第二話 妖精騎士アイギスさんと闇妖精の暗黒騎士(1)
何も知らない、アイギスさんのほのぼの話し。
わたし、アイギスは木々のまばらな森の中を重い荷物を引きづって歩く。森の中は既に雪が降り積もり、季節はもう完全に冬に突入していた。
キュキュと雪を踏み締めた時の音が耳障りだ。
わたしはエルフなのでかなり耳が良い。
そして所謂エルフ耳なので普通の人間より耳が大きい。そして、大きいという事は耳が冷えると言う事だ。普通の人には解らないと思うけど耳から体温が奪われていく感覚がするから、本当冬って嫌いなんだよね。
耳当てでもすればマシ何だけど職業柄、周囲の音が聴こえずらくなるってのは嫌なのでしてない。わたしはプロフェッショナルな冒険者だ。危険を察知する能力を少しでも落とす行為はプロ意識が許さないのだ。
ただ例外として、髪伸ばして女の子、女の子してる。プロ意識よりも可愛らしさを私は全力で優先している。
正直、普段から女の子らしくしてないのでそこまで捨てちゃうとわたしの人生の女の子成分が死ぬ。
わたし、アイギスは女の子としてちやほやされたいのだ。かと言って媚びるのは許されぬ。そんな女々(めめ)な行いはわたしの男の子成分が許してくれない。我が騎士道に甘えはない。わたしの男の子成分は九州男児か、何かかな。結構厳しいのだ。
そんな事を考えながら、やっと森の切れ目に到着。歩いてる時って暇だから色々考えちゃうよね。馬鹿な事とかさ。
そしてそのまま村に到着。
今回の仕事は前の森で樹木妖精の爺さん倒した時より楽だった。いや、あの森が難易度ばり高すぎなんよ。普通あそこまで魔物に襲われるのは稀だよ?
特に今回の森は外縁は人の手が入ってるので魔物の襲撃もまばらだったし。……あ、襲われる事に代わりはないです。はい。
村の中を歩き、村人から奇異な目で見られる。
騎士姿の女の子が右手ひとつで大きな狂熊を引きづってるのだからそりゃ注目の的だろう。我を恐れ讃えよ村人ども。
まぁ、讃えられたりはしないんだけど怖がられたり警戒されたりはする。
この辺りの村って辺境でしかも山岳地帯だから、人の出入りって多くないんだよね。余所者には結構、冷たかったりする。まぁ、わたしの場合はエルフでしかも女の子、更に騎士だから物珍しいのか、露骨に嫌がられる事は少ないんだけど。
そして村長の家の前に到着。
村人の誰かに先に話しを聞いてたのか、村長は家の前で迎えてくれた。
「おお、よう仕留めなすった。話しには聞いておったが結構なお手前で」
「このわたしに掛かれば余裕、余裕。〈妖精騎士〉を舐めて貰っては困る」
自分の正統な二つの名の宣伝をわたしは忘れない。
あの忌まわしい二つ名の方を相殺する為にも売り込むのだ。なんだ〈鮮血妖精〉って、人を殺人鬼みたいに噂するとか営業妨害にもほどがある。てか、本当に殺しの依頼来たことあるぞ。やめろ。
「妖精の騎士さまとは恐れいりまする。村人も治療なさって貰い。感謝に絶えません」
「うむ。感謝するが良い。治療費も負けておいた。では、依頼完了の証を貰おう」
そして、村長が畏まって、依頼完了の手形をわたしに手渡してくれる。
時代劇みたいな遣り取りしてたが、村長とかだと相手の身分を尊重して気を使ってくれる人が結構多いのだ。これだから騎士は辞められない。
例え、自称でも騎士は騎士だ。見た目もまさに剣と盾もって騎士と言った格好をしてるので隙はない。
本物の騎士より見た目華やかで良い装備してるぞ。
唯一の弱点は低身長で、童顔、子供みたいな姿だが、そこはエルフという事でカバーしている。
後はこの手形を冒険者ギルドに渡せば依頼完了だ。
「……して、その暴れ熊めは如何なさるおつもりですか……?」
「うむ、人の味を覚えた熊だが食うかどうかはそちらに任せる。毛皮も剥いで良いぞ。生命を無駄にせずに使え」
正直、イチイチ剥ぎ取るのアイギス面倒臭い。だったら評判を上げておこう作戦だ。実より名を取る。騎士っぽいだろー。
「おお、有り難き申し出。では、騎士殿の言う通りに。どうか今夜はお泊り下され、ささやかですが宴を催しまする」
「う〜む、そうしたいのは山々だが実は所用があってな長居できぬのだ」
「さ、左様でございますか。しかし、今から出立ですと日が暮れまするが……」
「いや、それは問題ない。転移の魔法が使えるのでな。妖精の小道と言った方が解り易いか。街まで簡単に帰れる」
「これは魂消ました。まさに妖精の詩のような魔法を使われるのですなぁ」
うむ、うむ。とわたしは機嫌よく頷く。街の人間と違って村の人間というのは、スレてない。結構、純朴な人が多い。
これが街とか街道ぞいの宿場や村とかだと、人生酸っぱいもの味わってきた人が多いのか一癖も二癖もある人多い。
わたしが辺境でしかも山ばかりの土地で冒険者やってるのも他の街の空気に合わなかったからだ。まぁ、色々やらかしたのも有るんだけどさ。
そして、わたしは村長に別れの挨拶をするとその場で転移魔法を使う。わたしの姿が揺らめきその場から消える瞬間、村長の顔が唖然とした顔になる。
いや、みんな同じ反応してくれるからつい面白くて人前で転移魔法使うんだよね。大体、みんな見た事ないらしいからさ。
まぁ、これがこのわたし、妖精騎士アイギスの冒険の日常って事で。じゃお家帰るぞー。




