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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第十六話 妖精騎士アイギスさんとヴェスタの街の金貸し元締め(4)



冒険者ギルドの奥にある、人に聞かれたくない時に使う部屋。客が依頼の話をする時にも使うので、内装は整っている。



革張りのソファーが置かれて大理石のテーブルもあると来客用の仕様だよ。別に入り口があって他の客はそこから案内されるんだよね。


ただ、ここまで綺麗だとそれなりに金持った客しか案内されない。普段の依頼は直接ギルドのカウンターか、冒険者ギルドの口利き役の人が依頼の受付だよ。商業ギルドに専門の人が居るよ。


常に荒事に生きる冒険者がたむろするギルドに一般人が訪れるには難易度高いからね、特にここの冒険者ギルドは。



「じゃ、座ってくれ。茶は出さないからな」

「まぁ、客じゃないからね」


と、わたし達はギルマスの対面の革張りソファーへ。右にアイリ、左にシャルさんが。二人とも距離近いね。もっとゆったり三人で座れる大きさだけど。


「じゃ、早速話を初めるか。で、アイギス。回収頼まれてた依頼料の金な、依頼元のあの牧羊業の家畜主が用意できなくなってる」

「雪羊は取り返して来たでしょ。ゴブリンがバラした時の毛皮も。首の皮一枚繋がったって聞いたけど……」


羊連れて戻って来た時はあの家畜主、歓喜の表情浮かべて涙流してたけど。一人の男の人生の、起死回生の場面に遭遇した気分になったよ。

感謝されて、金は必ずお支払いしますって言ってたけど……



「その首の皮が叩き切られそうになってるのが現状でな。……多分、資金繰りに困っていたから狙われたんだろうな。その家畜主」

「……盗賊ギルド絡みならあり得るね」


「狙いは言わずもがな、盗賊ギルドはお前に出てきて欲しくなかったんだろう。金がなければ動かない。冒険者の鉄則を踏んでな」

「アイリ。お手柄だよ。このが助けたいって言わなきゃ動かなかったもん」


隣に居たアイリの猫耳がピンって動く。表情変わらなかったけど、嬉しそうだね。

おかげでゴブリン村が面倒ごとに巻き込まれるのを防ぐ事が出来たんだもの。良い事したよ。善行ぜんこうってたまに実を結ぶんだよね。


ただ、アイリが助けた筈なのにあの家畜主の中年がまた地獄を見てることに訝しげな顔するの。

だいじょうぶ。ギルマスが世の不思議怪奇を教えてくるよ。何故なぜ、あの家畜主にだけ善行の実が結ばないのか。



「で、どうして金が払えない状況に。まさか夜逃げとかはしてないよね?」

「この真冬じゃ、逃げたくても逃げられないがな。まず金がなければ話ならんし、雪羊を金に換えたくても雪に阻まれて羊を持って来れんだろ」

「やって来ても借金取りが待ち構えてる未来しか思い描けないな……」


毛織物の職人とか商人はこの街に居るの。

春から夏の間の時期になると、高級な雪羊の羊毛を満載した荷車がやって来るのは風物詩だよ。それなりに護衛を付けて各村の羊毛回収するから大行列になるの。ちょっとした見物みものになる。


「まだ、現物を押さえられてる訳じゃないがな。金融関係が追い込みに入ってるんだよ。これじゃ、金の都合が付けれないよな」

「……そんなに資金繰りがまずかったの、あのおじさん。でも助かったって顔してたよ。借金あっても金が回り続ければ経営ってできるよね?」


「ああ。良く知ってるな。だが金回りが悪くなればそこで詰む。――そう思われてもな。商会が破綻しそうになったら、その話だけで債権回収に走られるだろ。今回その図式でな」

「雪羊全部盗まれるのはインパクトでかいな……。でも、損失は出てるにしても、戻って来たでしょ。それでも駄目なの?」


「もう回収に走らないと食いっぱぐれるって貸付元が動き初めてるんだよ。お前にも状況聞いて、借金の内容も調べたんだが、確かに苦しくはあるな」

「保険の引き受けなんて怪しいことやってるから余程、困ってるんじゃないかと思ってたよ」


家畜預かる人が羊の保険の引き受け元で、払っておけば保障してくれるから安心だよね。そう思うでしょ?

でもわざわざそんな危険を引き受けたら、羊に何かあったら損失酷いんだよ。

健全な牧羊業の人だとまずやらないらしいからね。



「アイギス。おまえの予想通りだよ。保険の掛け金がそのまま借金の利息に充てられてた」

「だろうね。出ないとあそこまで人生の岐路に立たされないよ。でも、もうあの人終わりそうなの?」

「いや、そのまま生かしてもまだ稼げそうなんだがな。借金取りの動きがおかしい気がしてな」

「おかしい?」


「……ああ、こいつはオレの読みなんだが、敢えて絞めようとしてる気がする」

「……裏で盗賊ギルドが動いてるってこと?」

「……オレにはそっち方面の事情を詳しく聞かされてないんだが?」


そりゃ詳しく言ってないもの。

実は裕福なゴブリン村が本命だってね。

冒険者ギルドは伯爵のお膝元での商売だから、ギルマスは伯爵側の人間だよ。冒険者ギルドのマスターは伯爵が認めた人しか成れないんだから。


伯爵がまったく信用できないんだから、言う訳ないんだよね。どう動かれるか解らないんだし。……最悪、ゴブリン村を狙われる可能性もあるから、とても言えないのよ。



「ギルマス。わたしに言えるのは裏の事情には関わるな。って事ぐらいだよ。どのみち冒険者ギルドじゃどうにもならない。資金回収も出来なきゃ話にならないよ」

「……伯爵もな、盗賊ギルドの動きがおかしい事には気付いている。ただ、ねたの正体が解らないから動きようがなさそうでな」


「で、探り入れて来いって言われて来たんでしょ? 金も出さない奴に話す筋合いないよね。おまえんとこの縄張りの話だろ。出し惜しみするからこういう事になる、今更過ぎるぜ」


「返す言葉がねぇな。ここの伯爵はケチり過ぎるんだよな。金がないのは解るんだが……だが、一つ教えてくれ。伯爵も絡んでるか、絡みそうな話なんだな?」

「ギルマスぅ。世話なってるから顔を立ててだよ? 答えはイエス。それ以上は些細しさい漏らさねぇぞ」


ギルマスの若い精悍な顔が思案げにどうするかって考える顔つきになる。

伯爵の無茶振りにも困るよね。宮仕えは苦労するよ。ここの冒険者ギルドだと他の裏稼業との距離の保ちかたとかあって王都の冒険者ギルドみたいに貴族のボンボンが差配できる程甘くないんだよね。


冒険者ギルドのマスターが仕切りミスって死ぬなんて良くある話らしいよ。一歩間違うと危険な立場。生半可な奴ができる仕事じゃないから苦労してそうだよ。


「…………まずアイギス。話の筋が解らない事にはギルドもこの件、これ以上は動けない。藪を突いて蛇って可能性もあるからな」

「盗賊ギルドの領分には口出し出来ないんでしょ?」

「良く解ってるな。……冒険者ギルドが出しゃばり過ぎると痛い目みかねん。何がボーダーラインか解らないからな」


裏で糸引いてるのが盗賊ギルド。

借金取り連中とは話を合わせてる筈だから、冒険者ギルドが口出して来たら、盗賊ギルドにしてみれば仕事の邪魔されたと、報復に動かれる可能性があるの。お前らの領分じゃないのにしのぎを邪魔するなってね。


「じゃ、冒険者ギルドは当てにならないと。仕方ないよね。……今回はもう諦めようか。討伐分は貰ってるし。悪いね、ギルマス。まぁそっちの頼み込みの仕事だから貸し借りもないでしょ」

「……待て。アイギス。おまえの事だから仕事分は確保してるな?」


鋭いな。さすがやり手のギルマス。

既に雪羊は4匹、依頼料分を確保済み。ゴブリン村に預けてるよ。

このアイギスさんがタダ働きする筈ないって。現金で報酬貰えなきゃ、雪羊がわたしの物になる。ギルドを通さない契約を結んでるよ。


羊毛刈って、その後どうするかが考え物だけどね。

前に投資しない? って言って来た人に預けるのがベストかな、アイギスさん投資に興味がある。元手が掛かってない所が良いよね。アイリが気に入ったのか頑張ってお世話してたから、預けといてたまに会いに行くのも悪くない。



「アイギス。話し聞いてるか?」

「おっと、どうするか考えてたよ。……でも、冒険者ギルドには関係ないよね? そっちが仕事果たしていたらまるく収まる話なんだし。文句あるか?」

「…………文句は、付けれねぇな。おまえなら上手く捌きそうだしな。ただ、一応、依頼料を回収する手筈は整えてあってな……」


「聞いてやろう」

「まず、依頼元の家畜主から更に依頼を受けて、今回の借金取りからの資金回収、なんとかしてくれたら金貨100での仕事として請け負ってる」

「ない袖ならいくらでも振れるだろうからね。で、その空手形で形式だけ整えてどうするのよ」


「冒険者ギルドが動いたら明らかに筋違いだが、アイギス、おまえが動いたら筋は通るだろう。おまえの金の話だしな。後は借金取りをどうにかすれば問題は解決だ」

「結局、わたし頼みか」



最悪、盗賊ギルドが報復に動いても相手がわたしだからね。筋が通らなければ痛い目見るのは連中ってことになる。……もう、既にゴブ村の件で仕置きの準備に入ってるよ。こっちから仕掛ける気だからこの仕事で動いても特に問題ないな。


「やるなら、金貸しの元締めと交渉するしかないぞ。手持ちの札はオレにはないからな。カードが有ればオレでもと思ったが、……カードの内容次第で手を出せなくなる。結局おまえ次第になるよ、アイギス」

「…………」


今度はわたしが神妙に考え込む番だよ。金貸しの元締めとは会ったことあるけど、一筋縄じゃいかない相手だからね。手持ちの札でどう交渉できるか……


「てか、結局、冒険者ギルドも手出すんだね」

「このままだと金にならないからな。これが冒険者ギルドの仕事。後は冒険者さまさまだよ。……雪羊を裏で流してもこっちにはビタ一文渡さないんだろう?」


「当然だよ。仕事してから金要求してよ」

「だから、やってるだろう。伯爵の頼みごと次いでだったがな。……それと、元締めと交渉するのは良いんだが、くれぐれも暴力沙汰はやめてくれよ」

「カタギには手出さないよ。あの元締めカタギに見えないけど。冒険者の鉄則は守るって」



つまり、いくらわたしが強くてバックがヤバい連中でも平和的に交渉でなんとかしないと駄目。


向こうは借金取りで、一応は真っ当な商売してるんだから。それに手を出すの冒険者としてはアウト。

金貸しや借金取りは、暴力が売りものじゃないだけ冒険者よりは真っ当だよ。客に首括らせて一人前とかいう商売でもね。



そしてわたし達はその元締めに会いに行く為、冒険者ギルドを後にした。

まあ、ギルマスに言ってないし知らないようだけど実はその元締めとは仲は悪くないんだよね。ただ、お互いプロで金の話だから、簡単には上手く行かないだろうけど。



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