表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
141/208

幕間その五 伯爵の窮地を救え、ヴェスタの街の冒険者ギルドマスターと幼女アリーシャちゃん



ギルドマスターのオレはいつもの定位置――


冒険者ギルドのカウンターに着きながら詫び入れの件に何か手落ちがないか、改めて考えていた。



なにせ一発勝負だ。

これで世話になって来た伯爵の生死が決まると思えば入念に手筈を整える。

赦しを得たければ、期日一週間で伯爵と話しあって、詫び入れの条件を持って来いってな。おそらく二度目はない。


あのアイギスの事だ。本気だろう。

ヤツは気軽に首を取ってくるからな。

この伯爵領でも何人やつに首取られたことか。


敵に回ったが最後なんだよな。

逆に真っ当に生きて居れば、早々ヤツの凶刃も振るわれないから街の人間にして見れば結構人気者だったりするんだが。


伯爵もアイギスが危険な事は知ってたが背に腹は代えられなかったからな。

何せ伯爵には金がない。


アイギスは最大効率で仕事してくる。被害最小限で凶悪な魔物の数々を屠る。伯爵にすればタダでさえ金の掛かるモンスター対策に万能の切り札があるような物だ。

実際アイギスのおかげで費用も抑えられてるだろう。それでも金をだすのが渋るのが頂けないが。


だが、その凶刃も遂に伯爵にだ。

財源欲しさに伯爵も抜かったのがいけないな。

しかも、護国卿から国賓待遇で身バレしたアイギスを扱えと、お達しまで出てたのに、だ。


妖精族の王さまだから、ゴブリン相手でもバレたら面倒事になるに決まってるんだよな。盗賊ギルドもそれが目的で巻き込んだんだろ。伯爵が相手なら迂闊な事はしないと。



……だが、アイギスの後見人が凶悪過ぎて全てが薙ぎ倒されようとしている。魔女王と天使王なぞ神話の世界の存在だからな、やる事に半端がない。


おそらく盗賊ギルドごと絞められる。

伯爵領単位で血祭りにあげる気だろう。手を出せばどうなるかという解り易い見せしめに、だ。


だが今回はいきなり殺られない分、チャンスがある。国と国との話になってるからな。

だが、伯爵もまさか自身がそこまで追い込まれてるとは信じられず、説得に時間が掛かったが……


護国卿直属の近衛騎士団がこの領都ヴェスタにバレるのを承知で入り込んでるのが状況の深刻さを物語り過ぎてるだろう。

――もう対応が取り潰し前の貴族家レベルと。


何か不審な動きがあれば居城に突っ込んで来るのは火を見るより明らかだな。馬鹿やるなという無言のお達しだろう。


……おかげで説得するのに大分時間が掛かっちまった。

オレが提案した策にゴーサインが出たのは期日の前日。

つまり今日だからな。


護国卿の逆鱗に触れる可能性大だが、死中に活を見出みいだすにはこれしかない。逆に言うならコレをやられると王国側も手を出せなくなる。

どのみち黙って見てれば伯爵が詰め腹切らされるだろうからな。


ただ、オレもこの土壇場に伯爵が腹割ってくれたんでなんとか、一発逆転の奇跡の一手を思い付いた。

オレも良く思い付いたぜ。自分を褒めてやりたいな。


なにせあのアイギスに、――確実に伯爵の首を取ろうと思ってるヤツに詫び入れるんだ、これくらいやらないと伯爵の生命いのちはないと考えるしかない。

……ないんだが自信がないんだよ。コレが。


条件的にはコレがベストという確信が有るんだが、これでも伯爵の首に届かない可能性が捨てきれない。もう一手、そう、ダメ押しにもう一手欲しい。


そしてオレはその奇跡の一手を更にダメ押せれる人物を日がな一日ギルドのカウンターで待っていた。

そしてその人物が陽が落ちそうな頃、遂に現れた。



金髪碧眼の3歳児くらいの幼女アリーシャちゃんが酒場兼業のギルドに入って来る。


そしてカウンターのいつもの席へ。

背丈が足りないので足が長い専用の椅子に、だ。

そして幼女はいつもの通り、何もない空間から透明のコップと魔法瓶を取り出した。


魔法瓶からミルクをコップに注ぎ。幼女はそれに口をつける。見た目3歳児なのになぜか様になってる。

そしてコップをもう一つ取り出すとその魔法瓶にもミルクを注ぎだす。まだ、先に注いだコップにミルクが残ってるにも関わらず。


そしてそのコップをコースター(敷き物)に乗せ、カウンターの上で横滑りさせ、オレの目の前へ


「フフフ。どうやら困りごとかな、ギルドマスター。まずはそのミルクで喉を潤すと良い」

「…………」


……取り敢えずオレは言われた通りミルクを飲む。

喉越し爽やかなミルクだ。ミルクに高級品があるかは知らないが、粉ミルクよりは遥かに上等な品だよ。


「すべて、このアリーシャちゃんにはお見通しよ……恋の悩みか……」


……この幼女さん、たまにやって来ては、冒険者から恋愛相談を受けている。

何でも冒険者同士をくっつけた実績があるとか。

かなりの確率で上手くいくんだと。ダメなのは即座に脈がないと言われるらしいが。


「いや、そっちじゃないんだわ。実は別に悩みごとがあってな相談に乗ってもらいたいんだが……」


そして、ん? って顔して幼女がオレの方に顔を向ける。予想と違ったので明らかに意表を突かれたって表情だった。ただ、すぐに表情を戻して何かを悟ったような顔をするのはさすが聖人だな。


「悩める子羊よ、何でも話すが良い……あらゆる問題を解決してみせよう」

「助かるぜ、アリーシャちゃん。ただ、ここで話すのは人目があるから奥の部屋へ来てくれないか」


すると幼女さんは小さな指を合わせパチんと鳴らす。

急に周囲から音がまったく聴こえなくなった。

魔法だろうがまるで発動の瞬間が解らない。

魔力の流れで普通は魔法を使われる前に解るモンなんだが……確実に凄腕の使い手だな。


「さ、話すが良い。きっと良い感じにしてみせる」

「頼もしいな、じゃあ聞いてくれ。実は――」


と、包み隠さずオレは事の顛末とアイギスに持って行く予定の詫びの内容を話した。

そして詫びの内容は伯爵家の当主の挿げ替えだ。

伯爵は今回の件の責任を取って当主の座と爵位を返上する。


この"返上"というのが肝でな。

実は本来の正統な当主は混血妖精ハーフエルフの姫君なんだ。


この王国ではハーフエルフは貴族には慣れないという法が有る。だが、爵位を継げないのと正統性はややこしい事に別の話だ。

爵位は国から認められる物であって、正統性はその家族の問題だからな。誰を当主に据えるかは一族の問題、当然、正統性もだ。


そこでオレと伯爵はそのまま当主の座をそのハーフエルフのヴィリア・レアという姫君にして、伯爵領ごとアイギスに詫びとして渡す事にした訳だ。

そもそも伯爵の爵位は後付けで元々はシル・ヴェスターは王家が治める独立国だったからな。


爵位に拘泥しなければ当主がハーフエルフでも問題ない訳だ。当然、王国から認められない訳だが、アイギスと聖魔帝国の承認があれば特に問題ないだろう。おそらく王国からぶんれるだろうからな。


「ヴィリア・レアさまにも承認頂けてるらしい。何だったら嫁入りも求められれば応じるそうだ。政略結婚みたいになるから、アイギスが納得するかそこが不安でな」


そしてオレが話し終えると幼女は満面の笑みを見せた。


「素晴らしい。それならアイギスちゃんもきっと満足してくれる。……ギルマスよ。境地に達したようだな」

「……お褒め頂き恐縮だな。……おそらくアイギスに通用するのはこの手しかない。ただ、聖魔帝国に直接、はなしを持って行った方が確実じゃないかと思うんだよ。アリーシャちゃんにはつてとかないか?」


「ギルマスよ。怖れることはない。アイギスちゃんに直接持って行くのだ。きっと上手く行く。良い感じになる」

「……正直。自信がねぇんだわ。悪くはない筈なんだが……」


「ふむ……。このアリーシャちゃんの出番か……」

「アリーシャちゃんなら、アリーシャちゃんなら何とかできるか? 自信がある?」

「フフフ。この愛の伝道師、最強のキューピットに任せるが良い。また計画が良い感じになる」


幼女が自信ありげな表情を浮かべてるぜ。

良しっ、コレでなんとかなる筈だ。

この幼女に任せれば上手くいく、オレにはそう確信がある。なにせ聖魔帝国では三大聖哲とか言われる聖人らしいからな。


これで聖魔帝国に話が渡ればきっと興味を持つ、伯爵の生命と伯爵家はこれでなんとかなる筈だ。

もちろん、本命のアイギスを説得できればそれに越したことはない。



「じゃあ、頼むぜアリーシャちゃん。伯爵の生命いのち、預けるからな」


そして幼女は笑みを浮かべて親指をグッと立てる。

そしてオレは全てを幼女に託した。後は結果を待つだけだ。

オレが話すと何言われるか解らなかったからな、まさに救い主だ。頼むぞぉアリーシャちゃん。



と、思ってたらアリーシャちゃんが次の日オレを迎えに来た。……オレも一緒かよ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ