第十九話 妖精騎士アイギスさんの家の恋愛模様と白雪妖精のお姫様(1)
いきなりわたしの家へやって来る、暗黒騎士ジェラルダインとアスタロッテ。……しかもお姫様を連れて。
もちろん、聞いてないよ。
シルフィちゃんが何事って感じで隣に居るんだよ。
お見合い話の件、話して無いから辛うじてまだわたしの命脈が保たれてる。けどその話出た瞬間にわたしが死ねるの。
シルフィちゃんに聞かれたらどうするの。
どう言い訳したなら良いの。わたし、もう首に縄括られた心境なんだけど。
朝からこの綱渡りの状況にするの本当にやめてよ。
「アイギス。事情があってなヴィリア姫を当分の間、預かって貰いたい」
「事情って何よ……さてはおまえはわたしを殺しに来たのかジェラルダイン」
「なに、シルフィ嬢にはわたしから話そう……」
おまえ、おまえ知ってていきなり来たの!
先にわたしにその配慮をしろよ、ジェラルダイン。乙女心を弄ぶんじゃない。
ただ、話して貰えるのは本当に有り難いです。
「……少々、面倒な状況になってな」
「何したの?」
で……聞いたよ事情。詳細にね。
クズどもが手を取り合ってクズな事したってのが解ったよ。あいつら人の生命を何だと思ってるんだ。許されないよね。
「戦争か……覚悟決めないといけない時が来たんだね……」
このわたしの心境もまとめてぶつけてやる。
ついにアイギスさんが戦場に立つ時が来たよ。
「悪妖精に善妖精、喰食王んとこの緑食妖精たちも兵隊に使えるらしいよ。どれぐらい戦る?」
「いや、アイギス。こちらで問題は解決するから姫だけ預かって貰えれば良いんだがな……戦争にするな」
「腹立つの! そんな話聞いたら。やり方が汚すぎるよ。わたしの抑えが効かねえ……」
むしゃくしゃするよ。
何だそいつらブチ殺したい。
「だろうと思って王国側の実行犯の始末は着ける事にする。その辺りで手打ちにしておけ」
「正気かどうかそいつらの頭の中身疑う連中だよ。そんな下らない事で姫様殺そうとして、タダで済む訳無いよね。護国卿の首ぐらい覚悟しろ」
わたしとの問題って当然知っててやったんでしょ。
国のトップだからってわたしは許さん。
護国卿? 大したことないでしょ。ベイグラム帝国の近衛すら雑魚だったわ。
「そう言うと思ったよ。だが、護国卿の首を取れば混乱必死だ。国や組織などという物を率いるようになれば、強引な手段が必ずしも正解では無いからな。神祖の妖精王だろ、立場を考えろ……関係のないやつの血まで流したくはあるまい?」
「……。ならロクス教国の奴らは?」
もう片方のクズは? 落とし前ってのはちゃんと着けないと次も馬鹿やるからな。めちゃくちゃ厄介そうな連中だけど。魔法文明時代の遺産を受け継ぐ大国とか。
幻術で隠れて、電磁投射砲搭載の魔法機械で暗殺狙って来るとか。調子乗ってファンタジーと科学を融合させてんじゃないぞ、クズども。
「そちらについては検討中だな。まだ、奴らだろうと当たりを付けただけで証拠がない。現状ではヴィリア姫の安全確保が最優先だ」
「解らなくはないけど……でも、普通は聖魔帝国が預からない? 別大陸の本国なら手出しできないんじゃ?」
「それはお前の仕事。聖魔帝国は問題の解決に協力してるに過ぎん。そういうスタンスだ。あまり関わってると内政干渉だと騒がれるからな」
「もう干渉しまくってない?」
「程度の問題だな。本国まで連れ込むのは露骨過ぎる。それに、ヴィリア姫はおまえが預かるのが筋だからな。提案受けたのは誰だった」
「……どう考えても、わたしか」
そこまで聞いたらわたしに責任あるよ。
結局、わたしが伯爵の詫び入れに乗ったからだね。
でも、こんな事になるとか思わないでしょ、普通。
「ヴィリア姫をお前が預かれば、奴らもお前に喧嘩を売れん。これで売って来るようなら……仕方無いな?」
「……解った。次は無いって事よね」
「アイギス、おまえなら腐海王を動かすという切り札がある。ロクス教国にはお前に姫を預けた方が話を付け易いのさ」
腐海王って喰食王ザランバルの友人じゃん。ヤツに聞くと妖精の癖に相当くせ者らしいからね。
すべてを腐海の森に沈めて来る、最悪の菌糸系テロリストだよ。元がキノコ姿の妖精とは思えないぞ。
腐海王って開祖のロクスさえ倒しきれなくて今でもロクス教国に取っては厄介者なんだとか。
別の大陸の、ロクス教国とは同じ大陸に居るから牽制させやすいんでしょうね。
「解った。つまり、わたしの所に居るのに手出したらそいつをけしかけるぞ、って脅しの意味もあるんだ?」
「それが狙い。聖魔帝国とロクス教国は休戦中だ。手を出すとまた戦端を開きかねんからな。それに、誰が後見かを明確にする意味も有る。おまえの所に居るなら馬鹿でも解るだろう」
「そう言う事なら仕方無い。仕方無い…よね……?」
と、わたしは隣に居て話を聞いてた家族を――
特にシルフィちゃんを見る。
黒髪のまだよく事情を理解してない女の子。
そのシルフィちゃんに話付けてくれるんだよね。ジェラルダイン。わたしの視線の意味を気付け。
もちろん気付いてくれる、さっすがジェラルダイン。視線をシルフィちゃんに向けたよ。頼むぞぉ気付かいと配慮を欠かさない暗黒騎士さま。
「では、申し訳ないがシルフィ嬢、ヴィリア姫を宜しく頼む。なにぶん、一般家庭の生活には不慣れらしいのでな」
「わ、解りました。あの、それで」
「何かな?」
「その、お姫様は……アイギスさんとのご関係はどうなるんですか?」
「!?」
「……対外的には婚約者という事にする予定だが……アイギス、その様子だと言ってないな」
「ま、待って。今、聞いたわ! その話は今! 婚約者、いつの間に!」
ジェラルダインが背後でヴィリア姫と一緒に居るアスタロッテを見たよ。
アスタロッテはフフフ、って微笑んでたわ。
「こちらの不手際か……。だが、もうそういう事にしてしまってるのでな。シルフィ嬢には申し訳ないがもう二人増える……次いでにアスタロッテも状況が収まるまで護衛に付けるからな。まぁ、良いだろう?」
「良くないわ!」
「え、アスタロッテさんも来るんですか!?」
二人して驚くわ! 状況に付いていけないぞ。わたしを狙って来るのが倍になった。シルフィちゃんもアスタロッテには弱いからね。グイグイ引っ張って来るから。
「一応、な。手は打つがこの状況を利用しようという他の連中が出てくるかも知れんからな。では後はアスタロッテに聞いてくれ。伯爵にも説明が居るだろうからな」
「え、ジェラルダイン待ってよ」
「済まんが、私も忙しくてな。――ではヴィリア姫。私はこれにて。アスタロッテ、後は……まぁ上手くやれ」
わたしの静止の声も聞かずにジェラルダインが背を向けて立ち去ったよ。
全部こっちに投げるとかジェラルダイン酷い。
そして、代わりにアスタロッテがヴィリア姫をわたしの目の前まで連れて来るの。写真でも見たけど白くて綺麗なエルフの娘だよ。本当にお姫様って感じの。
……隣のアスタロッテも真正のお姫様の筈だけど、ちょっと人形っぽさが有るし。衣装が黒基調のドレスだし、何より魔女王と天使王の娘だ。姫さまって性格とは微妙に違うんだよね。
「アイギスさま。こちらがヴィリア・レア・セレナスさまです。アリーシャさまからお見合いの話と写真と恋文は齎されてますよね? ……では、御本人をお受け取りください」
全部、全部バラして来た! シルフィちゃんが、「え!」って隣で声に漏らした。
悪魔か、それとも天使か。わたしの罪を全部包み隠さず暴露するな。
「ご紹介に預かりました。ヴィリア・レアです。不束者ですがよろしくお願いいたします、アイギスさま。……お会いできて本当に……」
更にわたしの目の前でヴィリア姫が白い肌の頬を赤らめるんだよ。感極まった感じでさ。アルビノみたいに色素が薄い人だから一目で解るよ。
そして隣のシルフィちゃんに勘づかれるよ。関係聞いた時点で怪しまれてたとわたしも気付いたわ。
シルフィちゃん口を閉ざしてわたしをじっと見ないで。
わたしの心が痛い。お花突き刺す剣山ブチ込まれたように痛い。
「本当によろしく……すいません。お慕いもうしあげていたので私、何を言ったらいいか」
「……そ、そうだよね。あ、アスタロッテ。取り敢えずお部屋へ。使ってない空き部屋有るでしょ」
「ああ、素晴らしいですわ。この恋愛模様のカオス。セレスティナさんのジト目がさらにポイント高い」
後ろを振り向くと金髪碧眼のエルフの女の子セレスティナさんが口の端を引き締めてジト目になっていた。シャルさんとアイリは恋愛関係の事には気付いてないようだったけど。
もうめちゃくちゃだよぉ。時間が、時間が欲しい。
状況の整理を。
取り敢えずシルフィちゃんに謝らせてよ。
「では、ヴィリアさま。まずは二階へ、落ち着いたら、改めてご挨拶させてもらいましょう」
「わ、わかりました」
そしてペコリとわたしに頭を下げてお姫様が二階へ。
嵐が去った。
だけど残されたわたしが居た堪れ無さすぎる。なんで、どうして、わたし何もしてないじゃん。どうして女の子なのにハーレム系主人公の浮気野郎みたいな立場になってんの。誰か教えてよ。
「アイギスさん……事情、ちゃんと話してください……」
「はい……」
シルフィちゃんに返事してから、セレスティナさんを見たけど何も言えないって顔してた。
フォローはしてくれなさそう。優柔不断だったからでしょ。甘んじて罰を受けろって事だね。わたしがセレスティナさんと同じ立場だったらそう思うから、解る。過去の自分、馬鹿でしょ、と殴りたい。
「そうだね……ん」
そしてわたしがもう観念して口を開こうとした時、玄関のドアが開いて幼女がやって来るの。そのまま居間に来る、アリーシャちゃん。
「アイギスちゃん。婚約の話するの忘れてた。もう聞いた?」
「聞いたよ……」
「ん〜、それでどう? きっとアイギスちゃんと良い感じになれる子だと思う」
「うん。その話、後で良いかなアリーシャちゃん……」
「ふむ……」
そしてアリーシャちゃんが雰囲気を読みとったのか席に座るの、普段はアル君用の席に。元凶じゃんと思わなくもないけど……
結局、ちゃんと相談してなかったわたしが悪いんだもの。
そして、わたしは自分で責任を取る。
前のような失態は犯さぬ。
もう罪を受け入れ、裁定を待つ罪人の心持ちで経緯と心境をぽつりぽつりと話し始めることにしたのだった。




