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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第十六話 妖精騎士アイギスさんとヴェスタの街の金貸し元締め(5)



ヴェスタの街の貧民街。



わたし達は街の大通りから大分離れたその区画を歩いていた。スラムだとか貧民街と呼ばれる場所は大きな街ならどの街でもある。


逆にこういった区画がない街はそれこそ小さな街だと言って良いくらい。ただ、一口に貧民街と言ってもその様相は様々さまざま


何処の街でも浮浪者だとか物乞いが大勢いて、中には歩いてるだけで物盗まれたりと社会の底辺層の人たちが居るってイメージが付きまとう。

けど、ただ単に貧しい人達や独り身で金がない人が多いだけって所もある。


ヴェスタの街とかは後者の方。理由はここは北国、そう暖を取れなければ凍え死ぬからだよ。

そして、暖を取るには金が要る。



このヴェスタの街は貧乏人が住むには厳しいよ。物価は地方都市にすれば高めだし、冬は燃料代掛かるわ、税金も高くて。


だからなのか貧民街と言っても街並みは結構普通。

汚れてたり治安が悪いって光景じゃない。


ただ……やっぱり住んでる人達の層が違うのは一目でわかるの。眼をギラつかせてるか、それとも疲れきったような表情の人達が多いから。


そしてわたし達はその貧民街の真ん中に座して貧民達を手ぐすね引いて不幸に導き、上前跳ねる嫌われ者。金貸し兼借金取り。金融ギルドの元締め、ギルド長バルガスの元へ訪れていた。





金貸しの元締めバルガスの元へ訪れたけど、約束の時間になってもわたし達は待たされていた。


金融ギルドの建物だからか、内装だとかは調度品とかは高級品で溢れてるの。けど、貧民街にあるように建物の外観は無骨な石造りなんだよ。


ちなみに外観が石造りで無骨なのは、恨まれて火炎瓶投げつけられたりする事があるのが理由だとか。街の大通りに構えられない訳だよ。碌でもない話だ。


案内された部屋で、革張りのソファーに並んで座って待ってると、アイリが内装に飽きたのかわたしの顔を覗き込んだ。



「お母さん……待たされるね」

「今から会うおっちゃん、約束守ったこと、数える程しかないからね。1時間くらいは待ちぼうけ食らうかも」


最大3時間待たされてわたしがキレて帰ったこと有るからね。ただ、その時はわたしが来た事を手違いで知らなかったらしくて、後で詫び入れられたけど。


そしてシャルさんが物珍しいのか、テーブルに乗った透明な瓶に入った色とりどりの飴玉を眺めてた。


「シャルさん。欲しければ食べても良いんだよ。来客用のやつだからそれ」

「……食べる? これは食べものなんですか?」

「いや、正確には舐めもの? 食べちゃうとすぐなくなるから舌で転がすように舐めるお菓子だよ。…………こんな風に」


試しに瓶の蓋を開けてわたしは飴玉を1個口の中に放り込む。そして舌の上で転がした。


「あ、わたしが口の中で味わっても解らないか。取り敢えず噛まなければ良いから、味わってみなよシャルさん」


わたしに勧められてシャルさんが見様見真似で口の中に飴玉入れるの。白フードで顔が良く見えないのが残念。反応観察したいんだけど……


「ふぁ、あまいです」


聞いた事ないような甘ったるい声聴こえて来た!

耳元で囁かれるとヤバいね。男の子にドキっとさせられたのはじめ……済まん野郎の超能力者サイキッカーが前に居たわ。まぁ奴は死んだが。


「そう甘いよ。甘味だからね、色によって味違うから暇つぶしに舐めてたら良いよ。ほらアイリも。なんなら幾つか持って帰っちゃえ」


と言いながら、アイリの口にも飴玉を入れてあげる。わたしが飴玉取ったら、口開けるの。なにそのねだり方、可愛い、可愛いんだけど野郎にやると勘違いされるから注意しようか迷うよ。


「美味しい」

「噛むとすぐなくなるよ〜。溶けて無くなるまで舐め尽くすのが、飴玉に対する礼儀だよ」

「すいません、アイギスさま。噛み締めてしまいました」

「しょうが無いなぁ」


と、丁度何個か持って帰ろうとわたしが摘まんだ飴玉を不意打ち気味にシャルさんの口に突っ込む。


「――!」


良い反応だ。

幻想的なエルフ美少女の顔がびっくりするのと頬を赤らめるのを同時にやってのけてる。白フードがわたしの前に丁度向いたので確認出来たぜ。口元、抑えて恥ずいって反応……男の娘は堪らないぜ。


「アイギスさま……いきなりは、お止めくださ……い」

「ごめん、ごめん。噛んじゃった、って言うから。舌の上で舐めて味わいなよ……高級品だよ」


瓶一つで金貨一枚は降らないって品だよ。甘味は高いのよ、この世界。

わたしの手で瓶の蓋を鷲掴みできるかどうかの大きさでね。まぁ、この飴玉は特別に高級品だけど。


ん? ただ、シャルさんが、わたしの横顔を見つめめてくる。わたしの美少女っぷりに惚れちまったか。

まぁ、また何か悪戯いたずらされないようにみてるだけだろうけどね。


ちなみに横向いてる時に頬に人差し指をそっとおいたは、やったぜ。シャルさんの反応、見てて貴重だからね。わたしの妖精心が疼いちゃうの。

赦せ。シャハタールの末よ。


と、バカな事と考えてるとやっと先客が帰ったらしくて取次ぎの人がやって来た。





金融ギルドの体面を表すべく、コレでもかとった内装のギルド内だけどギルド長の部屋は更に格を見せつける為か、高級品がずらりと室内にこれ見よがしに備え付けられてるの。


めっちゃ高そうな白亜の陶器。

高級品だと一目見て解るヴィンテージの木目デスク。

壁から突き出した合成獅子キマイラの尾蛇の剥製。

同じく壁に飾られた額縁の中には高原の風景画。

敷かれた雪羊の真っ白な絨毯。

その上に敷かれた狂い熊一匹分の毛皮。しかも大きい。

東洋のふすまみたいな物も置かれてる。金箔貼られた奴。

魔法文明時代のワインセラーには見た事ないような高級ワインがズラリと並ぶ。


もう、成金ですよ。と、言わんばかりのこれ見よがしの金融ギルド長の執務室兼応接間だよ。とにかく、金持ってるアピールが酷いぜ。


「待たせたな、アイギスの嬢ちゃん。おぉ? そこの嬢ちゃんが噂の孫か」


そして執務机デスクの革張りの椅子に座る恰幅の良い老人。成り金の頂点みたいな御老体だよ。

頭髪がなく、顔に幾重にも刻まれた皺が重鎮以外の何物でもないって顔してる。金貸しどもの元締めバルガスだ。


バルガスのおっちゃんがアイリを遠慮なく見回す。もう老境に達してるから嫌らしい目つきじゃないよ。ただ、本当に孫見る目つきはやめてよ。


「いや、孫じゃなくて娘だ。わたしの歳いくつだよ」

「なに、儂には孫見たいなモンじゃねぇか。子供居ると聞いて、まさかと思ったが本当にいるとはなぁ。……アイギスの嬢ちゃんも隅に置けねぇな」


「いや、バルガスのおっちゃんにアイリ合わせに来た訳じゃないんだよ。用件聞いてるでしょ。相変わらず人待たせるんだから」

「そいつはすまねぇな。何せ世の中、金に困ってる奴だらけだ。話がいつも長くなっていけねぇ。で、嬢ちゃんも金の話なんだろう?」

「ぐうのも出ないね」


さて、どう話したものか。

この街の金融ギルドのおさ、即ち金貸しと借金取りの元締めのこのおっちゃん、手強てごわさは並大抵じゃないからね。



「嬢ちゃんと楽しく腹の探り合いも良いんだが、最近、食傷気味でな。儂の気分を盛り上げる景気の良い話を頼むぜアイギスの嬢ちゃん」

「いつも金の話してんだから景気は良いでしょ。じゃあ、腹割って話す? そっちが何処まで握ってるか解らないから、内容によっては漏らせば首跳ぶような話もあるけど」


「おお、怖い、怖い。先に聞いとくがそいつは金になる話か? ならないなら遠慮してぇな」

「ごめん。バッドニュース。そっちが対策済みか考慮済みなら余計だね。そうじゃなければ金儲けの話が飛ぶかも、そっちのシノギの」


ふむ、とバルガスが皺が刻まれた肉付きの良い顎を撫でながら、わたしを吟味する。おどけたような反応するおっちゃんで気の良い感じなんだよね。

ただ、コレがこの伯爵領と近辺の金という金を差配し、生き馬の目をくり抜く金貸しの世界でのし上がった男のやり方。

気を赦したら全て持って行かれるの。解ってるぜぇ。その皺だらけの顔と貫禄が、生きて来た人生の何たるかを物語過ぎだよぉ。



「こっちのシノギに関係あるってんなら聞いて置かねえとな。わざわざアイギスの嬢ちゃんが忠告しに来てくれてんだ……孫まで連れてな」


「別にアイリは話の出汁だしじゃないって。……じゃ、単刀直入だけど、今わたし盗賊ギルドと揉めてんのよ。で、揉めてる理由が雪羊全パクられた家畜主の一件。……おっちゃんの事だから、裏の事情まで知ってない?」


「知らねぇ、って事になってるぜ。世の中うっかり竜の尾踏んじまう事もあるからな」

「その盗賊ギルドの馬鹿がわたしの尾を踏んだんけどね。人の縄張りに手出してタダじゃ済まないよねぇ〜? ちなみに冒険者ギルドとは別口」


「…………ああ、そういう。……儂も耄碌もうろくしたな、直ぐにピンと来ねえ。縄張りの方を正確に言ってくれんと儂の頭の回りも良くならねぇぜ」

「…………」


言うべきか、言わざるべきか。迷い所なんだけど。

知ってそうだし、実は知らなければ藪蛇になるし。

ただ、もう思いきって言う事にしたけどね。



「……縄張りはゴブリンの村だよ。金になる事くらい知ってるでしょ、おっちゃん。……盗賊ギルドのシノギの本命……解ってないと協力する筈ないよね」

「ふ〜む。まぁ、そいつは知らなくても金になるんだがな。ゴブリンの村はこちらのシノギの領分じゃねぇな。しかし、そうか、盗賊ギルドがゴブリン村に追い込み掛けるとはな」


「おっと、ワザとらしいよね。それ知らなくても金にするって言ってるけど、わたしが出てきた以上、盗賊ギルドはゴブリン村からお金取れないよ。……おっちゃんのシノギに本当に関係ないの?」


バルガスのおっちゃん食えないからなぁ。虚実ブラフとか何でも有りだよ。


ただ、盗賊ギルドのシノギに一枚噛んで、しかも盗賊どもが失敗しても良さそうなのが解らないのよね。この理由が本当か虚実か解らない事には交渉しようがない気がする……直感だけど。


「おいおい、アイギスの嬢ちゃんよぉ。うちらは真っ当な金融業だぜ。盗賊ギルドのシノギに関与する筈がねぇじゃねえか」

「そりゃ関与はしないでしょ。組んで美味しく頂くんだから。……でも、羊パクられた家畜主追い込みかけてどうするの? もう羊は戻って来てるでしょ」


「羊が戻って来ても、やっこさんが飛びそうなら当然、追い込むぜぇ。若い衆から羊全部は戻って来てないと聞いてるしな」

「あれ? うちのギルマスがまだ生かせる筈って行ってたんだけど……。借金取りにしてみれば金ヅルの家畜絞めるみたいな話じゃん。その裏をこっちは聞きたいんだよね。……わたしの債権が飛ぶじゃん」


「そいつは諦めて貰わんとな。儂も若い衆に顔向けできねぇ。手出してたのはこっちが先だぞ?」

「裏の事情が聞きたいんだけど?」

「アイギスの嬢ちゃんよぉ。もう少し腹芸を覚えた方が良いな。こっちのシノギに口出すならそれなりの筋ってもん立てんとな。……」



と、バルガスのおっちゃんがニヤニヤとワザとらしい笑み浮かべて、わたしを楽しそうに見定めるの。

この元締めのおっちゃんいつもコレだよ。

一筋縄じゃ行かないんだよね。


これでもわたしの腕を買ってくれてるから最大限の好意を示してくれてるの……だからわたしも憎めないよ。札付きの悪も裸足で逃げ出すような悪党だけど。


「…………考えたいんだけど、まったく別口で盗賊ギルドから便宜図って貰うとか、そういう話だとわたしお手上げなんだけど?」

「嬢ちゃんには、それを含めて答えを出して欲しいんだがなぁ。…………まぁ、待たせちまったし孫の顔を見せて貰ったんだ。答えるなら、儂の話に嘘はねぇってとこだな」


なら、今回の件。金融ギルドは雪羊の家畜主とゴブリン村だけで儲けを出す気なんだね。

勿論もちろん、確実に裏があるよ。

でも、この金融ギルドが盗賊ギルドの連中とつるんでても、やる事、自体は真っ当……法って奴に触れない方法なんだよ。


この国じゃ、利息の上限とか決まってるし金貸しは金融ギルドに所属する組合員しかやっちゃいけない事になってるからね。


ちなみに借用書がない借金はこの国では無効だよ。

しかも書いた覚えのない借用書もね。


魔法で操れば、いくらでも書かせる事ができるからね。逆に書いた覚えがあるかも魔法で一応調べられる。魔法だから、抵抗レジスト出来たりと完全じゃないけど、一般人だと大体通用するから。

ただ、書いた覚えがあるかは忘れる、って可能性が付き纏うから借用書も必要……

ただ、それは揉めた時に裁判したりする場合。


信用で貸し借りしちゃいけないって法律はない。

ただ、国なりの保障がない。資産の抑えも出来ないけどね。本来は……

でもそれを無理矢理やる奴らがいる。


「そうか、闇金ヤミきん連中か、動いてるの。あの家畜主に盗賊ギルドの息の掛かった闇金が手を伸ばしてるんじゃない?」

「ふむ……。まぁいい線言ってるが、その理由は嬢ちゃんには解るのかい?」

「ぱっと思い付くのは債権が欲しいんだね。今回のゴブリンの損害を引き受けたいんだ……」


でも、それもおかしな話なんだよね。損害をわざわざ引き受けても整うのは形式だけなんだよ。

債権こっちにあるからゴブリン村に保障しろ、と言えるけど、ゴブリンに人間の法律守る義務ないんだよ。しかも、思いっきり罠に嵌めてさ。

……わたしが既にゴブリン村の保護に乗り出してるのは知らないにしても……



「そうか。わたしが出て来たからこういう事になってるのか。わたしが解決しちゃったからか」

「まぁ、そこまでは解るわな。盗賊ギルドももう少し稼ぎたかったろうからな」


「…………いや、おかしくない? 盗賊ギルドの最初の狙いはギルマスがあの家畜主って言ってたよ。他の連中まで飛びそうかなぁ?」

「……これだからアイギスの嬢ちゃんは面白いぜ。すぐに違和感を覚える。頭の回転というより肌感覚って所がな。冒険者の超凄腕は馬鹿にできねぇな」


ニヤニヤ笑みを浮かべながら、楽しげだねぇこのおっちゃんは。わたしを最初に会った時から嬢ちゃん呼ばわりだよ。

ただ、さすがに面子メンツに気を使う冒険者のわたしでもこのおっちゃんには負けるから完敗だよ。その筋の大家だよ、敬意さえ持つね。


じゃあ、答えを出せるか面白がられてるから頑張る。……けど、こっからがすんなり思い付かないの。


あの家畜主は確実に標的。飛ばすのまでは予定通り。それにどう法に触れない形で金融ギルドが絡むのか。……わたしが出てこなければ金融ギルドと盗賊ギルドが繋がる必要なかった? 雪羊盗み放題だもんね。勝手に飛ぶよね、他の人も。


闇金のバックに金融ギルド? いや、それだと法に触れるね。そもそもそれだと普通に借金取り使えば良いだし……

闇金じゃないと駄目?


「あ、もう一つ解った。家畜主に無理矢理に借金背負わせるのか。これでゴブリンに要求できる金額がデカくなる……?」

「肝心のネタが解ってないのに、外堀から埋めて行きやがるな。おっと、余計な口挟んじまったぜ」


「ヒントありがとう。ても、金融ギルドが稼ぐ方法を当てないと話にもならなそうだからね。もうちょっと待ってよ」

「良いぜぇ。今日の儂は気分がすこぶる良い。幸い予定の客も居ねぇしな。客が来るまでは待つぜ」



そしてわたしはバルガスのおっちゃんにもてあそばれるように茶々入れられながら、色々考えたのよ。……あーでもないこーでもない、逆に考えたら、家畜主が保険の受け元になってるの突破口にならないか、とか。


そして遂に正解に辿り付いたの。多分、本業の人とかなら速攻思い付くよ。


「待ってよ、これが正解だったら、わたしの依頼どうにもならないじゃない!」

「フハハははっ。気付いたな嬢ちゃん。そうだ、儂らに取りっぱぐれはねぇ! 儲けさせて貰うぜぇ!」



バルガスのおっちゃんが満面の笑みを皺くちゃな顔に貼り付ける。まさしく重鎮のように高級机の革張り椅子に座り、右手を何もないのに空間を鷲掴みするように広げる。何もないその手のひらには、見える。

金を手にする様子が。


「コレが金貸しだぜぇ! じゃあ答え合わせと行こうか。嬢ちゃんのおかげでますます儲けれそうだからな。礼にタネ明かししてやるぞお!」

「い、言うんじゃなかった! 言わなくても同じだけど。金融ギルドはどのみち絡むのか、しかも、おっちゃんが余計に儲けやがる!」


このアイギス、迂闊! そりゃ機嫌よくなる筈だよ。意図せず儲け話を持って来ちゃったんだもの。



金貸しどもの魔の手が家畜主を襲う!

支払い能力をブっちって過剰債務を負わせるその理由とは!? 貸せば貸すほど金になる金貸し錬金術、そのタネ明かしは次回だよ。

外道以外の何者でもないぜ。盗賊ギルドも吃驚びっくりだ。



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