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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第十六話 妖精騎士アイギスさんとヴェスタの街の金貸し元締め(7)







その日、翼人族バードマン鴉人レイヴン、俺、オーウェン・マーサルは日が昇る頃まで計算に明け暮れていた。


金融ギルドから債権回収の為、とある家畜主の元へ仲間の鴉人レイヴンと一緒に派遣されて来たが居残ってるのはオレだけだ。

理由は簡単、帳簿つけたり簿記計算やらができるのが同族でもオレくらいしか居ねえからだ。



債権回収の為、家畜主の資産を一緒に抑えに仲間達と真冬の寒さが染みる空を飛んで来たが、仕事自体はあっという間に終了だ。


詳細までは知らされてないが、牧舎その他家畜主の資産ごと買い手が居るらしく家畜主を抑えた後にそいつを闇金ヤミきん共に引き渡すだけと言う簡単過ぎる仕事だったぜ。


オレ以外はな。くれぐれも言うが簿記やら資産管理できるのは同族でもオレぐらいなんだよ。一応、同族の名誉の為に言っとくが計算くらいは鴉人レイヴン族は大体できるぜ? 金勘定は大好きな連中だからな。



ただ、わざわざ簿記計算とかはしねぇしみんな覚えねぇんだよ。大体、腕に覚えありと粋がる奴らだからな。オレができるのも金融ギルドに雇われていて興味あったから覚えただけで。


まぁ、手に職なるかな、くらいでよ。おかげで仲間より金になってるから良いんだが。


ちなみに金はみんな大好きだぜ。金融ギルドとか天職だな。現物も良いもんだが、貯金も良いぞ。

とにかくオレ達は貯めときたいって本能的なのが有るからよ。他人の金でも見ててなごめるからな。


で、オレがどうして一人だけ居残りさせられてるのかというと、闇金どもも簿記やらの計算できねぇんだ。

嘘だろ? と思うだろ。でも、闇金ヤミきんって言っても殆どがもぐりの借金取りで、資産やら抑えた後にそれをわざわざ記帳して帳簿に残したりしねぇのよ。

大掛かりな資産を押さえた後に形式定まった資産目録とか連中作れない訳。


だから既に資産は連中に引き渡していても一人で細かい計算しなきゃならないの。取引自体はもう終ってるらしい。金は預かって、正確な金額出す為の資産整理がオレの仕事って訳だ。

そして徹夜して大雑把に今、資産整理が終わった所だった。


「つっても春までの必要経費の洗い出しに雇われの連中の給料計算まで残ってるからな」


しかも、急に急ぎでやれって仲間飛んできて言われるからな。まったく肩が凝るぜ。独り言もでるわ。


資産調べて整理して大体の価格弾くならともかく、牧舎ぼくしゃの運営に雇われてた連中への説明だとか、村の村長との話し合いとかも有るとか任せ過ぎだろ。


そして、オレは椅子から立ち上がって両手伸ばして背伸びした。次いでに背中のはねも伸ばした。

もう、そろそろ夜明けだ。一旦寝るか、と勝手に使ってた蝋燭の火を消そうとすると慌てた足音が近づいて来て部屋のドアが叩かれた。開けて見ると小間使いのガキだ。


「あ、あ、羊、羊が――」

「?」


その小間使いのガキは肌色がこの辺りの人間と違う褐色でな、日焼けじゃなくて人種の違いなんだわ。

まぁ、奴隷って奴だ。

この国じゃ奴隷制は廃止されてるから奉公人って形だが、似たようなモンだ。元はどっから連れて来られて売り飛ばされた子供なんだろう。契約書あったがガキの小遣い以下の薄給だったわ。


で、人種が違うからこの辺りの言葉がたどたどしいんだよ。焦った表情で羊、羊とだけ連呼する。

呼んでるようなので仕方なく付いて行ったさ。



正直、羊が病気とかなってもわかんねぇぞ。

他に牧羊犬代わりの強面こわもてども居るが家畜の世話とかやってない見たいだしな。世話係も居なくなっちまってるんだ。差し押さえ前に元のオーナーの家畜主の金が切れたからな。


困ったモンだぜ。と、気楽に考えながら高級羊が詰め込まれた牧舎に到着。


中に入ってオレが目にしたのは空っぽの牧舎だ。

一匹残らず居なくなってたぜ。見事にな。


唖然とはしたが別に驚かなかったね。

ここの管理の責任はねぇもの。金融ギルドは仮契約だが資産譲渡済み。仮つっても、正確な取引金額がまだだから"仮"だが、取引事態は成立済みだぜ。

裁判すら必要ないわ。


そしてオレはこの事態を知らせるべく、責任あるであろう闇金やみきんの手下ども、――高級羊が盗られない為の見張り役の連中を叩き起こしに行ったさ。

勿論もちろん、驚かせようと思って詳細伝えず牧舎に案内した。

実に良い反応してたぜ。


奴らが見たのは金塊同然の羊がまったく居ない空っぽの牧舎ぼくしゃ

まず大口開けて目を見開いてたわ。次いで事態を認識して驚愕。そして焦ったようにオレを問い詰めて来た。


「お、おいコイツはどういう事だ。なんで羊が一匹も居やがらねぇ」

「知らねぇよ。ガキが朝世話しに来たらこの有様ありさまだとよ」


「おい、こんな真冬に羊逃がしたってのか。ふざけやがってあのガキ」

「な、訳ねぇだろ。オレも一応飛んで空から確認したわ。羊の影も形もねぇよ」


そして闇金の手下どもがお互い顔を見合わせる、三人で。そりゃ前にあったんだ。二度目あってもおかしくないわな。


「ま、待て。そんな嘘だろう」

「村中探しても居ねえと思うな。前に盗まれたから、守り手連中も村の見張り真面目にやってるようだし。あの警備で羊が逃げ出したのを気付かねぇ、って事はないだろ」


さらに焦った顔する手下ども、良い顔してるぜ。

見張れって言われてたのに仕事せずに酒飲んだり、博打うったりしてっからだ。つってもオレの予想だと真面目にやってても結果は同じだろうがよ。


「ふっざけんじゃねぇ! どうしてくれんだぁ、おい」

「オレに言っても仕方ねぇだろ。お前らの仕事じゃねぇか。もう全部そっちのモンだろ。せめて村の見張りの強面こわもての奴らにその文句言えや」


「待ってくれ、本当に盗られたってのか。どっかの牧舎ぼくしゃに潜りこんでるんじゃ……」

「賭けても良いぜ。ねぇよ。他の牧舎ぼくしゃは閉まってる。真冬だぞ? 空いてても羊は外出ねえよ寒いんだから、餌もねぇだろ」


状況の深刻さを理解して更に闇金の手下どもが焦った顔するぜ。良い顔だよ。そいつを見たかった。

そしてオレは義務感から奴らに伝える事があった。


「これからお前ら村中探し回ると思うがな。問題は羊が居なかった時の被害額だ。既にこっちは金貰ってるから問題はねぇよ。そっちの上役に伝えてもらいたいんだが良いか?」


「ま、待ってくれ。まだ盗られたと……他の牧舎ぼくしゃの奴らがかっぱらったかも知れねぇじゃねえか」

「ねぇよ。お前らの背後バックが盗賊ギルドなのに手だす奴居るかよ。しかも全部」


そりゃお前らヤバいよな。見張りもまともにせずにコレだもの。現実から目背けたくなるのも解るぜ。オレなら空飛んで高飛びするわ。

だからこそ伝えなきゃならねぇぜ。(義務感)


「良いか、先に言っとくが雪羊32匹。被害額は概算で金貨3400だ。根拠は家畜主の帳簿。安く見積っても金貨3000は絶対降らねぇ。こちらは仮契約の附帯事項で一匹金貨105として契約を履行すると伝えて置いてくれ、羊が見つかったらその限りではないがよ」


「まっ、待ってくれ。一匹、金貨105……」

「32匹で金貨3360。見つからなかった時の確定の損害額だ。そちらのな」

「そんな金額払える訳がねぇだろ!」

「いや、もう取り敢えずはそれで計算して金貰ってんだよ。支払い済みだわ。他の資産の細かい金額は今出してる所なんだよ。そっちが羊見つからなかったら大変だろうな、って話だよ」


金貸しどもが、貴族連中に足りない分を貸し出してるんだよな。春になったら売り払う予定だからいずれは戻って来る金だ。連中も気前よく借りてたろうな。


そして具体的な金額を出されて顔を青くする闇金ヤミきんの手下ども。ヤベェよな。お前らの生涯賃金を全部たしても届かないよな。

よしっトドメだ。


「確かこちらが精算用に受け取ってる金額は金貨4000だ。他の資産分の支払い引いてもちょっと多めに受け取ってるから、残った金額をどうするか早目に話し合いをした方が良いぞ」

「ば、馬鹿やろう。この状況でなに話し合いしろってんだ」

「おいおい、貴族さまの金なんだろ。雪羊分は安めの利息だが、期限過ぎたら追徴金取られて高い利息になる。借金の借り換えとか相談しねぇとヤバいだろ。おまえらの上役が」

「相談してもヤバいだろうが! オレ達に首括くびくくれってのか」


だと思うぜ。だが、オレもお前らに現実を突き付けなきゃならねえ。これも仕事なんだ。


「おまえら首括ってもどうにもならねぇよ。じゃあ、話はそれだけだ。オレはひとっ飛びして金融ギルドに報告しに行かなきゃならねぇ。おまえら勝手に資産もの盗むなよ。金目の物はねぇけどよ」


「ま、待ってくれ。この事が知れたらオレ達は……」

「……そっちの事情は知らねぇな。ただ、伝えるべきは伝えたぜ。伝えないかはおまえら次第だよな。ただ、どのみち金融ギルドから話はすると思うが? 大事おおごとだからな」


「す、少しで良いんだ。待ってくれ、何かの悪い冗談かも知れねぇ。まだ村に羊が居るかも知れねぇじゃねぇか」

「まぁ、可能性がゼロではないよな。じゃ、おまえら探して来いよ。昼前くらいまでなら待ってやる。オレも徹夜明けで飛ぶのは辛いからな」


そして、何処どこ探すか要領得ずに相談しても明けきらない寒空に出ていく手下三人。


探して見つからなければ、どうするんだろうな。あいつら。奴らの上司も首飛びそうな勢いの失態だがな物理的によ。

盗賊ギルドもヤバけりゃ貴族連中もヤバいぜぇ。どっちの手下でも首飛びそうだな。



さて、オレも一眠りといきたいが楽しんじまって目が覚めちまった。久々に痛快なモン見せて貰ったからな。

勿論もちろん、誰がやったか見当ついてるぜ。

何より金融ギルドから仕事急げとかされてたからピンと来たぜ。


ヤツだ。ヤツに違いねぇ。

金融ギルドのおさ、金貸しの元締めバルガスのおっさんとは仲良いと聞いてるからな、組んでもおかしくはねぇ。話は通してる筈だぜ。でなけりゃかされねぇよ。


この状況で奴らの何かの悪巧みに気付いて盗賊ギルドと貴族連中を敵に回せるヤツなんざ一人しか居ねえからな。

ゴブリン? ヤツらが表立って盗賊ギルドに楯突くかよ。それにヤツならゴブリン共と組ん出てもおかしくねぇ。ここの雪羊がゴブリンにやられたって話で、ある程度は推測が付くってモンだぜ。

それを解決したのがヤツなら尚更。


そして何が理由か知らないが確実に貴族&盗賊どもと喧嘩になってるな。

こんな事をやれるとか相変わらずキレが違うな、キレが。このキレ味は誰にも真似できねぇよ。多分、意趣返し的なモンも有るんだろうな。


ヤツの所業やらかしはこの世知辛い渡世とせいを渡るオレに後味あとみ爽やかな清涼感を与えてくれるぜ。はっきり言ってファンだぜ。〈鮮血妖精ブラッディエルフ〉さんよ。



「さて、楽しんでばかりも要られねぇな。重要なモンだけ確保して寝るか……ん?」


ふと、気付くと一緒にずっと付いて来てた世話係のガキが不安そうにオレの背後に居た。

まぁ、また雪羊居なくなっちまったからな。

言葉もカタコトだし、慣れない異国の地で訳も解らずだ。不安に思うなってのが無理か。


「当分は羊は戻って来ねえだろ。……そうか、良く考えれば、おまえも重要だな。証人という意味で」

「……?」

「ああ、付いて来いよ。取り敢えず村長に金渡して匿って貰うか、流石に一人でガキ背負って飛びたくないからな」


こっちの落ち度じゃねぇという証人だな。相手に貴族連中が居るんだ、言い掛かりとか付けまくってくるからよ。


なら、紙切れ一枚の契約書くらいパクっていくか。これで奉公人のガキは晴れて自由だぜ。まぁ、自由があっても行先ないんじゃどうにもならんが。

だが、バルガスのおっさんも恩なり借りなりあるヤツはガキでも無下に扱わんだろ。そういう筋道は立てる男だ。悪党だが。


「まぁ、ガキ一人、食い扶持先くらい見つけられるさ。せめて一人ぐらい良い思いしねぇとな」


そして付いて来いと行って村長の家行って事情話した。

一応、闇金ヤミきんの手下に渡さないよう脅して金貨一枚握らせた。必要経費だ。次いでに美味いモン食わせとけってな。

ちなみに家畜主のタンスに隠されてた金貨だからそれ。以外かも知れねぇが鴉人レイヴン族は盗みはしねぇのよ。金にがめついから盗人ぬすっとなんて嫌われ者でな。身内でやり始めたら洒落にならんだろ。

まあ空賊とか賊稼業は、仕事だから別の話しなんだが……、どうしても嫌悪感が有るんだよな。


まぁ、ここが使いどころだ。資産に計上するか迷ったんたが、正規の契約だったらそれぐらいガキでも稼いでるからな。良いことしたぜ。


そしてオレは昼前に起きて羊が見つかってなかったから空に飛びたった。

絶望の表情で手下どもがオレを見上げてたぜ。


裏稼業は厳しいな。優しさに溢れてるらしい。

誰しもが自分にだけは優しいという意味でな。

少しは他人ひとにも優しくしなよ。因縁は巡るもんだからな人の世は。



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