何気ない日々3
「暇」
退屈そうに頬杖する黒鴉を前に「大切な話」と言われ神藤ビルに呼び出された黒姫は開口一番にその一言だけを言われ床に倒れそうになる。
「姉さん…大切な話って…」
「だって浜松が負けたっていう神様がちーっとも現れないのよ!?暇よ!私の力をアピールするチャンスなのに!」
黒鴉は机を叩き吠える。
「平和なことは良いことじゃないですか」
「…せっかく覚えた精霊呼ぶ技も試しに久坂に教えようとしたら何て言われたと思う?」
黒姫は嫌な予感がして黙っていると黒鴉が深いため息の後に残念そうに呟く。
「お嬢の説明はアバウト過ぎて分かりません…よ!あーもう!」
机をバンバンと叩き怒りをぶつける。
「姉さん何て教えたんですか?」
黒姫が恐る恐る聞くと擬音だけで説明を始める黒鴉を見て驚愕する。
「天才肌なんですね…あはは」
言葉を繕いながらフォローをすると黒鴉は調子に乗る。
「そう?天才かぁ!全くついてこれないなんて残念だわ!」
黒鴉が前向きな態度なのを見て黒姫は余計な懸念が増えなくて良かったと安堵する。
「ねぇ黒姫?せっかくだから仕事手伝ってもらえないかしら?」
媚びるように書類の山を取り出して黒姫に追い討ちをする。
「姉さん…せめて、たまには自分でやってください…」
「一緒にやりましょう?」
渋々黒姫が書類の七割程を受け取って判子を押していく。
「姉さん本命はこっちでしたか…」
「んー、まだあるわ」
黒鴉のまだ話があると聞いて黒姫は「え!」と言う声と古典的な反応をする。
「ふふふ、驚くお客様よ」
「帰りたい…」
数時間後・・・
書類仕事を終えた黒姫が書面とにらめっこする黒鴉に自分の分は終わったと言うと黒鴉は顔を上げて驚いてくる。
「マジ!?あー、やっぱり黒姫に全部任せれば良かった…」
黒姫が帰ろうとするとタイミング悪く内線電話が鳴りその客人がやって来ると連絡が入る。
「うんうん、通しちゃってー」
軽い感じに通され黒姫が大嫌いな男が入ってくる。
「やぁ黒鴉ちゃん…うげ」
荻原息子が入ってくるなり黒姫を見て後退りする。
嫌なものを見た黒姫が黒鴉を睨む。
「大丈夫、もう黒姫には苦労かけないから、ね?」
「そうそう、もう黒姫ちゃんには迷惑かけないから」
黒姫は無言で携帯を操作してとあるニュースを黒鴉に見せる。
「なぁに?あー、卓弥さんのお父さんのニュースね」
荻原父の汚職による逮捕のニュースを見て黒鴉が笑う。
「父さんには話してないのですか?」
黒姫の疑問に黒鴉が笑いながら答える。
「え?何か勘違いしているわね、彼も覚醒者の集いの一人だからって話、和解する席をって荻原が言うから」
「格好よく活躍するから惚れ直してくださいって事さ!」
黒姫は黙って鞄からナイフを取り出す。
黒鴉が急いで殺意を抑えられていない黒姫を止めると荻原を逃がす。
「人殺しはダメよ?」
「じゃあ魔物退治中の事故装って…ひひ」
「ごめんなさい…そこまで嫌いとは思わなかったわ…」
壊れかけている黒姫を浜松家まで送って謝罪する。
翔が事情を聞いて頭を掻く。
「今まで近くにいて知らなかったのか…」
「ここまで酷いとは思わなかったわ」
情緒不安定で危険な雰囲気の黒姫を落ち着かせながら翔が家に入れる。