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冬野つぐみの『IF』なオモイカタ  作者: とは


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触れ合えるのは悪いことではない その4

 惟之の言葉に、品子は顔を伏せたまま、惟之へと歩みかけてくる。

 だが、数歩進んだところでぴたりと足を止めると、自分の頬をばしりと両手で叩いた。


「し、品子? かなり痛そうな音がしたが大丈夫か?」


 恐る恐る尋ねるも、返事はない。

 やがて拳を強く握りしめた品子が真剣な表情でこちらへと駆け寄ってくる。

 止まる様子もない速度に、思わず惟之の口から声が出る。


「え? その速さは、ちょっと危なっ」

「だぁぁ! 品子ぉタックルぅ!!」


 結構な勢いと衝撃ではあったが、倒れることなくなんとか品子の体を受け止める。

 飛び込んできた相手を見るも、うつむいたままでいる為、表情をうかがうことは出来ない。


「おい、品子。これはどういう、……ってお前、大丈夫なのかっ!」


 支えるためとはいえ、背中へとまわしていた両手を、あわてて万歳のように掲げる。

 自分が触れることで、また彼女の心を傷つけるなど、あってはならないのだから。

 だが品子は、うつむいたまま、何も話そうとしない。


「品子?」

「……お、お前のことは(きら)いだ! けどっ、けどな!」


 わずかに顔を横へと傾け、それでも体を自分へと預けたまま、彼女は続ける。


「でもな、こうやっても(いや)じゃない。あと、そう思える人間は、わたっ、……私には、ほとんどいない」


 動揺、混乱、そしてわずかな安堵。

 様々な感情がぶつかり合い、どう答えればいいのか分からなくなってしまう。


 だが、何か返事をせねば。

 その焦りに加え、確かめたいという思いが口を開かせる。 


「ならなんで、……さっきは、掌底なんてしてきたんだよ」


 ぴくりと品子の肩が揺れ、「言わなきゃダメだよな」と、小さなつぶやきが聞こえてくる。


「なんかその、……変な照れが出た。あの瞬間、誰にも顔を見られたくない。そんな気持ちが出てきて、気が付いたらお前に手を上げてしまって。えっとつまり、……すまなかった」


 自分を怖がっていたわけではなかった。

 答えを得たことで、安心と申し訳なさと同時に、小さな不安が生まれる。


 これ以上、傷つけまいと嘘を話しているのではないのか。

 不安を抱く自分の耳に、はつらつとした声が聞こえてくる。


「よくやったぞ、しなこ! やっぱり、なかなおりのぎゅーは大切だからな!」

 

 自信に満ちた声の方へと顔を向ければ、バンザイをしているさとみの姿が目に入る。

 その後ろでは、心配そうな表情を見せるつぐみと、口を真一文字に結んだヒイラギが立っていた。


「さとみちゃんが言ってくれたんだ。『ごめんと思っている人には、うそをつかず話をしなきゃだめだ』って」


 小さな声で、品子が説明をしてくる。

 自分の中で、もやもやとくすぶっていた感情がほどけていく。

 さとみの出した『うそをつかず』という言葉。

 つまり品子の先程の発言は、偽らざる思いということになる。


 ならば自分も素直に話そう。

 上げたままでいた腕を下ろし、惟之は口を開いた。


「なるほど。ならば、謝るのは俺の方もだ。すまなかったな、品子」


 彼女には、予想外の行動であったらしい。

 驚きの表情を浮かべ、品子はおろおろと視線をさまよわせると、口ごもりながら話し出した。


「おっ、お前は一体誰だよ! さては、お前、偽之(にせゆき)だな!」

「なんだよ、偽之って。勝手に人の名前を変えてんじゃねーよ。お前こそ、まともに喋れてないじゃないか」

「むっきぃ! やっぱお前なんて大嫌いだ! くらえっ、品子突き飛ばしぃ!」


 どん、という衝撃で惟之はしりもちをついてしまう。

 立て続けの出来事に反応が出来ず、呆然とする惟之を置き去りにして、品子はくるりと背中を向けた。

 そのままさとみへと駆け寄ると、彼女の小さな体へと抱き着いていく。


「さとみちゃん、お話は終わったよ」

「そうなのか。でもなんで、これゆきはすわっているんだ?」


 品子の背中が死角となり、突き飛ばしたことを知らないさとみが、不思議そうに惟之を見つめてくる。


「惟之は仲直りできたのが嬉しすぎて、しりもちついちゃったって!」

「そうなのか? これゆきは、かわったうれしいをするんだな」


 そんなわけがない。

 そう思いつつも、否定することなく惟之は二人を見つめる。

 安心したことにより、足に力が入らない。

 これはまぎれもない事実なのだから。

 つぐみ達へと目を向ければ、二人もなんだかホッとした表情を浮かべているように思える。


「ひとまずは一歩、前進できたってことでいいのかな」


 夜を呼ぶ藍色を見せる空は、惟之にほんの少しの落ち着きを取り戻してくれる。


 立ち上がり、木津家に戻るために歩き出す。

 まずはゆっくりでいい。

 踏み出せたことをまずは認め、進んでいこう。

 家を出た時とは違う感情を抱え、惟之は足を進めていった。

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― 新着の感想 ―
その4で終わったかな? 終わるまで感想を我慢していました笑 品子さんと偽之、いやいや惟之さんの関係いいですねぇ(*'▽')の そしてやっぱり白さとチャンは最高です!! 本編の後日談、先の世界にもこ…
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