令嬢の勤め1
翔は黒いスーツを身に纏いながら冷静な顔で心の中で叫ぶ。
(どうしてこうなった!)
黒鴉が異世界に修行に向かったことを説明すると深いため息をして仕方なさそうに承諾して翔を護衛に指名する。
「…行っちゃったものは仕方ないですね。翔君、護衛お願いできますか?」
「え!?護衛?」
「はい、黒服です…」
雇われSPじゃないのかと驚きながら指名を受け入れて今に至る。
(体制が整う今日までだよな?…聞いとけば良かった)
自宅に残された神鳴達を思い気合いを入れ直して黒鴉に扮する黒姫を迎えに行く。
指示された部屋をノックして黒姫が出るのを待つ。
普段とは違う装いの黒姫が扉を開けて出迎える。
「どうでしょうか?似合いますか?」
しっかりとしたコーディネートに驚く翔だったが何時も通りの前髪を見てそれを言うべきか悩んでいた。
「あー、うん良いんじゃないか?俺はお上の礼節とか分からないし」
翔の言葉で黒姫は自慢気に笑顔になる。
「あ!そうだった…」
思い出したように鏡台に向かい何かをする。
ヘアバンドで前髪を少し上げて出来るだけ黒鴉に近付かせ戻ってくる。
「ど、どうでしょうか?」
「しっかり黒鴉っぽいとは思う、双子だし当然か」
ホッとする黒姫だったが少し不満そうにしていた。
いつぞやの神藤ビルの黒鴉の執務室で溜まっている作業をてきぱきとこなし昼は重役と会食、特に問題は発生せずに午後も執務室で作業、たまに電話が鳴り魔物討伐の事務連絡。
(これ、俺必要か?しかし物凄い作業量だ…)
突然黒姫の手が止まり翔の様子を見て恐る恐る聞いてくる。
「あの…やっぱり変ですか?」
「ん?どうしたんだ?」
「いえ、度々不安そうに私を見るので…」
返答に迷う翔が悩み抜いた結果でた言葉が「すごい」だった。
自分の語彙力の無さに恥ずかしがりながら誉め直す。
「事務作業も偉い人達との会談もしっかりやってて凄いなぁって」
「翔君だって魔物としっかり戦えてて凄いですよ」
「俺一人で勝てた戦いなんて…」
翔の気落ちした様子を見て黒姫が苦笑いしながら書類を見せてくる。
「読んで判子押すだけ、姉さんのサボってた仕事するだけです」
「んー?」
翔が書類に記載されている情報をみて訝しむ。
「覚醒者の集い海外支部の設営資金?」
「ライバル会社多いですが作るみたいです」
「神斎は神鳴のいる日本集中狙いじゃないのか?」
黒姫は首を傾げる。
「さぁ?でもパフォーマンスとして行くことには異論は無いので」
そのままポンと判子を押す。
「翔君、ディナーの予定はどうなってます?」
翔は黒服専用の携帯を取り出して予定を確認する。
「えっと、お?は?ぎわら様と会食…」
「おだと思います、荻原…嫌な人が出てきた…帰りたい」
「知り合いか?」
机に突っ伏してやる気が大きく下がって泣き言を言い出す。
「えっと…私…黒姫に言い寄ってくる御曹司を持つスケベ親父かと」
「…キャンセルするか」
黒姫が唸りながら本当に仕方なさそうに予定を受け入れる。
「護衛よろしくお願いします…」
「承った」