第十七話 妖精騎士アイギスさんの血塗れの妖精騎士と仇なす者達(4)
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シル・ヴェスター伯爵領の領都ヴェスタ近郊のとある村。
その村の普段使われてない荷物置き場の倉庫には複数の人の出入りがあった。
真冬の只中だが、村人達は見慣れぬ者達の姿を見ても見て見ぬふりをする。
この村の秘密を知る者なら決して余所には漏らさぬ事だが、村には不釣り合いな程の大きな倉庫には盗賊ギルドの荷物が置かれて居て、盗品や抜け荷の品、或いは禁制品といった非合法の品物の数々が集められているのだ。
村人はその事を知りながらも口を固く閉じる。
漏らせば当然、どうなるか知っているからだ。
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倉庫の中は外が真冬とも思えない程、快適な温度に保たれていた。
入口からもう一つの扉を抜ければ、倉庫内に刻まれた魔法陣によって温度が自動管理されているという、聞けば驚きの仕込みだ。
オレのような盗賊ギルドに出入りしてる人間でもこういった場所には中々立ち入れない。
わざわざ空調管理なんてしてる程の倉庫だ。
いくつもの木箱に収めて段積みにされているが、ここに集められている品は当然それほどの物で、盗まれるようものなら目も当てられないだろうからな。
そんなオレが今回立ち入る事ができたのは隣に居る目が据わった御老体のおかげ。
ヴェスタの盗賊ギルドの中では実質ナンバー2と言っても良いくらいの爺さんだ。
本来ならこの爺さんがヴェスタの盗賊ギルドの長、"顔役"と通称されるガンガスが死んだ今、その後釜に収まってもおかしくはないんだが……
「ディック。目が泳いでるぞ。遊びに来たんじゃねえ」
昔堅気の盗賊で厳しい爺さんだ。はっきり言って人気がない。古株の盗賊達には信頼しかないっていう生粋の盗賊なんだがな。
ただ、流石に歳だ。
後釜狙いに名乗り挙げるのも難しいので、後継が誰に成るか見定める為に今まで、沈黙を保ち続けていたが……
現状のヴェスタの盗賊ギルドが最悪の状況に置かれている今、跡目争い連中をこの倉庫に呼びつけていた。
そして太々しい顔した連中が何人も入ってくる。
跡目候補一人に付き護衛は二人まで、という条件付きでここに居るのは九人。内三人は爺さんとその護衛とオレなので、二組は来た。
……もう一組呼んだ筈なんだが。
隣の女盗賊が老に話しかけていた。
「デロス老、時間ですが、ハーボックの奴らが来ませんね」
「言付けはねぇのか」
「確認しますので少々お時間を……ディック」
「言われんでも護衛の任を果たすさ」
と、女盗賊。魔術師でもある女に睨まれてはな。
ちなみにこの女、ベロアという名なんだが盗賊としても魔術師としても中々の腕前。オレでも勝てるか解らないくらいだ。
そしてベロアが一旦外に確認しに行く。
「来なけりゃ跡目の資格を失うという話だった筈だぞ。デロス老」
と、言い方に敬意が足りてない背の高い男。この男はブリングスという後釜狙いの一人だ。
…………コイツがオレを嵌めた男でな。
ゴブリン村に仕事の危険も説明せずに突っ込ませてくれた奴だ。
"客"相手に嵌める事はあるが"出入り"相手に嵌めてくれるとは中々やってくれる奴だ。
ちなみに"出入り"は盗賊ギルドを運営する"身内"ではないが、客分みたいな立場の者達。
裏切れば制裁が待ってるが、代わりに便宜を図ってくれる食客だ。立ち位置は様々だが、それこそ身内に限りなく近い奴から、只の客に近い奴まで居る。
盗賊ギルドに認められた奴しか慣れないのが共通。
当然それなりの腕と信用が求められる。逆にギルドからもそれなりに信用を置かれて裏切られない事を前提に仕事してるからな。
自慢じゃないが、そこらの連中よりはオレも腕はそこそこ有る。
信用に関しては……誰かさんのおかげでヒビ割れてるがな。おかげで盗賊稼業を廃業するか、異国の地に赴くかの瀬戸際だ。
それもこの仕事を終わらせて解放されればな。
……相手がヤバ過ぎてまるで信用できねぇが。
オレを使って盗賊ギルドに探り入れる仕事を与えたあの闇妖精の女暗黒騎士。
人を見る目が"物"だからな。
石ころと同じレベルで人間を見てくる。殺し屋に偶に居るが、会話しててもまるで態度が変わらない点が違う。殺し屋でも会話してる時は感情の揺らぎがあるが、奴に関しては全くない。
まともに会話出来てるのが逆に異常だよ。
しかも、立ち居振る舞いが戦士として一流で、悪魔どもに敬われてるとか、常軌を逸してるな。
それに比べて、目の前の後釜狙いの連中の頼りなさよ。天と地獄の底までの開きがある。役者が違い過ぎるぜ。
特にオレを嵌めたブリングスが下らん事でデロス老と言い合ってるがコレで跡目を狙おうってのがな。
「第一この集い。デロス老の顔を立てて来てるが必要か? 特にダンケス。良くもまぁ面出せたものだな」
「趣旨は伝えた筈だぞ、ブリングス。今やヴェスタの盗賊ギルドは風前の灯だ。この窮地をどう脱するか、それが跡目の相続を認めるかどうかだとな」
「その状況に追い込んだ原因がどうしてここに居るか聞きたいんだがな」
「それは全員が揃ってからだ。遅れてる奴は確認を取ってる。少し待て」
えらく煽ってるなブリングス。
煽ってるのは失敗を重ねた半妖精のダンケス相手に優位に立とうという奴の手だな。
それで自己の精神的優位を保ちつつ、聴いてる連中にも自分の方がマシだって表明してる。
だが、それは三下相手にしか通用しない手だぞ。
プロの盗賊なら例えどんなに窮地でも平然と聞き流すさ。言葉で人を操ろうとするテクニックなぞ盗賊の常識だからな。
ただ、黙って沈黙を保つダンケスも表情に出てるのが未熟でな。口論せんだけマシと言えるが、親父の元で修行を積んでも独り立ち出来て居なければな。
そして先程、外に出て通信魔法で確認を取りに行った女盗賊ベロアが戻ってくる。
「ダメですね、デロス老。連絡が取れないようです。近くに潜んでる様子も有りません」
「そうか。なら、致し方あるまい。――ハーボックについては跡目争いから脱落したと見做す」
厳粛、以外のなにものでもない声音でデロス老が宣言する。
盗賊というより剣術の師範か何かぐらいの性格が固い御老体だからな。職業選択を誤ってるな。
若い奴らにまるで人気がない。
ただ、オレは好みの爺さんだがな。厳しいが味はある。
「はっ。所詮、運び屋ではな。シノギがどうとか言ってたが、誰がヤツを顔役にできるかという話だ。しかも運び屋の癖にここまで来れないなぞ、話しにもならんな」
「ハーボックはおまえよりマシだったがな」
「何? 出入り風情がオレにサシで口答えか?」
「やめんか。ディック! 口を挟むな」
オレは両手を広げて降参する。つい余計な差し出口を挟んだな。……わざとだよ。反応見たいが為だ。
知り合いという訳じゃないから、どんな奴か知りたくてな。
結果は盗賊の癖にエリート気取りと具にもつかん野郎と出たが。
だが、ギルドの"身内"だと偶にこういう奴も居るからな。既得権益の成せる技だ。
「デロス老。"出入り"にデカい口叩かせるのは風紀の乱れという奴だぞ」
「私にではなく死んだガンガスに言うべきだな。認めたのは奴だ」
「ガンガスも腕前だけ見て不埒者ばかり集めたからな。おかげで足を引っ張られてこのざまだ。そうは思わねぇかダンケス」
「……親父の悪口を言う前に話を進めて貰いてぇな。アッパスの連中の姿も見えねぇようだが?」
「奴らはこの集まりから辞退した。オレが奴を跡目と認めることは無い」
「結構なことだ。こそ泥風情がギルドの頭を張れると思ってるのが間違いだ。身の程知らずにも程があるぞ」
まったくだ、ブリングス。おまえも含めてな。こそ泥がこそ泥を貶してるのが滑稽過ぎる。盗賊を余程上品な商売と思ってるらしいな。粋がった所で人様の上前を跳ねてるに過ぎないぞ。
「じゃあ。話を進めてぇな。口だけ回る野郎にこのまま喋らせるだけなら帰らせて貰うぜ」
「さっさと帰って逃げ支度でもするんだな。おまえに逃げ場が有るかは知らねぇが」
「ブリングス。ダンケス。話を聞かないようならオレはお前らを跡目とは認めない。余計な口を挟んでもだ。仕切りの12人がオレに委任状を渡した。意味は解るな?」
聞いてたより数が増えている。この盗賊ギルドの過半数だ。他の仕切り屋は跡目候補の推薦人だから、デロス老は長を見定める委任に抜擢されたに等しいな。
ちなみに仕切り屋はギルドの中堅。勿論、身内だ。
コイツらが現場を差配してる連中だから、背かれたら実質盗賊ギルドの運営ができなくなる。
まぁ、殺して顔を総入れ替えしたギルドも昔居たから絶対ではないが。
そして、ダンケスとあのブリングスさえ神妙な顔して口を閉じる。頑固一徹のデロス老の性格故だな。
言った事は余程の事がない限り曲げねぇ。
老の性格の固さはギルドでも有名だ。ここで不興を買うとギルド長の座が夢になるからな。確実に。
「では、始めるぞ。話は簡単だ。どうやって乗り切る? 本家にすべて委任するならそれでも良し。お前らが跡目を継ぎたいならこのギルドの窮地を脱する方法を教えてもらおうか。それが仕切り十二人が私に託した願いだ」
そしてデロス老は二人の様子を見る。
ダンケスの表情は真剣そのもの。対してブリングスは顔をニヤつかせて余裕の表情だな。
何か手があるらしい。是非、オレも聞きたいね。
あの〈鮮血妖精〉と聖魔帝国。
神話の領域からやって来た妖精と悪魔どもを敵に回して、どう乗り切る気だ。オレの知る限り最悪のタッグだぞ。
そして、口を開き出したのはまずダンケスからだった……
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「既に〈鮮血妖精〉とは渡りと交渉の段取りはつけてある。必要なのはオレを顔役と認めることだ。金がなければ話にならねぇからな」
「具体的な段取りは? それと交渉の材料を言えダンケス」
「渡りは金貸しのバルガスだ。奴が仲立ちになる。交渉の材料はあの家畜主。金はオレが顔役になればギルドの金が使えるだろう。そいつを資金源にまずは本家に詫び入れだな」
「はん! 話にならんぞ、ダンケス! おまえの落ち度でどうしてギルドの金を使わねばならん。それで認める馬鹿が居るか」
「ブリングス。余計な口を挟むんじゃない。……だが、ダンケス。それで〈鮮血妖精〉が交渉に乗る保証もない。奴が欲してるのはおまえの生命だぞ」
「だろうな。だったらそいつも交渉の材料だ。だが、オレの生命が無ければ逆に言えば交渉にならねぇだろうな。当然、家畜主もだ。両方持ってるのはオレだけだな」
生命と来たか。
確かにそいつ以外にない。あの〈鮮血妖精〉がそれ以外に交渉に乗る筈がない。カードを用意しようにも無さすぎる。
奴の家族を狙おうにも、〈鉄血聖女〉にシャーレの姫君、アイリとかいう奴似の化け物と既に絶望的なラインナップだからな。
他の家族は完全に護衛が付いてる。
ヴェスタの街自体に悪魔どもが潜んでるんだ。
これではやりようが微塵も存在しない。狙えばより最悪な状況になるのが目に見えてる。
「まったく殊勝な心掛けだな。貴様と家畜主、両方引き渡せば話が済む。おまえの生命一つで償えれば安いものだな」
「そうは行かねぇだろうな。ギルドが生き残るにはそれだけじゃ足りねぇよ。オレの生命も、だが、おまえの生命もだぞブリングス」
「馬鹿を言え。貴様の失態にオレを巻き込むな。むしろ、伯爵をオレが巻き込んだからこそ盗賊ギルドが命数を保って居られるんだぞ」
「その伯爵も縮こまって奴とはまるで交渉出来てないようだがな。護国卿から密かに近衛騎士団を派遣されてるのに、まるで動きがない。こいつをおまえの頭じゃまるで理解できねぇんだろ」
「伯爵の護衛だろう。殺されては面目が立たんからな。だが、相手はあの〈鮮血妖精〉とあの悪魔どもだ。大っぴらに護衛しては本当に殺された時にそれこそ面目が立たんから忍んでいる。それだけの事だ」
「護衛の意味がまるでねぇな。城にさえ騎士団は入ってないんだぜ。コイツは伯爵も責任を取らされると見るのが道理だろうよ。〈鮮血妖精〉は奴の首も欲しがってるのさ。おまえのおかげでな、ブリングス」
言われてもブリングスはまるで小馬鹿にしたような態度を崩さないな。〈鮮血妖精〉への理解力が足りてないな。
ブリングスが両手を広げて、愚か者を見下すような目つきでダンケスを見た。
「まったくおまえの妄想には付き合いきれん。生命惜しさに言う事がそれではな。デロス老。どう思うんだ、コイツの言い草を」
「ブリングス。反論があるならおまえの言葉で語ってもらおう。そうでは無いという根拠を」
「まったく老は頭が固いな。……昔の〈鮮血妖精〉ならいざ知らず、今は妖精どもを率いる立場というじゃないか。あの悪魔どもの国、聖魔帝国か。奴らはやる事は派手だが、実際には外交交渉もするまともな国だ。奴が伯爵の首を欲しくてもその上の聖魔帝国が許す筈があるまい。なら、伯爵とは何処かで手打ちになる。さっきも言ったがそうしなければ王国の面目が立たないからな」
案外、まとな回答が出てきたな。
ま、普通はそう思うな。王国の護国卿が伯爵を差し出せば議会の貴族が黙ってはないだろうからな。
聖魔帝国も国家である以上、暗殺したとなれば体面が悪すぎる。王国と国交を二年前くらいに結んだ国だしな。王都の新聞に好意的な論調で乗るほどだ。王国と友好関係は維持したいだろう。
但し、それは相手が"対等"の場合。
「それだと伯爵と手打ちになるだけだろ。盗賊ギルドとの交渉の話にはならねえ。何より伯爵を飛ばして護国卿と交渉してると、何故てめぇは思い浮かばねぇんだ? 大国の聖魔帝国が辺境貴族とどうして交渉するんだ」
「くっ――」
ブリングスが言葉に詰まって咄嗟に反論できない。
そりゃ正論言われたからな。
まともな奴なら三下相手にするより大元に話通すだろ。しかも、古代魔法文明並の先進国だぞ。
国交締結の外交交渉する時、これ見よがしに空中戦艦で王都に来てたからな。この国には飛空艇さえ一隻もない。辛うじて空の守りに竜騎兵が居るくらいだ。軍事力で勝てる相手じゃないんだぞ。
ヤツらが侵略して来ないのは他の魔法文明時代の技術を独占する大国と協定を結んでるからだ。だが、何かやらかせば大陸の東側の国のように軍隊派遣されかねん。
圧倒的な軍事力を背景に王国も威圧されてるさ。
辺境の伯爵なぞ話にもならんだろうな。
そしてダンケスがそのまま畳みかける。
「伯爵は当然、詰め腹切らされる。裁判に掛けられるだろうよ、やんごとなき身分だからな。オレ達の仕事を白日の元に晒さればどうなるか……おまえの仕出かしでなブリングス」
「馬鹿な、あり得ん!王国が非を認める筈がない。裁判するくらいなら確実に暗殺する。面目が立たないから手打ちに持って行く筈だ」
「かも知れねぇな。だが、オレ達のやった事は帳消しにはならねぇな。コイツはそれをどうにかしようって話し合いなんだぜ。もう王国が絡み初めてるんだ。そいつをどうするんだブリングス」
「それこそ貴族どもに金を積めば良い。奴らは常に金に困ってるからな。幾らでもオレ達との交渉の段取りを進めてくれるだろうよ」
「その金がギルドの金じゃ引き出せねぇんだよ。バルガスに聞いて来たぜ。……聖魔帝国との問題を解決しなければメルキールとフリオニールの口座からは引き降ろせない」
「なっ…………」
金の話になったので一瞬オレも理解が追いつかなかったが……
オレ以外のその場に居た奴らが面食らったから悟る。ギルドのメインバンクはその二つか。盗賊の金でも預かってまず安全だからな。
他の銀行は信用が劣る。その二銀は信用しか存在しねぇと言われてるからな。
「馬鹿なハッタリを言うな! 顔役を決めれば連中とは嫌とは言うまい。奴らはそれで信用を得てるんだぞ」
「…………老。オレはここに来る前に言った筈だぜ。確認してねぇ事はないよな?」
「ああ。メルキールとフリオニールには渡りをつけた……事実だったよ。聖魔帝国とは敵対したくないとな」
「馬鹿を言うな! メルキールはともかくフリオニールはベイグラム帝国の大公が……」
「奴らはその大公とさえ繋がってる。オレ達の想像超えてるんだ。なら、他の口座の金を掻き集めるしかねぇんだよ。それも今すぐにだ」
「ギルドの運営資金源ていどではないか! 金の工面すら困るだと貴様っ!」
ブリングスが食ってかかるようにダンケスに掴み掛かろうとするが――
「やめろ! ブリングス。ここで喧嘩しても埒が明かねぇ。オレはギルドの未来を聞いている。てめぇらの将来を心配してんじゃねえ!」
デロス老に一喝されブリングスの動きが止まる。
自然と理解に及んだら、オレも心の内で戦慄が走ったぞ。
聖魔帝国を侮っていた。と。
王国の商会を母体とするメルキール銀行は所詮はこの国だけの銀行だが、フリオニールは帝国は元より周辺国にまで手を伸ばす大銀行と商会だ。信用という点ではメルキールより遥かに上。
大陸規模だ。
そのフリオニールはこの王国の裏社会に於いても厳然とした存在感を保っている。盗賊ギルドの本家でさえ迂闊に手を出せないほどに、だ。
そのフリオニールにさえ幅を利かせる聖魔帝国はここに居る全員の予想を超えるほど、この大陸の裏社会に根を伸ばしてるのではないか……
神話の存在がその圧倒的な軍事力で経済支配を企んでいる。その想像図が自然と思い浮かぶ。
何よりもそんな謀略を企むような相手がこの辺境のしがないヴェスタの盗賊ギルドと敵対してる事実。
「コイツは……予想より遥かに最悪な状況だな。盗賊ギルドの本家ですらフリオニールの信用を傷付けられないと評判だ。奴らを動かせるほどか……聖魔帝国」
老の一喝の後にぽつりと呟いたオレの言葉にその場に居た奴らの注目が集まる。
ここに居る連中は裏社会で生きる盗賊だ。
だが、もはやこちらの領分すら掌の上。逆立ちしても勝てないような相手だった……
この場に居る全員が多かれ少なかれその危険に気づき初めた。
最悪だぜ。しかもその最悪の相手が重視するのが、あの大陸一の大国ベイグラム帝国すら敵に回して余裕で生き残った〈鮮血妖精〉だ。
その両方を敵に回してる事実が、この場に重く伸し掛かる。今まで安泰だったこのヴェスタの盗賊ギルドが皆殺しの憂き目にあってもおかしくはない。
前ギルド長ガンガスが殺られてしまってるのが何よりもその証左。もう、こちらの手の内から何まで知れ渡ってる可能性が高いのだ。
何よりヴェスタの街で敵対した奴らに悪魔どもは何をしたか……生命に対しての汎ゆる冒涜の限りを尽くしたのではなかったのか。
そんな危険に気づきダンケスとデロス老以外は顔を青ざめさせていた。




