偽りの名5
神楽によって人でないことを見抜かれ死なない為に神華が選んだのは土下座だった。
「敵意は無いです!社会勉強の一環でやったことなんです!」
嘘八百である。
アキトは流石にこの場での大立ち回りをするわけにも行かず神楽にどうするか確認する。
「そうね、その眼鏡預かる…それで手を打つわ」
(…アタシの能力の一端である魅了支配が使えなくなる、背に腹は変えられないか)
震えながら神華の鍵である眼鏡を取り出す。
「壊さないでくださいね」
「勿論、大事な物ですもの」
受け取り鞄に入れる。
「信用出来たなら返して貰いますよ」
「ええ、じゃあ能力解除してね?」
神楽の言葉に首を傾げる。
(あれを失った時点で能力は解除されたはず…何を言っているの?)
神華の様子を見て神楽がアキトに目配せする。
「ええ…嘘だろ?」
「何の事でしょう?眼鏡を渡した今アタシの能力は使えないし消えてるはず…」
「安心しろ神田、お前じゃねえ」
アキトが窓の外を見渡す。
「楽しい食事会は終わりだ、全員お仕事の時間だぞ」
全員がアキトの言葉に触発され窓の外を見る。
空から何か大きな杭のようなものが降ってくる。
「ちょっと!何よアレ!」
黒鴉が携帯を操作してどこかに連絡を入れる。
杭はビルの近くに着弾すると共にバラバラと何かが剥がれ落ちドローン型のマシンになる。
「妖怪の次は近未来ってか…」
翔が驚いているとその内の一機が飛んで来る。
「誓って言いますがアタシの世界じゃないですよ」
「来るぞ!」
半泣きになる神華を無視したアキトの掛け声に翔が氷雨を投げ渡す。
「アキトさん守りお願いします!」
「っち、自分でやれって」
全員武器を取り出し臨戦態勢になる。
予想通り機銃を構え横凪に掃射をしてくる。
窓ガラスが粉々に打ち砕かれる中でアキトが必死に氷の壁を生成して防ぐ。
「機械相手ならオレに任せろ!」
猪尾がユピテルを呼び出して電撃を浴びせて内部を破壊する。
機能を停止してドローンは落ちていく。
「他にもいろんな場所に散ってる、どうにかしないと」
翔達が動こうとするなかでアキトが氷の中にある鉛玉を確認する。
「実弾か、なら杭の破壊が最優先か」
「どうしてそうなるの」
黒鴉が尋ねる。
「実弾なら弾切れする、ならどこで補充するのか?あとは機械の司令塔かもしれないからな」
「問題はどうやって辿り着くか…ね」
神楽が遠くに見える杭を指差す。
「どうにかするしかないだろ?行くぞ」
無策で行くと宣言するアキトに全員が困惑する。
非戦闘員は隠れるように伝えて翔達は仕方なく着いていく。
残された神鳴、神楽、神華の神三人と何も知らないシュメイラ、そしてその四人と厨房にいた料理人達を案内する黒鴉が残る。
「何か凄いのが残ったわね…まぁ戦えないなら仕方ないわね、取り敢えず社員にも避難させないと…」
携帯を操作しながら黒鴉は神華に指示を出す。
「シャキッとなさい神田!あんたも仕事するのよ!」
「は、はい!あの…騙していてごめんなさい」
「私は人だろうが魔物だろうが神だろうが優秀な人材なら区別しないわよ!」
神華も携帯を取り出し各部署に連絡を始める。
その中で自身の本当の名前を明かす。
「アタシの本当の名前は神華って言います、名前も嘘でごめんなさい」
「興味無いわ、胸を張りなさい!」
黒鴉のきびきび動く様に神楽が感心する。
「何というか神に物怖じしないなんて凄いわね…」
「関係無い!死にたくないし死なれても困るのよ!緊張感足りないわよ!」
壁のパネルを操作して建物の中央に位置する部屋に入る。
「暫くは安全よ、神田そっちはどう?」
「はい、ビル内の事務エリアの封鎖開始しました」
「よろしい、覚醒者達への援軍要請と情報共有完了よ」
作業内容を確認して一息つく。
黒鴉達に出来ることは外に向かった翔達の健闘を祈るだけだった。