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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第十八話 妖精騎士アイギスさんと許す者、許されざる者(6)



仲間うちで相談を終え、応接間に戻って来た近衛騎士たちの顔は先程より少しだけ緊張をほぐした表情だった。


「…………!」


ただ、私が左手に騎士盾を持ち、騎士剣を鞘から引き抜いた姿に奴らのほぐれた表情も戻ったが。少しだけ私もやる気を出している。



「それで、結論を聞こうか」

「………………引き上げます。ただ、信書については――」


「聖魔帝国"執政"たる魔女王陛下が伯爵家に宛てた書簡を然るべき手続きも取らずに近衛如きに預ける訳にもいくまい。必要とあらば聖魔帝国の大使館に問い合わせろ」


「これは私どもの浅慮でした申し訳ない。――アンセル家宰どの、ではこちらの信書はお返しします」


早々に私に言い募ることを諦め若造の近衛騎士が家宰に丸めた信書を渡す。

不用意に動けば当然叩き切るとも。

ただ、こいつらに構ってる暇が無いのも事実で、何処まで隙を作るかが考え物。


普段実力を隠してるのであまりやり過ぎるのは控えたいからな。

時間停止タイムストップ〉などの魔法なぞ無詠唱で使えば私が魔女王だと解る奴にはバレかねん。

最近、太古エンシェント級の黒龍を殺ったという事になってるから責めてそれくらいの実力に抑えたいからな。


「では、我々はこれで引き上げます。伯爵家家中の方々にはいずれ法務省からご連絡を差し上げますので……」

「少し待て」


「……ジール卿のお手数をお掛けして申し訳なく思いますが……我々も任務ですので謝罪などには応じかねますが……」

「いや、良く考えればいくつか不審な点があってな。お答え頂ければ幸いだが?」


丁寧に言いつつ騎士剣を振り、やる気をみせる。

勿論もちろん、不用意な返答をすれば切り捨てるぞ。と言外かつ物理的なアピールの為。



「……なんなりと」

「指揮官は何処に居る? けいらが士官だとしても若すぎるな。だと言うのに伯爵家への捜査を打ち切る権限があるのは些か疑問と言わざるを得ないが?」

「……状況が逼迫ひっぱくする可能性も有るので後方です。……名目上は査察ですので現場指揮官に捜査の権限が預けられておりますが……」


「それは貴族家中への家宅捜査の通常の対応か? 若輩じゃくはい士官の研修ではあるまいし、国家反逆罪の適用すら視野に入れたガサ入れで行われる対応だとはとても思えんな……」



何か合った時の犠牲の羊スケープゴートと考えると辻褄が合う。物凄く合うな。例えばいざとなれば現場の連中が勝手にやった、などの釈明だとかな。


「最初から失敗すると予測がついていたな? お前たちはともかく、上層部がだ。その点、不審に思わぬ筈があるまい」

「…………ジール卿。我々ではお答え致しかねます。政府の内部情報の漏洩は機密情報保護法に抵触致しますので……」

「ことはそう簡単ではないぞ。上層部の面子メンツの為、などと考えているのなら甘過ぎる。この状況自体が他国からの諜報工作の可能性が有ると何故なぜ、考えられん」


応対していた、まだ若い近衛騎士の表情が怪訝な物に変わる。若造と言っても二十代の中頃には達して居るだろう。それなりの経験は積んでるだろうしエリート部隊だ。聞くに値するとなれば面構えも変わるようだな。



「と、おっしゃられると?」

「つまり……お前たちの中に裏切り者が居る可能性が有る。わざわざ私が出向いて来た時にのこのこやって来て、しかも失敗すること前提。――仕掛けるには丁度良い頃合いだな?」


と、私は近衛騎士の一人に向き直った。

その男は他の近衛騎士と同じような顔つきをして平然としていたが……

顔つきが急にむくれたようになる。次いでその顔が明らかに膨らむ。次の瞬間には――肉体ごと破裂せんばかりに膨張した。


その瞬間に、私は剣を袈裟斬りに振り暗黒属性の剣技〈闇閃剣ダークスラッシュ〉の一撃を飛ばして精神体ごと肉体を断ち切った。



男に仕掛けられていたのは精神体そのものを爆弾に変える練成魔法レベル10〈魂縛爆破ソウルボムブラスト〉だ。偶に私も使う魔法だな。

精神体そのものを爆弾に変える原理上、精神体そのものを絶ち切れば爆発はせん。


しかしこれが目を逸らす為の囮で次の瞬間には本命がやって来る。

伯爵邸の遥か外側から音速の何倍ものスピードで。

突っ込んで来たのは徹甲弾だ。

但し弾速が速すぎる。火薬ではこの速度は出せないな。そして狙いは当然ヴィリア姫だ。


伯爵邸の外壁を突き抜け正確に狙って来るのだから、最新の魔法技術というのは恐れ入る。


但し、何処から来るのか解り、狙いが解るなら対処は容易いぞ。その方向に盾を投げつければ良いだけだ。剣で斬った次の瞬間にはもう私は射線上に盾が重なるよう絶妙のタイミングで割り込ませていた。



そして、鳴る、カンっと呆気ないくらいの衝撃音。

盾に着弾した瞬間にすべての運動エネルギーを私の魔盾に吸収された結果だ。


物理攻撃吸収効果だな。

炸薬のエネルギーから何まですべて吸収してしまう。と言っても使われた砲弾は撃ち出したのがおそらく電磁投射砲レールガンで、せいぜい人の腕サイズの弾頭ではただの徹甲弾ぐらいしか打ち出せないだろうが。


そして応接間の床に転がるその弾頭。


私とアスタロッテ以外、場に居た者達は何が起こったか直ぐには理解できない。


ただ、アスタロッテが別の方向から打ち出された弾頭を〈原子分解光線ディスインテグレイト・レイ〉の魔法で壁に風穴開けて消滅させているのが、目に入り、近衛騎士の男の死体と合わせて、やっと私に応対していた近衛騎士が反応した。


「しゅ、襲撃!」

「もう終わったぞ」


壁に空いた風穴から遠方に襲撃者の正体が一瞬だけ確認できた。大型自動機械オートマトンだ。動力源が魔力で、電力に変換して電磁投射砲レールガンを撃ち込む魔法仕掛けの機械兵器だ。


ただ、次の瞬間には上空から撃ち込まれた、精密魔導砲の光が空に光の線として走り、その自動機械オートマトンを破壊。


もう、一機の自動機械オートマトンも上空に姿を現した次元潜航艦からの対人ミサイルを複数発浴びせられ、派手に爆発して吹っ飛んでいた。



幻術魔法で位置情報を攪乱して来るので、先手で撃たせないと正確な位置を把握できないという面倒な奴らだったが、なんとかなったな。



『状況は?』

『クリア。こちらで確認した敵性存在は撃破しました。現在、伯爵邸に当艦が向かっています』

『状況進捗そのまま、くれぐれも不測の事態に備えろ。……解っていると思うが貴賓を迎える。丁重に歓待しろ』

『はっ。仰せのままに』


次元潜航艦との交信を〈念話〉を経由した暗号通信装置で終えると改めて私はヴィリア姫の元へ。

他の連中はもはやどうでも良い。仕事は済んだしさっさと離脱だ。


「お見苦しいものをお見せして申し訳ない、ヴィリア姫。襲撃者は一旦片付けました。先程、示し合わせていたふねがお迎えに参上します」


かしこまって、姫君に恭しく私は接する。ヴィリア姫は困惑気味だったが私のセリフに安堵したのか頬を赤らめた。


「は、はい。ありがとうございます、ジール卿」

「ジェラルダインさま。あまり見せつけるとアイギスさまに悪いですよ」

「なに、アイギスの方が私よりよほど上手くやるさ。こと守りに関しては私以上に鉄壁だからな」


「……あらあら、これはアイギスさまに言い付けないとダメですね。……ですが、まさかここまで天然だとは……お父さまにもこの名場面を伝えなくては」


なんの事やら興味も湧かないな。

大体、アリーシャが好む漫画、アニメ展開だと解るが何に該当するかなぞ知らなくても問題ない奴だ。


そしてやって来る。次元潜航艦。

私は後始末をすべて置き去りにして、丁度空いた伯爵邸の風穴からアスタロッテとヴィリア姫を連れて乗り込んだ。





次元潜航艦に乗り込みそのまま、転移して離脱。

したかったのだが、せねば成らないのが後始末である。

伯爵邸に関しては密かに残して来た、悪霊どもに警護させれば現状問題ないが……


「さすがに事後処理もせずにそのままお連れする。とはいかず申し訳ないヴィリア姫」

「いえ。どうかお気になさらずジール卿」

「事後の備えを怠らないのはジェラルダインさまの美徳ですね。……やはり襲撃はロクス教国のようで」

と、艦内の貴賓室で姫君を歓待しながら、アスタロッテに私は仕事を手伝わせていた。ブレスレット型の端末から映像を中空に投影して、王都内で収拾した情報の分析中だ。


「だろうな。最初の〈次元封鎖ディメンションロック〉は連中の仕込みか」


わざわざ、王国側が張ったように見せかけるとは念入りだな。おかげで何かあると勘づいてしまったが。


「幾つか解りましたよ。大凡おおよそですが今回の仕掛けの仕組みが。推論が入りますがお聞きになります?」

「お聞かせ願おう」


ず……犯行の主犯は近衛騎士団の第二分局ですね。王都内の治安維持とおっしゃっていましたが実際は貴族関連の内偵担当のようで」

「読めた。発端は縄張り争いだな。他の部署、対外防諜やらと揉めたな」


「……司法卿と外務卿の対立も背景に有るようですよ。そこまでは詳細を調べた所で面白味は有りませんけど……」


「別に構わん。これで護国卿の黙認が無ければ奴の統治能力ガバナンスに疑問を持つがな。……それでロクス教国がどう絡む」

「対立を利用して割り込んで来たようですね。組んだのは当然、司法卿そして第二分局。王国側の二者の狙いは聖ロクス教国の仕業にして聖魔帝国と対立させ、王国への干渉に対する防波堤にする、といった所です」


「この状況なら王国に疑いが掛かる事も想定済み。現状を憂う憂国の士と言った所か?」

「失敗して元々、成功すれば伯爵領の独立は防げると甘い夢を魅せられたのでしょう」

「次いでに自派閥への支持も獲得できると言う事なしか。護国卿にしてみればどちらに転んだ所で問題はなさそうだな」


一番厄介なのは自身を支える権力基盤が分裂状態になる事だからな。

この状態になると舵取りが難しくなる。

一方に肩入れすると一方が不満を持つ訳だ。

自派閥以外と組まれると独裁者の座から引き摺り降ろされる可能性も出てくるからな。どちらか一方が多数派になり安定して貰った方が良い訳だ。


当面はこの失態を理由に多少の不満を抑えられるので状況的にも悪くは無いだろうからな。

痛手を負った事にして聖ロクス教国に貸しも作れるし、聖魔帝国とはシルヴェスターの独立を認める形で手打ちに持っていける。

あの護国卿にしてれば辺境くらいもぎ取られても惜しくはあるまい。



「では、聖ロクス教国の狙いはなぜなのでしょうか? 聖魔帝国と対立してるとは聞き及んでいるのですが」

「親聖魔帝国派に成りつつある王国への引き剥がし工作ですよ。あちらの当局者もアイギスさま関連で成果が上がらず、お困りのようで」


「わたくし事ですが……それはアイギス様がお怒りになるのでは……」

「ええ。進退窮まってますね、この担当の方。冷静に考えれば成否に関わらず神祖の妖精王と敵対する状況になるのにその危険リスク計算が抜け落ちているようですから」


聖ロクス教国は人間種族主体の凡百の集まりだが、宗教国家とはいえ魔導文明時代の技術遺産を継承している先進国だ。

上層部の意思決定プロセスを得ればこんな杜撰ずさんな計画は立てないだろう。


「つまり、阿呆だ。そいつについては放置で構わん。どのみちロクス教国には手を出しにくいからな。ヴィリア姫には申し訳有りませんが……」

「いえ。無能な敵は歓迎すべきと聞いたことが有りますので……どうかお気になさらず」

「お許し頂いたので、第二分局の局長の首だけ取って置くか。そいつくらいは手土産にせんとアイギスに知られると事だ」


「あら、この局長も生かして於けば宜しくできますよ。中々、優秀な人物らしいので。……派閥対立を煽れば護国卿の動きを掣肘できますし、今日みたいに他国の工作を引き入れて自滅させる駒にもできると料理の方法はいくらでも有りますのに」


「アスタロッテにも悪いが優秀なら尚更、必要でな。アリーシャがミュータントの件で王国が関与してる人体実験場の情報を欲しがっている。奴のブチ切れ案件だ」


あの施設はどうやら王国魔法研究所の委託で実験データの集積を行うのが主な収入源だったようだ。

施設内で生態兵器を作って居たのはその副産物だな。


データの解析から、他に複数の施設がないと成果にまで辿り着けないだろう……。とは、聖魔帝国の魔法研究の第一人者、妖魔王から解析結果が即日で出されている。

既に聖魔帝国が通り過ぎた道だな。但し材料はほぼ訳有りの連中をコチラは使ったが、でないと幼女にバレた時が怖い。



「それは仕方有りませんね。ですが、必ずしも情報を持ってるとは限りませんよ」

「逆に持ってないならそれはそれで別の連中の関与を疑えるから構わないがな」


アスタロッテが答える前にヴィリア姫が興味深そうな顔して質問が出てくる。

「王国魔法研究所が独自に動いてる可能性が出てくるんですね? それだけ可能性を潰せば探す手間も省けるのでしょうか」

「その通りです。上手くすれば他勢力との繋がりの芽も見つかりますので」


「それが王国へ干渉する糸口になるのですね。自国の諜報組織さえ掴んでない自国内の暗部となれば、確かに興味深いですわ」

「……ヴィリア姫のご賢察には驚かされます」

「いえ。素人の私にレクチャーする為にありがとうございます。アスタロッテさま、ジール卿。この会話も今後の為を思ってですよね?」


ヴィリア姫のこの鋭さは私でも好意を持つ。

見所がある。

素人だと言うのに的を外してないからな。

経験も必要だが、諜報工作の世界は何より想像力が重要だ。鍛えればものに成りそうだなこの姫君。



「なに、姫君がこれから踏み込む世界の一端と思って頂ければ。アイギス殿下もこちらの世界にはまだ疎い。ヴィリア姫にも差し支えなければ殿下へのご助力をお頼み申しあげたい。アスタロッテが選任ですのでお訊きくだされば力になりましょう」


「愉しい世界ですよ。人間模様の縮図を観察できて。どう動かせば嵌ってくれるか考えるのは頭の体操にもなりますし」

「まあ、わたくしにもできるでしょうか。謀略だとか陰謀だとか、噂好きなメイド達から聞き及んでたくらいなのですが」


「もちろん。そのメイドを使って王国の動きを読めるのですから、才能は有りますよ」

「お褒め頂いて嬉しいです。アイギスさまの為になるなら少しでもお手伝いしたいので……一体どんな方なのでしょう。キレッキレッとは聞いているのですが……」


……あのアイギスの凶行を聞いて尚、受け止める精神性があれば上手くやって行けそうだな。

アスタロッテが居ればアイギスの籠絡もなんとかするだろう。

私としてもオススメの娘だぞ。アスタロッテのサポート役に収まりそうだしな。



……そして王都内での一通りの事後処理を負え、次元潜航艦はシルヴェスターへ向けて艦首を向け出発した。距離的に、転移しなくてもふねで赴けば辿りつける距離。


アイギスの家に直接お届けだな。

奴の自宅が一番安全だ。姫君を守るのは騎士の役目、今度はヤツが仕事をする番だからな。

一応フォローしに挨拶くらいはしていくか。



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