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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第十五話 妖精騎士アイギスさんと娘アイリの小鬼退治の冒険(4)





真冬で雪が積もる村の中。


……強面こわもてさんと対峙するわたしと黒帽子のゴブリン。強面さんは手下見たいな人達に止められてたけど、結局やる事にしたみたいだね。


もちろん、集会所に居た人達全員も外に出したよ。有無を言わせないよ。


寒空の中悪いんだけど実際に見てもらった方が分かり易いから。

難渋顔の村長説得したわ。御老体には寒さ染みるだろうけど、そこは我慢しよう。



「じゃ、おまえの生命いのち使ってわかり易く実演だな」

「はん。そのゴブリンでオレを倒せる気かよ。なんだ、そのナタで挑もうってかそいつ」


自信はあるみたいだね。ちなみに黒帽子妖精ブラックキャップの実力は解らないのは仕方ないよ。

実力隠してるからなコイツ。せいぜい目つきが鋭いゴブリンくらいしか思われてないね。

まぁ、ゴブリンを見た冒険者自体、少数だろうけど。


「いや、まずは魔法の実演だよ。さっき言ったがゴブリンってのは魔法を使ってくる。まず〈透明化インヴィジリティ〉」

「――――」

すると黒帽子がボソボソ早口で呪文を唱え、その場から忽然と姿を掻き消す。すると皆、目をみはるの。村の人とかだと魔法自体あまり見ることないんだよね。



「見ての通り完全に見えなくなった。既にその場から動いてるけど何処に居るか解んないでしょ」

「馬鹿いえ。周りに居ると解れば気配で解るわ」


「じゃあ何処に居るか当てて見ろ」

「オレの周りには居ねえよ」

「おまえの真後ろだけど」


すると強面こわもての真後ろに立ってる黒帽子のゴブリンがいつの間にか姿を現すの。強面さんも背後振り返ってギョっと驚いてたわ。



「はい。面白い反応ありがとう。見ての通りだよ。透明化を看破する魔法や技能がないと見張り立てても意味ないの。そのゴブリンが特別じゃなくて普通の並のゴブリンでも透明化はできるから。これが村に侵入された理由だね」


「嘘をつけ! オレが気付けねぇ筈がねえ。足音を消して居ただろう」

「それは黒帽子の技能スキルだね。魔法でも足音消せるけど。魔法の難易度は同じレベルだよ。ゴブリンが覚えていてもおかしくないぞ」


透明化インヴィジリティ〉や〈静音スニーク〉は魔法レベル3の魔法だけど習得するのはレベル4くらいの難易度だって魔術師ギルドの爺っちゃんが言ってた。

幻術と付与の魔法の知識が両方いるから難しいらしい。扱う魔力や技量はレベル3で良いけど、習得はレベル4並、ややこしいね。


ちなみに魔法レベル4は魔術師が覚えたらやっと一人前と認められるレベルだよ。



「大体、ゴブリンがそんな魔法を使える筈がねぇだろ。夢物語の童話かよ」

「いや、そいつ使えてるじゃん」

「召喚魔法で呼んだゴブリンと本物のゴブリンが同じ訳ねえ。野性で生きるやつがどうしてそんな魔法使えるんだ」


「同じゴブリンじゃない。というのは認めるけど。ゴブリンが野晒しで生活してると思ってんの? あいつら下手したらお前らより文化的生活営んでるんだぜ。特にここのゴブリンはよ」

「馬鹿がっ。そんなおとぎばなし見たいな話があるか」


いや、結構そのおとぎばなししてるけどあいつら。実際に会うと普通の連中だけど。印象的には半妖精ハーフリングの抜け目ない冒険者見たいな奴らだね。

という事はイチイチ言わないよ。あんまりゴブリンの肩持つと片棒担いでるとか疑われかねないし。



「じゃあおとぎばなしじゃない。現実的な話をしてやるよ。ゴブリンどもがどうしてそんな魔法使えるかって言うと、そもそも人間の使う魔術師魔法とは違う系統なんだよ。小鬼魔法ゴブリンマジックっていうね。こいつは神授系、つまり信仰系魔法みたいに種族として与えられる一種の技能スキルらしくってさ。だからそんな魔法が使えるって訳。冥土の土産に勉強になったろ?」


「そんなバカな話しがあるか。聞いたことねぇぞ」


「それはお前が無学なだけだ。魔術師ギルドのっちゃん知ってたわ。それに合成獣のキマイラとか魔法使ってくる魔物居るだろ」

「魔物の話じゃねえか、こっちはゴブリンの話しをしてるんだよ。馬鹿かテメェは」

「ゴブリンの話ししてるんだよ、お前が馬鹿だから。面倒だ、ほら次〈魅了チャーム〉」


そして今度は黒帽子小鬼ブラックキャップの魔法により強面馬鹿の顔が急に呆けて大人しくなる。

右行け、左行け、と指図するとふらふらそっちに行くよ。操り人形みたいに。



「見ての通り。ゴブリンは〈魅了チャーム〉の魔法も使える。さっきも言ったけど普通のゴブリンもこの魔法使えるからね。そしてこれが簡単に雪羊が連れ去られた理由だよ」


家畜と言っても牧羊の経験がないゴブリンが羊の扱いに手慣れてる訳がないからね。〈魅了チャーム〉の魔法を使えば鳴き声一つ上げずに静かにお持ち帰りよ。〈静音スニーク〉の魔法も使ったかも知れないね。前の奴に付いて行くでしょ羊。


そして次いで、黒帽子小鬼ブラックキャップに〈睡眠スリープ〉の魔法も強面に掛けて貰う。


今度はその場で倒れ込み積雪に顔をうずめてぐっすりだ。強面は冷たい雪に横倒しになってるのに寝息を立て初めた。


「どんなに見張り立ててもこの魔法掛けられたらそのまま夢の中だよ。真冬の深夜で眠気に勝てる人っているの? ずっと気合入れてたら別だけどまず無理だよね。で、他の強面さんに聞くけど魔法の対策は?」

「「………………」」


他の強面さんも負けず劣らず厳つい顔してるんだけど頭目みたいな人がこの有様ありさまだから気勢を削がれてたよ。

お互い顔を見合わせるんだけど誰も反論して来ない。


「つまり、ないんだね。じゃあ、ゴブリンのやりたい放題じゃん。はっきり言って次やられたら防ぎようないよ。これでどうするのさ」


わたしに言われて今度は牧羊業ぼくようぎょうを営む人たちが顔を見合わせる。あれ、でも顔つきが集会所の時と同じでなんとも言えない感じだぞ。



「村長。次、狙われるだけじゃないからね。味しめられたら何度も来るよ。それとも雪解けなるまで神さまに祈る? 自分の羊が盗られませんように、ってね。この真冬にゴブリン追跡して相手できるのわたしくらいって言ったよね。次に盗まれた時わたしが対応できるか解らないんだよ?」


ヴェスタ在住の冒険者にゴブリン相手に真冬で戦おうなんて奴居ないよ。まず、戦いに持って行くまてがしんどい。


真冬の行軍、しかも何処にいるかも解らない相手。

敵は魔法まで使って来るゴブリン。まずあの連中がやる訳無いんだよ。金払い悪いのに。


相場の三倍くらいかな、やるとしたら。成功しないと報酬もらえないからね。これでもやるか微妙だよ。むしろ、村の護衛代としてふんだくりに来るな。おそらく連中ならハイエナのようにむしゃぶりつくすぜ。最悪ゴブリンと組む可能性すらあるぞ。


この街に居着いてる冒険者は特に生半可がないんだよ。

昔、腕はあるんだけど掃き溜めのような冒険者が集まる場所があるって聞いてたけど、ココがその場所の一つだもの。

辺境でそれなりに稼げる。やらかした奴らが来るには丁度良い……噂にたがわなかったわ、ヴェスタ。生粋の冒険者の悪者わるが全部集まってるぞ。



「村長。使える冒険者で護衛する手もあるけど月に金貨100は確実に持ってかれるよ。しかもそれでゴブリンが捕まらなければ問題が解決しないんだよ?」

しかし、必ず襲われるとも限りますまい。これっきりかも知れませんで」


「なに言ってんの春になったら雪羊がこの村からみんないなくなってた。なんて馬鹿みたいな話も有り得るんだよ。冗談抜きで。正気?」

「まさか、そこまでは。いくらゴブリンが悪賢わるがしこいいと言っても。討伐されるような真似までするとは思えませんですじゃ」


「あいつらの悪賢わるがしこさ舐めきってるわ。だから冬までに決着つけに来るんだよ。春だと強い連中来るって解ってるから。……多分、あいつら盗賊ギルドと通じてるよ」


そしてみんなが動揺するの。別に嘘言った訳じゃないよ。あいつらが文化的な生活してるの人間と取引してるからなんだよ。


でも普通の村との取引はまったくしてないの。

ご禁制の品とか扱ってるし、ゴブリン秘伝の製法の製品とかね。高値で取引してんだわ。これが。


あいつらの集落行った時、とっちめて白状させたんだけどね。

それに、わたしが"多分"、ってゴブリンと盗賊ギルドとの繫がりをあやふやにしてるのは、じゃあなんで知ってるの、と言われると困るから。奴らとの関係性を疑われてはならん。話がややこしくなる。



「し、しかし儂らだけではみなの意見を聞きませんと」

みな? ゴブリンの狙いは雪羊だけだって。さっきも言ったけど高値だから狙われてんの。はぐれゴブリンどもが独立する資金源かな。他の連中関係……」


わたしは話しの途中で村長の眼がぶっ倒れてグースカ寝てる奴に注がれてるのに気付いた。

大体それで察したわ。


「おい、そいつを起こせ」


黒帽子小鬼ブラックキャップが倒れてる強面こわもてをナタの平でぶっ叩いて起こす。扱いぞんざいだけど、黒帽子にすればソフトな対応だよ。普通は縦に振り下ろす。



「ぐっ、痛え。なんだ」

「よぉ、お目覚のとこ悪いな。話しはすんだからよ。さっさと決着付けるか」


そして強面の頭目……もとい面倒ごとの元凶が寝起きまなこを擦りながら立ち上がる。

段々、状況を理解した強面。すぐにカッとなって怒鳴り始めた。


「テメェ! オレに魔法掛けやがったな! ただじゃ済まねえぞ!」

「馬鹿が。わたしは最初からそう言ってるだろ。次いでにお前は用済みだとよ」

「なんだと!」


周囲の白けた雰囲気を感じ取ったのか強面が他の面々を見回すの。ただ、そこにはバツの悪そうな顔ばかりが並ぶ。



「なんだ。どういう事だ。おい、まさかこんな奴の言うことにたぶらかされたんじゃないだろうな」

「もう、おまえの事が邪魔だってよ。ご苦労さん。イキリ散らしても誰もお前に付いて行けないらしいよ」

「なっ。おまえら散々、オレの世話になっておいて用済みになったら要らないだと、本気なのか!」


見捨てられた強面こわもてが村長、牧羊業の人、同じ羊の守り手の強面さんに訴え掛けるんだけど誰も答えようとはしなかった。視線を背けてたわ。



「みんな合わせる顔が無いらしい。おまえが馬鹿なせいでな。そんなだから使い捨てにされるんだよ」

「て、テメェ許さねぇ! オレに恥かかせやがって。てめえらもだ。ただじゃおかねぇぞ!」


「先にわたしとの決着つけて貰おうか。おまえが売って来た喧嘩だからな、忘れてるのか、間抜け。それより、イキるより剣抜きなよ。それとも生き恥晒して、わたしに詫び入れるか? 土下座までしたら考えてやるよ」

「テメェ!」

わたしの売り言葉にさらに激高した強面こわもてが腰元の剣を鞘から抜きながら、わたしに迫る。

手馴れてるね。その動きだけは熟練級だったよ。


――が、

「へ」


強面こわもてはわたしの三歩手前で急停止。

胸のど真ん中にナタの先端が突き出していた。

胸から服を濡らして溢れでる血。

衣服に血がジワリと広がっていく。


「ゴブリンに殺られて当たり前だったな。舐め過ぎだろ。それに、自分が舐められるような事してて舐められないと思ったの? 冒険者崩れの準廃が」


「あ、あ――」

男の意識が徐々に失われて行くのが手に取るようにわたしには解る。

そして男の顔がガクンと下を向き意識が完全に失われた。死だ。


……結局こいつの間違いは、冒険者の流儀でなんでもやってた事だよ。

舐められないように村の人間に威圧やら恫喝やらしてたんだろ。親分気分でよ。

で、ゴブリン相手にしてやられて面子メンツが立たないから冒険者なんて要らねえって、な。


腕っ節が立つから、村の人間も口答えできないんだよ。元冒険者だし怖いから。それに魔物追い払うにも、柄の悪い連中を統率するのにも必要だしね。

みんな我慢してたんだよ。


けど、用済みになったら捨てられるよ。

それほどカタギの世界も甘いものじゃないぜ。



「で、こいつ死んだけど生き返らそうって奴いるか? 知り合いの司祭呼んで蘇生魔法掛けて貰っても良いが……大金は払う必要はある」


わたしが最後に周囲の人間を睥睨するように見回しても誰からも応えは帰って来なかった。

自分の間違いを認められない奴の死は救われなかった。誰からも救いの手は差し伸べられない。


……これも良くある事だよ、冒険者にはね。カタギになっても昔を忘れらずに厄介者になってしまうの。始末して下さいって仕事がたまに来るのよ。冒険者の裏の仕事としてさ。


社会不適合者の行き先の一つが冒険者って仕事だからこういう奴が出てきてもおかしくないんだよね。

わたしも慣れ過ぎて人のこと言えないのが怖いよ。カタギには成れないね。踏み込み過ぎて戻れねぇ……



「アイリ、おいで」

呼ばれたアイリがわたしの元に駆け寄って抱き着いて来る。鎧来てるから硬いだろうにわたしを抱き締めてくれるの。


「ありがとう。怖かった?」

「うん。お母さん大丈夫かなって思ってたの。アイリ、助けに入った方が良かった?」


「別に良いよ。わたしの事は助けなくて。それにわたしは自分の身は自分で守れる、アイリも自分の身は自分で守って。いつも守れるとは限らないから」

「うん。……」


そしてわたしはアイリを抱き締める。ちょっと痛いだろうけど……。この温もりがあればわたしは……

まだ十年は戦えるな。娘分補給完了したよ。この情け容赦のない渡世とせいでも家族の潤いがあれば生きて行ける。


母娘おやこの抱擁見せつけてて悪いんだけど。話に戻ろうか。じゃ、みんな集会所に戻ろう。金の話がまだ着いてないしね」





この後、その依頼料の話で紛糾したよ。

高すぎるってね。みんな金払いたくないし、素人だから解らないんだよ。内訳説明して相場説明して、ゴブリンの厄介さを冒険者が相手する場合の困難さを説明してやっとスタートライン。


今度はどんな配分で依頼料捻出するかで揉めるよ。

他の村の人間関係ないってのに巻き込もうとする馬鹿居るからよ。

結局、わたしが脅しつけてなんとかしたよ。散々、脅威を煽り立ててから、ガタガタ言うならブっ殺すぞってな。



「こっちもな別に暇じゃねぇんだよ。それに金貨400の所を300に下げてな。しかもこの真冬に仕事させられるんだぞ? で、お前らの馬鹿騒ぎ聞かされる身にもなってみろ。ゴブリンじゃなくてもわたしがこの村滅ぼしたくなるわ。しかも馬鹿始末した料金はサービスだぞ。これでキレねぇなんぞ、上品な聖騎士さまくらいだ。解ってんだろうなお前ら……」


「お、落ち着いてくだされ妖精騎士さま。ど、どうかご無体はお辞めくだされ。みなもままに振る舞うでない。仮にも騎士さまぞ」

「仮じゃなくて本物の妖精の騎士だ。殿下つきの身分だぞ。伯爵ごと叩き斬りたくなるわ」


と言う風に、途中から村長との極自然な飴と鞭交渉でなんとかしたよ。打ち合わせなんてしてない阿吽の呼吸だったわ。

みんな生活掛かってるから、合議制じゃまとまんないんだよ。少しでも負担を軽くしようと考えやがる。

結局、全ての差配を村長に一任させて冒険者ギルドで正式に依頼受領完了。



そういや、納得できないのが一人居て伯爵に言いつけるそうだけど。多分、どうにもならないね。下手へたしたら詰め腹切らされるよ。

貴族も甘く無いんだわ。力関係逆転した途端にうちの家に来るぐらいだし。


身の処し方最低限は弁えてないと何処の世界でも痛い目見るからね。わたし? 以前居た帝国でお釣り来るくらい遭いまくったわ。


じゃ、後はゴブリン始末すれば妖精騎士さんの仕事完了だよ。何処にいるかは目星を着けれる奴に目星が着いてる。そう、ゴブリンの村だね。



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