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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第十九話 妖精騎士アイギスさんの家の恋愛模様と白雪妖精のお姫様(5)







羊毛によって姿が真ん丸になった雪羊。

その背には3歳児くらいの幼女の姿があった。


「良い。何と極上のモフモフであろうか」


ここは戦艦グングニールの貨物室の内部。雪羊たちが群れで寛ぐことができる大部屋である。


我らがあらじ、天使王はご満悦である。


そして十分に羊毛を堪能なされた天使王は上半身を起き上がらせ辺りを見回す。


「これは良いモフモフ……このアリーシャちゃんに時を忘れさせるとは……」

「アリーシャちゃん。羊さんに乗ったら嫌がられるよ」


答えたのは我らが主と背丈が変わらぬ男児、アルなる者である。この苦言にも我が主は笑みを浮かべ応えた。


「ふむ、問題ない。羊さんに乗せてくれるよう頼めば良い」

「ええ〜。羊さんしゃべらないよ」

「フフフ。このアリーシャちゃんならフィーリングでお話しできるのだ。……乗ってみたい?」

「……うん」


そして天使王は幼子の為、羊の背から降りると今度は雪羊を屈ませ幼子を羊の背に乗せる。

喜ぶアルなる男児。


「わぁ、ふわふわぁ」

「ひゃあ、モフモフ」


一見、幼子達の戯れであろう。だが、それを見つめる二人の視線が。


我はあるじ、天使王に常に付き従い斜め中空の位置に浮かぶ者。智天使の長ザフィキエルである。われが肉体のすべて――視線を傾けるとアイリなる少女とシャルなる男児が居た。


「アイリちゃん羊さんのお世話は終わったの?」

「うん。みんなにご飯あげたよ」

「ふむ、素晴らしい。羊さん達が喜んでいるのを感じる」

「みんな最初は不安だったけど慣れて来たみたい」

「うむ。羊さんたちもみんなリラックスしてる……」


羊達はみな思い思い十分に寛いで居た。

元いた環境からの変化に関わらず、ストレスを感じて居ないのは信頼感の表れであろう。羊たちの精神から我は親愛の情さえ感知できる。



「……所でアイリちゃん、シャルちゃん。これから何か用事があるだろうか?」

「ううん。でも、お母さん帰って来るからおうちに帰らなきゃ」

「私もアイリさまの事をアイギスさまから頼まれてますので」


「う〜ん。でもアル君はもう少し羊さん達と遊びたいと思う。……――ひゃあ、アル君、もうおうち帰る?」

「ん〜まだ遊んじゃダメ?」

「問題ない、しっかりモフるが良い。――アル君が羊さんと遊び終わるまで、このアリーシャちゃんとお付き合いしない?」


二人して顔を見合わせるアイリとシャルなる者達。

幼子の面倒も見て欲しいと言われてるのは十分に予想できる。我はその事をあるじの心に伝えた。


「――」

「なるほど。……ハーケルマインよ。貨物室に来るが良い。アル君の面倒を見るのだ」

この艦の司令官たる魔神将を呼び出すあるじ。

我らを別室からモニターしていたであろう、魔神将ハーケルマインが貨物室に姿を現す。


「はっ。このハーケルマインお呼びとあらば」

「アル君にはハーケルマインをつけよう。じゃあアイリちゃん、シャルちゃんこっち来るのだ」


二人に有無を言わせず、我らが天使王は背を見せ貨物室の自動ドアを開いた。ついて来る二人。

案内したのは魔神将が居たモニタールームであった。



「フフフ。ここでは色んな映像が見れる。例えば……街の様子」

「あ、お母さん!」


大画面モニターに映し出されたのは神祖の妖精王アイギスなる者。密かにヴェスタの街上空に忍ばせた監視用妖魔ゴルゴーンアイからの中継映像である。


「まだ、お家に帰って来るには、もう少し時間が掛かるようだ。……アイギスちゃん、デート中なのに武具屋さんに寄り道してる」

「お母さんがこっち見てる」

「さすが、アイギスちゃん直ぐに気付く」


モニター画面に鋭い視線を見せる神祖の妖精王、神のいただきに立つ者の眼光によりモニター画面に揺れが生じる。妖魔がその敵意に動揺し中継映像を歪ませているのだ。


「ふむ……ザフィキエルよ。〈伝言メッセージ〉の魔法でアイリちゃんと様子を見てると伝えるが良い。……代わりにザフィの映像記録をモニターへ」


我はあるじの御意に従い、神祖の妖精王がパン屋に赴いた際の映像を補正してモニターに送る。

神の領域にある者は因果律を歪ませる。

我の〈過去視〉の権能スキルだけでは見通せないがゆえ、状況を再現した限りなく過去の状況に近い再現映像を再構成した。



「……ふむ。ヴィリアちゃんとアスタロッテで仲良くやってるようだ」

「お母さん、愛しあってるの?」

「ん〜。これはお付き合いの段階、先ずはお互いを知るためにお喋りしてるのだ。まだ、愛し合う段階ではない」

「……そうなの。アイリ良く解らない。どうすれば愛し合うの?」

「フフフ。仲良くなれば自然に。でもずは恋をするのだ。すべてはそれから始まる」



我が主は神祖の妖精王の娘たるアイリに話しかけながら、シャルなる者の様子を観察してられる。

シャルはその少女のような表情を潤ませるようにモニターの画面を見ていた。自らの主たるアイギスへと送る視線にはただならぬ物を、我もその様子から感知している。


我は現状からもはや確定であろうと断定し天使王へと結論を述べる。


つまり……あの者は恋をしている、と。


娘のアイリに恋してる可能性もゼロではなかった。

人の感情は移ろい易いもの。あるじに向ける感情が娘の方に向かった可能性は否定できぬ。

だが、今日の観察でないであろうと我は結論付けた。


雪羊の世話をしてる際、シャルは時折アイリへの感情の籠もった視線を投げ掛けていた。

アイギスへの面影を見たのであろう。恋心を抱く精神の波動が、識別を困難にしていたが、この状況下では一目瞭然。



「恋? 恋……アイリ解らない。恋ってなに?」

「恋は、人を愛し愛されたいと思う心なのだ。恋をしてから愛に変わる、それが恋愛」

「じゃあ、アイリはお母さんに恋してるの?」


「もう、アイリちゃんとアイギスちゃんは愛しあっている。恋は成し遂げると愛に変わるのだ」

「じゃあ、アイリはもうお母さんと相思相愛?」

「うんうん。その通り、既に愛があるのだ」


満面の笑みで答える我らが天使王。

数多あまたある愛の因果など些事に過ぎぬ。

我らが至尊の天使王には然程の違いなど無い。

微々たる差であろう。愛する行為の尊さに比べれば。


だが、異論を持った者が居た、シャルなる者である。


「あ、あの。親娘おやこの愛と恋愛は違うのでは……」

「ふむ? でもバーギアンとアイギスちゃんは親娘。可能性はあるのだ。恋愛に発展するという可能性は……神々なら結構ふつうにある」

「ぁ……そうでした」


我らが天使王は真理の一端を示し成された。

人の身では禁忌であろうと神の御業ではそれが常識である。神の領域とはもはや人の尺度では推し量れぬ領域で有るがゆえ。

親娘愛に至る可能性は捨てきれないのだ。

天使王はそれをご考慮成されている。そも、精神体が物質化した存在に性別の意味はあろうか?


「アイリちゃんも神々の一柱。アイギスちゃんに恋愛感情を抱く可能性はあるのだ」

「……でもシャルさんの言う通り何か違う気がする……」

「フフフ。アイリちゃん、それは恋に恋すれば解る時が来る。その違いを知るのが大人になるということ。……焦らずとも良い……シャルさんも」

「い、いえ。私は恋など」

「この愛の申し子アリーシャちゃんには解る……シャルちゃんは恋をしていると……」

「シャルさんは誰に恋してるの?」

「アイギスちゃん」

「!?」


我が天使王のお言葉に動揺を隠せないシャルなる者。羞恥に頬を赤らめている。精神の動揺と体温の上昇を我は感知。


「わ、私はち、違いますアイギスさまに、そんな」

「このアリーシャちゃんには解る。隠さなくても良いのだ……ふむ、ザフィキエルよ。モニターにフラグ場面を」



我は天使王の命に応じ次々に恋する切っ掛けとなったであろう場面を再現する。


お風呂場一緒に入るイベントから始まり……

アーパ・アーバおうの意志を汲み、神祖の妖精王として表舞台に立つ事を決意する場面。

妖精たちの為に東西南北奔走し、更に合間、合間にピンポイントで建てられる"フラグ"の数々を。


「このアイギスちゃんが女の子らしい笑顔浮かべて無邪気に抱き着くイベントや、戦闘中の格好良い場面。たまにお姉さんぶるアイギスちゃん。ん〜この戦士のような鋭い目付きのアイギスちゃんもフラグ?」

「あ、ああ、や、やめて下さい」


大画面に映し出される数々の名場面がシャルなる者の心を押し寄せる波濤のように波打たせる。我のセレクションは完璧であった。


「ふむ。如何いかんなく美少女っぷりを発揮しているようだ……対男の子キラーよ。さすがアイギスちゃん」

「お母さん格好良いよ」

「たまにお肌の触れ合い接触をイタズラみたいにやってる……小悪魔感ある」

「ち、違います。違うんです。私がまだ未熟者でこころを惑わされてるだけなのです。アイギスさまに悪気は、あ、ありません……」


「見ての通り、もうシャルちゃんはアイギスちゃんに虜、これが恋なのだアイリちゃん」

「シャルさんはお母さんを好きなの?」

「う、う、私は……」


思春期特有の気恥ずかしさであろう。フードを慌てて被り直し顔を隠すシャルなる者。己の恋心を指摘され感情を処理できない様子。


「良い。恋してることを自覚するのだ。……シャルちゃん。その恋はまやかしでも錯覚でも気の迷いでもない。アイギスちゃんに思いを伝えるときっと良い感じになる」

「……そんな。できません。わたしは……」

「……でもシャルさん男の子だよ?」


「問題ない。シャルさんならおそらくいける。このアリーシャちゃんが保障しよう。男の子でも大丈夫」

「そうなんだ。男の子でも大丈夫なんだ」

「アイリちゃんは男の子はどう?」


「……解んない。タブタブのおじさんは好きだったけど違うと思うの」

「……うんうん。それは恋愛の好きではない、正解。……シャルさんもしっかり自分の心と向き合うのだ……このアリーシャちゃんならいつでも相談に乗ろう」


笑顔でシャルに語らう天使王。

対照的にシャルなる者は顔を俯かせて困惑中である。自覚はあったが我らが主に問われ、己の心と向き合い葛藤に身悶えている。


「わ、私はそんな。アイギスさまに、愛されたいだなんて……」

「お母さんにアイリから言ってあげる?」

「あ、待って、待って下さい! それは」

「アイリちゃん。シャルちゃんには時間が必要なのだ。アイギスちゃんもヴィリアちゃんに手一杯の筈、もう少し待ってあげよう」

「うん。解った……でも」


我らが天使王はアイリの表情の曇りに気付く。

何か問題でも? 特に気にするでもなく下問するのが我らがあるじ。


「何か問題があるだろうか? アイリちゃん」

「アイリは、アイリはどうすれば良いのかな。アイリもシャルさんを愛さないといけない?」

「……アイリちゃんにも時が必要か。取り敢えずはシャルちゃんを見てると恋が解るはず。愛は……ザフィよ。アイギスちゃんの自宅を」



我は智天使の長ザフィキエルである。人の愛を知る者。愛を語らうものたちをモニターに映しだすことなど造作もない。


丁度リアルタイムで肉体的な接触もしている。我は大型モニターに遠隔視した映像を送る。

その画面では、金髪のエルフの娘セレスティナが台所に立つ黒髪の少女シルフィに背後から抱き着いていた。


『シルフィ……好きですよぉ』

『もう、またトリップしないで下さい』

『アイギスさんの分まで愛してあげますよぉ』

『それは、アイギスさんから貰いますぅ』

『じゃぁ、私にも下さい。シルフィちゃん……』

『う〜ん。最近、アイギスさんに構われないからますますわたしに……』


そして黒髪の少女シルフィはエルフの少女を背から引き剥がすと向き合い……抱き合う。


『ほら、セレスティナさん良い子ですね~』

『あぁ、お母さん……』


黒髪の少女シルフィが愛でるその姿は聖母級である。


「ふむ。見事な愛し合い方」

「これが愛なの? アリーシャちゃん」

「フフフ。これも愛の形の一つ、母を求める愛もあれば切なさを埋める愛もある……う〜ん。アイリちゃんやシャルちゃんも己の愛を見つけるが良い……ん?」


『ただいま〜』

二人の逢瀬の場に丁度帰宅する神祖の妖精王……

慌てる黒髪の少女。

だが、愛を求める金髪の少女は抱き締めて離れる様子がない。


『ちょ、アイギスさん帰って来ちゃいましたよ! ヴィリアさんも連れて。アスタロッテさんも居ますから』

『ふぇ〜、見せつけてあげますぅ〜』

『あ! セレスティナさんとまたイチャイチャしてる!』

『アイギスさん……いつものです』

『アイリやシャルさん居るときやらないのに……もう、ほら』


アイギスが引き剥がそうとすると今度はアイギスにセレスティナなる者が抱きついた。


『わぁ、アイギスお母さん……』

『わたしまでお母さん扱いに!』

『あら、まさかこんな唐突にバブみをお目に掛かれるなんて。……アイギスさまと一緒だと退屈しませんわ』

『バブみ……アスタロッテさま。聞いたことがないのに理解できそうな表現ですわ……』


『セレスティナさん起きてよ。ヴィリアさん、理解しなくて良いよ。母を求めるのは当然じゃない。でも、セレスティナさん、わたしはアイリで手一杯だから』

『アイギスさん分補給ですぅ』

『ちょ、止めて。ヴィリアさん見てるって』

『わたしたちの愛を見せつけてるんですぅ』

『恥ずいって!』

『ああ素晴らしいですわ! こんな光景、夢のようです!』

『むしろ喜んでる!』


我らが天使王も神祖の妖精王の愛の形に笑顔を浮かべた。まさに愛が育むまれる家庭であろう、と。


「さすがアイギスちゃん。見事な愛を見た……これがアイギスちゃんの愛の形なのだ」

「お母さん楽しそう」

「うんうん。みんな仲が良い。これがアイギスちゃんの求めた愛、そして皆がそれに応えている……」

「愛し合うってこういう事なんだ」

「うむ。人を思い遣る気持ちが愛を生む、その形がこれ。恋とは愛に焦がれる気持ち……色んな形が有るのだ……シャルちゃん」

「…………」


天使王は、背後のシャルなる者に向き直る。シャルはフードを目深に被りながらもその眼は確かにモニター画面を注視していた。


「何も難しいことはないのだ。それとなくでも良い。アイギスちゃんを想いアプローチを重ねるのだ……」

「……私に愛される資格は有るんでしょうか……」


「既に検定クリア済み。何も問題はない……アイギスちゃんなら広い心で愛を受け入れてくれる」

「……解りました。考えてみます……」

「時間はたっぷり有る。……ゆっくり恋すると良い。逆に早めでも問題ない。それに、このアリーシャちゃんに相談すればすべてを良い感じにする」

「……はい。心が定まりましたら……」



頭を下げるシャルなる者。

そして天使王は「うむ」とお答えになった。

すべては夢見る恋を一つでも叶える為。

我らは天使。人を導きしものなり


人の善き心を育てるは我らの務めであった。

天使王こそ我らが王にして天使たちの頂きに立つ者で有る。天使王ならその恋路の行方に成就以外の道筋を残さぬであろう。


「すべては天使王の導きなのだ……アイギスちゃんならこの試練を乗り越えれよう……フフフ」



シャルなる者の意志を再確認。

今、この時を持って真の百合ハーレム計画はさらなる段階へと進み始める……


男の子投入によるアイギスちゃんドギマギ作戦である。神の御業を我らに見せたもう、アイギス神よ。

それこそが天使王の望みであった。



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