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冬野つぐみの『IF』なオモイカタ  作者: とは


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26/33

人出品子は出会う☆

「ふっふぇ~、終わりじゃ~~い!」


 スマホから依頼完了のメールを送信し、品子(しなこ)は空を見上げていく。

 夕暮れ近い空は、青とオレンジが互いの場所を奪い合うかのように、それぞれが主張しあっているかのようだ。

 冬の寒さを伝える風を受けながら、この後のことを考えていく。


 品子は組織の依頼で、木津(きづ)家のある戸世市から遠く離れた、四国地方のある県にいた。

 うまく立ち回れたこともあり、仕事は予想外に早く終わらせることが出来ている。 

 このまま木津家に帰ろうか。

 そうは思うものの、体は正直なもので、早く休ませろと疲れを訴えてきている。

 このような自然豊かな場所に来る機会が、なかなか無いというのも事実。

 大学には休みを届け出ていることもあり、あわてて帰る必要もない。

 ならば今日はこの辺りで一泊して、観光を楽しんでから帰ることにしようと決め、木津家へと連絡を入れる。

 電話に出たのはつぐみだった。


「無理をしないで、気をつけて帰ってきてくださいね」

 

 彼女の性格が伝わってくる、優しい声と心遣いに思わず笑みがこぼれた。

 自分を大切に思ってくれる人がいる。

 幸せに浸りながら、駅へ向かおうとした品子の耳にバシィッという大きな音が響いた。

 その直後に、目の前にある家から老夫婦が飛び出してくるのが見える。

 品子の存在に気づくことなく、老夫婦は一目散に走り去っていってしまった。


 穏やかではない状況に、品子の顔つきは鋭くなっていく。

 家の前まで向かい見上げた先の窓には、大きなひびが入っているのが見える。

 もしや強盗でも入ったのだろうか。

 だが今、自分がここに介入するべきであろうかという思いもある。

 立場を明かさず、警察を呼ぶべきか。

 そう考えている品子の目の前で、玄関がゆっくりと開いていく。

 扉から現れたのは、小さな女の子だった。

 驚いている品子の顔を見た少女が、不思議そうに呟く。


「あれ? 狐のお姉さん、じゃないや? 普通の人、……だよね?」  

 

 品子の心が大きく揺れる。

 

 ――そんな馬鹿な。

 この少女は、()()()()()()()()()()()


 つまりこの子は、人ならざる力を持ち合わせているということ。

 気が付けば品子は、少女に向け、強い口調で問いかけてしまっていた。

 

「君は……。君は一体、何者なんだ?」



◇◇◇◇◇



 品子の声に、少女はびくりと体を震わせる。

 その顔にあるのは恐怖。

 そして、それ以上に見せたのは後悔の表情だ。


「ごっ、ごめんなさい! ひなは何も見ていません。だからっ、だから……」


 それ以上には、何も言えなくなってしまっている少女へと品子は声をかけていく。


「あっ、あのね。……大きな声を出してごめん。君の名前はひなちゃんでいいのかな?」


 言葉を返した品子を、少女は驚きの表情をもって見上げてくる。


「お姉さんは、ひなが嫌じゃないの? 気持ち悪くないの?」


 彼女の言葉に、品子の心がちりちりと痛みを訴えてくる。

 少女が言うその感情を、自分は知っている、……憶えているのだから。


 異能を持ち合わせた『発動者(はつどうしゃ)』と呼ばれる自分。

 この子と同じ年の頃は、その力を制御できないことも多々あったのだ。

 それにより引き起こしてしまった現象に、何も知らない同級生から奇異の目で見られたり、『化け物がいる』などと言われることもあった。 

 だから自分は知っている。

 この子がどうしてほしいのか、どんな言葉を掛けて欲しいのかも。


「嫌なわけあるもんか、気持ち悪くなんかちっともない。ねぇ、お姉さんは品子っていうんだ」

「品子、……お姉さん?」

「そうだよ、でもそうだな。私はひなちゃんとお友達になりたいんだ。だからね」


 いたずらっぽい笑みを浮かべて、品子はひなへと手を差し伸べる。


「私のことは『しなちゃん』て呼んでくれない? どうかな、ひなちゃん?」



◇◇◇◇◇◇



「それでね、おうちにいる人に怒られてね。その男の子にコードでぐるぐる~って縛られちゃって」


 品子はそう言ってから、両手をぴったりと体につけて体をくるくる回転させる。


「ええっ、ぐるぐるしちゃうの! 痛くないの?」

「ちょっと痛いよ~。でもね、ごめんなさいって言ったら、男の子の隣にいる優しいお姉さんが『次は気をつけましょうね』って言ってね。ぐるぐるを取ってくれるんだ~」

「しなちゃん、大変だったんだね。ひなはぐるぐるされたくないや」

「そうだね、次からは私もぐるぐるされないように頑張る~」


 それから二人は手をつないだまま、玄関で座り込んで話をしていた。

 品子は話す。

 自分の失敗や、面白かった出来事を。

 ひなはそれを「しなちゃんって変わってる!」といいながら嬉しそうに聞いてくれていた。

 やがて空にあったオレンジが、星を連れた紺色に染まろうとする時間になる。

 そろそろ自分の宿を探さねばならない。


「ひなちゃん、そろそろ私は帰るね」


 ひなの顔に浮かぶのは、深い悲しみ。

 だが彼女は、祖父母と一緒に住んでいると言っていた。

 彼らは、ガラスが割れたので驚いて出かけていったという。

 修理の依頼に行ったのであれば、いずれは帰ってくるのだ。


 いっそ、この子を連れていってしまおうか。

 そんな考えがよぎる。

 ひなが、何かしらの発動の力を持っているのは間違いない。

 ならば、白日(こちら)で保護をしてもいいのではないか。

 だが祖父母という庇護(ひご)しゃがいるのであれば、勝手に連れていくわけにもいかない。

 様々な思いを巡らせながら品子は、彼女へどう言葉を掛けようかと考えていく。

 やがて選んだ言葉は。


「ひなちゃん、これをもらってくれるかな?」


 品子は鞄から、予備のヘアゴムを取り出した。

 静かに、だが強く(おも)いを込め、そのヘアゴムへと発動の力をのせていく。

 

 ――これを彼女が持っていてくれる限り、どんな場所にいても自分は彼女の元へとたどり着ける。


「ありがとう! ピンクで可愛いヘアゴムだね」

「ひなちゃんと私の友達の証だよ。私にまた会いたいと思っていてくれる限り、それを持っていてくれたらいいな」


 不思議そうにしながらも、ひなは嬉しそうにヘアゴムをポケットへと入れる。


「わかった! ひなね、しなちゃんにまた遊びに来てほしいな」

「もちろんだよ。お友達パワーがあるから、また必ず会えるからね!」


 その言葉に、ひなはほっとした顔で笑う。

 子供らしからぬ表情に、品子はぐっと唇をかみうつむく。


「しなちゃん? どこか痛いの?」


 寂しさを(こら)え、それでも自分を気遣う彼女にこんな顔を見せられない。

 何とか笑顔を浮かべ、品子は顔を上げると、ひなへと話しかけていく。


「次に来るときはね、私のお友達をたくさん連れてくるよ。ぐるぐるのお兄ちゃんに、その子の可愛い妹。それにぐるぐるを取ってくれた優しい女の子もだよ。きっとみんなひなちゃんのことが好きになっちゃうだろう。けど一番君を好きなのは私だし、ひなちゃんには私が一番でいて欲しいなぁ~」

「ふふ、なにそれ~! でも、いいよ。しなちゃんを一番にしてあげる」


 今度こそ寂しさの消えた笑顔で見上げてくるひなを、品子は穏やかな笑顔で見つめる。

 目を細め、次に会える日が来ることを二人は約束する。

 陽だまりのような、ひなの笑顔に品子は心から願うのだ。

 いつも自分の傍らにいてくれる彼女のような温かな幸せが、どうかこの子に降り注いでくれますようにと。

こちらの話には陰東 愛香音様作『モノの卦慙愧』の主人公であるひなちゃんに登場していただきました。

作品はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n7828ij/


 人ならざる力を持つゆえに、孤独な思いをしているひなちゃん。

 品子はひなちゃんに、かつてのつぐみや幼き頃の自分を重ねていたのかもしれません。

 違う世界線で生きる二人ですが、もしそんな二人が出会ったら?

 こんなことがあってもいいな、あったらいいなと思いながらお話を書かせてもらいました。 

 『IF』ならではの世界、楽しんでいただけましたでしょうか?

 そんな二人のイラストがこちら!!

 挿絵(By みてみん)

 

 再び彼女達がめぐり合えることを私も願っております。


 ここまでお読みいただきありがとうございました!

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