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冬野つぐみの『IF』なオモイカタ  作者: とは


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34/37

触れ合えるのは悪いことではない その1

無事に本編も終わりました。

お読みいただいた皆さま、本当にありがとうございます!


さて、こちらは『冬野つぐみのオモイカタ』第三章までのネタバレを含んでおります。

ネタバレは嫌! 読んでから来たいわ! という方は、本編を楽しんでいただいてから来て下さると嬉しいです。


今回の話の主人公は惟之。

時期的には五章が終わったころのお話でございます。

いつものメンバーでの日常の一コマ。

どうかお楽しみいただけますように!

 カシャカシャカシャカシャ。


 木津家のリビングで、品子(しなこ)が七本の割り箸を混ぜ合わせる軽い音が、惟之(これゆき)の耳へと響いてくる。

 どうしてこうなった。

 その思いを抱えつつ周りを見渡せば、自分と同じ顔つきをしたヒイラギとシヤが目に入る。

 彼らから品子へ向けられた視線は、とても冷淡なものだ。

 だが全く気にすることなく、品子は機嫌よさそうに割り箸を両手で挟み込み、シャッフルを続けている。

 

『まぜまぜなんだな! それをみんなで、えいってするんだな』


 明日人(あすと)の膝の上に座ったさとみが、彼を見上げながら問いかけている。

 可愛らしい彼女の仕草に目を細め、明日人は大きくうなずいてみせた。


「そうだよ、さとみちゃん。分からないことがあったら、僕が教えてあげるからね!」

『わぁい、ありがとう! あすと、だいすき!』

「ふふ、嬉しいな。僕もさとみちゃんが大好きだよ」


 穏やかな二人の交流に、惟之の隣に座ったつぐみが目を細め呟く。


「いいですねぇ。仲良しな二人を見ていると、こちらも幸せな気持ちになります。(うつぼ)さんも、そう思いませんか?」

「あぁ、そうだね。……多分、一人を除いてだが」


 シャシャシャシャシャシャシャ!

 

 先程から数倍の速さで、割り箸が混ぜ合わされる音が響きわたる。

 品子がさとみと明日人を凝視しながら、高速で手を動かし続けているのだ。

 このまま放っておいたら、割り箸が摩擦と明日人への嫉妬で発火するのではなかろうか。

 ありえない懸念を抱きつつ、思わず品子へと声を掛けてしまう。

 

「お、おい、品子。そろそろ始めたらどうだろうか」


 惟之の声に、品子は真剣な表情をこちらへと向けてくる。


「うん、分かった。……絶対に私が、さとみちゃんといちゃいちゃしてやるんだ」


 言動と顔つきが、全く一致していない。

 その対象であるさとみが、明日人との会話で今の発言を聞いていなかったのは幸いだった。

 あえて触れることなく。

 だが、それぞれが心の中で誓うのだ。


 絶対に、品子を王様にはさせまいと。 

 

「いや、なんでそもそも王様ゲームをやることになっているんだよ」


 思わずこぼれ出た惟之の声に、つぐみが苦笑いを浮かべる。


「見事に先生にのせられちゃいましたよね。さとみちゃんに『やってみたい!』って言われたら、誰も反対できませんもの」

「油断していた。品子が突然に割り箸なんて出してきた時点で、察するべきだったというのに」

「いやいや、さすがにそこまでは。といいますか、そこまで思われてしまう先生って一体」


 もはや笑いが消え、つぐみの顔はただの苦々しい表情へと変わっている。


『今日は予定より早めに帰れそうなんだ。せっかくだから、皆で夕飯をたべないか?』


 泊りがけの出張だった品子から、惟之に連絡が来たのが今朝のこと。

 明日人もぜひ参加をしたいということで、彼を連れて木津家に着いたのが午後三時過ぎ。

 呼び鈴を鳴らせば、上機嫌な品子が自分達を迎え入れる。

 やがて買い物に行っていたつぐみ、ヒイラギ、シヤ、そしてさとみもまもなく帰ってきた。

 皆がリビングにそろったところで、おもむろに品子が鞄から割り箸を取り出してくる。


「研修先の学生さんとの交流会で、面白いゲームを教えてもらったんだ。楽しかったから、みんなでやってみようよ!」


 割り箸には赤い印があるものが一つ。

 残りのものには、それぞれ数字が書かれている。

 皆で割り箸を一本ずつ取り、赤い印を引いた人が王様となり、番号を指定し命令をしていく。

 ゲームの説明を品子から聞いたさとみは、キラキラと目を輝かせた。


『楽しそうだ! わたしもやりたい!』

「さとみちゃんもそう思うだろう! さ、みんなで楽しく遊ぼうじゃないか!」

『やったぁ、たくさん遊ぶをするぞ!』


 実に平和な光景。

 だが、惟之は見てしまったのだ。

 品子が口元だけで、にやりと悪い笑みを浮かべているのを。


 なぜだかものすごく、嫌な予感がする。

 とはいえ、これだけ楽しみにしている少女に、『それは危険かもしれない』などとはとても言えない。


「子供が困るような過度な命令はしないこと」


 ひとまずはそう約束を決め、品子の様子をうかがうことにする。

 不安げな表情の自分へ、つぐみが穏やかに声を掛けてきた。


「大丈夫ですよ。先生だって、いくらなんでも……」

「待っててねぇ~ん! ハグチュ~、スリスリタイムだよぉ~」

 

 愚かな品子は、こちらに聞こえていることに気付いていないようだ。

 己の欲望を隠すことなく歌う品子の姿に、つぐみは能面のような無表情へと変わっていく。

 つぐみの視線が鋭くなっていくのを、惟之は見つめることしかできない。


「……靭さん。この冬野つぐみ、全身全霊をもってこのゲームに取り組むことを誓います」

「あぁ。微力ながら、俺もそうさせてもらうよ」


 ひそかに張られた共同戦線などつゆ知らず、品子は高らかにゲームの始まりを宣誓する。


「んじゃ、はっじめるよ~ん! 王様だ~れだっ」

「あ、俺だ。よっし!」


 ヒイラギが手を上げ、品子とさとみ以外がほっとした表情を浮かべる。


「そうだな、一番と四番は好きな食べ物を言う。これでいこう」

「あ、一番は私ですね」

「お、冬野君と一緒になったね。私が四番だよ~」


 つぐみと品子が立ち上がり、好みの食べ物を発表していく。


「私は、タルトが大好きです」 

「ふふっ、冬野君の好みはみんなが知っているよね。えっと、私はチョコが大好きだよ~」


 それぞれが答えるのを見守っていると、さとみが立ち上がり万歳のポーズをとる。


『はいっ! わたしはお花がすきだ。あと、あまいのたまごもすきだぞ』

「あはは、さとみちゃん。自分の時にだけ答えればいいんだよ」

『あれぇ、そうなのか?』


 ヒイラギからの言葉に、さとみはきょとんとしている。

 その姿の愛らしさに、皆に笑顔が生まれていく。

 その後もそれぞれが王様になるものの、「一緒に歌を歌う」や「握手をする」など無難な命令で和やかにゲームは進んでいった。

 品子が王様になる時があるものの、無難な命令を出すだけで暴走する様子はない。

 どうやら自分は、心配をしすぎていたようだ。

 品子を疑っていたことに、わずかながらの申し訳なさを抱きつつ、惟之はゲームを楽しんでいく。


「あ、いけない! もう結構、いい時間ですね」


 つぐみの声に部屋の時計を見れば、時刻は夕方近くとなっていた。

 夕飯の準備のためにも、そろそろ終わらせるべきだろう。

 品子へ提案しようと視線を向ければ、彼女は待っていたと言わんばかりに口を開く。


「じゃあこれで最後にしようか。ねぇ、せっかくだから最後は盛り上げちゃおうよ」

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