るのでその点は考慮する。荘園制ではなく小作農に任せてた貴族も居るから。この辺りは個別に要検討、相談。



「接収した荘園はそのまま直轄領に編入。貴族家次第では残留も考慮するが、独立したシルヴェスターへの叛意を持てばすべからく処刑する。……当然風当たりは厳しくなるから残る奴あまり居ないと思うけど? おまえの所もだぞガスタフ子爵」


「ご、ご無体な。まさか叛意を抱くなどとは……」

「王国系貴族の真似して荘園制を導入した奴らばかりと聞くが? それに不満を持ってるという時点で絞首台に踏み込んでるのと一緒だよ。わたしの直属の妖精だったら即座に消滅させてるわ。……何とかできるな? 問題が有るなら言ってみろ、ガスタフ子爵」


やたら子爵に風当たり強く吹かせてるけど、こいつの周りが一番騒いでるもの。ヴィリア姫やダスター子爵の手を焼かせてる連中だよ。


ちなみにベルメント子爵の一派は旧王国をヴェルスタム王国に売り渡した手前、あまり強く出られないらしい。王家の悪政が祟ってのことだけど、ここまでシルヴェスターが食い潰される状況を苦々しく思ってたそうだから。


気むずかしいそうな人だけど昔ながらの独立農村を増やす計画持っていったら真っ先に賛成してくれたわ。


「…………」

そして思ったよりも不興を買い立場が悪いことを悟ったのかガスタフ子爵は言い淀んでいた。



「……だが、わたしは一応はおまえに期待している。煩わしい奴らを整理して始末する為にもな。望みがあるなら言ってみろ。立場もあるだろう……」

「で、ではせめて借財の軽減を。縁故縁者の貴族を抑えようにもこればかりは果たせぬと抑えが効きませぬ。両子爵もこの点については同意見でございましょう」


「良いだろう。そのくらいなら独立記念としておこぼれをやろう。バルガスのおっちゃんと話し合え。どのみち王国への租税は無くなるんだ、多少は余裕ができるだろう」

「はっ。このガスタフ子爵家デルスモンド。誠心誠意、ヴィリア姫殿下とアイギス殿下に忠誠を誓いお仕えいたします」


どうやら場の雰囲気を読んだらしい。会議などと言ってるが実質、おまえへの詰問の場だとな。


子爵二人は既に取り込んでて残るはおまえだけだったの。もうこれ以上バカなこと言うなら投獄する用意はしてたんだよ。戦いははじまる前に決まってる。根回し済みなんだよ、お前んとこ以外。


「では、これにて会議は終了だ。首の皮をギリギリで繋げたなガスタフ子爵」


席を立ち、そう告げわたしは立ち去るの。


ただ直轄領は税金無税政策を実施するから貴族家の領地経営も相当苦しくなるだろうけど。


農奴制とかじゃないから人を土地に縛りつけることができないの。税を取り過ぎたり、生活が苦しくなると不満を持たれたり反乱されたり、そうでなくとも逃げだされたりするだろうからね。

今後は経営力が問われるよ。



もちろん、ヴィリア姫とわたしは人民の味方。やらかすたびに貴族家を取潰して独裁目指すの、人気取りにもなる。


お前らを敢えて生かしてる理由に気付いた時が、引き返せる時だと良いな貴族ども。

わたしの貴族嫌いは魂に刻まれてるくらいだよ。

せいぜい足掻くが良い。



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