第十三話 妖精騎士アイギスさんと報復戦艦のお仕置き。と、花園城塞の秘密の封印(7)
そして全てが終わり。わたしは花園城塞に戻っていた。核兵器を本国に向け全弾発射した最悪のテロリストどもは勿論、神祖の妖精王にして正義の妖精騎士アイギスさんが成敗したよ。
核兵器どうなったのって?
森陽王がなんとかするよ、だってあの森陽王だよ?
エルフの中のエルフ、ハイエルフたちの王様だよ?
どうせ切り札とか持ってるって。躊躇いなく目標108カ所にデュヌーの野郎が核弾頭撃ち込んだけど。この世界の技術レベルだと撃ち落とすの容易らしいからね。
大陸間弾道弾だから軌道を完全に読めるんだって凄いよね〜。ちょっとヤバめの細工が施されてるけど、森陽王さまなら大丈夫。
と、わたしとアスタロッテは後顧の憂いなく全てを忘れて一端戻って来たよ。
するとね。皆ドン引きしてたわ。
セレスティナさんは倒れそうなくらい青い顔してた。シャルさん身体が恐怖の為か、震えてた。
ハイブラウニーの白魔導師の人と忍者の人?
正気を疑う眼差し向けられたよ。
アスタロッテと意気揚々と二人してやり遂げた顔してたのに何が、駄目だったのか……
「あ、あ、アイギスさん!」
「只今、セレスティナさん。務め果たして帰って来たよ。核兵器撃たれちゃったけど。まぁ問題ないよね。撃ったのデュヌーだし」
「そ、それなのに、それなのに」
と、わたしの笑顔を見てセレスティナさんが狼狽えてるのをアスタロッテがフォローしてくれたよ。
「大丈夫ですよ。森陽王の国なら自国の核弾頭に自爆信号くらい送り込めますから」
「そ、それ本当なんですよね?」
「じゃなけりゃ撃たせるの見過ごさないでしよ」
「そ、そうですか……」
そんなわたしの答えに戦神神官のセレスティナさんが安堵してくれる。肝心の自爆信号を受け付けないようにしてるのは、アスタロッテと墓まで一緒に持っていく秘密だよ。
ただ、白魔導師のベル・ベラさんだけはジト目で見ていた。ただ、見るだけで何も言わない。もしかしたらわたし達の細工がバレてるかも知れないけど、言えないよね〜。
ここで言ったらどうなるか……当然、理解してるとアイギスさんは信じてる。と、目線を一瞬鋭くして返しといたから。
「まあ、全てデュヌーが悪い。何より森陽王が悪いよ。デュヌーにそれ教えてあげたら全弾発射しちゃうからね」
「そうですか……」と、ベル・ベラさん納得。
「そ、そうでござるな」と、忍者の人納得。
「なぁんだ。なんとかなるじゃないですか」と、ポニテのエルフの娘、納得。
シャルさんだけが落ち着かない様子だったけど……
「シャルさん。大丈夫、何も起きないよ」
「あ、アイギスさま。……いえ、アイギスさまがそう言うのでしたら。信じます……疑って申し訳ありません」
「全てこの神祖の妖精王アイギスさんに任せて……」
と、わたしは花園城塞の高い天井を見上げる。
天蓋からは、魔法によって人工的に作り出された陽の光が庭園に差していた。眩しいね。エルフの人たちも今ごろ見てるけどね。何人くらい死ぬかな?
そしてわたしは感慨に耽るのもいい加減にして、ベル・ベラさんに向き直った。
「じゃ、早いとこトンズラしないとマズいかも知れないからさ。わたしに渡すものの話し聞こうか」
「解りました。確かに早めの方が、良さそうですね……。説明は後で、まずはお渡ししてからしますので、こちらへ」
アスタロッテ曰く、聖魔帝国が森陽王の国以外に呼び掛けて編成した連合艦隊がこの花園城塞に殺到して来るのは時間の問題らしいよ。
もちろん、あいつらの悪行三昧を、事実か確かめに。
そして、異世界の妖精界から来た円卓騎士団はそれに関わる気が一切ないらしい。
基本的にはこの世界の趨勢、特に国家間の争いには庇護するブラウニー族が窮地に陥らない限り関わらない姿勢らしいんだって。タブタブ神とその配下たる円卓騎士団は。
そして、一同は花園城塞の秘密の最奥たる封印の間へと案内される。
所で、この城のあるじ、女猫妖精族の女王さまの姿見えないんだけど……
「申し訳有りませんが、どさくさに紛れます。連合艦隊が出てきたら女王陛下と言えど事態の説明に封印の品の説明を求められますから。肝心の物があるか、ないかでどう対応されるか解らない状況。事態を正確に把握する前に――」
「救出した娘さんと再会喜んでる間に掻っ攫うのね……」
酷い話しだ。長年守って来たのに。
と、わたしは思ってたけど……
ベル・ベラさんが繭に包まれたような封印から、儀式魔法によって封印を解いて出てきた"品"にわたしは驚いてそんな事に構ってられなくなった。
「お、女の子?」
「はい。封印してた理由は連れ出しながらご説明しますが……神祖の妖精王さま、かつての貴方さまの配下。亜精神バーギアンの娘――」
ベル・ベラさんの説明は皆の耳に入っていたかどうか。一番認識が遅れたのはたぶんわたしだと思う。
その女の子は女猫妖精族に似た10歳くらいの年頃の子供だったの。猫耳が頭から飛び出していて。でも、角も2本頭から生えてて。
髪の色は栗色をベースにメッシュ入れてるように紅い毛が混じっていて腰元まで髪が伸ばしてた。
フリュドラ達と違って、何処か怖がりのようで、繭のような封印から出てきた時、おどおどと周りをビク付くように見渡してた。
「ベル・ベラの、おばちゃん……?」
「はい。その通りですよ。アイリさま」
見知ったベル・ベラさんを見つけて、その子が安心したように俯き加減だった顔を上げる。
その顔は、その顔は、……
周りの皆が一斉にわたしに視線を向ける。
でも、でも、わたしはそんなの構ってられなかった。
わたしの目はその子に釘付けで。心臓がものすごく高鳴る。別に恋じゃない。
イヤな予感がする。とても嫌な予感が……
ベル・ベラさんがその子アイリと呼んだ、バーギアンの娘をわたしの前に連れて来た。目の前に。
「あ、あ、あ。そ、その子は」
「はい。説明する必要はもう……ございませんね」
「おばちゃん、この人達は……?」
「アイギス神さま……時間が必要でしょうか?」
「い、いや」
わたしは、わたしは。逃げ出せない。そう思ったの。もしかしたら、わたしは、前の私ならそんなこともしてたんじゃないかと心の片隅で思ってたのかも知れない。知ってたのかも知れない。
「じゃあ、本当に? わたしの……」
「…………はい。――アイリさま。この方はあなたの二人いるお母様のもう一人の方です」
私の娘、アイリがわたしに向かって顔を上げる。
わたしもアイリの顔を見つめた。
そっくりだった。わたしの顔と母娘と言われても誰しもが信じられるほどに。
見た目の歳が近いので姉妹の方がしっくり来るかも知れないけれど。でも、
「お母さん?」
「お母さん……」
わたし達ふたりのその呟くような声は……
本当に似ていた。そして、血の繋がりをその瞬間、二人とも解ってしまっていた。




