黒鴉の修行
修行三日目、父親が帰ってきた。その報を聞いた異世界にて修行中の黒鴉は気が気でなかった。
アキトに稽古を付けてもらっている中でそれを感じたアキトに注意をされる。
「集中しろ、踏み込み甘いぞ」
「はぁはぁ…うっさい!」
呼吸を乱している黒鴉を見て休憩をさせることにする。
「一度休め、どうした?動きが悪いぞ」
「お父様が戻ってきたなんて…想定外だったわ」
「帰るの早めるか?」
黒鴉は断固として拒否をして帰還を拒否して立ち上がる。
「この際一日でも一週間でも同じよ!折檻は恐いけれど中途半端なんて一番怒られるわ」
「どんな親父さんか気になるが覚悟あるなら続けようか」
アキトが木刀を構え黒鴉との稽古を再開する。
稽古と精霊術の授業を受けながら修行四日目、神楽から呼び出しを受けていた。
「さて、授業で受けてきた事を活かす時が来たわ」
神楽の興奮っぷりに釣られ黒鴉も気合いが入る。
「貴女に渡した剣から精霊を呼び出して!」
黒鴉は剣を握り目を瞑り集中する。
(私の精霊…一体どんな…)
浮かび上がるイメージは宙を泳ぐ大きな白い鯨。
「鯨…?」
「我が名はバイハムート、汝我が力を欲するか」
「バハムート?竜じゃないんだ」
聞き齧った事のある知識を元に姿と名前が一致しない事に首を傾げる。
「でも名前的にも大物よね!当然よ!力を貸しなさいバハムート!」
「…バイハムートです」
急に弱気になる精霊に黒鴉が呆れる。
「何で弱気なのよ」
「そのー名前間違えないでくださいよ」
「戦いの中で噛むかも知れないのだからバハムートでいいでしょ!?カッコいいじゃない!」
「分かりました、それでいいです…」
形式上の格好いい台詞から考えられないくらい気の小さい鯨に黒鴉も自信がなくなっていく。
「大丈夫かしら?よろしく頼むわよ」
意識を戻し目を開け黒鴉が精霊を呼び出す。
「出でよ!バハムート!」
ポンと小さな白い鯨が出る。
「ちょっと!何で小さいのよ!さっきと全然違うじゃない!」
神楽が笑いながら黒鴉を注意する。
「部屋が壊れるサイズを出そうとしたのかしら?」
「あ、そっか…でも小さいのは予想外よ」
「精霊の扱いも特訓する必要ありそうね…まだ後三日あるわ、じっくりね?」
渋々承諾して翌日以降の修行に向けて気合いを入れ直す。
翌日、アキトとの特訓で精霊を使おうとする。
「行くわよ!バハムート!」
昨日より大きめの姿でふふんと鼻を鳴らす。
「鯨かよ!」
アキトがツッコミをするとバハムートが水鉄砲を口から発射して急ぎ防御姿勢を取るアキトを弾き飛ばす。
「あら強い」
黒鴉がバハムートを撫でるように褒める。
吹き飛んだアキトがヨロヨロと立ち上がり怒る。
「お前なぁ人にいきなり攻撃するなよ!」
「鯨じゃないわバハムートよ!無礼よ無礼!」
自分の事は捨て置きながらアキトに逆ギレする。
黒鴉は急に何か違和感を感じる。
(あら?バハムートが鯨とか、鯨そのものにどうして知ってるのかしら?)
「何考え込んでるんだ?」
「アキトって地球の知識どのくらいあるのかしら?」
黒鴉の質問にどこまで答えるべきか悩んでいると黒鴉が話を切り上げる。
「まぁいいかどうでも、さぁ先生!覚悟しなさい!」
「待て待て!俺を的に練習する気かよ!」
「今まで負かされた分のお返しよ!やっちゃいなさいバハムート!」
水鉄砲を連打して今までの鬱憤を晴らすようにアキトを攻撃し続ける黒鴉だった。