その先へ
それから数年後…なんて事はなく学校も無事再開し季節は移り夏になる。
魔物の出現も無くなったということはなく今もたまに人々の前に姿を現しては脅かす存在として広く認知されていった。
神斎の管理していた世界は緩やかな死を待つだけだったのだが玉藻前達の願い出で神楽が片手間で管理を代行することになり今もちょくちょく魔物を送り込んでいるのが事実であり魔石は都度送り返す形になっている。
だからといって何か生活が変わったという事はなく、他の神から侵攻されるという事もなく…
翔にとって見慣れた光景が広がっていた。
パンに塗るジャムの奪い合いをする神鳴と玉藻前、それを止める黒姫、ソファーで惰眠を貪るダン。
後退屈そうにしている黒鴉…
「お前なんでいるんだ…」
「暇だから」
頬杖をついて手をひらひらさせる。
「あの後結局皆アキトには勝てないって言うし表の事業の宣伝にならないならやらないって言うし…新しい敵も出ないし!」
バンと机を叩くと皆驚き動きが止まる。
「姉さん、平和な事は良いことですよ?」
黒姫の言葉も虚しく黒鴉が大声で叫ぶ。
「神斎との戦いが残った録画データの情報料は競技場修理費で消えたし…散々だわ!」
「勝手に企画をお釈迦にしたのお前だろうが!」
翔のツッコミに黒鴉は開き直る。
「表向きは事故よ!人命被害無しにあの状況を打破した英雄よ!」
「ごめんなさい翔君…姉さん暇になると大体こうなるから…」
黒姫のフォローが入るがしらけた顔で翔が否定する。
「俺に対しては何時もだぞ?」
全員が確かにと思い返しながら黒鴉を見つめ沈黙が流れる。
「異世界紀行しましょう!」
沈黙を破り唐突に黒鴉が叫ぶ。
「お前は仕事しろや!」
翔が黒鴉の頭を軽く叩く。
玄関が突然開く音がしてずかずかと荻原が入ってくる。
「黒鴉ちゃん!大丈夫ですか!このヤロー!」
翔に掴みかかろうとしたところで久坂に引っ張られる。
「土足で入るな、浜松、イラついてもお嬢に手を上げるなよ?戻るぞ馬鹿」
ずりずりと引っ張られて外に出ていく。
「黒姫から私に乗り換えて過保護に纏わり付いてきてウザくてウザくて…」
最近は荻原に困っているようだった。
「だから異世界に逃げたいのか?」
「姉さん、頑張ってください」
哀れみの目を向けられて黒鴉が涙目になる。
「新しい事件とか無いと色々と潰されそう…」
「事件ねぇ…ふぁー」
神鳴が欠伸をする。
ニュースを見ていたダンがテレビを指差す。
「こういうのはどうであるか?」
『夏のホラー特集』という見出しを見て黒鴉が興味深く身を乗り出す。
「ホラー!都市伝説!ふむふむ」
目を輝かせる黒鴉を見て翔が部屋に戻ろうとする。
「俺、二度寝してくるね」
「翔…逃がさないわよ」
黒鴉に神鳴と玉藻前ものって翔を捕まえる。
「おもろそうやん!のったわ!」
「離せ!俺は行かねえ!絶対に行かねえからな!」
ダンがポテトチップスを齧りながら呟く。
「魔物とかと戦っておいてホラー怖いはダサいのであるよ」
「翔君、苦手克服ですよ!」
黒姫が状況に焦りながらも応援しようとする。
「あああ!嫌だあああ!」