第8話 理解
祝い!
おかげさまで初投稿から6日経ちました。
なんとPV1万アクセスを超えました。ありがとうございます。すごくうれしいです。
私は先ほどまでのトトゥロ大神官長とのやり取りを反芻していた。
1.この世界はリリーネルシアといい、至高神ホロが創りだした世界。
つまり地球ではない、異世界であること。
2.今いるのは、ワーグナー国の中央神殿。
彼の私に対する待遇を見る限り、優遇されているみたい。命はひとまず安全…?
3.私はこの世界の神、至高神ホロの愛し子である。
神の愛し子であるために「神語」が話せる。植物たちと話せるあの力である。
…しかし、その“神の愛し子”とはいったい?
何のことだかわからない。それに、なぜ私がこの世界に来てしまったのか。そのことは愛し子ということに何か関係があるのか…?とトトゥロ大神官長に聞いた。
しかし彼は、少し考え込むように口を噤んだ後、…それはあなた自身が最も理解していることだと思いますが――と前置きして静かに話しだした。
「…それはきっとあなたが、至高神ホロの愛し子であるからこそ、この世界に舞い降りることができたのではないかと思われますな。なぜなら、この世界は至高神ホロが作りし世界であり、彼の御方が認めた者でなければ―――異世界から舞い降りるなどという荒技は夢にも叶いませんじゃろう…。」
私は顔を歪ませた。
神の愛し子なんて…知らない。私は知らない…。
…わからない。それにこの世界に来たのは私が原因ということ???
そんな私の顔を見ながら、それに…と彼は続けた。
「それに…やはり元の世界で、この世界に舞い降りるきっかけなるものがあったと思いますが。……やはりあなた自身が最も理解していることだと。」
わしはその場にはいませなんだしな―。と少しおどけるように言った。
そう。そうなんだ……。
彼は『地球で“何かあった”から、私がここに来たと。この世界は、私に対して何の働きかけもしていないのだと、来た原因は私にあるのだと』…そう言ったのである。だからその答えは自分で探すしかないのだと…。
暗くなる思考。
思わず俯き、無意識のうちにシーツをギュッと握りしめる。
それを知ってか、ひとまず話はここまでだと彼は言った。そして付け加えるように、もしさらに聞きたいことがあるならば…朝食を食べた後にでも、それを持ってきた者に聞くのがよいとも。
あぁ。
…彼は「これ以上私に話すことはない」と暗に告げたのだ。
私はそのことに少なからず動揺したものの、彼は忙しい人なのだ…と無理やり自分を納得させた。
そうしなければ、見放されたと思ってしまいそうだったからだ。彼に。それはただの甘えでしかないのかもそれないが…。
だから、無理やりにこりと微笑んだ。
「わかりました」と―――きっと歪んだ笑顔だったと思う。
それでも彼は、満足そうに灰色の目を細めて微笑んだ。
それでは…とスッと立ち上がり、白いローブをひらめかせながら退出していった。
乙は彼の後姿をぼんやりと眼で追い彼とのやり取りをじっくりと反芻するのだった。
◆◆◆
広い大理石の廊下をコツコツと足音が響く。
朝の柔らかい日差しは、時間が経つごとに一段と強さを帯びていく。
その光が瞳に入り込み、とろけるような蜂蜜色の瞳が濃厚な光を反射させるようになる。
肩口で切りそろえられた曇天を思わせる灰色の髪は、動きに合わせてさらさらと揺れた。
その身にまとうのは、白色の絹でできた生地に銀糸の刺繍が施された、ゆったりとしたローブ。
―――ルシカである。
その手には、食事を持っている。
彼の向かう先は…今朝、思わず口づけを落としてしまった少女のもとで、トトゥロ大神官長の命により朝食を持って行く途中である。
ちなみに食事といえば…ルシカは今朝起こした自分の神官たりえぬ行動に反省し、5日間の断食を自らに科すこととしたのだ。戒めも兼ねて…。
そうこうするうちに、少女の扉の前まできた。
ルシカは、一つ呼吸を整えやさしくノックをする。
…反応がない。
もう一度するが、やはり反応がない。
…これは?と訝しみ、入りますと断わりをいれて部屋に入る。―――いない。
ルシカは食事をテーブルに置き、隣の部屋の寝室に向かう。てっきり起きて、ソファーにでも座っているかと思っていたのだが…まだ寝室か―――?
そして寝室につながる扉をノックし、反応を待つ。が…ここでも反応がない。
……。
もう一度扉を叩こうとして、ルシカは体をビクッと硬くさせた。
扉の向こうで…ざわめきが聞こえる―――!
っっっ!?
突進するように勢いよく扉を開け放つ。
刹那。
心臓が止まるほどの衝撃を覚えた。
いや、一瞬止まったと思う。
なぜなら、少女が窓に足をかけ身を乗り出し、今まさに飛び降りようとしているのだから―――。
「!!!」
ルシカは走り出す。
部屋がとても広く感じる。
全てがスローモーションのように揺れ動く。
ふぁさっと少女の漆黒の髪が風に踊り乱れる。
「ッッッ!!!」
少女に腕を伸ばし必死に絡みつく。
猛然と走る勢いそのままに。ぶつかるように。抱え込む。
―――ドォォォオオオン!!!
派手な衝撃音。
ルシカは窓辺から少女を引きはがし己の胸の中に抱え、勢いよく床に倒れこんだのだ。
その時に小さいテーブルや椅子なども一緒に巻き込んだため、激しい音が部屋中に響き渡った。
受け身を取り損なった背中が痛み、呻き声をあげそうになったがすんでのところで押しとどめる。
腕の中にすっぽりと納まるやわらかな少女の身体を感じる。思ったよりずっと華奢な身体だった。強く抱きしめたらこのまま折れてしまいそうな…
スッと彼は蜂蜜色の双眸を押し開く。
―――少女は本当に自分の胸の中にいるのだろうか、怪我などしていないだろうかと。
うっっっ!!!
ルシカは思わず呻き声をあげた。
狼狽という名の。
それもそのはず、少女は彼の腕の中にいるにはいるが…床とルシカに挟まれるようにいた。
隙間など皆無で密着して………まるで押し倒しているようで。
目の前には少女の美しい顔があり、お互いの吐息が自然と絡まった。
あのときよりもさらに深く。
少女の長くつややかな漆黒の髪は、床に孤を描き散り、少女の白く細い首や華奢な身体に絡まり、ついでにルシカの身体へも絡まりついていた。
その妖艶な光景に一気に彼の頭は…爆発した!ように見えた。
なぜなら、彼の顔は真っ赤に熟れたりんごのように色づいていたからだ。
そして彼は心中でそっと呟く。
断食は5日から7日に増やそうと………。
せめてもの救いは、少女の大きな漆黒の瞳が閉じていることだった。
いきなりのことで目を回してしまったのか、愛らしく「うーん」と小さく唸っていた。
ルシカは不可抗力の末、断食修行7日になってしまいました。
まぁ、神官ならしょうがないかな?
ルシカ、揺るがない精神を鍛えてください(笑)
…それにしても今回驚いてばっかりのような気がする。