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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第十七話 妖精騎士アイギスさんの血塗れの妖精騎士と仇なす者達(2)







雪羊、二度目の盗難事件が起こった2週間後。


わたし、アイギスさんの自宅にギルマスが訪ねて来た。

わざわざやって来たので取り敢えず居間に通してソファのある所で対面してる。


「で、ギルマスぅ。わたし忙しいんだけどさぁ。用って何よ」

「…………」


わたしの態度が思いっきり悪いのは、この愛の巣たる自宅にギルマスを案内したくなかったからよ。

このアイギス、公私はける主義。

家庭にまで仕事を持ち込みたくないんだよね。


「そいつは悪いな……だが、何度も使いをやったんだが埒が明かなくてな」

「だから、色々立て込んでるんだって。当分、仕事できないって言ってるでしょ。セレスティナさんとかティアエルさんとか居るから大概の冒険者の仕事は何とかなるんだし」


二人とも練達級の腕前超えて伝説級の実力者だよ。

わたしの代わりにこの辺りの冒険者の仕事を十分できる実力はあるの。

土地勘がないのと転移魔法ですぐに現地に行けないのは、わたしが送り迎えしてカバーしてるし。


ギルマスの表情は何とも居たたまれない感じだよ。厄介もの扱いされるに決まってじゃん。

用向きさえこっちは解ってるのに。


「そのお二人には十分助けて貰ってるよ。有り難い事にな。……ただな、アイギス。伯爵がな、おまえに是非とも会いたいんだと」

「伯爵に言っとけ、身分考えろとな」


世知辛い身分制度の壁だよ、ごめんね。

貴族制の国なんだから、解るでしょ。わたし、自分でも解らないくらいめちゃくちゃ偉いんよ。

解りやすく言うと皇帝にプラスして教皇らしい。

しかも、コレでもまだ本来の身分的に控えてるらしいよ。実はこの世界の妖精族の創造神とか偉さがオーバーフローしてるね。


「別に公式に会いたいという訳じゃなくてだな……」

「公式でも非公式でも要求できないでしょ。聖魔帝国の外交担当の人に言われたわ。貴族からそういう申し入れあったら、聖魔帝国の在王国大使館を通してくださいってな。そっちに連絡しなよ」

「連絡しても、そちらの外務省を通してくれの一点ばりらしいんだかな?」

「そりゃそうでしょ。普通、国と国の話し合いになるよね。どうせ、ゴブリンの件なんでしょ」


そう、もう何も言わなくても冒険者ギルドのギルマスがうちに来るって言ったら、今、街中でももっともホットな話題になってるゴブリン村の件よ。もう、貴族と盗賊ギルドの悪巧みが公衆に知れ渡ってるんだよ。


「解ってるなら話しが早い。今、伯爵は盗まれた雪羊の件で持ち主の貴族らから猛抗議を受けてる。ゴブリンから雪羊を取り返して来いってな」

「普通さぁ。自領の事に余所の貴族が口出しできないでしょ。それに二回目の盗難がゴブリンじゃないじゃん。証拠ないでしょ」


「それを説明して欲しいんだがな。伯爵に」

「だからぁ、言いたくないけど身分弁えろ。おまえは帝国の皇帝と神殿の最高神殿長を同時に呼びつけるような馬鹿な真似してるぞってな」

「…………」


ギルマスが何も言い返せないって顔して俯いたわ。

苦しい立場なんだね、解るよ。だからって同情はできないなぁ。


「おまえんとこの伯爵さぁ。探り入れたら、盗賊ギルドに分け前の話しされてゴブリン村の利益に乗っかろうとしてたって聞いたんだけど?」

「らしいな、事情を話されたわ。で後から貴族連中が来たらしくてな。一蓮托生って事で弱み握られて、困ってんだとよ」

「どう考えても身からでた錆じゃんよ。それでどのツラ下げてわたしに来い、つってんだ言ってみろ」

「何も言えねぇなぁ……」


前に盗賊ギルドからゴブリン村の族長を脅しに来た盗賊が、伯爵がお怒りって言ってたけど、あれ、まさかの本当だったからね。ただの脅し文句かと思ってたのに。


「最初にゴブリンが雪羊盗んだ時には繋がってたとか最悪じゃん」

「いや、繫がりは盗まれた後からって聞いたけどな」

「言い訳は護国卿にしろって言っとけ。こっちは最初から嵌める気で仕組まれた事にするらしいからよ。国と国との外交問題、大人な対応だ。文句ないだろ? なぁギルマス」

「伯爵はそこを何とかして頂きたいらしいんだがな。このままだとマジでヤバいらしい。その護国卿から呼び出し食らったとか嫌な予感しかしねぇな」


ちなみに護国卿はこの国、ヴェルスタム王国のトップだよ。貴族共和政の立憲主義国家だから王様も居るけど、権力の大部分は護国卿の独裁政治だって。


そして、わたしは可愛いらしい声音でここだけの話をしてあげるの。


「ギルマスぅ。ここだけの話だよ? ……聖魔帝国外務省からぁ、伯爵の詰め腹切らせる感じで今回の件、決着つける気だって言われてるの。責任全部押し付けて外交問題解決。次いでに国交を樹立してわたしの妖精の国、初めてのこの大陸でのお友達にするんだって、両国の友情の証がぁ、その伯爵のク・ビ」


「冗談では……ない?」

「問題を共に話し合いで解決して友情を深める感じで行くらしいよぉ。春までに細かい事決めて雪解けの季節になったら条約締結予定。その頃には伯爵の首も跳ぶような予定だわ」


王国は伯爵を王都に連行する予定らしい。転移魔法もあるけど、無理矢理一緒に転移させる魔法を王国で使える人が居ないんだって。ちなみに後進国の王国は飛空艇一隻も持ってないし。


「……雪解けの季節になったら騎士団が山越えして来る気なんだな」

「らしいね。馬鹿な事しないよう精鋭の近衛騎士団も密かに少数が現地入りして見張ってるらしいよ。聖魔帝国の防諜部隊に間違えて殺らないで下さいって連絡来たらしいわ」

「…………その話に何か手立てはありませんかね。伯爵も相当こたえてるようなんだわ。他の貴族のつてを頼っても無下にされるらしくってな」


「根回しされてるんじゃない? 共和政っしょ。」

「手回し良すぎだな……仕方ない。伯爵に話をつけて来る。アイギス……オレの顔を全力で立ててくれないか?」

「…………次の就職先の心配は要らないよ。口くらい聞いてあげるけど?」

「いや、そうじゃない。伯爵助けたいんだが、条件とかあったら言ってくれって事だよ。オレへの義理立てで」


あぁん? とわたしは美少女エルフの眉根を寄せたわ。ギルマスが寝言ほざいてるからよ。このわたし、アイギスさんに抜け抜けと良く言えるなぁ、って表情で伝えたわ。


「…………ギルマスぅ。世話なってるのは確かだけどよぉ。義理も人情も立てる話じゃねえだろぉ? 百歩譲ってギルマスになら立てても良いよ。おまえそれを伯爵っておい。伯爵が実は美少女とかそういうのもねぇんだろ。ただの髭ヅラのおっさんだろぉ?」


美少女だったら考えなくもないよ。だが、そんな展開ないのわ確認してんだわ。万が一あったら困るからね。一度だけ貴族ブッ殺しに行ったら当主が子供ってパターンあったんだよ。


「まぁ、確かにそうなんだが……貴族としては比較的まともな方でな。貴族としては良心的では有るんだよ。前の伯爵とか無能な部類でよ。まあ世話なって来たから生命乞いくらいはしとかないと、……なあ」

「じゃあ、ギルマス。おまえは頑張った。十分認めてやるよ。伯爵の刑罰は一切苦痛なくやってくれって要望だしとくね。コレで良いでしょ」


「……そこを何とか頼むぜ。この領を拠点にやってくなら、伯爵は役に立つぞ。生命の借りだ。大概の要望は聞いてくれると思うぞ」

「ぶっちゃけわたしが手ずから首ねても文句言えねぇんだぞ伯爵。お慈悲で裁判して、それから首くくるよう取り計らってる……それを、何とか?」

「何とか……して貰えると嬉しいなぁ、オレが」


ギルマスのこの困り顔。初めて見たわ。この、そんな事言える立場じゃないの、十二分に解ってるんだけど言っとかないと一応責任あるし? って言う微妙な感を出した困り顔。

身を入れてないのがギルマスらしいわ。


「ギルマスよぉ。今後、世話になる分全部前借りして、全力でおまえの顔を立てて、だ。1週間だ。1週間でわたしがコレなら許してやるか、つーのを持って来い。交渉とかできると思うなよ? 伯爵にそもそもおまえの首ねるのが既定路線だって言うのを忘れるな? 下らん詫びを持って来たら状況はより悪化するぞ、ともな?」


「ああ、正直ここまで追い込まれてるとは伯爵も解ってないだろうからな。おまえがブチキレてるとは言っとくよ」


そしてわたしはもう行け、と指図するように小首を振ってギルマスを追い出した。伯爵の生命の別れ目まで後1週間だ。

でも、結局、大人な対応して実は生かすんでしょ?

とか思ってる良い子の君。大人の世界はそんなに甘くないよ〜。わたしの想像を超える詫び持って来なきゃもちろん死ぬよ。


伯爵の代わりはいくらでも居るもの。

なんか国の直轄領にするって話が王国で出てるらしいよ。そして聖魔帝国では、ならこっちの海外領土にするかって対抗策出てるらしいんだわ。


哀れ伯爵。もう領は取り上げられるのは"既定路線"でわたしが差配できるのはおまえの生命いのちぐらいなんだよ。


コレが政治おとなの世界だぜ。

たった一度の失敗で取り返しがつかなくなる。

本当に怖いね。じゃ、想像を超える詫び期待しつつ、ケジメつける相手の様子を見に行くか。


ちょうど、ケジメ対象が現れた時に来るとかギルマスもタイミング悪いよ。



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