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冬野つぐみの『IF』なオモイカタ  作者: とは


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19/33

木津人形はオモイを語る☆

「ヒイラギく~ん、シヤちゃ~ん!」


 弾んだつぐみの声が、ヒイラギの耳に届いた。

 宿題をしていた手を止め、向かいに座っていたシヤと共に、リビングの入口へと目を向ける。

 やがてにぎやかな足音を立て、つぐみが部屋へと入ってきた。

 声でも十分に伝わってきたが、顔を見ればさらに理解ができる幸せに満ちた表情。

 紙袋を抱えた彼女の姿をしばし見つめてから、シヤと思わず顔を見合わせる。

 カレンダーに目を向けたものの、別に誰かの誕生日が近いわけでもない。

 とても上機嫌な彼女をみつめ、ヒイラギは声をかける。


「どうした冬野? とてつもなく機嫌がよさそうだが?」


 ヒイラギの声に、つぐみは「えっ?」と声を上げて固まってしまっている。

 なにか失礼なことを言ってしまったのだろうか。

 思わず構えるヒイラギに、つぐみは目をキラキラと輝かせていく。


「なんで? なんでわかっちゃったの? 私まだ『素敵な発表があります』って言っていないのに? うわぁ、すごいね! これはヒイラギ君の新しい発動能力なのかな?」


 ……なぜなのだろう。

 この人物は、自分よりもはるかに優れた観察力を持ち合わせているはずなのだ。

 それなのに自身のことになると、どうしてここまでポンコツになるのだろう。

 どうやら同じ考えを抱いているようで、シヤのつぐみへの視線が残念な生き物を見るようになっている。

 よくわからない罪悪感と虚無感(きょむかん)を覚えながら、ヒイラギは口を開いた。


「で、何があったんだ。多分、その紙袋がお前の素敵な発表の元だとは思うんだが」


 首をぶんぶんと縦に振りながら、つぐみは紙袋へと手を入れていく。


「えっとね! さっきこれを完成させたから、二人に見て欲しくって! ふふっ」


 くるりと後ろへ振り返り、何やらごそごそとしているつぐみの姿を二人は見守る。

 やがて「出来た!」という声と共に、つぐみが再び自分たちへと振り返ってきた。

 彼女の両手が、何かでおおわれているのがヒイラギの目に映る。


「じゃじゃーん! どうでしょう? 二人の人形を作ってみました~」


 嬉し気な声と共に、つぐみの両手で二十センチほどの人形がぴょこぴょこと動き出していく。

 ハンドパペットと呼ばれる、手指を使って操作するその人形の顔は、自分たち兄妹を模したものだ。

 だがどうしたことか、その頭頂部にはきのこのような耳らしきものが二つ、ぴょこりと乗っている。


「多分それは俺たちなんだろうけど、その頭についているものはなんだ?」

「これ? かわいいでしょ! 宇宙から来た‟なにか”だよ! ふふふっ」


 質問と答えが何となくちぐはぐになっているが、つぐみが嬉しそうにしているのでスルーしておくことにする。

 改めて人形をまじまじと見つめてみれば、なかなかにこだわりを持って作られたものだ。

 それぞれ二人が着ている人形の服には、自分たちの媒体である動物の兎と犬が描かれている。

 シヤの人形の髪には、以前つぐみが贈ったという赤い花のヘアピンが付けられているではないか。

 そのこともあるのだろう。

 つぐみを眺めるシヤのまなざしは、人形の表情と一緒でとても柔らかい。

 普段見ることのないその姿に、つい自分も笑顔になってしまう。

 そんな自分たちの様子が、嬉しかったのだろうか。

 つぐみが人形と共にぺこりと礼をすると、人形を操作しながら裏声で話しだした。


「二人とも、私と一緒にいてくれてありがとう。私にたくさんの笑顔と幸せと、えっとそれからね……」

 

 人形たちをもじもじとさせながら、つぐみは顔を真っ赤にしていく。


「わ、私の心に明かりをくれてありがとう。だから私も、二人にいっぱい元気で幸せな明かりが灯るように応援するからね!」 


 つぐみからの言葉は、ヒイラギの心にするりと入り込んでいく。

 そうしてぽぅと、まるでそんな音を立てるかのように、心をゆっくりと温めていくのだ。


 そんなことを言われたら……。

 ヒイラギはつぐみを見上げていく。


 そのつぐみはと言えば、自身の言葉に照れてしまったようだ。

 両手をもぞもぞと動かしながら、うつむいてしまっている。


 何か返事をせねばと、ヒイラギも思うのだ。

 それなのに自分も彼女と同様に、嬉しさと恥ずかしさで頭が真っ白になり、何も浮かんでこない。

 するとシヤが、つぐみの方へと向かっていくのが目に入る。

 そのままするりと、シヤの人形をつぐみから取り去り、自分の手にはめていく。

 何度もまばたきをしながら見つめるつぐみへと、シヤは口を開いた。


「ありがとうございます。……わっ、私もそうなれるように、頑張り、ます」


 その言葉に、つぐみとヒイラギの目は大きく見開かれていく。

 なぜならばシヤの声は、つぐみと同様に裏声を使ったものであったからだ。


 あのシヤが、そんなことをするなんて。

 驚きと共に、妹がつぐみをいかに大切に思っているか。

 そして感情の乏しかった彼女が、こんなふうに素直な気持ちをきちんと出せるようになったこと。

 それにヒイラギは、嬉しさを感じずにはいられない。


 ――そして同時に、ただならぬ「ナニカ」も感じてしまう。

 

 ならば。

 いや、だからこそ自分が、『今すべきこと』は。

 すっと立ち上がると、ヒイラギは発動を開始する。

 次の瞬間、「うぎゅう」という声がリビングに響き、つぐみとシヤの動きが止まった。


「え、何が起きて? って先生! 一体、なんでこんなことに……」


 リビングの入り口では、品子がお約束の延長コードにぐるぐる巻きにされている。

 その姿を目にしたつぐみは、言葉を途切れさせ、かなり戸惑った様子だ。


「何でだよ、ヒイラギ! 私はただこんな可愛いことをしている女子二人に、頬ずりをしに行きたかっただけなのに!」


 品子からの言葉、もとい自白によりその可愛い女子二人は、自分たちに何が起ころうとしていたか。

 そして、なぜ品子がこんなことになっているのかをすぐさま理解する。


「先生。これば残念ですが、ヒイラギ君は全く悪くありません」

「そうですね。助かりました、兄さん」


 見下ろしているということもあり、彼女たち二人の品子への視線はいつもより冷たい。

 そんなことにも全く動じることなく、品子は二人の元へと近づこうとしている。


「くそう、くそぅ! これが手も足も出ないということなのかぁぁ!」


 品子のその言葉に、耐えられなくなったつぐみが大きな声で笑っている。

 それを隣で見ているシヤもとても楽しそうだ。

 

 ――まぁ、こんな日も悪くない。

 ヒイラギはそう思い、自分もまた人形と同じ顔をして、ニコリと笑ってみせるのだった。

 こちらの作品は、bocco様のイラストから書かせていただきました。

 かわいいイラストはこちら!!

挿絵(By みてみん)


 やさしい絵柄にほっこりしつつ、それに寄り添ったお話を書けていたらいいなぁと思っております。

 こちらのお話はきっかけをくださったbocco様に捧げたく思います。

 boccoさまありがとうございました!


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