神理の鍵
三度目の正直今日こそ平和でありますように、翔は祈りながらリビングに降りる。
「おはよう」
挨拶して恐る恐る入ると神楽がニコニコしながらジャムがベッタリ塗られたトーストを齧っていた。
(うわぁ、嫌な予感がするぞ…)
トーストを口に含みながら挨拶してくる。
「おふぁおー」
「せめて口から離してから喋ってください」
呆れながらも自分の用意をしようとする。
「食パンもうないじゃん、冷蔵庫は…おかずしかないな」
自分の分の朝食が無いことが確定してガックリと肩を落とす。
「あら、ごめんなさいね、最後の一枚だったみたいで」
「コンビニ行くか…」
腹の虫を鳴らしながら移動しようとすると神楽が呼び止める。
「あら、翔君と話したかったから皆に席外してもらってるんだけど…」
「話長くなります?腹へって聞く気になれないです」
神楽が食べかけのトーストを指差すが翔は即座に遠慮してリビングを出る。
「すぐ戻ります」
予告通り数分でおにぎりを二つ買って戻ってくる。
「お帰り、それじゃあ話していいかしら?」
「俺だけに話す事って…あんまり良い予感はしないな」
文句を言いながらおにぎりをさっさと頬張り飲み込む。
「まぁまぁ、翔位にしか相談出来なくってね?元の地球に帰りたいのあなたくらいでしょ?」
翔が二つ目のおにぎりに伸ばした手が止まる。
「どういう意味です?」
「帰れる手段について私心当たりあるって事」
訝しいと感じながらも話の続きが気になり詳細を聞く。
「ふふ、神の…私達の父について過去話したと思うのだけど、もう一度説明するわね」
神の父、神楽達のようにそれぞれ世界を持つ神達の親的な存在、地球を作り上げた後に末っ子の神鳴に譲った後に姿を消したとされる存在。
「その神の父が見つかったとか?」
「いえ、見つかってはいないわ、ただ力の一端がそれぞれの神に分け与えられていて欠片になっているの、それを集めたらもしかしたら元の世界に帰れる道筋になるかもという話よ」
翔は首を傾げる。
「何で今更になってそんな大事な話を思い出したように話すんだ?」
「私も知らない事実だったのよ、神螺の世界と神斎の世界、そこを管理する中でその事実に気付いたのよ」
「いつの間に神螺の世界まで…」
神楽がクスクスと笑う。
「シュメイラ先生の世界を見棄てるわけにもいかないじゃない?」
「そうか…その分け与えられた欠片?ってのは一体どんな?」
「それが分かれば苦労しないのよね…今のところ私、神螺、神斎の欠片の在処は手に入れたけどその形も大きさも法則性は無いわ」
神楽が旅行鞄を呼び出して濁った水晶を取り出す。
「これが神螺の、私のはこの鞄そのもの、神斎のはとある魔物の魔石、ね?法則性なんてないのよ」
「神鳴の…この世界のどこかに欠片があると?」
「この世界のは分かってるわ…いえ正確に言うと地球の…かしら、兎に角あなたは他の神を倒して欠片を手に入れないといけないという事」
勝てるか分からない敵に勝ち続けろと言う無茶振りに翔が肩を落とす。
「これらを私は神理の鍵と名付けることにするわ、頑張って集めるわよー!」
「何年かかるかなぁ…」
「帰ればあの日の続きが待っているのよ、何年かかってでも…私は父の背中を追うわ」
翔は自身の悲願である本当の元の世界への帰還の希望が見出だせた事に感謝しつつ妙にやる気の神楽を少し呆れ顔で見ていた。