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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第2章 暗躍錯綜のフェアリーテイルズ
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第十四話 妖精騎士アイギスさんと帰って来たいつもの日々(2)



アイリと一緒の冒険は少し懐かしい感じになってるよ。


わたしが一人で冒険してた時はこんなだったよなぁって思い出したもの。アイリは森の中入ったらビクついてた。そうそう冒険っておっかなビックリ真面目にやるものだよ。



「どう怖い? アイリ」

「うん。いっぱい何かいる。みんな見てる」

「それが解れば上出来、さて……」


いつもは魔物に襲われまくるんだけど、今回は襲撃がほとんどない。理由はアイリが居るからなんだ。

この子……実は強いんだよ。


強さにも、色々と"質"があったりするんだよね。

野性のモンスターに通じる強さってのが別にある。武芸の達人の強さは、その身のこなしの所作で解るとかだけど。

……アイリの場合はより本能的な野性の強さ。


この子、生命体としての基本的な強さが実は真龍並み。動きが思いっきり怖がりの子供だから普通の人には、子供としか思われないだけで、野性の魔物にしたら恐怖と警戒の対象なんだよね。


めちゃくちゃ強い奴が警戒してビク付いてるんだよ。そりゃ何かあるって警戒しちゃって魔物に手を出されないのよ。あいつら野性味が足りないわたしには手出しまくるんだけどよ。



「やっぱりアイリ、役に立つよ。ここまで襲われないとか普通ないって」

「…………わたし役に立ってるの? お母さん」

「魔物避けになってるよ。さすが、もう一人のお母さんがバーギアン」


亜精神バーギアンは亜妖精たちの祖神。

そして亜妖精というのは、身体の一部が動物系の特徴を持つエルフ。その頂点の子供なんだから、性格気弱でも、存在感がある。真龍の子供とかわたしは見たことないけどそんな感じじゃないかな。

絶対相手したくない。何かやったら親出てくる。

まぁ、その親わたしなんだけどさ。この子に何かしたら、絶対プッツンしてブチ殺すぞ。



「お母さん……アイリに優しかったよ。でも、いつも苛立ってたの。アイリの病気が治らないから」

「バーギアン……絶対気性荒い性格だったでしょ。でも、娘には優しかった筈だよ」

「お母さんは、お母さんのこと憶えてないの?」

「憶えてないの。ごめんね。わたしは自分のことさえ昔のことは何一つ……」


雪の森の中、二人だけで獲物求めて彷徨ってる時の会話じゃないんだろうけど……二人してお互いの心の隙間を埋めるように話すんだ。わたしたち。



「お母さんは、……お母さんのことアイリに教えてくれなかったの。一度だけアイリ、教えてほしいって言ったら哀しそうな顔して……」

「アイリ。優しい子だよね。大丈夫、わたしは昔のことを思い出せなくても悲しくはないよ。……たぶん何か絶対やらかしてるからね、"私"は」


もう、私、既にやらかしてるからな。バーギアンと子供作るって。血縁的に大丈夫か? 創造神話とかで近親で子供作るとかはあるけど。

そういう解釈でセーフなんだろうな!?


「お母さんは……わたしのことも……?」

「うん。わたしもアイリのこと知らなかったの。本当にごめんね。バーギアンのことも本当にごめんなさい」


森の中ふたりっきりになって初めてこんな会話しだした。アイリ、他の人が気になって言い出せなかったのかな……



そしてアイリが素早く動いてわたしに抱き着いて来た。


「お母さん、お母さんに会いたがってた。でも、お母さんがもし会えなかったから、お母さんに貴方が会って甘えてあげてって」

「それ、バーギアンの最後の言葉じゃ……」

アイリがわたしに抱き着きながら、「うん」って頷いた。


バーギアン、何があったか知らないけど。おまえ馬鹿だよ。こんな子供置いて死ぬなんてさ。

いや、嫌な予感がする。

何かが引っ掛かる。でも、解らない。

タブタブか? なんとなくだけどアイツが関わってる気がする。



「お母さん……わたしを置いていかないで。アイリ、良い子にするから。怖くても我慢するから」

「…………」


言葉が……重い。

わたしにかつてない程の重圧感プレッシャーがのしかかる。


わたしは今までいつ自分が死んでも良いような生き方して来た。もちろん、本当は死ぬ気なんてないんだけど、覚悟だけはしてきたつもりだ。

殺し合いに生きる、生命の遣り取りする奴の心構え。最低限の覚悟として。


「……アイリ。わたしに付いて来たければ強くなって。自分を守れるくらいに」

「強くなったら、置いていかない?」


「う〜ん。むしろ、置いて行かれないようにする為? わたしは自由な妖精なの。妖精の騎士なの。あっち行ったりこっち行ったりいろんなとこ行ったりするからね。今はアイリの傍に居るけど、アイリが強くないと連れて行けない所にも行くから」


「アイリ……強くなれる……?」

「がんばろうよ。わたしとバーギアンの娘だから大丈夫だと思う。むしろ強くなり過ぎるのが問題かも知れぬ」

「…………?」

「そんなに焦らなくても良いよ。冒険者稼業くらいなら教えてあげるね」

「うん。お母さん。ありがとう」


ありがとう。

なんて屈託のない素直な言葉、久々に聞いた気がするよ。でも、世間の荒波に揉まれたら、この子がどうなるかわたし怖い。わたしが揉まれ過ぎてるからね。

わたしの半生を振り返ると色々ヤバい。

わたしのてつを踏ませてはならぬ。と、わたしは心から思った。出ないとおそらくわたし以上に血の雨降らすよ、この子。



「お母さん、あれ」

「……さっそく獲物見つけたね。アイリ、お手柄」


雪の森の中で白化粧した茂みに覆われて、何も見えない遠くの方をアイリが指差した。

やっぱり勘が良いよこの子。わたしが技能スキルで気づくギリギリの場所に居た今回の獲物を見つけてるもん。


ちなみに今回の標的は三つ首蛇竜トライヘッドサーペント

ギルマスが実入りが良いとか言いながら、熟練の冒険者パーティーでも決死の戦いしなきゃならない奴を紹介して来た。


普通は練達級の冒険者パーティーか、熟練の冒険者3パーティー分の敵だよ。

そして報酬はその半額分……。ボラれてるんだけど獲物の正規報酬が高すぎて出せないらしい。

仕方ないので税金分免除で手を打った。もちろんきっちり交渉したよ。ギルマスの野郎、わたしが一人で片付けれるからって正規価格以外で受けるなよな。



「じゃ、アイリ。あいつやっつけて来るから」

「大丈夫? お母さん」

「余裕……。多分アイリでも戦えるけどやってみる?」

「……できるの?」

「こう……手から爪とかアイリ出せない?」


アイリがキョトンと小首を傾げて、自分の手のひらを見る。その手は子供の無垢な手のひらとなんら変わるものではないんだけど……


「獣の爪みたいなのにな〜れ、ってイメージしてみて。前に魔族のオッチャンから聞いたんだけど自然に変化するらしいから」

「う〜ん。あ、できた!」


アイリの手の平が幻覚でも見てるかのように獣の鋭い爪をサーベル見たいに伸ばした手に変わる。

……なんかめちゃくちゃ切れ味鋭そう。

試しに木を切りつけてみて、って言ったら。

木が両断されたわ。


明らかに物理的に大木を両断するほどの爪の長さじゃないんだけど、この世界の物理法則で言うなら概念的に「斬って」るんだよね。


「やれそうだね……防御魔法掛けてあげるから、やってみようか。あ、ついでにこの盾も、はい」


これで防御は万全。アイリの周りを浮遊する盾は核兵器すら防ぐ。

ダメ押しに戦艦並みの防御力を魔法で付与。


「……いけるか。じゃあアイリ。わたしがあいつの前に立ちはだかって注意を引き付けるから、首を狙ってその爪で斬りつけてみようか」

「……わたし、戦ったことないよ」


不安そうにわたしを見つめるアイリ。


「わたしもあいつは初めて戦うよ? 誰でも初めてはあるって。やってみてダメそうならそれで良いから、やってみない?」


自信がないけどこくりと頷くアイリ。やらないと置いてかれるとか思ってるのかも。

でも、多分、やれると思うんだよね。わたしがそうだったらから。



そして準備を整えて獲物に見つからないようにして二人で近づいた。隠蔽魔法もあるから、相手に気づかれなければ魔物相手でもかなり近づける。


不意打ちできる程ではないのがさすが竜なんだけどね。隠蔽魔法があっても最高位の魔法じゃなければ途中で気づかれるんだよ。


なのでこちらに竜の三つ首が向いて、気付かれたと思った瞬間にわたしは一気に飛び出る。


「やんのか、コラァ! 粋がってんじゃねぇぞ!」


メンチ切ったのは挑発代わりだよ。真龍と違って普通の竜は会話できる程の知能はない。

頭良いのは意思疎通できる個体もいるらしいけど。


そして、わたしが注意を引き付けると打ち合わせ通りに三つ首蛇竜トライヘッドサーペントの真横から飛び出して来るアイリ。


首の一本が気づいてアイリの方に向き直るけどアイリはその頭に爪を振るう。


縦に両断される蛇竜の顔。

聖銀ミスリル並みの硬さと言われる蛇竜の鱗を引き裂いて一刀両断だよ? 強いよね。わたしとバーギアンの血筋ハイブリッド恐るべし。


その間にわたしも神業の速さで動いて真ん中の蛇竜の首を剣で斬り落とす。アイリが次どうしよう、って悩んじゃったからだよ。戦闘初心者にはその一瞬が生命取りって、さすがにわかんないよね。


竜の尻尾が動いて、アイリを弾き飛ばそうとしたけど浮遊盾がしっかり防御。同時に最後の首が口をカッと大きく開く。わたしは敢えてアイリの間に割って入って竜が吐いたブレスを盾で防いだ。


「アイリ! また横から斬って!」

「う、うん」


アイリが言われた通りに半円描いて踊り掛かるように竜の首に迫る。気づいた竜がブレスを止めた瞬間にわたしも突進。


で、おまえどっちに対処する戦法。

どちらを選んでもおまえの首飛ぶぜ。


結局、突進してきたわたしに気を取られ、蛇竜の最後の首は何もできずにアイリの爪に首を掻き切られていた。


ドサっと落ちる蛇竜の首。血とかどばどば出てる。

匂いも血生臭い。でも、これが戦いだよ。


わたしは返り血浴びたアイリの様子を観察。

何か戸惑ってるようだけど大丈夫そうだった。

怖がってないのは、まだよくわかってない感じ。

強すぎるのも怖さが解らないから難点だよね。


「アイリ。ご苦労さま。一仕事終わったよ」


アイリは左右に首を振って三つ首蛇竜の死体を眺めてた。もう、竜は動かない。


「…………死んだの?」

「そうだね。生命を頂いたの。この竜も村人の生命を頂いてたからお相子だよ」

「倒したのお母さん?」

「アイリと一緒にね。……でここからがこの仕事の本番。頂いた生命は大切に使わないといけない」

「……?」

「じゃあ、その爪で尻尾と胴体の部分を切り離して、わたしは血液を採取するよ」



そう。この獲物、素材がお金になる。

血や臓器は錬金術の素材になるし、鱗は武具に加工できるんだよ。もちろん解体作業だ。

竜の血肉はプチ鉱山みたいなものだぜ。

今夜は焼肉だ!



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