修行の成果2
黒鴉が戦う事について連絡を受けて面倒臭そうに翔が何度目かの屋敷までやってくる。
「なんで黒姫まで来るの拒否するんだ…親父さんか…」
父親の威圧的な雰囲気を思い出し結局屋敷に入るかどうか頭を抱える事になる。
その頃、庭にて掌サイズの魔石を震える手で掴む黒鴉は深呼吸をして覚悟を決めて放り投げる。
息を呑みその様子を竜司と護衛に来ていた久坂が見つめる。
「い、行くわよ私、自信を持つのよ…!」
ガシャっと音を立てて魔石が割れ、オークが姿を現す。
すぐさま剣を呼び出して手に取り鞘から引き抜く。
「来なさい!バハムート!」
名前を聞いて期待感高まる観戦者達が出てきたおおよそ三メートル程の白い鯨を見て首を傾げる。
しかし鯨の強烈な水鉄砲で一撃でオークを粉砕する様を見て感嘆の声が上がる。
「ふ、ふふん!どうですお父様!」
緊張がほぐれホッとしながら虚勢を張って自慢気になる。
「凄いな、じゃあ次行こうか?」
バスケットボール大の魔石が出て来て黒鴉が後退りする。
「ま、まだやるのですか」
「一瞬だったからね、もう少し娘の勇姿をだな」
流石にもしもの時を考えて久坂が止めようとする。
「しかし神藤様…このサイズは一人では厳しいかもしれません」
「もしもの時の為の助っ人を用意してある、門の前で右往左往しているから連れてきなさい」
久坂が席を外して翔を迎えに行く。
魔石を受け取りに黒鴉が近付いてくるとニコニコする父親を呆れ気味に一瞥する。
「この大きさどうやって入手したんですか?」
「先日入手したらしい、わたしも詳細は知らん」
門の前で久坂が翔を見て目を丸くしていた。
「お前が助っ人か…」
やれやれと言いたげに久坂に案内されて竜司の所まで連れていかれる。
「おや?黒姫は来てないのかい?」
「いやーあはは、やりたいことあるからって」
「そうか、残念だ」
竜司が魔石を抱える黒鴉を指差して翔に先程の戦いを説明する。
「バハムートという凄いのを呼び出していたんだぞ」
翔が驚きながらその勇姿を思い浮かべていると久坂が肩を叩いて呟く。
「多分今想像しているのとは違うぞ」
息を切らしながら魔石を庭の中央まで持っていき剣の鞘を使い魔石を叩き割る。
割れると同時に黒鴉は後方に数メートル弾き飛ばされる。
「やっぱりロクでもないじゃない!」
一つ目の巨人、黒姫と共に倒したサイクロプスが現れる。
翔がすかさず反応して庭に飛び出す。
「浜松!邪魔しないで!」
「馬鹿か、こいつは一人じゃ無理だ!」
翔の登場に苛立ちながらバハムートを呼び出して叫ぶ。
「五月蝿い!バハムート!撃ち貫け!」
ウォーターカッターと思える程の水流でサイクロプスに撃ち込むが固い皮膚を貫けずにいた。
悔しそうに何度も攻撃を繰り出そうとして翔に止められる。
「目を狙ってくれ、動きを封じる!」
「勝手に指示しないでよ!」
翔は黒鴉を無視して水鉄砲でずぶ濡れになったサイクロプスを氷雨で凍りつかせ動きを封じバハムートの水流で見事頭を撃ち抜き撃破する。
「やった!」
黒鴉が小さく拳を掲げると翔に見られた事に恥ずかしくなり目を逸らす。
協力ではあったものの撃破したことに満足した竜司が手を叩き娘の成長を祝福する。
「いやー、よくやった!これでまた暫く家を空けて海外遠征に行ける」
「お父様また出てしまわれるのですか?」
疲れた様子で戻ってきた黒鴉が寂しそうに聞く。
「あぁ、黒姫が重傷と聞いて戻ってきただけだしな、元気だったが」
竜司が黒鴉の頭を撫でて無責任に後は任せたと言いながら久坂に荷物を用意させて大笑いしながら屋敷を出ていった。
「嵐のような人だった…」
翔が魔石を運びながらため息をついた。