第十三話 妖精騎士アイギスさんと報復戦艦のお仕置き。と、花園城塞の秘密の封印(5)
艦橋の様子を見て、わたしは再度念入りに状況を確認する。
戦艦をコントロールする為の制御機器が並び正面には巨大なモニターが設置されている艦橋内。所々に弾痕だとか争った跡がある。
それに他にも設置された器具が吹っ飛んでたりとデュヌーの奴が裏切られて一騒動やらかした後って状況がまる解りだった。
「艦橋の連中は皆殺しか。よほど人望無かったんだな、デュヌー。全員斬り殺されてるよ、アスタロッテ」
「戦艦がザランバル様に飲み込まれて、追い詰められた後に殺られた形跡も有りますよ。血の跡が新しいのもありますから」
と、わたし達は二人して艦橋内の様子を検分。
のんびりしてるようだけど、奴に逃げ場がないのは変わらないからね。
戦艦自体はザランバルの腹の中。外は霊体でさえ溶けるような異空間。そもそもこの空間から抜け出せばザランバルに気付かれない筈がないとは、本人の弁。
「一応聞いとくけどさ、アスタロッテ。この艦橋から逃げ出した可能性は?」
「相手が神話の領域の存在ぐらいですね。その可能性があるのは。エルフなら半神とも言われる彼の森陽王なら或いは……と言った所でしょう」
「あの馬鹿が親父並ならわたしの深淵魔法くらいじゃまずビビらないからあり得ないね」
「フ、フ」
アスタロッテが微苦笑を浮かべてそれを恥ずかしげに手で隠した。わたし、何か面白いこと言ったかな?
「いえ。惑星破壊を可能とする魔法を撃ち込んで平然としてらっしゃるので。アイギスさま。お解かりと思いますが大気圏と地下にはあの魔法はお辞め下さいね?」
「……Oh そんなにヤバめの魔法だったのぉ。全力で撃ったらヤバい魔法とは思ってたけどさぁ」
「ああ、でもこの異空間内なら大丈夫ですけど。最悪デュヌー殿下が見つからなかったら撃ち込んでみます? 私、アイギスさまのお力をぜひ拝見いたしたいですわ」
「……もっとヤバめの魔法とかアスタロッテって使えない?」
ニヤリとわたしは笑みを浮かべる。思いっきり人が悪そうな奴を。きっとアスタロッテならエグいの持ってるって直感がそう囁くの。
「そうですね。では……汎ゆる生命体を生者死者関係なく呪殺。さらにその魂に冒涜の限りを尽くして永遠の怨嗟と苦痛を味わさせる地獄。哭魔獄に叩き貶す深淵級の魔法とかいかがです? エルフどもの残骸を贄に使えばきっと愉しいことになりますわ」
「死者にさえ最後の安らぎを赦さない……悪くない感じだね。じゃ、それで行こうか。みんなあの馬鹿のこと恨んで盛大に死にきれず永遠に悶え苦しむんだね。きゃははははは」
「あは、誰かさんのおかげで最高に愉しめますわ」
と、狂ったように二人して笑い合う。別に狂ってないよ。ただ楽しいだけで。
そして、ただ一人この場で楽しくない奴が一人。
「――」
「――そこだな」
わたしは感情の起伏を感じた場所に――無造作に剣をエルフ軍人の死体の一つに思いっきり投げつける。
「――――!」
「デュヌ〜。それで隠れたつもりか?」
エルフ軍人の身体から霊体が溢れだした。器用な奴だ。死体の残存した精神体の残滓に隠れるとか。
逆に言えば隠れる場所がそこくらいしかなかったんだろうけど。艦橋は霊体対策が施された密室空間だ。転移対策に〈次元封鎖〉さえ魔力源がなくなっても長時間残存するよう施されてるらしいからね。
まあここを抑えられてしまうと艦内の全機能が掌握されてしまうから厳重に対策されてるらしいけど。
「き、きさまっあああ!」
霊体を傷つけられ実体化して、怨嗟の声を上げるデュヌー。けど、次の瞬間にはアスタロッテの持つ騎士剣の剣身が分離してデュヌーの身体をぐるぐるに包み……
「なっ――ぎゃああああ」
容赦なく全身の肉という肉を引き千切りながら、デュヌーの身体を一回転させた。
「おっと。顔ごといったから男前かどうか分かんなくなっちゃったけど」
「あら、申し訳ありませんアイギスさま、……ついゴミかと思ってしまって」
「ごめ〜ん。そのゴミにまだ用事あるのぉ。殺さないでくれるかな。生ゴミかどうか確かめるから」
「ああ、分別って大事ですからね。私、いけませんわ。つい我慢しきれなくって……どういう声で鳴いてくださるかと」
「たっぷり聴かせてあげるよ。――で、デュヌー。
魂まで削られる感覚どうよ?」
「あ、がっガぁ! 」
豪奢な衣装を着てたようだけど、現れた瞬間に衣服ごと突然ズタボロだ。そしてみっともなく転がってる。
「おいおい。魂に少しゴリっていったくらいだろ。情けねぇ。前にわたしとやり合った奴で魂半分削られても立ち向かって来たやついたぜ。しかも人間で。おまえ人間以下かよ。それでハイエルフか?」
「あら、その人相当の勇者ですね。並大抵の精神力では有りませんよ」
「いや、さすがにすぐに死んだけど……勇者とは真逆の奴だったけど。根性はデュヌー、おまえの1000倍はあったな」
「く、クソどもがぁ! このわたしに、このわたしに。――ひぎゃあああ」
「悪いな。オマエの戯言聞くほど暇じゃないんだわ」
恨みごと吐き出そうとしたデュヌーにわたしは〈幻視痛〉の精神攻撃魔法を軽く浴びせる。さすがハイエルフ、普通の人間なら即死の威力でもピンピンしてる。
「アスタロッテ。でも、わたしじゃ殺しそうだよ。次、馬鹿が馬鹿言いそうになったら良い加減にできる?」
「おまかせ下さい、アイギスさま。私、調教とか得意ですよ」
と、満面の笑みのアスタロッテ。
待って、そういうこと言いそうな子だけど外見が子供だから、ギャップが酷い。しかも一切の邪気のない笑顔。綺麗な顔立ちの人形みたいなお姫様が屈託のない笑みを浮かべるの。
「ハァハァ」
「あら、いけませんわこのワンちゃん。ご主人様に断りもなく四つん這いだなんて」
と、鞭代わりの蛇腹剣がデュヌーの背中を削ぐ。
また、悲鳴を上げるデュヌー。息付く暇もなく片手に剣身が絡みついて、今度はデュヌーの全身を宙に浮かせた。
「よお。デュヌー。気分を聞きたいな?」
「き、きさまぁ――」
「――あ、去勢しますね。ダメですわ。猛犬はやっぱりコレしないと」
「ひぎゃあああああああああ!」
……なんか痛いらしいよね? あれ。デュヌーのあれが根こそぎガリガリされたわ。野郎どもってそこ狙ったら大体悶絶するんだけど、さすがハイエルフだぜ。気を失ってねえ。
「あ、あ、あ」
「でも、放心状態なってる」
「あ。じゃあ起こしましょうか」
とアスタロッテの鞭が飛ぶ。
何回かしてたら、やっとデュヌーは大人しくなったの。さて、これから尋問の時間だよ。
おまえをどう殺すかのなぁ。




