令嬢の勤め5
翌朝昨日と同じように黒服に着替えてネクタイを絞めていると黒姫が大慌てで部屋に飛び込んでくる。
「大変です!父が帰ってきます!」
「なんだよ、良かったじゃないか、そんなにビビる程の事じゃ…」
黒鴉不在を思い出して翔も気付く。
「ヤバいな…どうする?」
「な、なんとか誤魔化して連れ帰る算段を…と、兎に角今は黒姫不在で行きましょう」
「わかった、えーっと親父さんの名前は…」
翔が携帯のメモ帳を確認しようとする。
「竜司です、私に任せて黙っていれば多分大丈夫です」
不安そうに黒姫は廊下を見る。
「いつ戻って来るんだ?」
「分かりません、先程連絡が届きまして…空港着いたから今から帰ると」
物凄く自由人気質なのかアバウトな物言いなんだと翔は感じた。
急ぎ出迎える準備をしようとする黒姫の前にやけにラフな格好のおじさんが現れる。
「ただいま…ん?」
どうやら父親らしい、男は翔を睨むように見つめた後に大笑いする。
「屋敷内にSPは不要だろうがー、まぁいい、取り敢えず近況の報告頼むぞ」
険しい顔から一変して眩しい笑顔で座敷に連れていかれる。
一通り業務の報告を黒姫が行うと父親はニコニコしながら聞いた後に愚痴混じりに海外の話をする。
「黒鴉の新規事業は正解だったな、外国ではその覚醒者とやらが好き放題する地域があって困っている場所もあるそうだ」
企業として力あるものを管理する大切さを学んできた父竜司はメモを捲りながら真剣に話す。
「あとは魔石の管理方法だな、あれは扱いが難しすぎる…壊せば魔物が出る上にエネルギー資源としては不安定要素もある」
竜司は頭を掻きながら黒姫を見て尋ねる。
「ところで…お前黒姫だよな?黒鴉はどこにいる?」
父にじっと見られて黒姫は目を泳がせながら誤魔化そうとする。
「誤魔化さなくても解るさ、父親だぞ?それと…」
翔をチラッと見てニヤリとする。
「彼が浜松翔君だというのも、黒鴉から情報色々もらってこちらでも調べているさ」
「彼はその…えっと…」
頑張ってなんとかしようとする黒姫だったが翔が認める。
「黒姫、全部バレてるようだから言い訳はやめよう」
「ご、ごめんなさい父さん…」
父は笑って黒姫を許す。
「黒鴉から大体聞いている、彼氏だそうだな」
鋭い視線を受け翔が姿勢を正す。
「怒ってはいない、わたしも妻とは恋愛結婚だったからね、うん…しかし」
一時の間の後呆れるように話す。
「二人とも無理をし過ぎているようだね、黒鴉から毎回傷だらけになっていると聞いたぞ」
二人が申し訳なさそうに俯くとまた黒鴉の居場所を聞いてくる。
「それで?黒鴉はどこに行ったのか…?」
「姉さんは…」
返答に詰まる黒姫のフォローをするように翔が頭を下げながら説明する。
「黒鴉さんは修行の旅に…一昨日旅立ちました。一週間で戻る予定です」
「今日日修行とは…我が娘ながら一体誰に似たやら…あ、わたしか!がはは」
誰に怒ることも無く泥臭いやり方だと爆笑する竜司を見て翔は黒姫に小声で聞く。
「いつもあんな感じなのか?」
「え、ええ…」
「さて、業務はわたしに任せて二人は学生の領分で青春してきなさい、あとは黒鴉が帰ってきたら叱らないとだ…」
携帯を取り出してどこかに通話をして二人を座敷から追い出す。




