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漆黒の愛し子  作者: 花垣ゆえ
Ⅰ章 二つの故郷
16/48

回想録 ~ホロVS阿修羅~

至高神ホロ。

リリーネルシアを創りし至高の神。

人々から厚く敬われる崇高なる神。


しかしそんな至高神ホロにさえ…嫌いなヤツはいる。


犬猿の仲。

2人が顔を突き合わせる場面を見た者は、もれなくこう思う。


しかしそんな噂を耳にすると、ホロもその者も共にこう言う。


『『そんな仲というだけで吐き気がする!!!』』

『『ヤツとは何の関わりもない赤の他人だ!!!』』


共に、一向に歩み寄る気はさらさらないのであった。


はぁ…。

あの日は忘れたくとも忘れられない特別な日。

乙に初めて逢った喜ばしい日でもあり、同時に嫌なヤツにも出会った最悪な日でもあるからだ…



◆◆◆



ある日のこと。

至高神ホロは悠久なる時の中で、自らの愛し子が生まれることを予感した。

以前から子がほしいと願っていたのだが、それがやっと現実のものとなりこの世に生まれい出てくることとなったのだ。

待ちに待った我が子がやっと…ホロは歓喜に打ち震えるのだった。

まずは我が子を胸に抱いて、沢山頬ずりして、色々な服を着せて、それからそれから…思いは膨らむのだった。

しかし残念なことに、ホロが我が子と過ごそうと考えた予定は脆くも崩れ去ることとなる。

運命の悪戯か…はたまた誰かの差し金か…

それは神である者にもわからない…



…ホロは焦っていた。

愛し子が生まれたことが分かったのだ。だから迎えに行こうと思ったのに…どこにもいないのだ。

ホロが創りしリリーネルシアには…いないのだ。

半狂乱になりつつ隅々までくまなく探したのだが、やはりいないのだ。

『なぜ!?どこにいるのだ!?』

至高神と人々から厚く崇め奉られる神とはいえど、今はただの親であった。

子どものためならなりふり構ってはいられない。

探さねば!!!と。

手っ取り早く地上に舞い降り探したかったが、そうなれば強い神気の影響を受け悪ければ何人も住むことのできぬ死地になってしまう。だからなけなしの理性でもって自らを制し、天界より力を揮うことにしたのだ。それでも隅々まで探査の念を飛ばしたことで、リリーネルシアは過度の神の干渉によりバランスを崩してしまった。

―――天候不順による食糧危機。

人々はそれを神の怒りととらえ、日々清廉に生きることを神に誓い許しを乞うたのだった。

まぁ…怒りというか…ただ子を思う親の暴走だったのだが、被害がそれだけで済んだことは奇跡に近かった…。


しばらくしてホロは、この世界には愛しい我が子が“いない”と結論付けた。なぜいないのかはわからなかったが。それでも一刻も早く探さなければならない。

…この世界にいないということは、ならば…違う世界にいるのか…よし!!!

思い立ったが吉日。

すぐさま異世界へと探査の念を飛ばした。

だがいくら神とはいえど、異世界に力を発し干渉するということは容易ならざることであった。それでも、人の時間に換算すれば一刻ほどの後に…見つけたのだ。

愛しい我が子を!!!

我が子はなんと“地球”という世界にいた。

だが…何と面倒な場所にいるのか。ホロは思わず奥歯をかみしめた。

そうホロが思うのも無理はない。なにせこの世界には…神が沢山いるのだから。

ホロが創りし世界リリーネルシアは、唯一の神としてホロがいるだけ。なのにこの世界は多くの神々がいた。さらに、我が子がいる日本国には…八百万(やおよろず)の神々がうようよといるのだから厄介この上ない。


はぁ…。

溜息をつきながらも『まずは接近!』と、リリーネルシアの天界から念を飛ばし愛しい我が子を垣間見る。

まだ生まれたての、真っ赤な我が子を。


…あぁ。やっと逢えた。


私の愛し子…。


ずっと焦がれていた子は美しく珠のように輝いていた。

ホロは念を飛ばし垣間見るだけではなく、直接胸に抱こうと無意識のうちにこの世界に舞い降りようとしていた。舞い降りた際にどれほどの被害が出るのかということは考えずに。ただただ我が子を求めたのだ。


ぐっと力を集め、今まさに意識のもとに身体を持っていかんとした瞬間―――


バッチン!!!


何かがホロを攻撃してきた。

それもありったけの力と、ありったけの殺意を込めて。


『!!!』


まともに攻撃を受けたホロは身体を持ってくる前に弾き出されてしまった。

『なにやつか!!!』

ホロは臨戦態勢に入り、相手を見据える。

『あぁ?テメェ…なにやつってか?こっちが聞きたいわ!勝手に異世界から殴りこみやがって!!ふざけるなぁぁァアアッ!!!』

怒気も露わに姿を見せたのは、三面六臂の阿修羅である。

『お前わかってんのかよ。帰れ、すぐさま帰れ。このくそ野郎!!!』


―――ブチンッ。


ホロの中で何かが切れた。常の柔和な面差しが一瞬にして憤怒の形相になり、目は相手を射殺すような殺意の色を宿した。

『…先ほどから黙って聞いておったら。…貴様。誰に物を申しておる…雑魚の分歳で私に意見するか!』

『はんっ!何様だか知るわけない。いいや知りたくもないな!』

『雑魚が。貴様を滅さずにいるのは取るに足らんからだ。命拾いしたと思い、疾く立ち去れ!』

『…っ!!なんだとこらぁ?コケにしやがって!ここは俺たちの世界だ!!テメェが出てけ!』

『いいや。私はこの世界に用があるのだ。それが済むまでは退くことはできん!』

『用だと?!あぁ?!んなもんどうだっていい!!テメェがいるとバランスが崩れんだよ!』

『そんなことは関係がない』

『関係ないだと!!…それでも神かよ!!』

『そうだとも。私は神。だがこの世界の神ではない。よって、私がこの世界のことを気にかける必要もない』

『…っ!!なんつ―やつだよ!!ふざけんな!!!』

『ふざけてなどおらん、いたって真面目だ。私の用が済めば良いのだ』

『あぁぁアアアア―――!!!ヤメだヤメ!!!テメェと話してても埒が明かねえ。こうなったら実力行使といこうじゃねぇか!!!覚悟しろ!!!くそ野郎!!!』

『あぁ。望むところだ!後悔するんだな!!雑魚が!!!』

矢継ぎ早にののしり合い、互いにギッと相手を睨め付け臨戦態勢に入る。


――――――!!!


両者が飛びかからんとした刹那。


パンッ―――と手を打ち鳴らす音と気の抜けた声が辺りに響く。


『は~い。そこまでぇ~』

ピリピリとした空気の中で異様なまでの気の抜けた声。

限りなく場違いな声に2人…2神はこれを止めた相手を睨みつける。

『『………』』

『あはは。そんな顔しないでよ~。喧嘩なんかダメダメ。阿修羅も、せっかく止めたのに自分から喧嘩売るなんて…バランスを崩すどころか、世界を壊すつもり?』

阿修羅は正論を言われてバツの悪そうな顔をした。

『わかればいいよ。あぁ、あなたもね。もう少し冷静になってね』

ふふふっと笑顔を向けながら言う。

ホロはじっと観察するように相手を見つめる。その視線に気づいてか、ああそうだ!と何かを思い出したかのように再びしゃべりだした。

『自己紹介が遅れましたね~。私は四天王の毘沙門天。多聞天ともいって“よく聞く者”との意味をもつよ。で、こっちにいるのが阿修羅、八部衆の一人。私の配下の八部衆の夜叉がねぇ~同僚の阿修羅が暴れてるって報告するから来てみたんだぁ。そしたら…こんなことになってるしさ~』

話を遮るように阿修羅が割り込む。

『ち、違う!俺はこいつを止めるために…暴れてなんかいねぇよ!!』

『はいはい。後で君のことはゆっくり聞くからねぇ。では…あなたは一体どちら様?』

人畜無害です的な顔でいきなりホロに話を振り仰ぎ見た。

『………』

ホロは内心「ここまで来て言わないわけにもいかないか…それよりも早く我が子を抱き連れて帰りたい。この場は相手に合わせるのが得策」と思い平静を保ちつつ話しだした。

『…私は、リリーネルシアを創りし神。至高神ホロ。…用あってここに来た。案じずとも済めば疾く帰る』

『…う~ん。その用っていうのが…問題なんじゃ?それが何なのか教えてくれないかな~まぁ、何となくわかっちゃってるけど』

ニコッと笑いながら毘沙門天は言うが、目は「さっさと吐いちまえ」と全く笑っていなかった。

黒いヤツ…と内心溜息をつきながら、しょうがない…とここに来た訳をいやいや話すのであった。




―――。


一通りの話を聞き理解したのか、毘沙門天は顎に指を当てしきりに頷いていた。

『そうかぁ~。いやね、なんだか不思議な気配の子どもがこの世界に生まれてね、誰の子かと思ったら…そう君の子かぁ~。』

うんうんと何度も頷く。

『でもね。だからって、いきなりこの世界に来ちゃだめでしょ。あなた至高神っていうくらいだからかなり力あるし…この世界に身体ごと来るなんて―――この世界壊す気?』

目を細め咎めるようにホロを見つめる。

『…そうなろうとも。この世界を更地に変えようとも、私は愛しき我が子を連れて帰る』

『ふ~ん。この世界がどうなろうと関係ないってか。いいね、その精神。ゾクゾクするよ。…まぁ、こちらとしてもあの赤子と帰りたいっていうなら素直にお渡しするよ~。もともと君の子だし。…でも、こちらの世界に被害をもたらすことはお断りするよ。…それに部下の報告では、ある条件が揃えば最低限の被害のみで、あなたはこの世界に干渉することが可能だとさぁ~。つまり条件が揃えば身体ごと来ることができるし、その時に子どもを持ち帰ることも可能だってこと。どう?こっちの方がいいんじゃない?…至高神ホロ』

『………』

毘沙門天はわざわざ最後に“至高神ホロ”と付け加えるように言った。この言葉は「あんたも神なら最善の策を選べ」と念押しする意味を含んだものだった。


ギリッと奥歯をかみしめる。ここまで来た。やっと我が子を抱けるところまで来た…それなのに、それすらできないことにホロは苛立っていた。至高神ホロともあろうものが…自らの力のなさに胸が痛んだ。


そんな辛そうな表情を見た毘沙門天は…慰めることもなくさらに追い打ちをかけた。

『…それにね。その赤子は、人だ。神じゃない。だから人の世で生きることが、その子の幸せにもつながる。あなただってそれはわかってるだろう?どっちにしろ向こうの世界に行ってから、人の世で育てようと思ってるんだろう?なら…この世界で成長しても同じことだと思うなぁ~。…至高神ホロ』

『………』

『それに、見てみなよ~。あの子どもの家族。…何かしら感じ取ってるみたいだよ。普通の子じゃないってね。あの家で成長するなら安心かもね~。そう思わない?至高神ホロ』

『………』

『あっ!それにね。ふふふ…。あの子本当に可愛いし、不思議な気配持ってるし。…他の神もかなり興味持ってくれてるし、気に入っちゃってるみたいだよ!だから安心して我々に預けなよ。決してあの子が傷つく様なことにはならないからさ。ねぇ?…至高神ホロ』

『………』


はぁ………。

内心で盛大に溜息をつく。ここまで言われてしまえば…反論はできない。この世界の神々が全力で、我が子を守り育てるというのだから、危険はないといえる。だが…それまでは私は愛しい我が子を子の胸に抱くことすらできない。

はぁ………。我慢…するしかないのか…。

その瞳に悲痛な色を湛えて、決断する。

本当は嫌だ。でも…それしか道がないのも確か。

身も心も引き裂かれる思いで言う。




―――我が愛し子を頼むと。




毘沙門天は晴れやかな笑みで、了解いたしましたぁ~と人ごとのように言った。

その態度に内心呆れつつ、ずっと沈黙を守っていた阿修羅をふっと見たら…我が子を凝視していた。

その様子に先ほどの毘沙門天の言葉が蘇る“他の神もかなり興味持ってるし、気に入っちゃってるみたい”

…よくよく周囲を見回してみると、物陰に隠れながらかなりの神々の目が我が子に降り注いでいた。



…はぁ……。

我が子ながら、その魅力に脱帽した。

こうも神々に気に入られてしまうとは…と逆に心配になるホロであった。



だがいつまでもここに念を飛ばし続けるわけにはいかない。

実際、少しではあるがこの世界のバランスが崩れかけていることに気付いていた。まだ少しで済んでいるのは、おそらくこの世界の神々が何とか調整しているからだろう。


…名残惜しいが、そろそろ去らねばならない。


ホロは毘沙門天を見つめる。

そして、もう一度言う。




『愛しきわが子を頼む。私が迎えに来るその時まで』




そう言い残し、白光とともに姿を消した。





その姿を静かに見送る毘沙門天。

…やっといったか。と吐息とともにぽつりとこぼした。


実際、ホロが強行手段に出たら…この世界の神総出でも勝てたかどうか怪しかった。なにせ相手は世界そのものの力を持っていると言っても過言じゃない存在…いやそうだろう。“世界を創った至高神”といったのだから。

力の差は歴然であった。

平和的に解決できてよかったと心底思うのであった。

………少しばかり、世界のバランスが崩れてしまったが…治せないわけではない。


そう思えば上々な出来だと思い、去って行った虚空を見つめる。

…いつか来る時まで、大切に守り育てるよ~至高神ホロの愛し子を。

少し目を細め、誓うのであった。



気分が良くなり、忘れていたことを思い出す。


―――はい。さ~てと。いっちょいじめますかぁ~。

ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、阿修羅を振り返る。

『阿~修~羅~君。君の責任は…どう落とし前つけよっかぁ~?』

『ギィィィイイイヤアアアア――――!!!!!!』


空には阿修羅の絶叫が響き渡っていた。



阿修羅は思うのだ。

あいつさえ来なければ…俺は……と。



◆◆◆



ある日。

仏像展ということで、人の見世物状態になっていた阿修羅は人ごみの中でふと見つけた。

美しく輝く女性を。

その女性は熱心にこちらを見ていた。


…乙だぁ。


自分からは何度も様子を見に行ったりしていたが、向こうから来るなんてことはなかった。

まぁ。当然だが…。


うれしくなった阿修羅は、ふっと微笑んだ。


常人には見えるはずもない笑顔であったが、乙は気付いたようだった。

えっ!?

大きな漆黒の瞳を何度も瞬かせていた。

その様子に阿修羅はとてもうれしくなった。

しかし…今日で乙ともお別れ。

今日はあの神が迎えにくる日だ。胸糞悪いが、約束だからしょうがない。

でも、最後に乙の愛らしい表情を見ることができて本当によかったと思う。


ありがとう。


ありがとう、乙。


元気でな…


届かない声を吐息にのせ阿修羅は言う。



―――この子に幸多からんことをと。





美しく微笑む乙を最後までずっとずっと見つめるのだった。


いつまでもいつまでも。







コメディー風にかけたでしょうか?個性豊かに3者を書けて楽しかったです。

毘沙門天が…黒いし、ドS!! 阿修羅がいじめられてましたね~(笑)

ホロはきのと至上主義的なところあり。


2000字くらいの小話にしたかったんですが…なんと5700字いっちゃいました。本話より長くなるおまけ話…過去最長の文量です。


次はⅡ章ですが、その前にⅠ章を全話改正すると思います。


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