第二話 妖精騎士アイギスさんと闇妖精の暗黒騎士(3)
やっとサブタイ回収。騎士が出てくるのに暗黒騎士を出さずしてファンタジーとは言えぬ。
シル・ヴェスター伯爵領の領都ヴェスタ。
その街を小高い丘から見つめながら、漆黒のローブを羽織り、フードを目深に被った騎士――女が携帯通信機で連絡を取っていた。
「今、現着した。最新の資料を読んだが現状の集めた話しでは最も可能性が高いな」
『――は…。マ……マット様が分…した情……す。ギリギリで精査……下さ……した』
通信機から聴こえる音声は途切れ、途切れ。大陸間通信と言えどタイムラグなしで会話できる星幽界経由の魔法通信が通信不良だ。
「ロルムンドめ。大陸北部全域に通信妨害を仕掛けるなどよくもやる。まぁ、聖魔帝国も調査妨害に飛空艇を撃ち落としてる訳だが……駄目だな、もう声が聴こえん」
が、通信機に独白に近い形で語り掛けたが反応がない。もはや完全に通信が不能――騎士は通信を諦め街を丘から見下ろす。
「さて……神祖の妖精王か。どんな奴かな? まあ当りとも限らんが」
丘から吹き上げた風に煽られ、フードが外れる。
フードから顔をだしたのは黒髪に闇妖精特有の褐色肌をした若い女であった。
名はジール・ジェラルダイン。聖魔帝国冒険者ギルド所属。ランクは最高位のSSS。二つ名は、敵対すればこれ以上の災厄はないという意味で付いたあだ名〈最凶最悪〉。
真龍殺しまで単騎で成し遂げた最強の冒険者が今、神祖の妖精王に迫ろうとしていた……。
†
今日も今日とてわたし、アイギスは冒険者ギルドにやって来ていた。
仕事がないか、朝からギルドの掲示板と睨めっこ。
そして酒場でもあるギルドのカウンターに突っ伏す。碌な依頼がない。
流石にもう冬の時期に入っていて、冒険者に頼む依頼が少ないのだ。そもそもこの地方だと隣村まで、まる1日掛かるとかざらにある。
しかも雪が降り積もって、更に時間と体力を消費するのだ。そりゃ余程の事がなけれは依頼を出そうとは思わないよね。依頼出しても装備背負った冒険者も、まず行きたがらないし。
ちなみに転移魔法で目的地まで飛べたり、ショートカットできるわたしでも嫌だ。
モンスター討伐だと、待ち伏せ依頼以外は獲物を探し回るのだ。雪の中を歩くのは変わらないぞ。帰りが楽なだけ。
しかしわたしは今、冒険を求めていた。
冒険者たる者、冒険せずして生きる価値なし。修羅の如く戦いに身を投じるのだ!
と言う心境になりたいのだ。理由は推して知るべし。
そして、ふと、カウンターに突っ伏すわたしを見つめる視線に気づいた。30代後半の、精悍な顔付きのギルドマスターが呆れ顔で何も言わずに見下ろす視線に。
「……なに? 用があるなら言ってよね」と、わたしは突っ伏しながら無言のギルマスにツンツンする。
わたしのデレを期待するなら割りの良い依頼を持って来いと言う話だ。
「い〜や。最近やけに依頼をこなしやがるな。と思ってな……なんだあのシルフィの嬢ちゃんと上手く行ってないのか」
確信を突かれた! とここでわたしがガバっとカウンターから顔を上げて、顔を真っ赤にして「なななっ」とか声にならない言葉を上擦ると思ったら大間違いだ。
わたしには前世の知識がある。そんなラノベ、アニメ展開余裕で回避できる。舐めんな。
既にギルマスに知られる事態は考慮済みだ。ガバっと顔を上げたい気持をグッと抑え。紅潮した頬をカウンターに突っ伏しながら隠す。
くそう、くそう。遂に気付かれたか。そりゃ冬場に仕事したくありませ〜ん。って生言ってたのがいきなり仕事を熟しまくったら何かあったと勘づくだろうな、とは思ってたよ。
冒険者にも良くいるらしい。嫌な出来事があって仕事に逃げる人。まぁ、娼館の嬢に騙されて逃げられたとか残念な人までいるけど。
ただ、それを思えばわたしは極めて真っ当だ。誰しもが通る道だろう、これ。しかし、まさか女の子相手とは思うまい。コレだけは知られてはならぬ。
「ギルドマスター。今、お前自分が生命の危機に瀕してるって理解してるか……?」
酒場には他に冒険者も居る。何人かは聞き耳立ててるの分かんだよ、気配とかで。ここでまさか冒険者稼ぎ頭ナンバーワンのわたしが女の子経験のなさで錯乱して身悶えてるなんて知られてみろ。もう、こいつら口封じに皆殺しにして河岸を変えるしかねぇ。
そして、わたしアイギスは頬の紅潮を怒りに変換、カウンターに突っ伏しながら殺気を練り上げる。
このギルドマスターは危険だ。このままだといずれ真実に辿りつく。なんだかんだ言ってお世っかいなんだこの人。なら、
「良いか。世の中には踏み入っちゃ行けねえ領域があんだ。片足つっこんだぞ、今」
「…………マジか。それ程か。そこまで踏み入ったのか、今ので」
ドスの効いたわたしの声にギルドマスターが一歩身を引く。わたしアイギス本気でブチキレ一秒前までに自身の精神状態を持っていく。返答次第では殺る。
「ああ。これ以上は立ち入るな。判るな?」
「……ああ、解った。個人の問題に立ち入っちまったな。済まなかった」
目にしなくても頬に冷や汗を引くギルマスの顔が浮かぶ。これで釘を打てた。ちなみに周りの冒険者も騒いでたのが静かになった。
強すぎる奴あるあるなのか本気で怒ると周りが静かになる。この世界でも有効だ。
今のわたしは世界最強の生物種、真龍でもブっ殺せる、という気概の殺気を放ってる。多分、殺れる。
まぁそれ程の精神状態に持っていかなければ出来ないんだけど。
取り敢えず無駄な殺しはせずに済んだとわたしは安堵。自分の精神状態を平常心に戻していく。冗談でしょう? と思うかも知れないけど、本気だよわたしは。
冒険者は舐められたら終わりな稼業なんだ。舐められると喧嘩売られるし、殺されるまであるから。厄介ごと防止の為にそこまでやらないと駄目なの。
ゆすり、たかりとか普通にしてくるから舐められると。
法律とか道徳とか関係ない。そう言う世界なの。
わたし、アイギスがこの稼業で学んだ重要な事。
はっきり言って女の子がやるようなカタギの稼業じゃないからね。憧れるのは良いけど碌なのいないから。やるならそこ覚悟してね。
そしてわたしは、心の平穏を取り戻してカウンターに肩肘ついて頬に手を当てた。
でも、本当にどうしようかシルフィちゃんとの関係……冷静になると一時の気の迷いだと思うし、恋に恋する乙女だとか、思春期だと思うんだけど。
心がさぁ〜。
やっぱりわたしの実年齢が八歳ってのが問題なんだろうなぁ。え、若すぎるだろ! と思うかも知れないけど、前世の人格の記憶なくて、この世界に来てから=年齢にするとそうなるんだよね、わたし。
前の世界の知識ばっかあるから、内心が子供っぽくないだけで。実は見た目の年齢より若かった件。ロリとか言った奴は躊躇なく殺す。
そして、わたしが悩んでると酒場兼冒険者ギルドの表玄関の扉が開いた。備え付きの扉についてる鈴がカランコロンって鳴る。
そして、扉を開いて入って来た人物にわたしは目を瞠る。
黒ローブのフードを目深に被り、手足に黒色の装甲を装備。ローブは腰元で前が切れていて褐色肌の太ももが露出(絶対領域)。魔術師が着るようにやぼったい服装ではなく、スタイリッシュという言葉が似合う人物……
どう考えても只者じゃない。わたしも浮世ばなれした装備してるけど。あんな赤い光刃のライトセーバー出して来ても違和感ない人この世界で初めて見る。
そんな、ザ・ダークサイドって人が姿を現していた。




