ファンのいない僕と、ただ一人のアンチ
何者かになりたかった。
第三者からみた僕は、そんなことを思っているようには見えないだろうと思う。
何をしてもせいぜい中の上。
世の中はすごく出来る奴しか相手にしなかった。
そんな僕の前にようやく現れたのは、誰よりも僕のことを見ている、ろくでもないアンチだった。
たとえばテストで周りよりちょっといい点を取ったあの日。
そいつだけは僕のことをこう言った。
「たいして努力してもいないのに、運だけでそんな点を取って、ちょっと褒められて嬉しいのか?」
勇気を出して告白したあの日。結局振られたあの日。
「お前みたいななんの取り柄もない、一時の気の迷いで好意をぶつけてくるような奴から告白されるなんて、相手に申し訳ないとか思わないのか?」
一番の親友と喧嘩したあの日。
「お前は、あそこまでお前を大事に思ってくれている人まで怒らせたのか?そんなお前と一緒にいてくれる奴なんて、もう、いるわけないだろ?」
死にたいと思って、帰り道に架かる橋から下を眺めたあの日。
「結局、お前は嫌なことから逃げることしか出来ないんだな。......ああ、それすら出来ない腰抜けか。」
いつからか僕は、自分の思ったことではなく、アンチの言うことを聞くようになっていった。
努力せずに出来ることはは悪なんだ。自分の想いは悪なんだ。自分なんかが誰かと生きることは悪なんだ。生きることも、死ぬことも悪なんだ。
いつしか僕は、そのアンチがいなくなったことに気付いた。
僕の中に眠っていた悪を無くした僕は、何者にもなれていなかった。
その代わり、過去の自分が、憧れていたはずの何者かに見えた。