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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第十七話 妖精騎士アイギスさんの血塗れの妖精騎士と仇なす者達(1)



ヴェスタの街の冒険者ギルド。



酒場のテーブルの一つに冒険者たちがつどい、冒険者らは興味をあらわに今回の騒動、雪羊連続盗難騒ぎの件に聞きいってた。


「で、アイギスの嬢ちゃんが絡んだあの雪羊。また、盗まれちまったってのか」

「ああ、盗賊ギルドじゃ大騒ぎだぜ。誰がやったかってな」


今は、情報を仕入れて来た半妖精ハーフリングの小男の冒険者ゼットンが、さっそく仕入れて来た話を同じ冒険者仲間に披瀝してる際中だ。


「誰がやったか、もしくは雪羊の行方の情報ねただけで金貨100だとよ。もう隠しきれないとみて、探してるって風にしてるな」

「……含みがあるな。おまえは違うってのか?」

ダウスと呼ばれる刀剣使いの名うての冒険者に半妖精ハーフリングの冒険者はおどけた用に両手を広げてみせた。


「そりゃ、ね。ゴブリンが雪羊盗んであのアイギスさんがそいつらシメて、また盗まれるだぜ。コレで裏がないって思わないなら盗賊どころか冒険者もやれねぇな」


「ゴブリンが盗賊ギルドと繋がってるのは解る。わざわざ雪羊狙うんだからな。そしてもう一度だ……盗賊ギルドが同じ手を使ったからその隠蔽か?」

「ま、普通はそう考えるよね。……別にアンタを馬鹿にしてる訳じゃねぇぜ」

「オレの体面メンツを心配してくれてありがとよ。で、他のネタも掴んで来たんだろう」

「ああ、面白いことになってるぜ〜」



そして今回の騒動の裏、金に成るゴブリン村を巡る悪党どもの陰謀の数々が冒険者達に明らかにされる。当事者たちがどう動いてるかは別にしてもその足跡だけである程度の推測は付くものだ。


半妖精ハーフリングの冒険者ゼットンはその情報を集め終わり、ほぼ確実だろうという事を口にしていた。


「多分、こいつが今回、裏で動いてる話だぜ。金を出した貴族どもは相当、頭に来てるな。盗賊ギルドも糸引いてたから疑われてるようだぜ」

「なるほど。だから、犯人に金を出すって事か。組んでたのにお厚い信頼関係だ」


「今回、その"犯人"が解らないってのが肝だよ。二度目の雪羊も同じ手口でやられてる。盗賊ギルドがゴブリンに見せてやったのか、ゴブリンが報復でやったのか、今回の裏をいち早く知った奴が仕掛けたのか……」


「酒のさかなには良いが、危険過ぎるネタだな。あまり面白がって近づくとタダじゃ済まねえだろ」

「さっすが、ダウスの旦那。オイラも知れば知るほどヤベェって冷や汗かくぜ。盗賊ギルドも後釜狙いでピリピリしてるしな。身内の裏切りで嵌められたんじゃないかって疑心暗鬼さ」


「盗賊ギルドも自分たちでさえ信用できないか……貴族どもが疑うのも無理はないな。だが、それなら金融ギルドも疑わしいだろ。今回、一番儲かるのは連中じゃないか?」

「ん? ダウスの旦那どうしてそう思うんだ?」

「まともな商売じゃないから金融ギルドは雪羊も全て貴族どもに買い取らせてる筈だ。……で、今回の盗み。合わせて金貨4、5000くらいか、コイツを借金させたとしてその利息でそこそこの儲けだな」


おお〜、と一目いちもく置かれるようにその場にいた冒険者たちがダウスに感心する。誰しも金貸しの事情に精通してる訳でもない。


「さっすが、ダウスの旦那。元"練達"級だぜ」

せよ。ただ単に金融ギルドで仕事を何度かこなした事があるから思い付いただけだ。それに切磋琢磨してる王都の金貸しならともかく、この辺境の金融ギルドでそこまでやる奴居るかは疑問だぞ」


「ここの金貸しの元締めバルガスの旦那は、若い頃に王都でのし上がった人だったって聞いたけどなぁ。今回の件くらい仕込んでもおかしくはないんじゃない?」


「いや。そこまでやるかはオレも読みきれねぇな。バルガスの旦那が敢えて動く理由には足りねぇ気がする。若い衆がその危険リスク取って来て、見所みどころがあるってんで口利きはしそうでも有るんだが」

「あり得そうだなぁ〜。あの元締め、金貸しどもに慕われてるらしいからなぁ」


そして、最初に半妖精ハーフリングのゼットンと話を進めていた古株の冒険者、グランストンが口を挟む。今回の集まりを呼び掛けた冒険者だ。


「しかし、そうなるとコイツはどう考えてもオレらの手に負えねぇな。金融ギルドなぞ下手へたすれば貴族や盗賊より厄介だぞ」

「そうだね。深入りし過ぎると火傷じゃ済まねえよ。もう何人かはお貴族さまの要望で動いてるようだけどよ」


いつもは酒場兼冒険者ギルドに居て、美味しい話を手ぐすね引いて待ってる冒険者達の姿が見えない。

今集まって居るのは裏稼業の方面には疎い冒険者達だ。但し、脛に傷のない奴は一人も居ないが。


「まぁ、あいつらも日銭稼ぎだろ。やった振りだけして小銭稼ぐ気だな。何人かはアイギスの嬢ちゃんに近づいて痛い目あってるから無理はせんだろ」


アイギスで痛い目……そう聞いただけで冒険者達は真にヤバい奴らを思い出した。

探り入れただけで致命傷を負う。生きて戻って来たのは興味本位で動いて同じ冒険者というお情けで解放された奴らだけだった。



「で、でもよアイギスさんの背後バックなら……」

「止めとけよ、お前は見たんだろ、この世の者じゃない真の悪の成せる技ってやつをよ」


見せしめはどの裏の組織でもやるものだ。だが、奴らの所業を知れば裏の人間の仕置きなぞ子供の悪戯いたずらとしか思えなくなる。


冒険者たちは見たのだ――人間という"物"を使って、何かの芸術に仕上げたような作品の数々を。

人の技では到底なしえない"生きた"造形物。

殺されるよりも悲惨な哀れな被害者たち。

この街の路地裏にいつも転がされ、衛兵では始末できずに、神殿の司祭や冒険者が呼ばれたものだ。


もはや、口に出すのもはばかるような有様だった。関係者は自分たちに災厄が降りかかるのを怖れた。

"何があったかは"口にしても、"奴らが何をやる"かは、怖れから口を閉ざしたのだ。

警告である以上、前者は奴らの意思、だが後者は……不興を買えばどうなるか解ったものではないのだから。


「去年は酷かったな。……アイギスの嬢ちゃんも、とんでもないのとさかずき交わしたもんだぜ」

「まあ、元よりやっこさんは強すぎるからな。伝説級どころか神話の領域と思ってたよ。向こうは正真正銘らしいから釣り合いは取れてるんじゃないか」

「でも、ダウスの旦那。悪魔はねぇよ。アイギスさん妖精だろぉ。なんで、手組むんだよ」

「その話題はやめろ。酒がマズくなる」


そしてグランストンは悪夢を脳裡から振り払うよう酒を一杯呑む。

この街の冒険者の元締めではないが顔役みたいな古株の一人がグランストンだ。この街に来た頃のアイギスは多少荒れてたが、噂に聞く〈鮮血妖精ブラッディエルフ〉の二つ名とは違い、冒険者としては筋道を通す昔気質かたぎな奴だった。


見た目がエルフの美少女なのにグランストンは面白い奴と思ったものだ。余計な世話だが仲間うちに災難が降りかかるのを怖れたのもあり、それなりにアイギスを気に掛けていたのだ。


だが、アイギスは余りに冒険者の流儀に忠実で、しかも気に入らなければ"裏"で誰であろうと仕留めてくる。その時、〈鮮血妖精ブラッディエルフ〉の二つ名の真の意味を知ったものだ。

"流儀"に触れれば殺しに手段と相手は選ばない。

ある意味裏稼業の奴らより危険なヤツだった。悪魔どもと手を組んだとしても何もおかしくはない。来る所まで来た、それだけの話だ。元から悪夢のようなヤツなんだから。



「まぁ、多分おまえらも解ってると思うが、冒険者仲間を売るような話を軽々しくするなよ。……何が、起こるかはお察しだな」

「……やっぱりかぁ。妖精のゴブリン絡みでこのネタだもんなぁ」


「ケツ持ちは連中だろ。しかもあの強さで怖いものはないな。やっこさんが犯人でも怖れるものは無いだろ。そうでなくても後で出てくる可能性もある。というより出るだろ」


「じゃあ、犯人探しはやるだけ無駄か。結局、悪党がアイギスさんにブチ殺される未来しか見えないな」

「もう、これはアイギスが犯人だと考えても妥当だな。ゴブリンにやらせたのかも知れんが」


4年程度の付き合いだが、冒険者連中は大体アイギスのやり方を理解していた。

曲がった事が嫌いなので悪党とは組まない。これだけ解れば何処と組むかは自明だ。だからこそあの悪魔連中とその悪魔どもを使ってる魔女王と組んでるのが解らないのは置いといて。


ただ、最近冒険者ギルドに出入りしてる幼女曰く一応、その悪魔たちのあるじは天使王という天使の王さまらしく、その国とアイギスが組んでる形なので案外、そいつらはまともなのかも知れないが。


その辺りの事情を冒険者たちは知らされているのだが、悪魔という存在の頂点、魔女王なぞ恐怖の対象でしかない。実際やる事が酷すぎる。その魔女王と天使王が伴侶で仲良く手を繋いで別の大陸で国を作ってる、と幼女は語った。

何かの冗談かな。


「しかし、アイギスの嬢ちゃんがらみで盗賊ギルドも良く手だしたな。あの見せしめの奴ら、盗賊連中が大半だろう?」

「ギルドの"身内"じゃないからオイラに言われても解んねえよ。それくらいの度胸がないと後釜狙えねぇんじゃないかな。顔役も奴らに殺られたろ」

「度胸試しでどうにかなる相手じゃないぞ。ただでさえやっこさんが出てくれば貴族だろうが始末されるんだぞ。背後バックの奴らが居なくてもな」


この辺境のシル・ヴェスターに来てもアイギスの仕業と思われる凶行によって貴族とその子弟の首が7つは飛んでいる。証拠はないが冒険者たちは何となく解っていた。


「そして、逃げ隠れの上手い盗賊どもも、今度は相手があの悪魔どもだ……」

「アイギスさん、キレ味がとどまる所を知らねぇ。裏稼業の奴らすら猟犬代わりの悪霊どもに追い立てられるのか」


貴族という存在の最高位、皇統貴族まで手に掛けたのが〈鮮血妖精ブラッディエルフ〉だ。そして闇に潜み、居所がさだかかでない裏の者たちさえ、もはや〈鮮血妖精ブラッディエルフ〉の魔の手から逃れ得ない。


そして自分達が巻き込まれ可能性は……

また、あの哀れな犠牲者の始末は頼まれそうだ。


そんな想像図がその場に居た冒険者の脳裡に浮かぶ。冒険者のみながワインのボトルを回して自分の木製のコップに酒を注ぎ、酌み交わす。

やれやれ、だ。


やる事がイカれた奴のそれであるのだが、圧倒的な強さが全てを可能にする。ベイグラム帝国の騎士団すら単騎で半壊させたとなれば誰にも手をつけれない。

しかも、今度は悪魔と天使の国の後援で妖精の国の旗揚げするらしい。

なんか本人はその代表兼顧問みたいな形らしい……とはギルドマスターからついこの前、冒険者たちが受けた説明だった。


酒を呑みながらふとダウスが思い至った。

「そうか、そういうことか。もしかして盗賊連中、やっこさんが妖精の国を旗揚げするって話を知らなかったんじゃ……」


「いや、旦那。そんなまさか。熟練の冒険者には話が通ってる筈じゃ……雪羊の最初の事件が起こる前くらいでしょ。その話が出たの」

「ああ、妖精関連の話はギルマスに持って来いってな。だが、あのアイギスからの話だぞ。その話も熟練の冒険者連中だけで回してて、他の奴らには教えてないよな。おまえらどうだ?」


その場に居た八人の冒険者が全員顔を見合わせる。

誰一人、ダウスの言葉に異を唱えなかった。

口は災いの元。何より背後にとんでもないのがついてる。口も固くなろうと言うものだ。


「マジか、口に戸は立てられないってのに。みんな揃ってか」

「そりゃ、ここの熟練の冒険者連中は年季が違うからな。素人じゃあるまいし余計な口が災いに繋がることくらい身を持って知ってるだろ」

「何より、アレ見たり聞いたりしたら……だよなぁ」


そして冒険者の古株グランストンが重々しく口を開く。

「どうやら、オレ達の口の固さが盗賊ギルドに馬鹿をやらせてしまったようだな……」

「ああ、知ってりゃいくら連中でも馬鹿をやらなかっただろう。敵にするには危険過ぎる」

「しかも、今回は背後バックの奴らも……」


全ては不幸な事故だ。

あまりにも連中は不運だった。そして、また、妖精騎士アイギスの悪名が燦然さんぜんと輝く時が来たのだ。

仇なす者は全て斬る。〈鮮血妖精ブラッディエルフ〉、血塗れの妖精騎士の狩りがはじまる。



そして、反省した冒険者たちにより、妖精関連で不幸な事故が起こらないよう、ゴブリン村とそれを巡る陰謀の話は瞬く間に街の人々に伝わった。同時に〈鮮血妖精〉が動き出した事も知られ始める。


街の人は不安に思いながらも、安堵した。死ぬのは多分、また悪党だと。



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