第十三話 妖精騎士アイギスさんと報復戦艦のお仕置き。と、花園城塞の秘密の封印(4)
デュヌーが居る艦橋に繋がる通路。
一直線で10メートルにも満たないその空間には自動機械たちがぎっしり詰まっていた。
人型のゴーレムタイプから小さくて箱型の形状のやつまで色んなタイプがいる。そんな奴らが通路を埋め尽くしてるのよ。
最初のゲートの次のゲート開けたらいきなりコレだよ。いきなりは攻撃して来なかったけど、デュヌー殺る為に気合入れてたのに、面食らうわ。
「てか、どっからコイツら出てきたの。他に出入り口なさそうなのに」
「転送魔法ですね。本来は侵入者対策に艦内に緊急転送される物がこちらに集中配置されたようで」
「デュヌ〜。この程度でわたし達は止まんねぇぞ〜」
気配がした方に視線をやる。この状況見てるんだろ。小賢しいやり方だな。苛立つよ。時間稼ぎにはなるだろけどさぁ。
向こうから攻撃して来ないという事は釣りだして一匹ずつ確実に殺るのもダメそうなのが、さらに腹立つな。
「やれない事はなさそうだけどやった後が問題だね……」
何十体くらい配置されてるのか数えるのも馬鹿らしいほど居るんだよ? 寿司詰めって言うほどじゃないけどそれに近いくらい。もはや自動機械でバリケードを作られてる。
「一斉に襲って来ないので、狙いは物理的な足止めですね。艦橋までの通路は霊体対策もされてるのですり抜けもできませんし」
「それでも〈幻想妖精〉なら突っ込めない事はなさそうだけど……」
「止めて置いた方が無難ですよ、アイギスさま。弱点がバレていると対策容易ですから」
……アスタロッテにはその弱点がバレてる件。
技能〈幻想妖精〉は光速で魔法障壁やら何やら突っ切れるんだけど、空間を捻じ曲げられたり完全に別次元の出入り口とか配置されるとあらぬ方向に飛んでっちゃうのよ。
それを見越して罠とか張られてたら最悪。デュヌーが馬鹿でも気抜けないからね。
ちなみに戦艦の何十にも張られた魔法障壁は突っ切れる。位相空間くらいの"薄い"防御線ならすり抜けれるんだよ。何故かはこのアイギスさんにもよく分からないけど。尚、この世界で別次元に放り込まれるとかアイギスさんやられた事あるよ。経験が生きたな。
「多重次元積層魔法障壁は主に幻術系と付与系の複合作用による魔法原理なので突き破れますけど?」
「頭良い人って先回りして人の思考読んで来るよね。じゃあ、わたしが今どうしよっかって悩んでることの解答も、もう出てると思うんだけど」
「フフフ。アイギスさまでもできると思いますけど。艦橋までやってしまいそうとかそういう懸念が有りますか、やっぱり」
「じゃあ、アスタロッテ。解ってるなら上手いことやって、守ってあげるからさ」
面倒なので魔法で一掃、コレは確定。
問題はやり方。雷撃魔法で一直線に攻撃が無難なんだろうけど明らかに自動機械の残骸が邪魔になるのよ。一体ずつ相手した所で残骸残るのは一緒だし。
しかも自動機械の姿見てると、なんかレーザーとか撃ちまくられる予感するし面倒。さっきの戦闘で光線系の攻撃して来たやつが居た。
アスタロッテがわたしより前に出る。
「いえ、必要もないと思いますよ。ただ、万が一やり損ねたらお願いしますね――〈原子分解光線〉」
そして発言の最後に、いとも容易く放たれる通路空間目一杯の消滅攻撃魔法。
厳密には物理法則的にはあり得ない「消滅」ではなく「分解」なんだけど、効果作用は完全に消滅だ。
自動機械の群れと通路の一部が綺麗さっぱり円形条に抉られたように消滅していた。
魔法名唱えるより早く発動してたわ。
魔法の発動まで0.1秒の早業、無詠唱当然、発動までの時間さえ短縮してる。自動機械が攻撃を察知して反応する時間すら無かった。つまりわたしが守る必要すらなかった。
「あら、予想より呆気ないですね。奥の方はやり損なうかと思ってたのですが」
「この早業で、その計算され尽くした魔力出力の調整できるの怖い。アスタロッテ、魔法攻撃の専門家なの」
「いえ。そこそこ手解きを受けている、と言った所ですよ。アイギスさまも出力調整はともかくこれくらいできますよね?」
「……むぅ」
〈原子分解〉の魔法はわたしでも使えるよ。ただ、わたしが使えるのは範囲指定の魔法で光線条には撃てないのよ。
しかも、艦橋の入口までできっちり止めるとかは。
「わたしならこの通路で使うと艦橋ごと範囲に入るよ。自動機械連中まとめてやる威力だと」
「やっぱり魔力量がオカシイですね。逆に私はそこまで出来ませんよ」
「……ものすごく怪しいけどそういう事にしとくね。取り敢えずデュヌー殺ってからで」
そして艦橋最後の関門をわたしは〈原子分解〉の魔法で分解して消滅させた。魔法を構成する最小出力で撃つくらいならわたしでも出来る。
「……異界化や別次元を展開してる様子はなし。考え過ぎだったかな?」
「一寸先は闇とも言いますから、油断しない事は大切ですよ? 窮鼠猫を噛むらしいですし」
「だよね~。――じゃあ、油断せずに行こうか」
アスタロッテの忠告を聞きつつ、怒鳴りながらわたしはズカズカと艦橋に乗り込んだ。
「可愛いらしい猫ちゃんが来てやったぞデュヌー! おらぁ! 逃げ隠れしてんじゃねぇぞ!」
ただ、艦橋に足を踏み入れたわたしの目に映るのはエルフの軍人たちの死体のみ。艦橋内で戦闘があったような様子だけど肝心のデュヌーらしき奴の姿が死体を含めてもなかったのだ。
「おまえよぉ。良い加減にしろよな」




