第十八話 妖精騎士アイギスさんと許す者、許されざる者(2)
古代魔法文明時代の地下施設。
煉瓦組の壁とかじゃなくてまさに近代的な文明が仕上げたって感じの壁と区画割りの構造だった。
照明とかも未だに灯る魔法の明かりだし。
惜しくも時の流れに勝てず崩落箇所が多くて、それこそ村の地下部分、2階分くらいしか広さがなかったんだけど。
「で、地下3階にあのキマイラが封印されてたと」
「さ、左様でございます」
わたしは妖魔術師の弟子らしい男に尋問の最中だ。
ちなみに師の方は気絶させた。
殺っても良かったけど、色々知ってそうだから後で尋問だな、地獄に落とす感じで。
「で、ここで悪魔やら、生物やらと人間を合体させて生態兵器作りか……。で、成果がアレか」
なんかゴブリンみたいな背丈の黒い生物とか出てきたよ。ただ、攻撃性は高いけど戦闘能力は低い、つまり弱い。
数は多かったけど、吸血妖精たちの相手にもならずに皆殺しにされてたわ。
せっかく、あのキマイラさえ作れるくらいの施設だと思ってたのにやってる事はもっと原始的なんだもの。
どうも完全に道徳的に逸脱した実験施設らしくって色々試してデータだけ取る施設みたい。聞いてみると余り成果をあげてないんだよね。
「まだ、狂熊を大量生産して使役した方が強くない? ゴブリンのガキのが強いぞ」
「し、使役が容易というのがあのバグベアの売りなのです。数を揃えればそれなりに有効かとぉ……」
「いや、雑魚すぎるよ。あれならアンデッド使役した方がまだしもだよ……てか、本物のバグベアの方が強いよ」
ゴブリンに知性無くして突っ込ませてもただのガキの大群だよ。まだ、ゾンビやらスケルトンのが厄介なんだよね。
というのもこの世界のアンデッドは物理的に肉体を破壊するか、魔法攻撃で霊体を消滅させなきゃ復活して来るんだよ。基礎戦闘力が低くても生存性が違うの。
「あ、アンデッドは専門の術者でしか使役できないのが難点なので……や、奴らなら飼い慣らせば……」
「いや、必死に売り込んでて悪いけど始末するのは変わりないんだよね。セレスティナさん、その魔法陣の使い方解った?」
そして床に描かれた魔法陣を調べてたセレスティナさんが顔をあげる。
「一応、起動の方法くらいはなんとか……てかアイギスさんこれ完全に邪法なんですけど」
「よ〜し、ならチャレンジだ。吸血妖精、誰か持ってこい」
そして吸血妖精たちがこの極悪な実験施設で働いてた悪党どもを連れて来る。手足が切り落とされてたり目がなかったり既に可愛いがられてたりするけど。
まぁ生きてたら問題ないね。
そして魔法陣に配置される悪党。
「じゃあ、一度はやってみたい悪魔合体。人間同士でやったらどうなるかなぁ?」
「い、嫌だ止めてくれぇぇー」
「助けてくれ、オレ達は仕事でやってただけなんだよ!」
そして吸血妖精や闇羽妖精から、おお〜と感心するような声があがる。おまえらこういうの好きだな。
わたしもだ。わたしの男の子部分も心惹かれる物がある。
「わたし達もコレが仕事でな。使命感で突き動かされちまうんだ……セレスティナさん?」
そして使命感に依って突き動かされる妖精がもう一人。戦神に教えに従い戦いの祝詞が紡がれる。
「戦神バーラウよ。お赦し下さい。これも生きる為の戦いなり。えい」
光輝く魔法陣。男達を材料に肉体とその魂を融合させる外法中の外法の光が狭い地下空間を埋め尽くす。
――出来上がったのは……蠢く肉の塊だった。
「……肉人形のできそこないかな?」
「ああ、やっぱりそんな感じになりますか。肉体を人間の形に保つのが難しいですね」
混血妖精の少女が笑みを浮かべる。悪党のこの末路には微笑むよね。外道行為が突き抜け過ぎて、怒るという段階通り越してるもの。笑うしかないよ。
あまりの悪逆非道を見せつけられて、ブチキレ通り越して一周回って平常心に戻るわ。
セレスティナさんも怒るって感情が解らないけど大分きてるわ、感情が解らないだけで感じない訳じゃないからね。
「なら、フレッシュスライムな形にしてみれば良いんじゃない? 材料はあるし」
「ああ、成る程。でも、これ魔力大分持ってかれますよアイギスさん。――起動はできるんです、誰か魔力だけ込めてもらえませんか?」
わたしに言わないのは魔力込め過ぎるからだね。
そして吸血妖精の何人かがセレスティナさんをコイツやるな、とか言う目つきで見ながら手伝ってた。
そして次々と投げ込まれ合体されていくこの施設で働いてた悪党たち。
そして出来上がっては形を保てず肉の残骸と化す奴らの成れの果て。
そして最後の実験になった。
絶望の表情を浮かべる妖魔術師の弟子。良い顔だ。その表情を見る為に最後まで残していた。おっと、わたしから逃げようと後ずさるなよ。
「じゃ、後はおまえだけだ。あの残骸と合体させてやるから」
「お、お赦しを、お赦しをおおお! ひぎゃあ!」
わたしは妖魔術師の弟子の両足を剣でぶった切って残った身体を魔法陣の中心でうごめく肉塊に放り込む。
「よ〜し、生き残る最後のチャンスだ。気合入れろ。せっかくセレスティナさんが修正してくれてるんだから」
「やってはいますけど専門家じゃないので当て推量ですって。練成魔法の付け焼き刃の知識でなんとかしてるくらいなんですよ」
「まぁ、材料の問題も有るだろうし。じゃ最終合体だ」
そして出来上がる最終形態、蠢く肉軟体の完成である。
生物として成立してるのがおかしな代物だよ。
でも、血とか色々出てるから長くは生きれそうにない。合成が適当すぎて魂縛さえ崩壊してる。
「ふむ、男たちの魂の輝きだな」
「やった私も言えないんですが……アイギスさん何言ってるんです」
「男同士で魂まで融合だよ。ほら、友情の究極の形でしょ。この極み、実に感慨深い」
「……あー、そう言う。アイギスさん、レベルが違い過ぎますよぉ」
この肉塊の出来そこないこそが連中が求めたものだよ。
身動き取れなくて何処にも行けない感じが良いよね。
余りにもクズの塊過ぎて終わってるのが良い味だしてる。
悪妖精たちも尊敬の眼差しでわたしのこと見てるよ。
神祖さますげぇ、って声に出さなくて言いぞ。
つい決めゼリフを言いたくなるじゃん。
「この生命体にはフレッシュメモリーズと名付けよう。外道にはお似合いの末路だよ。星幽界に帰れるだけマシだな。星のクズ作戦完了だ」
そして悪は壊滅した。呆気ない最後だ。
ちなみに軽く聞いたけどどうも王国と密かに関係ありそうなんだよね。その辺りは首魁の男に聞いてみないと良く解らないらしいんだけど。
†
地下施設の制圧と仕置きが終わり、リフトで迫り上がって外に出たわたしとセレスティナさん。
臨時の作戦司令部となった村の広場では懸命な救助活動が繰り広げられていた。
広場には犠牲になった村人が並べられ、生きている人達は妖精達から治療を受けたりしてた。
そりゃ家屋をあの馬鹿デカいキマイラに踏み潰されたり、毒のブレス撒かれたりしてるもの。村人も犠牲になってるって。
〈火炎弾〉の魔法も撃ち込まれたのか家屋の一部が吹っ飛んで焼け焦げてるし、かなり酷いことになってる。
悪党逃がしたら、話にならないから先に施設の制圧を優先したけど、こっちが本番なんだよ。
華々しい活躍より地味な救出活動の方が重要だよ。
でなけりゃ一体何のために戦ってるんだか。
その割には真剣にやってるように思えないって思うでしょ。プロは只の仕事に私情を挟まないものだよ。
「で、状況どうなってる? フリュギア」
「村内の救出活動は一通り完了していますわ、アイギスさま。脱出した村人の捜索に少々手間取ってますね」
「何が原因?」
「強いてあげるなら、捜索範囲が広いので何処まで探せば良いものかと。森が厄介ですね」
「森に関しては外縁部だけで良いよ。奥まで入ったら生き残れないでしょ。他の村へのルート上の周辺探索を重点的に、他は後回しで良いでしょ」
「解りました。では、そのように」
そしてフリュギアが念話の魔法を使って各妖精部隊に指示を出して行く。知らなかったけど軍隊みたいに動かせるんだよね。この子。
今まであまり呼び出さなかったからね。コイツら呼び出すとどうしたって人目につくもの。こんな大掛かりな救出活動なんてした事なかったし。
ふと気付くと、こっちに盗賊のディックがやって来る。
「忙しそうな所、悪いな。少し来てくれないか?」
「……別に良いけど。何かあった?」
「あー、こいつは見てもらった方がはやいな。付いて来てくれ。説明は向こうでするよ」
言うが早いかディックが歩きだす。
まぁそっちの方が話が早いなら行くけど。
このディックって盗賊、味方になった途端、遠慮って物がないんだよね。
そしてわたし達は村の中でも大きめの家屋に案内された。村長の家? と聞くとああ、大体そんな所だな。とディックからの返答。
そしてわたし達が案内されたその人達を見た瞬間、これは説明しづらいと納得したのだった。
†
室内に案内されそこで見た人達の肌の色は青かったの。目も赤い。まるで見たことのない人達。
でも、それ以外は人間と変わりない姿形なの。
魔族とも違う。魔族の人達は悪魔の因子を受け継ぐ人達だけど肌の色とかは人間と変わらない人が多いし。
「ディック、この人達は……」
「いや、オレもお手上げでな。何か知ってるかも思ってアイギス殿下に付いて来てもらったんだが……知らない?」
わたしも解らなくて困惑してると一緒に付いて来てもらったセレスティナさんから答えが。
「……まさか、ミュータント?」
当の人達からは怯えた目を向けられるだけで反応がなかった。まぁ、周りを羽騎妖精に囲まれてるのもあるんだろうけど。手持ちの小さな騎士槍に血糊が付いてる。
「ミュータントって変異人種とかそういう意味の?」
「ええ、人間種族の一種なんですが僻地に住んで居て滅多に人里では見かけない人達ですね。あまり知られてないので魔族と同一視されたりするでしょうし、わたしもそういう人達が居ると聞いた事があるくらいですから」
「ああ、それは聞いたことがあるな、見たことがなかったからコイツらとは気付かなかったよ。……済まん。抵抗して来たから何人か殺っちまってな。言葉も通じないし、魔族とも違うし、村人に話を聞くとどうも地下施設の関係者らしいんで、どうした物かと」
「そいつら、首魁残して悪魔合体の材料に……」
「少し早まりましたか……」
ディックが察して両手広げる。
「悪魔のご同業とは解るがな……。まぁボスが居るならそっちに聞くとして、当面こいつらをどうするか、なんだがな。……民間人は殺るなと一応お達しが出てるからな」
「取り敢えず、話聞くしかないでしょ。――『わたしの言葉の意味は理解できるか?』」
試しに技能〈妖精言語〉で語りかける。
念話のように心に語りかける効果もあるから、知的生命体なら大体有効な便利会話スキルだよ。
すると怯えながらも何人かがわたしに注目する。
そしてわたしが集められた青い肌の人達に視線を一巡させてると年寄りみたいな男が出てきた。
『わ、儂らの言葉がお判りになりますか』
『ああ、通じてる。そちらも精神感応系の言語だよね』
『お許しくだされ。儂らは見ての通り、戦えぬ者たちばかり。降伏致します、どうかお慈悲を』
『慈悲を与えるかは事情を聞かなければ判断できない。嘘を付いても殲滅する。道徳的に許されない事に関わっていたという自覚はあるの?』
『わ、儂らにはそれしか生きる道がなかったのです』
『では、事情を聞きましょう。……後で偽りだと解った場合はそれなりに覚悟してもらう。全体責任だと言う事を忘れずに』
中々厳しい物言いするけど精神系の魔法や能力者には〈魅了〉や〈虚言看破〉と言った自白や嘘を見破る魔法が通用しにくいってのが有るの。
つまり虚言を弄されると簡単には解らないんだよ。ここで厳しく言っておくのはその為。実際、場合に依っては死んでもらう予定だよ。
それくらいの事をやってるからね。ここの連中は。
そして青い肌の老人は自分達の種族の歴史を語り始めた……




