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冬野つぐみの『IF』なオモイカタ  作者: とは


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渡さないのには訳がある その2

「で? 結局この中の誰も、観測者に冬野つぐみの記憶を渡せなかったということか?」


 観測者との対面から、数日が経過した一条の里希の自室。

 執務机に腰を下ろし、不機嫌な声で語る里希へと浜尾は頭を下げた。


「お力になれず、申し訳ありません」

「ふん、まぁ仕方ないさ。他の奴らで冬野つぐみの記憶も戻ったようだし」


 ここで終わらせておけばいいのに、楽しげに松永が茶々を入れてくる。


「とかいいながら里希様、実はちょっと嬉しかったりしません? よかったぁ、自分だけじゃなかったってぇっ!」


 だから余計なことは話すなと言ったのに。

 鋭く風を切る音が松永へと向かうのを、浜尾は残念な気持ちで見届ける。


「ちょっと! 部下に対していきなり攻撃するなんてひどいじゃないですか!」

「たまたま振り上げた手の方向にお前がいた。それだけの話だろう?」

「そのたまたまの指先に、どうして発動がこもるんですか!」


 ぎゃいぎゃい叫ぶ松永の声を遮るように、内線の音が鳴り響いた。

 しぶしぶと受話器へ手を伸ばし不機嫌そうに会話をしていた松永だったが、次第に顔をにんまりとさせていく。

 やがて通話を終わらせた松永は、里希へと向き直った。


「里希様、品子様が面会を希望しておられるようです。どうされ……」

「この部屋にすぐに通して。今日のこの後の予定は、全てキャンセルで」

「承りました。では私はこの後の予定調整をします。浜尾さん、品子様にこの部屋に来ていただく連絡をお願いできますか」


 すぐに松永と共に準備を済ませ、品子が来る前に退出しておく。

 松永に促されるまま別室へと入れば、彼はスマホを取り出し自分へと差し出してきた。

 そこに映し出されるのは、部屋の中を歩き回る主の姿。


「おい松永、お前まさか?」

「えぇ、せっかくだからカメラを仕込んでみました!」


 いたずらっ子のような表情を、松永は向けてくる。


「お前、これが見つかったらただじゃすまないぞ」

「ですね! でもばれなきゃ俺の勝ちです!」

「いや、勝ち負けの問題ではないんだが」

「あ、品子様が来ましたね。ふふ、里希様めっちゃ緊張してる」

 

 画面に、来客用のソファーへと向かい合って座った二人が見える。


「さて、何が起こるっかなっと」

 

 好奇心に負けついのぞき込めば、品子が楽しそうに里希へと話しかけていた。

 机の上には浜尾にとって見覚えのある、可愛らしい包装のされた小箱が置かれている。

 表情はいつも通りだが、少しうつむきがちの主の姿は珍しい。

 こんな姿を彼女にだけは見せるのだと、微笑ましい気持ちになる。


「里希様、俺達への態度とは全然違うじゃん」


 ふざけた口調ながら、松永の声は弾んでいる。


「そういうお前が一番、嬉しそうに俺には見えるけどな」


 返事をしつつも、視線が机の上へと向かうのを松永が見逃すはずがない。


「あれ? あの箱って確か一昨日、浜尾さんが里希様に渡していたものですよね。何ですか、中身?」

「……菓子だよ、チョコレートだ」

「ふぅん、人出様の好物ですね、……お、何やら動きがありそう」


 松永が示した画面の先では、品子がチョコレートを取り出し、うっとりとした笑みを浮かべている。


「うわぁ、二個入っている! じゃあ、里希と半分こだね」

 

 画面越しに軽やかに弾む彼女の声が響き、二つのうちの一つを里希へと差し出した。

 両手を前に出し、遠慮している里希を品子が不満気に見つめている。

 頬を膨らませる彼女の仕草を真似ながら、松永が呟いた。


「んも~、駄目ですよ里希様。せっかく品子様がシェアしてくれているっていうのに」

「里希様としては、二つとも食べてほしいんだろう」

「そうですよね。入手困難なチョコですから」

「まぁな、……っておい。さっきまでの会話は、それを言わせるためか」


 やられた、この男はとっくに見透かしていたのだ。

 思わず浮かぶ苦笑いと共に隣を見れば、満足そうな男と目が合う。


「で、あのチョコはどこで手に入れたんです? 俺の気のせいじゃなければ、観測者と会った翌々日くらいだったかなぁ?」

「……全部わかっててそれを言うのは、白々しいんじゃないのか?」

「何のことっすか~? ただ俺は、観測者と浜尾さんがどんなお話をしたのか聞きたいだけですよぉ」


 この男の前で隠し事は無理か。

 眉を寄せ浜尾は、松永へと観測者に会った日のことを語り始めた。

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