誘い
車に乗り込んだ翔に座席奥に座った人物が声をかけてくる。
「あなたが新しく覚醒した人…あ、かけ…じゃなくて浜松君…」
「…どういうことかな?黒姫?」
紛れもなく学校を辞めたという黒姫が座っていた。
「えっと、その…」
「名前を呼び掛けたってことは記憶あるんだな?」
「…翔君よりずっと前にね、凄く寂しかった…」
「なんで黒服の車に…いや、覚醒ってのは…退魔士のことか」
「退魔士?…あぁ翔君はそう呼ぶのね、いいかもね」
相変わらずメカクレで表情が読みづらいが嬉しそうに身の上を話し出す。
「私の実家がそういう所だから…財閥?まぁそんな所、私の双子の姉が跡取りで私は母親と共に逃げて普通の生活してたの」
「全く知らなかった話だ、学校辞めたのも実家に戻ったから?」
「うん、そんなところかな、それで実家の都合で退魔士?のチームを作って事業をしようってなって…スカウトなの」
「成る程な、神鳴が言ってたのは黒姫達の事だったのか…」
「翔君が居てくれたら心強いかな…って」
黒姫がチラシを手渡してくる。
「募集、試験…?」
「任意だけど、翔君には来て欲しい」
手を取り何かを訴えるように見つめてくるのを見て承諾する。
「何か企んでいるのか知らないが友の頼みは断れないな、福利厚生はちゃんとしてるよな?給与どのくらい?行く時の服装はやっぱり制服?」
「翔君?就職とは違うと思うんだけど…」
「次の土曜か、行くからヨロシク」
チラシの試験日時と場所を確認して行く約束をする。
自宅前に下ろしてもらい財閥に就職という変な期待しながら帰宅する。
不安そうにしていた神鳴が出迎える。
「大丈夫?変なことされてない?」
「スカウトの話だったよ、ほら」
チラシを渡すと神鳴が訝しむ。
「覚醒者の募集と試験…騙されてない?」
「でも黒姫の話だしな、断るわけにも…」
「黒姫!?信用する気?一番怪しい企業チームじゃない」
「企業チーム?組織化って企業が運営してるんじゃないのか?」
「バカね、組織化ってのはチーム活動なのよ、企業とかも確かにあるけど基本的には違うわ」
「八坂は個人みたいだが、ふむチームか…」
「企業系なんて真っ黒でヤバい事になるわよ、黒姫には悪いけど断りなさい」
「行くって言っちゃったしまぁ説明だけでも…」
呆れ顔の神鳴に謝りながら次の土曜を待つことにする。