一人悩む
神楽が帰った後、元の世界に帰れるかもしれない、そんな情報を得た翔だったが今になって考える。
(皆は帰って元の日常を送りたいのか…きっと今のままが言いと言うだろうな)
既に一年は経過して今更あの日の続きがしたいと言う人はいない、そうなれば自分だけ消えるのかもしれない。
強い孤独を感じた後「下らない」と呟き自室に向かう。
自分以外誰もいない静かな家、それと今の孤独を重ね動く気力が起きずベッドに倒れ込む。
(全部意味無くなる…本当にそれでいいのか俺…)
最初こそ必ず帰ってやるという強い意志を持っていたものの友や仲間を思い出し揺らぐ。
「まぁいっか…その時になったら決めよう…」
言い訳するように独り言を呟き携帯を見る。
特にメッセージも無く深いため息を吐く。
(そうだよ、記憶引き継げないなら別に帰らなくても…神楽が父の意思を知れればそれでもいいじゃないか)
あの瞬間を迎えなかった並行世界、それがあるという事実があれば満足ではないかと気付き少し元気が出てくる。
「今の俺は俺のままでいいじゃないか、黒姫や神鳴を悲しませる訳にもいかないしな、そうと決まれば敵に備えて…何しようか」
筋トレ?情報収集?結局一人ではやる気になれず取り敢えずパソコンに向かう。
黒姫は姉の事務作業を手伝いながら一人考える。
(このまま姉を甘やかして良いのでしょうか?)
自分が来る度に山積みの書類を渡される、それを見て姉は仕事をまともにやっていないのではないかと怪しむ。
「姉さん、ここ数日ちゃんと仕事してますか?」
「あら疑うの?書類以外はやってるわよ!」
堂々と黒姫に押し付けるつもりだと遠回しに宣言する。
「苦手な作業もやってください、次期社長なんですよ?」
「…会合や新規プロジェクト立ち上げ、その他諸々!書類とにらめっこしている暇は無いの」
「もう…じゃあ秘書雇えばいいじゃないですか…」
黒姫の呟きを聞いて黒鴉がチラッと視線を黒姫に向ける。
「あなたでしょ?」
「外部の人雇いましょうよ…」
黒鴉が悩みながら聞いてくる。
「うーん…あなたを超える人材いるかしら?」
「褒めても何もないですよ」
荻原がお茶を運んでくる。
「二人とも俺様がお茶持ってきたぞー」
「ご苦労様、荻原は書類仕事できる?」
「え!?あはは、出来るわけ無いじゃないっすかー、放蕩息子っすよー」
荻原の発言に黒鴉は全面同意してため息をつく。
黒姫は書類仕事を手早く終わらせてそそくさと帰る。
「姉さん、ちゃんと新しい秘書探すか書類も自分でやってくださいね、私もう手伝わないので」
「そんなぁ、あなたが居ないとお姉ちゃん寂しくて死んじゃう」
黒鴉の媚びた目線に辟易とした様子の黒姫はきっぱりと伝える。
「姉さんは甘え過ぎですよ!勝手に仕事放棄するし、暫く真面目になって反省してください」
最近の行動の注意を受けた黒鴉はシュンとなる。
黒姫が出ていった後、黒鴉は開き直り取り敢えず何人かめぼしい人材を選び電話をかけ始める。
(黒鴉ちゃん行動力だけはあるんだよなぁ…そこは見習いてぇ)
荻原は黒姫に渡し損ねたお茶を飲み干して一礼して部屋を出ていく。