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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第2章 暗躍錯綜のフェアリーテイルズ
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第十三話 妖精騎士アイギスさんと報復戦艦のお仕置き。と、花園城塞の秘密の封印(6)



「さて、デュヌー。そろそろお話しできるかなぁ〜。ちゃんと言葉喋れるかなぁ〜? 喋れなければ、もういいぜ。オマエの全身全霊を永遠の地獄に送ってやるぜ。ただ、その前に聴いておきたいなぁ。返事は?」


と、やっと大人しくなったデュヌーに立場をわからせてわたしは説明するの。


「ひぃ。ひぃぎ」

「はい。ストップ」

と、アスタロッテが更に刃付きの鞭――蛇腹剣でまた調教するのを止めるよ。


「そろそろ限界だって」

「いえ、まだまだいけますわ! 苦痛という苦痛に耐えきれる、その限界にチャレンジ」


いや、もう無理だって死ぬの目前の状況だから。

わたしはアスタロッテが剣を持ってる手を抑える。幾ら何でも死ぬわ。まぁ、ここまでしないと大人しくならなかったコイツも大概だけど。


ただ、それを根性があると評価するには微妙な感じなんよ。反射的に反発してくる感じで。

……わたしはこのデュヌーの様子を見て、嫌な予感がしていた。


「デュヌ〜。オマエが返事もまともにできないから、アスタロッテが目覚めちゃってるよ。で、返事は?」

「は、は、はぃ」


もう、死にかけだからかなり精神的に限界の状態。最初に声だけ聴いた時と別人なってるよ? ハイエルフでも追い詰められるとダメなんだろうね。

その憔悴しきった顔は、最初に抱いた傲岸不遜って印象の面影が消し飛んでた。

魂ごと削ってるからもう人格変わるほどに。

ここまでやると普通の人間は死ぬくらいだ。



「よ〜し、良い子だ。人生最後に素直になったな。じゃ、確認するけどデュヌー……どうやって死にたい?」

「い、嫌だぁ。死にたくはない。死にたくはない」

「デュヌー……。オマエは最後まで生き意地汚すぎるよ……。それ自体は悪いことじゃない。ただ……覚悟って奴がさ。オマエには足りなすぎたんだ」


別に諭してる訳じゃないんだよ。ただ、本当にどいつもこいつもわたしの出会う悪党って……


「……人を踏み台にして生きるの。大なり小なり、みんなお前みたいにしてるよ、わたしも含めてどんな奴らでもさ。ただ、踏みにじるその行為を……許せないって奴が居ること、お前は知らなかっただけ……なんだよな? どうだデュヌー?」


道理だよ。だからコイツに覚悟なんて必要なかった。


「わ、わたしは……ゆるしてくれ、ゆるしてくれ」

「デュヌー? 贖罪の時間、わたしが与えると思うか? 本当に与えられると思うか? わたしが与えて来たと思う……か? ないな。わたしに、それは、ない!」

「ひぃ、ひぃ、ひぎゃあああ!」


デュヌーが叫びだす。わたしは何もしてない。

ただ、……怒っただけだ。プッツンだぜ。


普段なら、ここでわたしがキレてブチ殺すのがパターンなんだけど、今回はここでブチ殺しても気が済まないからな。


「そこでお前に死に方選ばせてやろうと思ってな。ただ、その前に聞きたいことがある。素直に答えたら楽に殺してやろう。嫌でも楽に殺してやろう。そうでなくても楽に殺してやる。助かるという選択肢だけがない。その選択をするなら、おまえは絶対に死ぬ。最悪のやり方でな。まず選べ、どう殺されたいか、だ」

「………ころ、ころさないで」


デュヌーの即答に、わたしの予感的中だ。


「……やっぱりな、最悪を選ぶと思ったぜ」

「ウソだ。違う、わたしは」

「いや。この質問自体はどうでも良かったんだ」

「……な、なにが」


「多分、もうまともに考える事ができないほど衰弱してるから、本音出ちまったんだろうけど……知りたかったのはオマエの反応だけ。一番重要だったのはオマエが、諦めるか、覚悟を決めるのかそれだけだった……」


「……?……! いやだ。もういたいのは! 死にたくはない!」

「そうだな……それが普通の反応……じゃないんだよデュヌー。オマエみたいに魂縛が維持できるかどうかってレベルまでやられるとな、普通は"殺して下さい"なんだ」

「は……? 」


デュヌーが意味も理解出来ずに呆けた顔をする。

わたしはその顔を見て、良く出会う悪党どもを思い出した。吐き気さえするよ。


そうだ。他人を踏みにじって当然とかいう連中は揃いも揃って生きることに必死になりすぎるんだ。



「こんな状況になったら普通は殺して下さいと願うんだよ。デュヌー。もう、おまえ、生かしておいても余命幾ばくもない状況なんだぜ。普通は楽に殺して欲しくなるんだよ。他のエルフどもがどういう事になってるか知ってる筈だよな。じゃあオマエはどうしてそれが言えないの?」

「――? ――?」


理解が及ばないというデュヌーの顔。


デュヌーの今の状況は、魂すらズタボロで、治癒魔法を掛けても肉体はもう、完全には回復できない。ゲーム的に言うならHPの上限がギリギリまで削られてる状況だよ。この世界では老衰して死ぬ老人がこんな状況なの。


病院のベッドで死を待つのがせいぜいの病人。

或いは大量出血でもう死が目前の状況。

そんな状況と同じ筈のデュヌーが生命惜しさに懇願してくる、それはどう考えても異常だった。


特に楽に死ねるなんて事が、有り得ないと理解してる筈のこの状況では。

エルフの軍人たちが悪魔と妖精たちにコレ以上ないって方法で虐殺されてるんだよ、どうして元凶のおまえが助かると思えるの。


わたしはアスタロッテを横目で見た。

アスタロッテは理解に及んだ顔してた。


「デュヌー。あなたは、自分が死ぬことを想像できないんですね。死んだことがある筈なのに、何故"死んだか"を理解してない。だから助かると希望を抱けるんですね?」


「……な、なにを言ってる、おまえたちはなにを」


「簡単なことなんだ。おまえはだから、現実見てないんだよ。自分が望めばなんでも手に入るとこんな状況でも希望を抱けるんだ……」


自分はなんでもできる、成功できるってね。デュヌーはその最悪だ。こんな詰めに詰められた状況でも……

諦めてないし理解もできてないの。


死んでも復活さえできると思ってる。今の状況が悪夢で目が覚めたら元通りになるとか思ってるんだろうね。

じゃ、地獄に突き落とさなきゃ。



「デュヌー。まずはおまえにさ。治癒魔法を掛けてあげましょう。〈完全治癒フルヒール〉」


肉体の損傷を完全に癒すレベル11の奇跡の魔法だよ。

癒すのが肉体だけなのでわたしやアスタロッテみたいに精神体が物質化してる存在は完全には一度で治療できないんだけど……デュヌーは全快だ。


「あ、あれ……」

「癒しの奇跡だ。けど男前が戻ってないよな?」


デュヌーの鼻が削げて、骸骨みたいになってる顔が元に戻らない。わたしは次に治癒の魔法薬ポーションを頭から掛けてやる。

――治らない。


「な、何をなにをしたんだ」

「治癒魔法に治癒の魔法薬。見ての通りだ。別に幻覚でも騙そうとしたんじゃないぞ。魔法薬は安物だったけど……治ってないよな?」

「嘘だ。ウソを、治癒魔法じゃ」


「いや、おまえの傷は治癒魔法の効果じゃ、戻らない。復活魔法だろうと同じだよ。ハイエルフは魂魄が精神体だけでも生存できるような存在なんだよな? だから肉体が引っ張られて永遠に若い。寿命というものがない」

「……はっ、は」


現実というものが辛うじて認識できるのか、デュヌーは目を見開いた。多少は魔法の心得くらいあるんだろ。アイギスさんさえ魔術師ギルドの爺っちゃんに教えてもらったくらいの知識はある。


「だったら魂が傷ついてしまうとどうなるの? そして肉体と違って魂は元に戻せない。信仰系の治癒魔法の原理は魂の記憶の復元だよね……」

「ば、ばかな。有り得ない、有り得ない。わたしはハイエルフだ。ハイエルフ」


「悪いなデュヌー。おまえもうエルフ以下だわ」

「違う! わたしは森陽王の息子だ、わたしこそ真の――」

「残念ながら、そこらのエルフに劣るクズだわ。まだブラウニーの方が役立つね。ゴブリン以下って言った方が解る? 多分、知能も大分下がってるよ。それも、元に戻らないから」


ゴブリンは結構頭良い連中なんだけど、蔑まされてる妖精被差別種族の代表だからね。ちなみに最弱知能で最弱戦闘力と言われてるのがブラウニー族。ハイブラウニーはめちゃくちゃ頭良くて強いんだけど。


「あ、ああ。バカな、有り得ない。戻るもどせふ」

「戻らない。神の奇跡に頼る方法も無くはないけど、おまえ今から死ぬもの。復活魔法に耐えれないからね、今のおまえじゃ、この世界に戻ってこれないよ?方法あったら教えてほしいなあ、アイギスさんに」

「……わ、わたしを殺さないでころさないで」


「わたしはさっき言ったよな? おまえは死ぬって。そして最悪のやり方で絶対に死ぬ、とも言ったな? そしてわたしが楽に殺してやると言ったのをおまえは拒否したな?」

「死ぬのは嫌だ、こんな惨めには」

「良かった。やっとおまえが理解してくれて」



と、わたしは一安心だ。コレで何も理解できずに死んだら、死んだ連中に申し訳立たなさ過ぎるよ。知能の低いモンスターにオマエには罪があるとかイチャモンつけてブっ殺す趣味、わたしにはないからね。


さて、……あと問題はこのデュヌーの始末の付けようなんだけど……


わたしは困ってアスタロッテの様子を眺めた。けど、アスタロッテもやる方なしって顔してた。そう、興味を掻き立てられないタイプだよね~。痛めつけて反抗されるまでが華で、大人しくなっちゃうとやる気削がれるんだよ。


やっぱり悪党なら根性ある奴が良いよね。

デュヌーなさ過ぎなんだよ。



「アイギスさま。なかなか面白い逸材ですね?」

「逸材って、こいつを"わからせる"、とかしようっての? アスタロッテも趣味良いね?」

「まさか。ただ、悪魔として言えるのは……不可能ではない。と言えますよ? 本当に理解させれば面白いくらい絶望に堕ちてくれますから。……その過程のやりごたえの無さが難点ですけど」

「…………」


その言葉を聞いてわたしは視線を落とした。

どんな方法が? 拷問で無理矢理、罪とか自覚させる? 訳もわからず地獄に落とす?

わたしにはしっくり来ないんだけど。


こいつを"わからせる"事にどれだけの意味があるの……それに気づいてしまってわたしのやる気は意気消沈だよ。示し付けなきゃならないからやらないと駄目なんだけどさぁ。


自分の気の済むままブチ殺せれば、どれだけ楽だったか……、ただ結局それだといつもの殺しと変わらない訳よね。デュヌーがやる事大物のくせに本人が小物過ぎるんだよ。


気に入らなくて……ん?


わたしは艦橋の片隅に落ちているものに光明を見出した。わたしの無邪気な妖精気質が疼いたの。

分かり易いくらいにスイッチボタンが付いてたから。

そしてそれをアスタロッテに手で指し示した。



「アスタロッテ……これ以上ないっていうくらいの仕返しの方法見つけたわ。乗る? というより乗れる? もうデュヌーは諦めて使い捨てにした方が良いと思うんだけど。"わからせる"奴、別にいるよね? だったら素敵な悪戯してみない?」


「――!? あ、アイギスさま! 私、貴方さまに一生付いて生きますわ! まさか、そのような手を思いつくなんて!」


おっと。悪魔が目の色輝かせて、むちゃくちゃ、がっついて来たぜ。デュヌー喜べ、オマエにこれ以上ないって使い途出来たわ。わたしのやる気も戻って来たぜ。


「デュヌー。高貴なオマエに頼みがある。人生の最後にこれ以上無いくらいの華を咲かせてやる。おまえの望み通りに、な」



そして全てが終わったあと。世界に悪夢が訪れた。

奇しくも全てこのわたし、アイギスさんの計画通りに。


核兵器全弾発射! 目標、森陽王しんようおうの国へ。

デュヌーの徒花あだばな。ぜひ受け取ってね、全ての元凶さん。

デュヌーにこれ以上ない名誉を与えてやるぜ。

ここまで馬鹿なら本懐遂げさせた方がいっそ清々しいからな。

馬鹿の始末は自分で着けろよ、森陽王!



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