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深紅の魔女─レディ・モナルダ─  作者: 智慧砂猫
深紅の魔女レディ・モナルダと捨てられた想い出
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第27話「全部ぶち壊してやる」

 魔女モナルダの謀殺に関与したとして、フロランスを失脚に追い込むのは難しい話ではない。ただ、そのためには喉から手が出るほど欲しかった自由を一度は捨て去って、ヴェルディブルグの女王とならねばならない。


 権力を握ったままのフロランスを相手にするのは恐ろしい。あの魔女でさえもが、その命を奪われるに至ったのだから。


 世間はまだ知らない。モナルダ・フロールマンが命を奪われたとは。レティシア王女が、実の母親に謀殺されたとは。あってはならない由々しき事態。人々の信頼を裏切るにも等しい。魔女とは誰もが敬意を抱く者だったからだ。


「わかりました、カトレア。あなたに従いましょう」


「王位を継いでくれるのね。……ごめん、お姉様。嫌な役回りだわ」


 新たな魔女が生まれた後、先代の魔女についても亡くなった際には常に公表されてきた。三代目であるスカーレット・フロールマンのみが、その例外にある。ではモナルダはどうするべきか? 当然、二人が選んだのは公表する事だった。


 ヴェルディブルグ王家が犯した罪を隠す事は容易い。だがそれは、今後も臣民を率いていく者としてあるまじき行いだ。ましてや王族のひとりが魔女を継いだとなれば、先代の魔女に対する敬意を持たねば、誰が信頼を寄せようものか。


「別に構いません。それが、私が魔女に対して行える贖罪でしょう。ですからあなたは、あなたのやるべき事を。────戴冠式は三日後です、そのときに来て下さい。あの方は今の事態を見て、逃げ出す可能性もあります」


「ええ、わかったわ。じゃあ、そのときまでに色々と準備していくわね」


 軽いハグをして、カトレアは来た道と同じく、窓から出て行こうとする。


「そこから帰るんですか?」


「堂々と帰っても良いけど、あんたが迷惑でしょ」


「……まあ、それは一理あります」


 誰かに勘付かれたら計画は失敗するかもしれない。フロランスに必要以上に気取らせないためにも、パトリシアとの接触は隠したかった。


「じゃ、またね」


 別れを告げてカトレアは急いで宿に戻っていく。種は十分撒いたし、聞きたかった戴冠式の日も察したように伝えられた。であれば、残るは当日のために準備をする必要がある。────フロランスを追い詰めるための作戦の。


「シトリン、馬車を出して!」


「あっ、はい。寄るところはないですか?」


「全然ないから。さあさあ、行きましょ!」


「承知いたしました。では急ぎましょうか」


 近くの目立たない場所に降りて、徒歩で宿へ向かう。扉を開ければチリンチリンと鈴がなった。店主は何も知らないふりをして、こっくりこっくり船を漕ぐ。二階へあがって行けば、部屋の中には協力者が待っていた。


「おう、カトレア。待ってたぜ」


「ただいま、ラヴォン。準備できてるって感じね」


 新たな魔女『カトレア・フロールマン』の名付け親。ラヴォンはモナルダとも親交があり、彼女に救われた内のひとりでもある。恩人の命が奪われたとあっては黙っておれず、手立てもない中でフランシーヌ・ヴェルディブルグが接触。『後悔させてやれるならなんだっていい、罪人になったとしても』と、協力を強く申し出てくれた人物。今のカトレアには気の良い友人だ。


「クリストバルは? 会えたら会いたいって言っておいたけど」


「当日に協力する、それまでは余計な接触はしたくねえって」


「ま、当然ね。役者じゃないもの、怪しまれたら終わりだから」


「ところでアタシにできる事ってなんだよ、何でも言ってくれよな」


「あぁ、それなんだけどね。────モナルダのふり、できるかしら」


 頼まれた事に、きょとんとして自分を指さしながら首を傾げた。


「モナルダのふり……アタシが、なんで?」


「ちょっとフロランスをビビらせたいのよ。そのために、」


 ぱちんと指を鳴らすと、部屋の中をふわりと紫煙が舞って、ラヴォンにまとわりつく。彼女の髪色は深紅に染まり、瞳は深碧を宿す。


「ほら。あんたって顔立ちも似てるし、背格好も同じくらいでしょ。アイツが首謀者だって事を、城の兵士たちはもっと知るべきなの。あんた知らないみたいだから教えてあげるけど、王城内の何も知らない人たちの間じゃあ、全部ミルフォード公爵のせいになってるんだから」


 腹立たしさに親指をガリッと噛んで、血がつうっと垂れた。


「あの女、アタシたちを政治の道具にしか見てないだけじゃなくて、他の皆は使い捨ての駒扱い。それで自分の保身には走るんだから見下げ果てた母親だわ。自分を善人とは言わないけど、あれはもっとひどい邪悪よ」


 ヴェルディブルグきっての悪女。そう呼ぶに相応しい最悪の人間。親とさえ思いたくないという感情が、顔に浮かぶ。


「なんにしても、アタシはできる事を全てやるわ、ラヴォン。レディ・モナルダの物語にピリオドをつけるために、アイツはいちゃいけない」


「……ああ、そうだな。だから戴冠式の日を台無しにするんだろ?」


 カトレアが不敵に微笑む。


「もちろん。あの女が待ち望んだ戴冠式……。パトリシアと一緒に全部ぶち壊すの。アタシたちの妹を奪った罪を背負わせてやるわ、絶対に」

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